成熟した憂いを感じさせる歌声。SSWタグチハナの愛をテーマとした最新作配信&インタヴュー
昨年2016年に20歳を迎えたタグチハナは、同年3月29日に渋谷クラブクアトロという自身最大規模でのワンマン・ライヴを敢行。そのライヴは素晴らしいものだったが、それ以降、ライヴの回数は以前より目に見えて減ってしまっていた。実はあの大きなステージに立つ少し前から、彼女はあるわだかまりを感じ、結果として歌うことも楽しめなくなってしまっていたという。
あのクアトロ公演から約1年。当時所属していたレーベルを離れ、3rdミニ・アルバム『Vividness & The Naked』を完成させた。さらにあの日以来となるワンマン・ライヴも実施。アルバムはタイトル通り、生まれ変わったように鮮やかで、まっすぐに愛を歌ったラヴ・ソングが詰まっていた。タグチはいかにして"壁"を乗り越えたのか。その間、どのような心境の変化があったのか。インタビューで紐解いた。
またタグチは、叔父の布袋寅泰をはじめ、両親がともに過去にメジャーを経験しているなど、ミュージシャンに囲まれた環境で育っている。そんな身近にいる"先輩"たちが、彼女の音楽活動をどう見ているのかも伺った。
インタヴュー&文 : 前田将博
構成 : 丸山健人
写真 : 山崎聖史
タグチハナ / Vividness & The Naked(24bit/48kHz)
【収録曲】
1. All happy endings come
2. やさしいままがいい
3. 繋ぎたいだけ
4. 行方
5. 恋を凌ぐ愛なら
Bounus Track
6. ビアLIVE音源(2017,2,17)(ハイレゾ版特典)
【配信形態】
alac / flac / wav / aac
【価格】
単曲 298円(税込) / アルバム価格 1,490円(税込)
【アルバム購入特典】
ビアLIVE音源(2017,2,17)(ハイレゾ版特典) / セルフライナーノーツ.pdf / 歌詞カード.pdf
INTERVIEW : タグチハナ
――前回インタビューさせていただいたときが、ちょうど高校を卒業する頃で、いまはもう20歳になったんですよね。学校がなくなって生活は変わりましたか?
朝早く起きるのが本当にできなくなって、びっくりしちゃいます(苦笑)。夜はいろいろやらなきゃいけないことがあるんですけど、朝はほとんどないので。
――バイトも不定期というか、ほぼ自由なんですもんね(笑)。20歳を迎えることは人生のなかでも大きな節目だと思うんですけど、いかがですか?
すごい楽しんでいると思います。私は大学とか専門学校に行かなかったんですけど、進学している友だちはちょうど卒業する時期だったり、4年制の大学の人は就活を意識する時期だったりして。なので同級生に会うと仕事の話とかをするんですけど、やっとそういう話ができるようになったなって。学生ってどうしても誰々が好きとか誰が嫌いとか、良い意味で下らない話ばかりだったと思うんです。でもいまは現実的な話をしているので、ワクワクしますよね。いつか一緒にこういうことできたらいいねっていうのも、夢じゃなくて具体的になってきてる感じがして。
――自分が学生ではないことに、あまりギャップは感じない?
感じないですね。学校行ってないからこうだとか、学校行ってたらこうなのかなとか、そういうことは考えなくなりました。
――少し前はそういうことも考えていた?
優劣みたいな気持ちではないですけど、毎日同じ場所に行ったり、同じ人に会ったりみたいなことがなくなったので、下手したら誰にも会わないし、ひと言も喋らない日もあるんです。そういう感じが、少し寂しいなと思っていました。でも最近は毎日人と会うようにしているんです。バイトとかライヴとか、友だちと遊ぶとか、新しい映画を見ることでもいいし、自分からインプットするために動くみたいなことを意識的にやっていないとつまんないなと思って。それからはもう寂しくないですね。
――ご両親も音楽をやっていたから、そもそも決まった時間に働かなきゃいけないみたいな固定観念はないのかもしれないですね。
それがルールだとは思っていないですね。
「ハナ、今日のライヴ酷かったね」みたいに言われる(苦笑)
――ご両親の現役時代の活動もご存知なんですよね。お母さんは、タグチさんもたまにライヴで曲をカバーしているGALAPAGOSのヴォーカルだったそうですね。
たしか22歳くらいでメジャー・デビューしたんですけど、初ライヴをクアトロでやったりしていたみたいなので、実はすごいがんばってたんだなっていうのが最近やっとわかってきました(笑)。私にはお客さんが3人しかいなかったとか言っていたので。
――お父さんはどんな活動をしていたか訊いても大丈夫ですか?
