【独占ハイレゾ】ポスト・インディR&B時代の、この国のメロウなポップ・マエストロ、City Your City

ベース・ミュージック〜インディR&Bのポップへの侵食は、海外のみならず、ここ日本にもさまざまなレベルで行われている。〈術ノ穴〉からアルバム『N/S』をリリースする、このCity Your Cityもそんな存在とも言えるだろう。TPSOUNDによるクールなエレクトロ・トラックと、メロウなk-overのヴォーカルが渾然一体となったソフトなポップ・サウンドを奏でる。その実力は、まずは話題となったデジタル・シングル「choice」「neon」「share」「shy」を含む全10曲を収録したアルバム『N/S』を聴いてたしかめていただきたい。OTOTOYでは本作を独占のハイレゾ配信を行うとともにインタヴューを行なった。
ハイレゾ版を独占配信
City Your City / N/S(24bit/48kHz)
【Track List】
01. choice
02. insomnia
03. shy
04. night
05. share
06. □△○
07. card
08. neon
【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 270円(税込) / アルバムまとめ購入 1,620円(税込)
INTERVIEW : City Your City
すでに音楽フリークの間では、その名が広がりつつあるCity Your City。インタヴューに備えて彼らのことを調べようとしたが、顔出しはしてないし、名前以外には何者なのか全てが謎のベールに包まれている……。
そこで今回のインタヴューでは、ヴォーカル / 作詞を務めるk-overとトラックメイカーのTPSOUNDにユニット誕生の経緯や、彼らが目指している音楽、ルーツについて掘り下げていった。今作がリリースされる頃には、彼らの名前を至る所で目にすることになるだろう。
インタヴュー&文 : 真貝聡
対抗心でありギャグのつもりで作ったのが「choice」

──City Your Cityを検索したら、“複合施設型ユニット“というワードがヒットしたんですけど、コレってどういうことですか?
TPSOUND : テキトーにつけちゃったから、聞かれてもよくわからないんですよね(笑)。
──じゃあ、なんでつけたんですか(笑)!?
TPSOUND : アハハハ! その時に言いたかったことは、僕のアングラなビートにk-overのポップな歌詞が乗っかる感じを複合型施設だと思って。
k-over : ららぽーとみたいな。
TPSOUND : そうそう。「ココへ行けばなんでも買えるよ」っていう。
k-over : 補足すると、僕らはいっぱい音楽の引き出しを持っているから、いろんな景色を見せてあげるよって意味でつけたと思います…… 多分。
──うろ覚えじゃないですか(笑)。そもそも、2人はいつからの知り合いなんですか?
k-over : 知り合ったのは、10年くらい前です。
TPSOUND : 当時、僕が働いていた居酒屋にk-overが組んでいたバンドのドラマーがお客さんとして来て。「今度、ライヴをやるからおいでよ」って言われて、観に行ったらステージでk-overが歌ってて。それが初対面ですね。
──そこから、どんなきっかけで仲良くなったんですか?
TPSOUND : k-overに「音楽のことを何も知らないから、教えてください」って言いました。で、家へ行って一緒に楽器を弾いたりとか、CDを貸してもらったりして自然と仲良くなりましたね。
──なるほど。City Your Cityを組んだ経緯は?
TPSOUND : 当時、k-overがヒソミネというハコでイベントをやってまして、そのイベントにTPSOUNDソロで出演させてもらったところから本格的に更に交流が深まっていきました。その後、1年後くらいにノリで一緒にやってみようかという話になったのがキッカケです。
「万人ウケする曲なら、俺の方ができるよ」と思って
k-over : 〈術ノ穴〉で出している『HELLO!!!』ってコンピ・アルバムに僕らの曲が収録されているんですけど、それが流通盤としては初の共作ですね。それをきっかけに、「どんどん次の曲を作っていこう」って話になって。そこから2人の好きな音楽をクロスオーバーさせて出来たのが「choice」っていう曲です。
──City Your Cityの代表曲だし、ブラック・ミュージックを邦楽に昇華した名曲ですよね。あれはどうやって作ったんですか?
