ATAK過去作配信第5弾、故ミカ・ヴァイニオのソロ2作、ドローン / フィールド・レコーディングを総括する傑作も

2017年9月11日より、毎月11日に、約半年に渡って渋谷慶一郎の主宰レーベルATAKの過去作品が配信リリースされる。OTOTOYでは各作品に関して、毎回、ライター、八木皓平による渋谷慶一郎本人へのインタヴューを行い解説とともに配信をお送りします。第5弾は、2009年リリース、昨年惜しくも亡くなったPan Sonicとしての活動でも知られるフィンランドの電子音楽アーティスト、ミカ・ヴァイニオのソロ『ATAK012 OLEVA』、さらには数奇な運命でATAKへの録り下ろしアルバムとなった2009年の『ATAK014 “STATION 15, ROOM 3.064″ PARTS 1-5'』。そして渋谷慶一郎のプロデュースによる、カナダの女性アーティスト i8u(アイ・エイト・ユー)とトマス・フィリップスによる、ドローン / フィールド・レコーディングを総括する決定的傑作『ATAK013 Ligne』。この3作品を配信&解説インタヴューをお届けしよう。

インタヴュー : 八木皓平

ATAK配信作品のまとめページはコチラ

このスピーカーの無骨なんだけど端正というかちょっと兵器みたいな造形の美しさがミカの音楽と合っているなと

2009年2月18日オリジナル・リリース
Ø Mika Vainio / ATAK012 OLEVA
01. Unien Holvit
02. S-Bahn
03. Set The Controls To The Heart Of The Sun
04. Frekvenssi
05. Loihdittu
06. Vastus
07. U-Bahn
08. Koituva
09. Mojave
10. Tasanko
11. Kausaalition
12. Muistetun Palaava Taajuus
13. Hikari(Special Track)

【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / FLAC / ALAC
AAC
アルバムまとめ購入 1,050円(税込)

ATAKの公式ショップにCDの僅少在庫あり

──Ø(Mika Vainio)『ATAK012 OLEVA』、故ミカ・ヴァイニオの作品ですが、これはどちらからATAKでリリースするのをオファーした作品なんでしょうか?

これはATAKからオファーしました。

──なるほど、これって以前にSähkö(ミカ・ヴァイニオが運営に関わっていたレーベル)から出てるんですよね(ATAKからは2009年、Sähköからのオリジナルは2008年)?

そうそう。この辺の経緯はうろ覚えなんですけど、ATAK NIGHT3のツアーでミカと色々やり取りしたり、実際にセッションしたりして、彼に対して非常に興味が湧いたというか。「もっとこの人のこと知りたいな」とかなんとかみたいな曲があった気がしますけど(笑)。そんな気持ちになって、やり取り続けていたんです。で、ミカに「何かリリースしない?」という話になって、Sähköではたしか当時このアルバムが廃盤みたいな状態になっていたのと、この時期彼はあまりSähköではリリースしてなくて…… とかいろんな条件が重なってリリースすることになったんじゃないかな、たしか。

──このスピーカーのジャケットはATAKオリジナルですよね?

そうです。

──この作品からATAKのジャケット・デザインの方向性が変わりましたよね?

というか『ATAK012』、『ATAK013』はフロイト的に言うと喪の仕事というかmariaが死んだショックがあって、そこから立ち直る時期だったと思う。

──あ〜、なるほど…… 。

mariaが死んだあとにレーベルを再開するのがすごく大変な時期だったんです。レーベル運営で彼女がしていた役割がすごく大きかったから。これは精神的に、とかじゃなくてレーベルの実務的にも大変な混乱期で、ものすごく周りの友達に本当に助けてもらったんです、ATAKをストップさせないように。それで、『ATAK015 for maria』は1年かけて作っていたアルバムだから、その前にリハビリ的になにかリリースしようっていうことだったんです。とはいえ、『ATAK012』のミカのリリースの話はmariaが生きてる時から始まってた話なんですけど。

──では、『ATAK012』が、ATAK再スタートの第1作目という感じなんですね。ATAKのレーベルとしての第2期のスタートというか。

完全にそうですね。再スタートとレーベルとしてのリハビリというか。

──このジャケット、素晴らしいですよね。

『ATAK012』も『ATAK013』も写真家の新津保建秀さんの作品です。

──ですよね。これなんのスピーカーなんでしょう? 構図からなにからパーフェクトで。

「Muzik Electronic Gaizhain(ムジーク・エレクトロニク・ガイザイン)」って知ってます?