JET SETSっていうユニットをやっていました。私が小3くらいのときに再婚したんですけど、その頃は上裸でサングラスかけて常にタバコをくわえているお兄ちゃんみたいな感じだったので、急にうちにきたときは「やばっ、楽しい」みたいな感じでした(笑)。
――すごい(笑)。そういえばKAT-TUNの曲の作詞もやっていたって、タグチさんが以前Twitterに書いていましたよね。
そのユニットでやっていた曲が、そのまま採用されたみたいですね。でも、いまは音楽活動はなにもやっていないです。ウェブ・デザインの会社をやっていて、誰よりも働いているんじゃないですかね。だから、ふたりともすごいなって思います。
――音楽活動でご両親にアドバイスをもらったりします?
いつも大げんかですよ(笑)。強く言われるのは、だいたい契約のことですけど。ちょっとでも「わからない」みたいなこと言うと怒られるので。「この一文の大事さがわかるか、ちゃんとしろ」みたいに。あとライヴのあととか、私がすごい清々しい気持ちで帰ってきたのに「ハナ、今日のライヴ酷かったね」みたいに言われる(苦笑)。なにも隠さないのでつらいですね。ありがたいなとは思いますけど。
――布袋さんがライヴを観にきたこともあるんですか?
去年(2016年3月29日)のクアトロのワンマンはみんなで観にきてくれました。チケットも買ってくれて(笑)。ロンドンに住んでいるのですぐに帰っちゃったんですけど、素晴らしい言葉の数々をいただいたので、それは私の胸に閉まっています。その日は、みきちゃん(今井美樹)もすごく感動してくれていたみたいで。
――おじさんからは、ダメ出しはされないんですね。
全然。ほてくん(布袋)たちは、そういうことは言わないです。結構チェックしてくれているので、PVとかも褒めてくれていますね。お互いの活動報告みたいなやりとりをしているので、私とは全然活動の規模が違うけど、まだまだ先が長くてもっとすごい景色があるんだなっていうのを教えてもらえてる気がします。こういうふうになりたいとか、越えたいみたいな気持ちには簡単にはなれないですけど、でも止まることはないんだろうなって思わせてくれる存在ですね。みんな努力しかしてないって思うし。
音楽あんま聴いてない人にも、ライヴハウス来づらい人にも来て欲しい。
――そのクアトロのワンマンは、それだけタグチさんにとっても大きなライヴだったと思うんですけど、そもそもなぜクアトロでやることになったんですか?
実はあのライヴは私が決めていたものではなくて、2015年7月に私がやった自主企画のリハが終わったあとくらいに、当時所属していた会社の担当の方から「クアトロでやりましょう」って言われて。それまでも出てみたいステージとして名前をあげてはいたんですけど、その日に突然決まった感じでした。
――発表したのもそのライヴでしたよね。まさかその日に決まった話だったとは(笑)。
そうなんです(苦笑)。
――やりたい場所ではあったということですけど、クアトロにはどういう思いがあったんですか?
お母さんが最初にやったステージっていうのもあったし、昔から音楽をやってる人たちが知ってる場所じゃないですか。新宿LOFTとかもそうですけど、そういう誰に言ってもわかってもらえる場所でやってみたかったんです。音楽をあまり聴かない人とか、普段ライヴハウスに来づらい人にも来てほしかった。でもあのタイミングでやるとは正直思っていなかったので、死に物狂いな感じでしたね。
――実際やってみていかがでしたか?
あれだけの人が来てくれて、あのバンドでできたことは本当に気持ち良かったし、感無量でした。でも終わってから、なにもなかったんですよ。その頃に契約のこととかもあって、いい機会だからまた自分でやろうと思って、当時の会社からも離れてしまって。でも、クアトロでやってみんなが知ってくれたけど、そこからなにをすればいいんだろうっていう期間が長過ぎました。それから3ヶ月くらいはギターも全然弾かないし、歌うのも全然楽しくないみたいな。
――達成感よりは、溜まっていたものが一気に出てきちゃった感じですかね。
お客さんの人数のこととか、お金のこととか、お客さん来てもらうための特典のこととか、そういう音楽とはちょっと離れた部分のことをずっと考えていたので、「私は歌いたいのに」みたいな気持ちがずっとあったんだと思います。
――それから前向きな気持ちになれたのは、いつ頃なんですか?
