2017/02/07 15:36

歴史の街、京都に佇むとびきりアートなライヴ・ハウス「外」ーー空間現代ワンマン・ライヴ・レポート

左から、古谷野 慶輔、山田 英晶、野口 順哉  photo by Katayama Tatsuki

演劇作品の音楽提供や、他ジャンルアーティストとのコラボをしたかと思えば自身バンドの連続公演をおこなったりと、音楽の可能性を毎回打破し続けているスリーピース・バンド、空間現代。拠点を東京から京都に移し、昨年2016年にライヴ・ハウス「外」をオープンした。京都という土地で、新たに誕生した「外」でのライヴとは、そしてどんなハコになっているのかレポートしました。

LIVE REPORT : 空間現代at「外」

photo by 石塚俊

お寺や、神社など歴史的な建造物がひしめく街、京都。そんな歴史的建造物の厳かな佇まいに感化されてか、劇団や芸術家、音楽家が活発に活動するアートな街、京都。そんな京都に2016年にオープンしたのがライヴ・ハウス「外」だ。この場所がいかにアーティスティックな場所なのか、いかにライヴ・ハウスの新たな可能性を示唆しているのか、1月27日に行われたライヴ・ハウスのオーナーである空間現代のワンマン・ライヴのライヴ・レポートと絡めながら、紐解いていこう。

「外」と掲示された看板のある玄関口から入り、画廊のような通路を抜けると木のバー・カウンターにたどり着く。そして、静かに佇むシンプルなアート・スペースが広がる。始まったライヴは、このライヴハウスのオーナーである空間現代のライヴ。空間現代のライヴは、まさしくアートだ。始まりは、1つのフレーズをメンバーの3人が、順番ずつ、ギター、ベース、ドラムと繰り返していく。そしてそのフレーズは発展し、気づけば、ベースが裏拍をとっていたり、ドラムが突然違うスピードのリズムを重ねたりする。そして突如そのフレーズが違うフレーズに取り替わるような、コンピューターの画面上でしか見れないようなアレンジが繰り出される。でも決して理解不能なアヴァンギャルド・ミュージックかと言えばそうではない。様々な実験的な試みが繰り返されているが、そのすべてが絶妙なバランスで体内に心地よく入ってくる。綿密な計算やストーリーは、次の展開を期待させる。60分間一時もあきることはなかった。そしてライヴ・スペースに向かう道筋でさえも演出だったことに気づく。

photo by Katayama Tatsuki

photo by 石塚俊

ここまで作りこまれた世界観は、空間現代自身が「外」のオーナーを務めていることが大きい。空間現代は2015年まで東京を拠点に活動していたが、メンバーの1人が大阪に住むことになり、メンバー同士が離れて活動している時期があった。空間現代は3人が集まって1から綿密に音を作り上げていくバンドで、他のバンドと比べても制作に時間がかかる。もっとメンバーが集まりやすく詰め込んで作業がしたい。そう考えているときに、京都で自分たちで制作をし、そのまま同じ場所で本公演を行うアトリエを構えている劇団「地点」に出会う。彼らと共同で作品を作ることが、「外」を作るきっかけになったという。そして空間現代は、自分たちの場所を構える地として京都を選び、2016年に移住し「外」を作ったという。「外」の近辺には、前述の「地点」のアトリエや、ホホホ座という書籍の編集、企画を行う集団の販売所があるなど、京都でも特に新しい動きのある場所だ。

photo by 石塚俊

そんな「外」で生まれた空間現代の音は、制作の時点から本番の音を聴きながら制作しているからだろう、淀みのないソリッドな音は、あまりにも「外」の空間にとけ込んでいて気持ちがいい。ちなみに「外」のブッキングにもこだわりは表れている。山本精一や蓮沼執太が演奏することもあれば、東京の才女、SSWのMARKを呼んだりもしている。ドラム・デュオのダダリズムなどには、彼らも拠点を持っているためなかなか他では見ることができないが、敢えて2日間の公演を企画し綿密な音の調整を行った。常にここでしかできない実験的な挑戦を重ねることによって、京都だけでなく、日本でも唯一無二のライブ・ハウスとして、「外」はその存在を知られることとなっていった。