──いえ、わからないです!

これ、今は日本でもだいぶメジャーになりましたけど、多分、日本では僕がかなり早くから使っていたモニター・スピーカーなんです。サウンドはものすごい解像度が高くて色付けも少なくて音がめちゃくちゃ良い。僕は今も使っています。東ドイツ製でハンドメイドなんですよね。

──なるほどです。これ、スピーカーのスイッチ“ON”に入ってます? いま見て気づいたんですけど(笑)。

入ってます。意識的です。

──そんなディティールも含めていいですね。

なんかこのスピーカーの無骨なんだけど端正というかちょっと兵器みたいな造形の美しさがミカの音楽と合っているなと思って。

──いや、ほんとにそうだと思いますね。作品の音のイメージとピッタリで。

新津保さんが僕のインスタレーションのセッティング中かなにかの機会に「パシャッ」と撮った写真で、スピーカーの背景が不思議な青になっていたりして、美しいなあと思って。あ、あとこれはSähköからリリースされた音源そのままではなく、ATAKからリリースする際にリマスタリングしてます。

──やっぱり! この音の良さは渋谷さんだなと。今聴いても全然音が強くて。

パリッとしてるでしょ。

──そうです。完全に作品のクオリティに貢献してますね。

これもキムケン(木村健太郎)とやったんだけど、元の盤よりクリアになっているのとハイ、ロウが伸びていると思います。

──この作品はハイの印象がとても強くて。ミカの高音は美しいですよね。

僕はハイがよく聴こえる耳みたいで、もういい歳なんですけど(笑)。20000Hzとかいまでも余裕で聴こえるんです。だから、ハイの音色にはすごくこだわるし普通の音楽より高音の分量が多いですね。

──じゃあ渋谷さんのそういう生理がこのアルバムのサウンドの印象に繋がってるんですね。

ATAKからのリリースされている音色の全体的なトーンは、僕が高域がよく聴こえるのとすごく関係があると思います。

──めっちゃ良い話ですね。納得しました。特に本作のスペシャル・トラックは、いわばハイの音楽じゃないですか。そういう意味でもミカの音楽と渋谷さんの感覚は相性が良いのかなと思いましたね。

この曲はね、『ATAK012』としてリリースする直前にミカがmariaの追悼で作ってくれたんですよ。mariaの音楽はそれこそ「高周波だけ」みたいな曲が多かったからかもしれないけど、mariaが作っててもおかしくないような曲を彼女の代わりにミカが作ったという。

──そうなんですね…… この曲はそういう意味でも見事ですね。

僕はすごい感動しましたけど。言葉がでなかった記憶がある。

──やー、感動的ですよね。

でも、今はもう2人ともこの世にいないわけだから不思議な感じですよね。時間は確実に過ぎているという。

──そうですねぇ。この作品は、他にも色々と音楽的にバラエティに富んでいて、ミカという音楽家のバリエーションがうかがい知れますよね。ピンク・フロイドのカヴァーなんて見事で。

これは面白いと思ったな。ミカの音楽的なバックグランドが知れるというか。彼はアルヴィン・ルシエの影響がすごい強くて、そして武満徹とか現代音楽も好きなんだけど、移動の時はずっとヘッドフォンでスラッシュメタルとかを聴いてたから両義的なんですよね。


こちらがピンク・フロイドのカヴァー。こちらで使われているのはSähköからのオリジナル・リリース時のジャケット

──彼の音楽は、このあと紹介する『ATAK014』でもそうなんですが、ドゥーム・メタルっぽいところもあって。そのへんは北欧の人だなーと思ってアルバムを聴きましたね。

あと、全体的に解釈の多様性があるというか、解釈しやすいアルバムで、とっつきやすいですよね。ある種、ポップというか。

──それは間違いないです。ある意味、現代のOPNとかと並べて聴けるところもあるというか。

確かに。OPN、大好きです。

──そういう懐の広さがありますよね。

これも盤は少しだけあったと思います。

ATAKの公式ショップにCDの僅少在庫あり

これはドローンというジャンルの中でも決定的な傑作だと思います

2009年7月15日オリジナル・リリース
i8u + Tomas Phillips / ATAK013 Ligne
01. Ligne
02. Point
03. Donnée
04. Ligne Keiichiro Shibuya Remix

【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / FLAC / ALAC
AAC
アルバムまとめ購入 750円(税込)

ではそろそろ次の作品いきますか

──i8u + Tomas Phillips『ATAK013 Ligne』はATAKにオファーがきたんですか?