TPSOUND :今現在日本で流行っている音楽とかはあまり興味がなくて。コア系の音楽をやっていたので、「なんだよ、このチャラチャラした奴ら」って。「万人ウケする曲なら、俺の方ができるよ」と思って、対抗心でありギャグのつもりで作ったりました(笑)。
──「choice」は売れ線の曲として、真っ向から勝負した楽曲なんですね。
TPSOUND : そうです。k-overに「僕も自分の我を捨ててみるから、あえてポップス寄りに歌ってみませんか?」って相談して。作ってみたら案の定、いろんな人から好評だったから「やっぱりな」って自信が持てました。
──ちなみに、唯一MVが公開されている「share」はいつ出来たんですか?
TPSOUND : 「choice」の1年後くらいですね。
k-over : これは他の曲の中でも、すごい時間をかけて作りました。
TPSOUND : 1回、泥沼にハマってしまってどうしようって…。
k-over : 「choice」や「neon」はすぐに出来たんですけど、「share」は何回も何回も壊しては作るって行為を繰り返して、1曲作るのに半年くらいかかった。
TPSOUND : ミックスが全然ダメで、なかなか理想に届かなくてね(笑)。結果的には苦労した甲斐があって、本当に優れた曲になったと思います。
売れ線の音楽に対して、「負けてられねえな」みたいな対抗心があって
──初のインタヴューということで、2人のルーツを聞いていきたいと思います。
k-over : レディオヘッドとかジェイムス・ブレイクみたいな、ちょっと暗めの音楽に触れてきました。あとは、〈ワープ・レコーズ〉とか〈ニンジャ・チューン〉のような音楽が大好物だったので、その辺りは常にチェックするようにしてますね。
──ちなみに音楽以外はどんなものを?
k-over : 映画だったらキューブリック作品は、いつ観ても素晴らしいと思うし、漫画なら色々読むけど最終的には手塚治虫に戻ってきますね…とは言っても、最近の作品もチェックしてます。挙げるとしたら映画は『マルホランド・ドライヴ』、漫画は『恋は雨上がりのように』が好きです。だけど、最後の最後は自分を形成したものに戻るくせがありますね。
──映画や本にふれてきたことで、自身の音楽にどんな影響を与えましたか?
k-over : 今時の作品と、昔から影響を受けてきた作品をミックスさせて新しい価値観を見い出そうとする姿勢は音楽にも通じるかも。あと、歌詞で直接的な表現よりも比喩的な表現が多いのは、これまで触れてきたカルチャーの影響が大きいです。
──k-overさんの詞はラブソングなんだけど、シチューションを限定してなかったり具体的な固有名詞を使わず、詩的に男女の恋愛を描いてて、“比喩的な表現”というのがピッタリ当てはまりますよね。
k-over : 直接的より比喩的な方が伝わるんじゃないかなって。そっちの方が、より自分も想像しやすいというか。
──歌詞が女性目線なのはどうして?
k-over : 昔から井上陽水さんとか、つんく♂さんみたいに、男の人が書いた女性目線の詞がおもしろいと思っていたんですよね。それで、自分だったらどうなるかなって、試しに書いてみたんですよ。そしたら、今まで自分で書いていたものとは真逆の歌詞が出来てきて。男の人って言いたいことを割と言わないけど、女性のストレートに言ってくる感じとか、会話・経験の中で出てきたフレーズを使ってみたら面白い歌詞が浮かんで。そういうものを織り交ぜつつ、比喩みたいなものをぼんやり作っていったら、作品としての面白さが格段に上がったんですよね。で、どんどん歌詞を書いていくうちに、今の作り方になりました。
──結成から一貫して、その作り方なんですか。
k-over : 最初は違いました。だけど「choice」と「neon」を作った頃には女性目線で書く方が作りやすくなったし、今はその方法でしか作れないかも。
──どうして、女性の歌詞が作りやすいんでしょうか?
