ヒップホップ・ライター斎井直史による定期連載──「パンチライン・オブ・ザ・マンス」 第6回

鈴木真海子 from chelmico

暑い! 暑い! 暑い! 最近の東京はジメジメと暑く、いよいよ夏本番がすぐそこに来てるという感じですが、いかかがお過ごしでしょうか? この斎井直史による定期連載「パンチ・ライン of The Month」も6回目ということで掲載から半年! これからも細く長く続けていければと思っております! さて、先月は「#超WAVYでごめんね」というキラー・フレーズが話題を呼んでるJP THE WAVY(例の楽曲、SALUもリミックスしてましたね)と、先月待望の初来日を果たしたDC出身のラッパーGoldlinkを取り上げましたが、今月はすでにやってきているうだるような暑さも忘れられるような気持ちいいアルバム3枚をピックアップしてるみたいですよ!(2ヶ月ぶり、今月はOTOTOYでも配信があるぞ!)

第6回 気持ちのいい夏の始まりのイメトレに適した3枚

ちょっと買い物に外を出た瞬間、ワクワクするような夏の空を不意に見つけて胸が高ま…りたい。

海へ向かう車内で曲を流し、「これ最高だよなぁ〜」なんて友達に言わ…せたい。

そんな気持ちのいい夏の始まりを実現させたい人に、イメトレに適したニュー・アルバムを3枚を紹介します。

まず1枚目。Alfred Beach SandalとSTUTSによるミニ・アルバム『ABS+STUTS』です。昨年ファースト・アルバム『Pushin'』をリリースしたSTUTSが、同作収録の「Sail Away」で客演に招いたAlfred Beach Sandalとミニ・アルバムを1枚を完成させました。Alfred Beach Sandalの透明な声と、シティ・ポップへと踏み出したSTUTSが、まるで永年活動を共にしてきユニットのような一体感を産み出しています。聴いていて静かに心を躍らせてくれる、クールでオシャレな1枚ですが、ちょっと個人的に暑苦しく語りたい余談がありまして…。ごめん、導入と違う感じで。

彼が愛用するサンプラーは言わずと知れた歴史的名機、AKAIのMPCなのですが、今作『ABS+STUTS』ではMPCプレイヤーとしての快挙だと思うのです。というのも、MPCというのは使う者の感性を縛る側面もあるのではないか、と自分は思うんですね。

MPCシリーズはヒップホップにおいて名曲及び名プロデユーサーを、現在も産みつづけています。だからこそ、MPCにはユーザーの音楽を運命付けてしまう強い引力がある。数あるサンプラーの中MPCを選ぶ時点で、確実にその人はヒップホップの誰かに憧れてますから。また、過去の功績だけでなく、一度使ってみれば出る音の独特な太さ、ひいてはそのパッドの弾力性豊かな感触や、機材の面構えまで、ハード面もヒップホップなんです。


Alfred Beach Sandal + STUTS - Horizon 【Official Music Video】

しかしながら、同時にサンプラーは自由度が高い機材として語られます。音を取り込み、それを切り分けパッドに当て、自分のリズムで叩いて演奏をする…「これはピアノやドラムと同じ楽器である」という触れ込みをを何度見たことか。その高い自由度と共に、使う者をヒップホップへと引き寄せてしまう引力を持つMPC。その引力から一歩外へ踏み出したのが『Pushin'』であり、『ABS+STUTS』では完全にその引力の外へ踏み出しました。おそらく、Alfred Beach Sandalとの相性も大きなブーストとなったのでしょう。

筆者にとって『Pushin'』より前のSTUTSビートというと、ドラムが太く、跳ねていて、その背後に数多のレコード・ストックをイメージさせながらも"玄人向け"な印象を全く与えないものでした。彼の人柄も同様で、クラブとは無関係な生活を送っていそうな好青年です。今から思えば、そのバランス感性がヒップホップの枠を出てポップなサウンドを志す事は、必然だったのかもしれません。

左より、STUTS、Alfred Beach Sandal

横道に逸れましたが、MPCプレイヤー・STUTSがヒップホップを出た偉大なる第一歩として聴くと、ちょっと熱い気持ちがこみ上げてきてしまうのでした。そんな事を知らなくたって夏をスムースにスタートさせてくれる涼しい1枚です!

次! 2枚目は待望のアルバム・リリースとなる神奈川を拠点とするヒップホップ・グループ、CBSから『Classic Brown Sound』です。彼らは2013年にBandcampで公開した『ピスタチオEP』が好評を得、その後もコンスタントにweb上で楽曲をリリースするも、今作が遂に初CDリリースです。

温かみがあるドラムと、まったりとしたメロディ。そんなレイド・バックしたビートと来れば次に続く言葉は"スモーキーな"とか"真っ黒な"といった形容詞がよくあるヒップホップですよね。だけど、CBSはここが大きく違う。どことなく小綺麗で、耳にスッと入ってくる。おそらく本人たちは小綺麗さなど全く意識してないだろうが、インディーのラップにありがちなイナタさがゼロ。かといってネットで磨き上げたスキル感もゼロ。恐らくは、皆で集まったらドラムを叩き、掘ってきたレコードを持ち寄ってビートを組み、それにギターを弾いたりしてたら釣りに行きたくなっちゃったのでラップは来週の宿題で…なんていう緩い日常が見えてきそうな作品です。

CBS

筆者は学生時代からの友人なんですが、あながち間違ってないはず(笑)。皆で遠出する道中のような高揚感が伝わってくる「Navigate」や、友達が集まる場所へ向かう気持ちを表した「Good Times」など、男だけでキャッキャウフフしている感じが微笑ましい! またビデオになっている「WAVEY」も、動画とCDでは違い、ある名曲がサンプリングされていて、こっちの方が好みの人も多いはず。基本、友達を含めた自分達の日常をテーマにした曲が多く、ビッチだのマニーだの、刺激的な流行に疲れた人の耳に安らぎを与えてくれます。だが、こちらは残念ながら配信はありません…ごめんね!