これはそうですね。i8Uは、GOEMのリミックス・アルバムで知ったアーティストで、ゴリゴリにミニマルなトラックを作っててすごくカッコ良かったんです。で、イケメンの若い男だろうとか勝手に思っていて、コンタタクトをとったら女性だったという(笑)。

──(笑)。

このアルバムもmariaがいた頃から企画が進んでいました。

──もうひとりのTomas Phillipsのほうはどこでリンクしたんでしょうか。

えーと、彼との記憶が…… そうだまず、i8U=Frace Jobinとやり取りがはじまって…… それは彼女から「ATAKの作品がすごく好きだ」という連絡が来たところからはじまって。その後、彼女に『60 sound artists protest the war』に参加してもらった後に…… 。

──あ、そうですね、参加してますよね。

そうそう。で、メールでやりとりしているうちにリリースしたい作品があるっていうことで送られて来たのが、このTomas Phillipsとコラボレーションしてるアルバムの1曲目、2曲目だったんです。あ、違う! 送ってきたのは1曲目と3曲目だ。

──思い出せてよかったです(笑)。2曲目だけちょっとトーンが違いますねって質問をしようとしてたので。

これは、その後、いま1曲目と3曲目になっている曲、その間に入る曲を作って欲しいと僕がオーダーしたんです。このアルバムに、僕はプロデューサー・クレジットを入れていて。あまり普段は他のアーティストの作品にあまりクレジットは入れないんですけど、このアルバムに関してはかなりプロデュースしたのでクレジットを入れました。

──共作、リミックスまでしてますもんね。3曲目は共作でいいんですよね?

3曲目は共作してます。ファイルをもらって僕が音を足したり、ミックスをしたりしました。

──なるほど。本作はサウンド的には、いわゆるドローン、フィールド・レコーディングじゃないですか。

うん

──これをATAKから当時リリースして、渋谷さんがガッツリとプロデュースで関わるというのは、当時渋谷さんはドローンに強い関心があったということなんですかね。

最初はドローンにあまり興味がなかったんです。ただ、当時の大きな流れで色々と聴き込んでいくうちに耳が顕微鏡のように開いていって、(ドローンものは)かなり玉石混合だなとわかった。

──間違いないです。

で、その中でこのアルバムの1曲目の「ligne」という曲はドローン、フィールド・レコーディング作品の中でもズバ抜けてすばらしい曲だと思ったんです。だからまずリリース・オファーを受けたんです。いまでも毎年、結構な数のリリース・オファーがあるんですけど。よくわからないイタリアのロック・バンドとか、なんでお前がATAKから出したいんだよみたいなのとか(笑)。

──この間のツイートわらいました(笑)。

そうそう、だからリリース・オファーはほとんど断っているんです。だからこの作品はオファー受けたと言う意味でもレアケースなんです。

──なるほどなぁ。でも結果としては、当時のドローンの決定版になってますよね。ATAK作品の中でも美しさという意味では突出しているくらいの。

当時のというかある時期からドローンは失速したので、これはそのジャンルの中でも決定的な傑作だと思います。まず、そうでもないと、自分のレーベルだからギャラも出ないのに自分から進んでリミックスとかしないし(笑)。

──たしかに(笑)。

というのは冗談で、このリミックスで久しぶりにコンピュータを触ったんです。mariaが死んでからはピアノ・ソロに専念してたんで。

──あ、じゃあやっぱりそこはリハビリ的な意味合いも?

