2017/01/19 17:57

【REVIEW】“四畳半”から抜け出す言葉──国内最大級MCバトル〈KOK〉王者、GADOROの1sを配信

国内で最大級のMCバトルのひとつ〈KING OF KINGS〉。バトル・ラップがまさにお茶の間にまで浸透した2016年も、全国で予選が行われ、そして開けて2017年1月8日、決勝となる〈KING OF KINGS 2016 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL〉が開催された。優勝を勝ち取ったのは、宮崎出身のラッパー、GADORO。そんな彼が、まさにベスト・タイミングで1stアルバム『四畳半』をリリースする。自らの力で1stアルバムの最上級のプロモーションを勝ち取ったとも言えるだろう、そんな彼のデビュー・アルバムをOTOTOYでも配信中。本稿では、ライター、二木信によるレヴューをお届けしよう。


GADORO / 四畳半
【Track List】
01. 大願成就
02. CONCRETE JUNGLE
03. M.Y.T.K TRIBE
04. 虫ケラの詩
05. JUST A DREAM
06. 羊達の戦艦
07. UNDER DOG
08. 今
09. 夜桜
10. 灯火
11. トワイライト
12. クズ

【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 257円(税込) / アルバムまとめ購入 1,851円(税込)

REVIEW : GADORO『四畳半』──“負け犬”と“成り上がり”


text by 二木信


GADOROにとっては絶好のタイミングでのデビュー・アルバムのリリースとなった。この、MCバトルでその名を馳せてきた宮崎県出身のラッパーは先日1月8日にディファ有明で開催された鎖グループ主催のMCバトル〈KING OF KINGS 2016 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL〉(以下、KOK)で見事に優勝している。そんな彼がデビュー作に付けたタイトルは『四畳半』である。70年代に流行した四畳半フォークというジャンルがあった。貧しく慎ましい生活を送る若い男女のはかない愛や無垢な恋心を綴った、なかば私小説的なフォーク・ミュージックだ。本作と四畳半フォークに直接関係があるわけではないものの、〈KOK〉の優勝後のリング上のインタヴューで150万円の賞金で借金を“だいぶ”返せると語っていたのだから貧しさという点では共通しているのかもしれない。

『四畳半』の主題は明確で、“負け犬”の現実と成り上がりへの願望である。サウンド面では、DJ YAOHH、MASS-HOLE、呼煙魔、WATARAI、DJ 和音、BBK、LITTLE D & GOWLAND、MICHITA、DJ OKAWARI、観音クリエイションといったビートメイカーを起用、大まかに分けて二つのパターンのビートを選び取っている。70年代のブラック・ムーヴィーのサントラで使用されているようなファンクやジャズ・ファンクといったレアグルーヴのホーンやワウ・ギターをサンプリングしたブーム・バップと、叙情的でメロディアスなピアノのサンプリングを基調としたジャジー・ヒップホップ系譜のトラックという二つのパターンだ。そして、おおよそ前者ではファスト・ラップで攻撃性を、後者ではナルシスティックなアクセントで内省を表現するという構成だ。

疾走するジャズ・ファンク・トラック「UNDERDOG」(敗北者の意)でGADOROは「負け犬の雄叫び」「すきっ腹ただ満たしたいだけ」と力強くスピットする一方で、「クズ」という曲では「アルコールを浴びて今日も逃避する現実」と歌い出す。GADOROが“IN DA 四畳半”から次に向かうのはどこだろうか。

RECOMMEND

MASS-HOLE / PAReDE

本作にも「CONCRETE JUNGLE」にてトラックを提供、ENDRUN、仙人掌、YOUNG JUJU、CENJUなどなど、いまやこの国のヒップホップ・シーンにはなくてはならないビートメイカー、MASS-HOLE。こちらは2015年リリースの自身によるビートも従えた、ラップ・アルバム。

DJ OKAWARI / Compass (24bit/48kHz)

アルバム後半の、思慮深い、流麗なピアノ・トラック「灯火」をプロデュースしているのはDJ OKAWARIの最新作。タリブ・クウェリやエミ・マイヤーなど、多彩なゲストで彩られた、カラフルなビート集。

PROFILE


GADORO

宮崎県高鍋出身。高校2年生の時に般若の楽曲に引き込まれRAPを始める。2013年UMB宮崎予選を初舞台ながら決勝まで進み準優勝を果たす。その後数々のMCバトルで快進撃が続く(2015年〈戦極 MCBATTLE第12章〉ベスト4、2015年〈9sari UMB/現:KING OF KINGS〉九州予選優勝・同決勝大会ベスト4などの好戦績を残し、バトル・シーンに大きなインパクトを与えた)。2016年にはテレビ朝日の番組「フリースタイルダンジョン」に2度出演し、全国にその名を轟かす事になる。そして、2016年11月に渋谷O-EASTで行われた〈戦極MCバトル第15章〉の優勝に続き、2017年1月に行われた〈KING OF KINGS 2016 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL〉でも見事王者の座を勝ち取り、日本一の最強バトルMCとして頂点に立つ。

GADORO 公式ツイッター

この記事の筆者
二木 信 (shin)

音楽ライター。共編著に『素人の乱』(河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』(ele-king books)を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。@shinfutatsugi

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[レヴュー] GADORO

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