ライヴ・ハウス「外」は、京都の左京区にあり、平安神宮や銀閣寺に囲まれ、そのまま北上すれば京都造形芸術大学があり、ラーメン屋天下一品の総本店がある。「京都の人たちがライヴ・ハウスやいろいろな場所に自転車で行く姿が面白いと思う。駅が近くになくてもきてくれる人は自転車でもきてくれるだろう」と本人たちは語っている。京都でアートを感じたいのであれば、歴史的建造物を巡るもよし、演劇、個展や映画でもいい。そしてそのラインナップに、ぜひ「外」を入れてみてはいかがだろうか? そして、そこでもし空間現代のライヴが行われていたなら、決して見逃すなかれ!(text by水上 健汰)

DISCOGRAPHY

V.A. / BRIGHT YOUNG MOONLIT KNIGHTS -We Can't Live Without a Rose- MOONRIDERS TRIBUTE ALBUM

40周年記念、ムーンライダーズを慕い影響を受けてきた次世代アーティスト達が果敢に挑むトリビュート・アルバム。空間現代は13曲目の「僕は走って灰になる」をカヴァー。

Moe and ghosts × 空間現代 / RAP PHENOMENON

Moe and ghostsとのコラボ・アルバム。2015年に開催されたHEADZの20周年イベントにて初披露されたこのコラボレーションは、巷の安易な共作ではなく、互いが互いの音楽を研究しつくし、互いの音楽が寄り添いつつ並列し昇華される、前代未聞のコラボレーション、前代未聞のラップ・アルバムに仕上がった。山内マリコの小説「ここは退屈迎えに来て」のテキスト使用した楽曲や、未だ謎に包まれるMoe and ghostsのトラックメイカー、ユージーン・カイムが空間現代をリコンストラクトしたトラックも収録。

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空間現代 / LIVE

2013年末、佐々木敦企画《エクス・エクス・エクスポナイト》でのライブにて録音が行われた。 録音は、にせんねんもんだい『N』やOptrumなどを手がける気鋭のエンジニア、noguchi taoru。

空間現代 / 空間現代 Monthly Remixes 1

空間現代の配信限定リミックスシリーズの第1弾作品。

空間現代 / 空間現代2(24bit/48kHz)

約3年振りとなる2ndアルバム。エディット感覚を根底にして作られた複雑かつユーモラスな楽曲構造と、脱快楽的なリズム構築を生演奏によって繰り広げるストイックなライブ・パフォーマンス、その両方の魅力が詰め込まれた傑作に仕上がっている。

PROFILE

photo by 羽鳥直志

空間現代

野口 順哉  Junya Noguchi(guiter / vocal)
古谷野 慶輔 Keisuke Koyano(bass)
山田 英晶  Hideaki Yamada(drums)

編集・複製・反復・エラー的な発想で制作された楽曲を、スリーピース・バンドの形態で演奏。これによるねじれ、負荷が齎すユーモラスかつストイックなライヴ・パフォーマンスを特徴とする。

先鋭的な他ジャンルのアーティストとのコラボレーションも活発に行っており、その集大成として2015年に連続公演『空間現代 collaborations』を主催。言葉/音/テクノロジーそれぞれの方面から演奏の再構築を行う。

2013年発表の劇団「地点」のブレヒト戯曲『ファッツァー』では音楽を担当。生演奏で出演する京都での公演が好評を博し、モスクワ・北京でも上演を行う。地点との共作第二弾として、マヤコフスキー戯曲『ミステリヤ・ブッフ』を2015年のF/Tにて上演。

2016年9月、活動の拠点を東京から京都へ移し、自らの運営するスタジオ/ライヴ・ハウス「外」を左京区・錦林車庫前で開始する。

空間現代HP

[ライヴレポート] 空間現代

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