(mariaが死んでからこのリミックスを作るまで)一切、コンピュータで音楽を作ってたなかったからそうですね。

──そういうところもありつつなんですね。

いま、聴き返しても僕のリミックスの冒頭のパチパチいってる音はmariaが作った音だったりするし。

──あーーー、そうだったんですね。

だからリミックスなんだけど、存在的にはかなり自分の作品に近いというか。

──というかほぼオリジナルな感じすらしますよね。

そうです、ほぼオリジナルです。このときはピアノでやってるデリケートな作業をコンピュータに移植したいみたいな意識が強かった。

──渋谷さんのリミックス・ワークはだいたいそうですけどね(笑)。

たしかに(笑)。

──でも、ドローン作品といっても、これは人々がドローンと聞いて思いつくようなサウンドとは全然違いますよね。こんなに構造が動いてるドローンもないでしょう。あたらめて聴いてほんとに驚かされましたね。

あと、フィールド・レコーディングされたカナダの自然音がすごく繊細にプロセッシングされてて、こういう繊細さを女性的とか言うとなかなか面倒くさい世の中になってますけど(笑)。

──でもわかりますよ、それは。この音楽を聴けば。

カナダでATAK NIGHTやった時に彼女は会場に来てくれて。

──へー!

すごくカッコイイおばちゃんでね。

──そんな感じしますね。

僕よりだいぶ年上だけど、ショートカットでヘルメットにライダーズでバイクで会場に来て。

──めっちゃ豪快ですね(笑)。

ライヴを見てくれて、その次の日に彼女の家に遊びに行ったら年下のイケメンの旦那さんと子供がいて、彼らと一緒にご飯食べたりしました(笑)。

──良い話だ(笑)。そういうのも個人レーベルの醍醐味というか、そういうところはありますよね。

あるある。僕は非常に個人的な人間なので、個人的な関係とか相性は大事です。

──この作品、渋谷さんはホームページで、リゲティとかドビュッシーを引き合いに出してて、その感覚はすごくわかりますね。とくにリゲティは感じますね。「時計と雲」的な。

僕はリゲティの「時計と雲」が大好きで、このアルバムの1曲目を聴いた時にふと思い出したんですよね。

──あー、なるほどです。すごく納得ですね。

あとドビュッシーのオーケストラ曲って普通のオケの音楽よりも低域が少ないんですよ。これはワーグナーの最後のオペラの「Parsifal」というアンビエントなオペラがあって、それのオーケストレーションの影響だという説があってさ、僕もそうだと思うんだけど。ドビュッシーは決定的にその雲的な、ふわっとしたオーケストレーションを確立させだと思うのね。で、「ligne」を聴いた時にそれも思い出したという。

──でも渋谷さんのやってる音楽って、今に至るまで、ある意味ではそういうドビュッシーやリゲティのやってきたことを思い切り新しくやってるようなところがありますよね。

僕はその低域が土台的に安定してないスタイルには思いっきり影響を受けつつ、もうひとつ進んで低域が移動するというのに興味があるんです。

──今の話だとそれがすごくわかりやすいですね。

『filmachine』はそれを徹底的にやってるし、トラップが好きなのも、ビートという意味では不定型ですよね。

──まさしく。

僕は恐ろしく父性が欠如している人間で(笑)、どっしりとした一家の主人とか大黒柱とかそういうのに全く興味がないダメな男なので、そういうフラフラどころが土台が時にダイナミックに、時に不安定に動いているのが好きなんです(笑)。

─納得とかいうと怒られそうですが、すげえよくわかります(笑)。

納得しないでください(笑)。だから『ATAK013』についてまとめると、1曲目の「ligne」は送られてきてすぐに「めちゃくちゃいい!」と思って、すぐリリースを決定した。ただリリースするには最初に送ってもらった1曲目と3曲目だけでは短かったから、2曲目を作ってもらい。しかしこの時点で僕はかなり本気でプロデュース・モードになってたのでNGを何回か出して何曲か作り直してもらってます(笑)。で、3曲目は1曲目に比べると気に入ってなかったので…… これすごく正直に書いてますけど(笑)。

──正直すぎる(笑)。

共作という形で音を足したり、色々かなり突っ込んでエディットしたと。で、やはり実験的なアルバムだし、『ATAK008』のようにスタートの売れ行きが…… みたいになるのは避けたいというのもあって(笑)、それで自分のコンピュータ・ミュージックの復帰というリハビリも兼ねて、すごくマジでリミックスもしたという。レーベル魂ですね。

動物的な耳の良さがそのまま音楽に表れている

2009年9月7日オリジナル・リリース
Mika Vainio / ATAK014 “STATION 15, ROOM 3.064″ PARTS 1-5
01. Station 15, Room 3.064 Part 1
02. Station 15, Room 3.064 Part 2
03. Station 15, Room 3.064 Part 3
04. Station 15, Room 3.064 Part 4
05. Station 15, Room 3.064 Part 5

【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / FLAC / ALAC
AAC
アルバムまとめ購入 900円(税込)

──次はミカの『ATAK014 “STATION 15, ROOM 3.064″ PARTS 1-5』このアルバム・タイトル“STATION 15, ROOM 3.064”ってミカが入院してた場所の情報ですか?