CBS & Chicken Is Nice - WAVEY

3枚目はchelmicoの鈴木真海子がリリースしたソロ・アルバム『Deep green』です。まずchelmicoの説明を急ぎ足ですると、ミスiDを受賞したRachelがモデル友達の鈴木真海子を誘って出来たラップ・デュオです。ミスiD自体を知らないヘッズも居ると思いますが、講談社のアイドル・オーディションらしく、そのステージに立つ2人とあればルックス抜群なわけですよ。chelmicoはそんな女の子によるラップのイメージを、どストレートで行ってるサウンド。ポップでキラキラしていて、ラップのテーマもちょっとお茶目です。

しかし、鈴木真海子ソロ『Deep green』は、chelmicoのサウンドの真逆。 例えるなら、chelmicoが街中でライブをしてたら、その人混みを避ける男のイヤフォンから流れてそうな音楽。音の曇りが少し残ったローファイなヒップホップ。ジャジーだけどメロウすぎず、最低限の音で構成されており、そのミニマルさが心地が良い。プロデュースは上のCBSで紹介したPistachio Studioのメンバーで固まってるんですね。まず、ビートメイクだけでなく楽器も一通り弾くことができるワンマン・バンド、ryo takahashi。そして多くのラッパーにビートを提供しながら、自らも温かみのあるブーン・バップなサウンドを追求しつづけているHAYASHI TOSHIKI(%C)。CBSを初期からDJとして支えてきたsuppleがヘッズ向きなビートを提供しています。

一方、ラップだけを聴いてみても相方Rachelの恋バナから発想を得て歌詞を書いた「Contact」や、Rachelとお互いの信頼関係を赤裸々に語る「Lily」など、中々男にはできない芸当ともいえるテーマ設定をしています。この、"女子ウケを狙ってない男のビート"×"キラキラした女子の赤裸々な世界観"の組み合わせが、意外に合うんですね。女性ならではの優しい声とフロウが、静かで柔らかいビートにとても良くマッチします。


Blue / 鈴木真海子 suzuki mamiko (Prod.TOSHIKI HAYASHI)

以上、3作品に共通する事は涼しいビートと、友人との風景です。またラップに慣れてない人にも、とてもオススメしやすい!これを聴いて今年はどこに遊びにいこうか、考えてみてはいかがでしょーか。では、最後になりましたが、夏の、手が届きそうなある日を妄想させてくれるフレーズを『ABS+STUTS』の1曲から紹介して終わります。


最近なにやってんの ちょっと
最近あいつも何だか暇そうだし
せっかくだから声かけてみようか
別にやる事なくていいじゃん
とりあえず外出てみて集合しようよ
「Daylight Avanue」より

斎井直史

RECOMMEND

STUTS / Pushin’

2016年にSTUTSがリリースしたソロ・デビュー・アルバム。OTOTOYでもロングセラーを記録中!! 待望の1stソロ発売が発表されたPUNPEE参加の名曲「夜を使い果たして」を含む全14曲。

chelmico / chelmico

本文中に登場した鈴木真海子とRachelからなるラップ・デュオ、chelmicoのファースト・アルバム。女の子らしいテーマのリリックとスキルフルなラップのギャップにグッときちゃう1枚。

JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUB / OFF THE WALL

現在フェスにライヴに引っ張りだこなABBA DA HUTT FOOTBALL CLUBのセカンド・アルバム。今回紹介した3枚にピンときたらこちらも。発売時の特集記事→https://ototoy.jp/feature/2017031601/

「パンチ・ライン of The Month」バック・ナンバー

第5回 JP THE WAVYとGoldlink
https://ototoy.jp/feature/2017061001/

第4回 SOCKS 「KUTABARE feat.般若」
https://ototoy.jp/feature/2017051101/

第3回 Febb's 7 Remarkable Punchlines
https://ototoy.jp/feature/2017041001/

第2回 JJJ『HIKARI』
https://ototoy.jp/feature/2017031001/

第1回 SuchmosとMigos
https://ototoy.jp/feature/2017021001/

連載「INTERSECTION」バック・ナンバー

Vol.6 哀愁あるラップ、東京下町・北千住のムードメーカーpiz?
https://ototoy.jp/feature/2015090208

Vol.5 千葉県柏市出身の2MCのHIPHOPデュオ、GAMEBOYS
https://ototoy.jp/feature/2015073000

Vol.4 LA在住のフューチャー・ソウルなトラックメイカー、starRo
https://ototoy.jp/feature/20150628

Vol.3 東京の湿っぽい地下室がよく似合う突然変異、ZOMG
https://ototoy.jp/feature/2015022605

Vol.2 ロサンゼルスの新鋭レーベル、Soulection
https://ototoy.jp/feature/2014121306

Vol.1 ガチンコ連載「Intersection」始動!! 第1弾特集アーティストは、MUTA
https://ototoy.jp/feature/20140413

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連載

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筆者について
斎井 直史 (斎井 直史)

音楽業界をおもしろくしようとOTOTOYに詰め寄ったところ、今では色々調教されて悦んでいる。大学生活をキック・ボクシングに投げ打った反動で、今、文科系男子への衝動がと・ま・ら・な・い!ヒップホップが好きです。ニュートラルに音楽を捉えて、「一般ピープル視点を失いたくない!」と思ってる一般ピープル。

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