6月1日にお世話になっている下北沢THREEで、友だちを呼んで誕生日イベントをやったんですけど、私も酔っぱらっていたせいもあったのか、純粋にすごく音楽が楽しいなって思って。自分も感覚で歌って、観ている人も感覚で体を動かしているっていう。そういう感じを忘れていたなって。そのあとも君ちゃん(君島大空)とふたりでライヴをしてみたりするなかで、すごく楽しいし、気持ちいいから音楽をやっているんだなってわかったんです。そういう意味でも、クアトロは大きかったですね。
――そういう心境の変化があったんですね。
クアトロというよりも、そこで心が一皮むけた感がありましたね。それからは、もっと楽しもうと思って。私は仲間たちと一緒に音楽を作っているんですけど、そもそものトリガーは私なので、私がもっとわがままに自由にやることもすごく大事なんじゃないかなって。歌うときも曲に込めたものとは別の感情を持ち込んだり、余計なことを考えすぎていたんですよ。ほかの要素が多すぎて、全然素直じゃなかったというか。
――それはクアトロをやる以前からですか?
ちょっと前からですね。心ここにあらずなときもあって。最初の頃は全然そんなことはなかったと思うんです。無心でやっていたと思うし、曲と私しかいない感じだった。
――たしかに1stミニ・アルバム『夜へ』を発売した2014年の頃とかは、気負いみたいなものは一切なかったというか、もっとまっすぐに歌っていた気はします。
でも、それはあの頃しかできなかったことだと思うんですよね。そこに戻るのも違うと思うし。よくわからない期間を経て、いまはこれまでと全然違うところを歩いている気がするんです。全然関係ないかもしれないけど、20歳になって状況も変わって、気持ちも変わるじゃないですか。そういうものを全部ひっくるめて、これって思える音源ができたし、このあいだの下北沢Queのワンマンはクアトロより全然気持ち良かったんです。規模を更新することにもプライドを持っていたはずなんですけど、すごく良かった。
――そういう気持ちが、今回のアルバムのタイトル『Vividness & The Naked』にも繋がっているんですかね。
そういうことですね。
最終目標はやっぱり多くの人に聴いてもらうこと
――収録されている5曲ともラヴ・ソングですよね。
ラヴ・ソングをテーマにしたミニ・アルバムを作りたいというのはずっとありました。いままでもラヴ・ソングはあったんですけど、そういう気持ちで歌っていなかったと思うんですよ。人を好きになって、おしゃれをしたりかわいくなろうと思ったりする気持ちって、女の子も男の子もあるじゃないですか。好きという気持ちが原動力になって変わるというか。そういう部分に着目したり、魅力を感じたことがこれまでなかったんですよ。
――自分にとっては、それは原動力じゃなかったと。前回のインタビューでは「諦め」が原動力になっているんじゃないかという話もありましたけど。
そうそう。恋をしたり人を好きになったりしたときの、なんとも言えないドキドキした気持ちとかワクワクした気持ちが、例えばネイルに行ったりとか、美容院に行ったりとかする方向にはいかないんです。でも私の場合は、そういう気持ちで曲を書いているじゃないかと思って。それに気づいてからは、いままで興味がなかったところにも興味がわいてきて。おしゃれをして出かけることとか、視覚的に人を好きになったりとか、映像や写真や景色が好きとか、そういうことをもっと好きになりたいなって思うようになった。それからはPVもそうだし、イラストだったりライヴの髪型とか衣装とかだったり、そういう視覚的なところもふくめて全部音楽で表現できるんじゃないかと思ったんですよね。
――セルフ・ライナーノーツにも曲についてかなり詳しく書かれていますけど、歌詞の書き方も以前より感情表現がストレートになっている気がします。
前は誰かのためとか特定のなにかに対して曲を書くことが怖かったんですけど、恥ずかしいとか照れくさいとかいう気持ちでそれを書かないのは意味がないなと思って。別れるときや片思いのまま終わる恋とか、恋とかいう言葉では片づけられない人を好きになるってこととかを考えたときの人って、すごくめんどうくさいと思うんですけど、それはみんな誰しも思っていることだと思うんですよね。だからすごく素直な気持ちで、私の気持ちがこれですって提示することはありなんじゃないかなと思って。とはいえ、すごく個人的なことを歌っているわけじゃないですけど。
――アレンジもこれまでよりも素直というか、垢抜けていますよね。
それは君島の力量ですね。私が伝えたものを想像を絶するパワーで形にしてくれました。これまではずっとシンプルで、ギターと歌がメインにあって、あとはバック・バンドみたいな。今回はそれをやめて、私がギターを持つことや、ひとりで歌うことの意味がなくなっちゃうようなものにしたくて。逆にいうと、どんな形でも私が歌えば私の曲になるっていうか。だから本当に自由に、ライヴで再現できないようなこともやってもらいました。