そうです。これはすごく成り立ちがエクストリームなアルバムで、この少し前にATAK NIGHT4というツアーがあったんですよ。

──刀根(康尚)さんとかも参加してたんでしたっけ。

そうそう。で、mariaが死ぬ前にベルリン、スイス、ケルンと全てブッキングが決まっていて、もちろん日本も決まっていて。ただ、彼女が死んでこっちはコンピュータでノイズ演奏するなんていうモードじゃ、まだ全然なくて、僕にとっては非常に苦痛というか苦渋に満ちたツアーだったんです。

──はい。

毎日、安定剤飲みながら爆音でノイズのライヴを世界中やって周るなんて、気が狂いそうでしょう?

──ですね。

で、そのATAK NIGHT4のジャパン・ツアーがワールドツアーの前にあってPan sonicの出演が決まっていたんだけど、直前にミカが怪我をしてキャンセルして来たんですよ。

──スケジュール的にも地獄みたいな状況ですね(笑)。

このキャンセルが決まった時期はmariaがまだ生きてて、彼女はブッキング関係もまとめてたから発狂しそうになってましたね。

──それはなりますよ!(笑)

ただ、僕はバカなので、というかかなり楽天的な人間なので「新日本プロレスってさ、猪木が外人レスラー呼ぶ金なかったから日本人対決というのを流行らせたんだよ」とか話し出してさ(笑)。

──めっちゃうけますね(笑)。

最初、彼女も「ハイ?」みたいな顔してて

──だははは(笑)。

「いや、だからさ、こういう典型的なピンチってチャンスでもあるわけよ、成長のための」とか言って、この最悪なピンチは何かの天啓だと思って、すぐに切り替えて池田亮司さんにオファーのメール書いたんです。

──池田さんが参加してたのはそういう経緯があったんですね!

うん。

──ダイナミックな経緯だなぁ。

で、こういうすごく急なメールでまどろっこしいのって、経験上すごく迷惑だから「ミカがキャンセルなりました、何公演、ギャラはいくらいくらでどうかお願いします」と端的に書いたのね。池田さんはミカとすごく親しくて、彼の面倒だから仕方ないよっていうことで、確かすごく重要なミーティングかなんかをキャンセルして参加をすぐ決定してくれたんだよね。

──それはありがたいですねぇ…… 。

あの人はすごく男気ある人なんですよ。

──このエピソードからそれが伝わってきますね。なかなかできないですよね。

で、すごく長くなったんだけど

──はい(笑)。

そのツアーをキャンセルしたお詫びに、ミカから「このアルバムをATAKからリリースしてくれ、ギャラはいらないから」ということで突如送れられて来たアルバムがこれなんです。

──これ、ホームページを見る限り、当初はダウンロード限定なんですよね。

そうだっけ? やばい記憶が…… 。

──「本作は当初ATAKの初のダウンロードオンリーのデータ作品として2009年10月にリリースされた。」と、オフィシャルに(笑)。その後、「2010年3月に行われたミカ・ヴァイニオのジャパンツアーに際して、アルバムタイトルにちなんだ364枚のみCDとして限定リリースされた本作…… 」ともありますね。

ATAKのパッケージ詳細ページ

あ、データ・ダウンロードの流通が始まった頃で「これからはダウンロードと限定CDみたいになるんだろうな」と思って試験的にそうしたんです。で、CDはすごく限定だったからすぐに売り切れたという。