k-over : Mr.Childrenの「over」って曲に〈男らしさって一体 どんなことだろう〉って歌詞があるんですけど、僕も男らしい魅力ってピンとこないんですよね。だから、女性目線の歌詞が書きやすいのかもしれないです。
──歌詞はすぐに浮かぶんですか?
k-over : 割と時間をかけますね。まず、歌詞をバーって書き上げたら、何回も音読します。日本語として間違っている言い回しもあるんですけど、「こっちの方が話している感じがするな」って残すことも多い。その方が自分の物語に沿った歌詞になっているなって。
──トラックメイカーのTPSOUNDさんも歌詞を読み込むんですか?
TPSOUND : 僕は読まないっす(笑)。アハハ、興味ない。
──(笑)。じゃあ、k-overさんの歌詞について何か指摘することもない?
TPSOUND : そうですね、歌詞は全くノータッチで。だけど、周りからも歌詞が良いって言われているから、やっぱいいんだろなって(笑)。あくまで分野だと思うので、僕は僕の仕事をやればいいですし、彼は作詞と歌が仕事ですから、お互いにそれさえやっていればOK。ただ、歌入れで「旋律的に歌いにくいんじゃないですか?」みたいな話はします。それ以外は任せてますね。あっ「neon」の歌詞はすごくよかったです。
k-over : ありがとうございます(笑)。
TPSOUND : お世辞じゃなくて、ホントですよ。
k-over : 彼が言った通り、歌詞の内容というよりもメロディ的にちょっと違うんじゃないかってことを言ってくれるので、逆に僕も「曲はこうした方が良いよ」って話してます。とは言っても、基本はお互いのセンスを信じてやっているから、口を出すことはあんまないですね。
──TPSOUNDさんのルーツも教えてください。
TPSOUND : 元々バンドマンだったので、ナンバガ(ナンバーガール)、レディオヘッド、エイフェックス・ツインみたいなオルタナバンドが大好きでした。逆にポップスの土壌は正直あんまり好きじゃないです…… 今も。
──そうなんですか。
TPSOUND : さっきも話しましたけど、いわゆる売れ線の音楽に対して、「負けてられねえな」みたいな対抗心があって。特に日本は音よりも歌詞重視なところがあるんですよね。「この歌詞は泣けるから買う」みたいな流れがある気がして、それだけじゃない音楽的な要素も盛り上がっていけば良いなと思ってて。どうにかCity Your Cityで打開したいですね。
──サウンド以外では、どんなアーティストに惹かれますか?
TPSOUND : 1から10まで、しっかり作りこまれているようなコンテンツに惹かれますね。キャラクター設定とか、売り出し方が戦略的なアーティストは好きです。
──例えば誰ですか?
TPSOUND : ダフトパンクとかYMOは対外的にどう見えるかって意識が高いし、それがセールスにもしっかり結びついていて美しいなって思います。今回リリースする『N/S』はシングル集なので試してないですが、次にアルバムを出すんだったら、仮面を被ってみたり、もっとコンセプトに当てはめたアプローチしてみたいです。
──そういう意味では、City Your Cityってメンバーの顔を出してないし、2人のパーソナルな部分もそこまで明るみになってないから、とてもコンセプチュアルなユニットという印象です。
k-over : こちらからアーティストや作品のイメージを100%提示してあげるより、聴く人の想像力を掻き立てるような配慮も大事だと思ってて。例えば『エヴァンゲリオン』とか『AKIRA』もそうですけど、ある程度の謎解きがある方が楽しいかなって。
いま、日本語歌詞と海外サウンドの融合を全面に出している人がいない
──音楽性についてもお聞きしますね。元々、バンドマンだった2人がエレクトロというジャンルに興味を持ったのはどうして?