――リード曲の「やさしいままがいい」なんかは、これまで以上に普遍性がある楽曲だと思いました。
町で流れるラブソングって、どんな曲でも「ちょっとわかる」みたいな気持ちになるじゃないですか。悲しい気持ちとか怒ってる気持ちとかって本当に十人十色だと思うんですけど、恋の気持ちで一番みんなの共通認識なんじゃないかなって。これまで自分が女の子だっていうことをあまり言葉にしてこなかった気がするんですけど、そういう女子の気持ちも歌っているので、同世代の女の子とかにも聴いてほしいですね。いままで、そういう共感みたいなものって求めてなかったんですけど(笑)。君島は音楽性の高さもえげつないと思うんですけど、すごくポピュラーな部分もあるので、そういう人たちにもすんなり聴いてもらえるんじゃないかと思うんですよね。聴いていて楽しいものができたと思います。
――今回のアルバムを出してリセットされたと言うか、またスタート地点に立った感じがしますが、今後はどういう活動をしていきたいですか。
ライヴをもっとやりたい気持ちが強いですね。それでこのCDをもっと売りたいです。あと、ほかにもいろんなことをやりたいし、自分だけでは掴めないものがあると思うんですよ。だから私は、一緒にやってくれる素敵な人を探しています。
――それはレーベルとかレコード会社ということですか?
素敵な大人です(笑)。聴いてもらえるようなアプローチをすることは大切だなと思って。
――最初の頃はなんでもひとりでやりたいとおっしゃっていたと思うので、それは大きな変化ですね。
セルフ・プロデュースでやることの素晴らしさも知っているし、いま思っても変な話だとは思わないですけど、あの頃は意識が内に向いていたと思うんですよ。自分が歌う音楽がすべてというか。でも私は音楽で出会ったり感じたりしたものに対してすごいときめきがあるので、それをもっと外に向けていこうと思って。変わったっていうよりかは、次のステップとしてそれをやってみたくなった気がしますね。
――なるほど。
最終目標はやっぱり多くの人に聴いてもらうことだと思うんですよ。ありきたりだけど。プロモーションだったり、なにか音楽以外のものとコラボレーションすることだったり、その方法はいろいろあると思うんですけど、そういうことがいままで全然できていなかったので。それが得意な人たちがいるはずだと思うので。
――前よりも自分の曲に自信があるのかもしれないですね。
ありますね。
――個人的には、いつかもう一度クアトロでワンマンをやってほしいですね。
やりたいですね! またあの場所でライヴがしたいって思っています。
他作品も絶賛配信中
タグチハナ / 夜へ(24bit/96kHz)
【収録曲】
1. 指先
2. BLUE LIGHT
3. そのとき
4. ロング・グッドバイ
5. ビア
Bounus Track
6. さいわい
【配信形態】
alac / flac / wav / aac
【価格】
単曲 150円(税込) / アルバム価格 750円(税込)
【アルバム購入特典】
さいわい / セルフライナーノーツ.pdf / 歌詞カード.pdf
タグチハナ / Orb
【収録曲】
1. ビア
2. 花のワルツ/1969
3. 魚に成る前に
4. 夜光虫
5. そのとき
6. 平和がきこえる
7. さいわい
【配信形態】
alac / flac / wav / aac /mp3
【価格】
単曲 150円(税込) / アルバム価格 900円(税込)
【アルバム購入特典】
セルフライナーノーツ.pdf / 特製歌詞カード.pdf
以前収録されたインタビューはこちら
>>しずくだうみ×タグチハナ対談&ハイレゾ配信!!
>>タグチハナのセカンド・ミニ・アルバム配信&インタビュー
LIVE SCHEDULE
13th Anniversary
2017/3/21(火) @下北沢mona records
w/Kaco / Nozomi Nobody / cinnamons(acoustic set)
PROFILE
1996年生まれのシンガー・ソングライター。2012年に音楽活動を開始。2014年3月にファースト・ミニ・アルバム『夜へ』を発売。salsaの鈴木健介や高野京介、THEラブ人間の金田康平らがコメント(オフィシャル・サイトに掲載)を寄せるなど、注目を集めた。2014年、NOTTV3で放送中の音楽情報番組「MUSICにゅっと。」Season1で行なわれていたオーディション「ココでミラクル!」にて、3ヶ月に及ぶ予選・決勝でグランプリを獲得。2017年2月に愛をテーマとした自身初のコンセプト・アルバム『Vividness & The Naked』をリリース。