──さっきアマゾンで見たらCDにはプレミアついてました(笑)。

マジですか。ATAKはフライヤーもヤフオクで売られてたりするからな(笑)。

──そんなことあるんですね(笑)。

病室で作られた作品だから、すごくそういう感じのドローンになっていて狂気を感じたりもしたな。

──これ、すごく生理的に作られてる感じがしますよね。

そうだね。

──おなじミカのソロでも『ATAK012』は作り込まれてて、それとは対照的な感じがして。

そうそう。

──なので、この2枚を一緒に聴くのはすごく重要だなと、思いましたね。

この作品で初めて装丁にクリアケースを使ってみて。というのも病室で作られた作品だからカルテみたいな無機質なデザインがいいなと思ったから透明のケースに、盤面、そこにミカの直筆の文字が入っているだけみたいな感じにしたんだけど。結果的に僕はこのフォーマットを気に入ってしまって『ATAK021』でも採用したりしてます。

──あ、そこに繋がってるんですね。なるほどなぁ。

あと、これもミカはコンピュータを使ってないですね。ハードウェア一丁で作られた音源をDATに直落としみたいな作品。

──ミカってDATに直落としなんですか。『ATAK012』もそうなんでしょうか。

Pan sonicもそうです。彼らはそこはすごくこだわっていて「だってそれが一番音がいい」って言い切ってましたね。だからコンピューターでのリティクとか、切り貼りはナシで演奏を一発録りしてるんです。

──そういうスタイルを完成させたパンソニックに対して、渋谷さんはデジタルでずっとやってるじゃないですか。

うん。

──それはやっぱり彼らに対する意識はあったんですかね。

というか、例えばプロフェット5で、1時間くらい即興してそこから曲にしていくみたいな「無意識から意識へ」みたいな流れが僕には自然だから、それが一番多い。で、弾いた即興のままいじらないこともあるし、すごくトリートメントすることもあるけど、それはそこでできた音次第というか。だからコンピュータも使うけどかなり直感的でパレットみたいなもんです。ただ、弾いて良かったものをMIDIで打ち込み直すというのはやっちゃダメですね。それは劣化でしかない。

──あ、それはやっぱり違うんですね。

はい。すごく違うんだけど、それは日本にいるとあまり気づかない感覚なんですよね。工業製品みたいな作り方になっちゃうけど、日本はそういう国だから。

──まさしくそうですね。

僕はミラノでロレンツォ・セニと作業してる時に、ハッとそれに気づいたな。

──最後に、渋谷さんがミカという音楽家の好きなところというか、そういうのを何か教えていただけたらなと。ミカはいなくなってしまいましたし。それだけは文字にしておきたいなと。

動物的な耳の良さがそのまま音楽に表れているところかな。あと、すごく物質的です、音が。

──あ、前回、彼の音楽の作り方もそういう耳の良さを生かしてるという話がありましたもんね。

うん。じゃあ、今回はこの辺かな。

──ありがとうございました!

第6回に続く

第1弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第2弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第3弾配信作品の解説インタヴューはコチラ
第4弾配信作品の解説インタヴューはコチラ


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PROFILE

渋谷慶一郎

音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。代表作にピアノソロ・アルバム『ATAK015 for maria』『ATAK020 THE END』、パリ・シャトレ座でのソロコンサートを収録した『ATAK022 Live in Paris』など。また、映画「はじまりの記憶 杉本博司」、ドラマ「TBSドラマSPEC」など数多くの映画・TVドラマ・CMの音楽も担当。2012年には、初音ミク主演による世界初の映像とコンピュータ音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」をYCAMで発表。同作品は、その後、東京、パリ、アムステルダム、ハンブルグ、オーフス、アブダビ、ジョージアなど世界数カ国で公演が行われ、現在も上演要請が絶えない。2016年にはサティ、ピカソ、コクトーのコラボレーション作品「Parade(パラード)」のリメイク「Parade for The End of The World」をパリで発表。2017年にはパリ・オペラ座でパリ・オペラ座・エトワール、ジェレミー・ベランガールとビデオ・アーティストチームのエイドリアンM & クレアBとのコラボレーションによる「Scary Beauty」のダンスバージョンを発表。最新作はアンドロイドとオーケストラによるモノオペラ「Scary Beauty」で今年9月に初演が決定、その後は世界巡回が予定されている。これまでにアーティストの杉本博司、複雑系研究者の池上高志、ロボット学者の石黒浩、パリ・オペラ座・エトワールのジェレミー・ベランガールなど数多くのアーティスト、またルイヴィトンやピガール、エルメネジルド・ゼニアといったファッションブランドともコラボレーションを展開している。現在は東京とパリを拠点に活動を展開している。

ATAK Official Site

この記事の筆者