芸術とは。青春とは。──For Tracy Hydeがインディ・ポップの命題に立ち向かう『he(r)art』

インターネット次世代シューゲ・ポップ・バンドFor Tracy Hydeが新作『he(r)art』をリリース。90年代から00年代にシーンを支えたSLOWDIVE、Ride、The Pains of Being Pure at Heartが次々と今年新作をリリースしたことで巻き起こったシューゲイザー復興の潮流。日本のライヴシーンでもシューゲイザー / ドリーム・ポップが中心となりつつあるなか、そのまさに最前線に立っている彼らが新作をリリースすることは、来たる2018年の音楽シーンの大局のための礎を築いたといえるはずである。OTOTOYではそんな未来のシーンを占う逸材の新作をレヴューと共にお届けする。

都会の生活をモチーフにした次世代ドリームポップ・バンドの2nd!


For Tracy Hyde / he(r)art

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/44.1kHz) / AAC

【配信価格】
単曲 257円(税込) / アルバム 1697円(税込)

【収録曲】
01.Opening Logo (FTH Entertainment)
02.Theme for “he(r)art”
03.Floor
04.Echo Park
05.アフターダーク
06.Dedication
07.Leica Daydream
08.指先記憶装置
09.Underwater Girl
10.Ghost Town Polaroids
11.Frozen Beach
12.A Day in November
13.放物線
14.Just for a Night
15.Teen Flick
16.TOKYO WILL FIND YOU
17Halation


For Tracy Hyde / 2nd Album『he(r)art』 Trailer


【REVIEW】 過去の芸術を未来に継承する、引用と参照

「この作品はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。実在の人物といかに類似していたとしても、全くの偶然です。」

アニメや映画、ドラマ、漫画、小説。あらゆる作品でこの文言をよく見かける。しかし私たちはその偶然に魅了され、求め続けてしまう。青春に置き去りにされ、夢見心地で突っ立っていると後ろ指を指されるようになってしまった日常のなかでほんの少しでも希望を持てるように。しかし、そんな青春の心も、歳を重ねたら捨てねばならないのだろうか。答えはノーだ。

〈青春とは人生の或る期間を言うのではなく心の様相を言うのだ。〉かの有名なサミュエル・ウルマンが詩「Youth」で云うように、青春とは年齢ではなく心の在り方のことである。そして青春は、とても美しい芸術なのだ。ネオアコ / ギター・ポップからシューゲイザー / チルウェーヴまで飲み込み、アニメ文化を通過させたヴォーカル主義のFor Tracy Hydeはそれが分かっている。『he(r)art』。青春の心に隠れる、彼と彼女を交差させる双方向の芸術。芸術は、artは、自分ひとりでは成り立たず他者の存在が不可欠であると同時に、芸術であると認めた受け手さえも芸術に変えてしまう。アルバム・コンセプトとして彼らがそう語る『he(r)art』は、他者へのリスペクトの塊である。

アニメのオープニングのような1曲目「Opening Logo (FTH Entertainment)」から、都会の寂しさと願いを綴ったファンク・チューン「Theme for “he(r)art”」。そしてリード曲は、For Tracy Hydeが狂信的に好きと公言するThe 1975の「She's American」をオマージュした80sなシンセ・ポップ。とくにイントロとブリッジのドラムのタム回しは「She's American」からサンプリングしたかのような再現度。そして終盤のリフはScritti Polittiの「Wood Beez」の歌メロからの引用となっている。なかでも興味深いのは13曲目「放物線」。イントロはThe 1975の「The City」のオマージュからはじまり、The 1975調の軽妙な80sシンセ・ポップかと想像させておきながら、予想を裏切りドローン的な重厚なシューゲ・ポップに移り変わっていくサウンドスケープは圧巻である。おそらくまだまだ他者からの引用や参照は隠されているのだろう。


For Tracy Hyde / Floor (Official MV)

彼らは芸術を享受し、引用と参照を用いて芸術として提供している。私は思う。For Tracy Hydeが描きたい青春とは、テーブルにマックの紙コップとポテトの残りカスが置かれたままなのを見たときの、誰かがかつてそこにいた証明とその紙コップを見つめている己自身の両方を同時に表すことではないかと。そしてその己自身が、やがて今度は紙コップを置き去りにして消えることなのではないかと。過去の音楽を参照することで、“かつて”を証明し、その上で“いま”の自分たちのインディ・ポップを鳴らす。青春はある意味インディ・ポップが抱える永遠の命題とも思えるが、都会をテーマに現代的な生活を描く歌詞からも、For Tracy Hydeはその命題を現代の私たちが“かつて”となるように、未来に自分たちを継承しようとするのが伺える。

アルバム全体で青春を芸術として描き切る強靭さと海外のインディ・ポップと日本のJ-POPを橋渡しする意志が感じられる本作。この『he(r)art』を芸術と感じるとしたら、あなたの心もまた、芸術である。
(Text by 高橋秀実)

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INFORMATION : For Tracy Hyde

LIVE SCHEDULE
〈東京新音波〉
2017年11月12日(日)@Shimokitazawa Waver
出演: For Tracy Hyde / The Coridras / Faded old city / アルキツカレテ / 水上カルビ

〈Daydream ’17 Nagoya Extra〉
2017年12月09日(土)@Nagoya Tsurumai Daytrip
出演: For Tracy Hyde / 溶けない名前 / Looprider/Apple Light / Me In Grasshopper / Cookie Romance Nonsugar

PROFILE

For Tracy Hyde

eureka (Vo)、夏bot (Gu)、U-1 (Gu)、Mav. (Ba)、まーしーさん(Dr)による5ピース・バンド。2012年秋、夏botの宅録プロジェクトとしてU-1と共に活動開始。ツイッターでメンバーを集めMavとまーしーさんが揃う。2014年、ラブリーサマーちゃん(Vo)が加入し、女性ボーカルの5ピース・バンドとして原形が出来る。同年5月に初の自主制作CDとなる1st EP『In Fear Of Love』を全国各地のレコード店にて無料配布。配信も含めて3000部近く配布し話題となる。同年8月には2nd EP『Born to be Breathtaken』をライブ会場限定にてステッカー、バッジ形態で販売。同時にiTunesで配信しオルタナティブ・チャートで最高4位を記録。2015年5月、ラブリーサマーちゃん脱退に伴い、新ボーカリストにeurekaが加入。シューゲイザーや渋谷系、60年代から現在までの様々な音楽を自由な発想で取り込み、中高生から〈Creation Records〉にリアルタイムで触れた40~50代まで、幅広いリスナーの日常に彩りを添える「21世紀のTeenage Symphony for God」を作り出す。

>>>For Tracy Hyde公式HP
>>>For Tracy Hyde公式Twitter

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筆者について
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