TPSOUND : バンドマン時代、レディオヘッドみたいに「バンドでエレクトロをやりたいな」って密かに考えてたら、突然メンバーから「お前にはついていけない」って言われてしまって。仕方なく1人で弾き語りをしたり、ラップトップを使ってライヴをやってたんですよ。で、ある日クラブ・イベントにDJとして呼んでもらって。いざブースに入ってみたら、DJのソフトが開けなくて「何もできないじゃん!」ってなって。試しに楽器製作に使っているソフトを使って即興でやってみたら、意外にも周りからの反応が超よくて。
──それが、きっかけなんですね。
TPSOUND : そうそう。そこから、今のスタイルになりました。だから、興味はあったけど意識して始めたと言うよりも、気がついたらエレクトロをやっている感じなんですよね。実際、バンドもエレクトロもあんまり変わらない気がしてて。楽器を弾く人が目の前にいるか、パソコンの中にいるか… ぐらいの差なんですよ。
──k-overさんは?
k-over : 1番大きいのはカニエ・ウエストの存在ですね。最先端にいるのに無茶苦茶なことをやってて、ちゃんとポップスな要素もあって。〈術ノ穴〉の代表で仲間のFragmentもそうですけど、楽器を使わない人たちが作るサンプリングが好きで影響を受けました。そういうサンプリング・ミュージックを出来たらと思ったのがきっかけですね。
──最後に、今後の展望を教えてください
TPSOUND : ぶっちゃけ『N/S』はウケがいい作品なのはわかってるんですよ。だけど、それでずっとやっていても面白くないだろうし、新しいジャンルに滑り込んで行かないと大展開はないなと思ってます。今、日本語歌詞と海外サウンドの融合を全面に出している人がいないから、そこをとことん突き詰めていくのが可能性あるかなと。
──ライヴに出るというよりも、とにかく良い楽曲を作りたいと。
TPSOUND : そうですね。クチコミでいくらでも売る手段はあるけど、曲が良くないと一過性のものでしかないと思うので。
RECOMMEND
N.O.R.K. / ADSR
ベース・ミュージック〜エレクトロなR&Bとしては、日本でかなり早い時期から呼応していたユニット、N.O.R.K.のミニ・アルバム。その後、N.O.R.K.としては水曜のカンパネラを手がけ、ユニット解散後は小袋成彬として、宇多田ヒカルや柴咲コウにも参加。
海外での活動も含め、まさにボーダレスなサウンドでインディ・シーンに2016年秋に切り込んできたyahyel。インディR&Bやベース・ミュージックなどが溶け込んだエレクトロニックR&Bサウンドが迫る。
向井太一 / 24
唯一無二のソウルフルでダイナミックな歌声、さらには人気ファッションブログでの連載、インスタグラムフォロワー1 万人超えと、音楽とファッションを行き来するシンガーソングライター。こちらも昨今のエレクトロニック・ソウルに呼応する音作りで注目。
こちらはインディ・バンド・サイドからのインディR&Bへの返答といったサウンド。それまでの作風からがらりとそのサウンドを変え、本作では改めてグルーヴィーに、そしてしなやかにR&Bモードの作品を展開した。
PROFILE
City Your City
2015年9月にデビュー音源「choice」同年11月にセカンドシングル「neon」をリリースし、 一躍注目を集める存在となったk-overとTPSOUNDによる〝City Your City〟 アメリカをはじめ海外でも大きく取り上げられた、canon社の世界初LEDレンズのCM音楽を手掛けるなど、活動のフィールドを拡げる。 海外クラブミュージックに通じる不可解でありながらもポップを感じさせるTPSOUNDの作り出すビートの上を、 k-overのインディーロックの気だるさと女性R&Bシンガーを彷彿とさせる、全日本語詞によるボーカルが混ざり、新しい形のPOP MUSICを作り出している。
City Your City、〈術ノ穴〉内の紹介ページ