サウンド・クリエーターからバンド、そしてソロへーーツボを心得たポップ職人、杉本清隆が9年ぶりの新作

2017年、活動15周年を迎えるorangenoise shortcutの杉本清隆が、12月14日にリリースした9年ぶりとなる新作『グッバイ・レイディ』をハイレゾ・リリース。ゲームのサウンド・クリエイターとして始まった音楽キャリアがどのような変遷をたどり、いま現在どのように反映されているのか。実に9年ぶりとなるソロ名義の作品についてインタヴューした。臨場感のある演奏を是非ハイレゾでお楽しみください。
9年ぶりの新作をOTOTOYにて独占ハイレゾ配信!!
杉本清隆 / グッバイ・レイディ
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/96kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?
【価格】
まとめ購入のみ 1,080円
【トラック・リスト】
1. グッバイ・レイディ
2. It’s A Shiny Day!
3. Seaside Christmas
INTERVIEW : 杉本清隆
音楽ゲーム『pop'n music』シリーズのサウンド・クリエーターとしてその名を知られる一方、90年代渋谷系の空気を継承したポップス・バンドorangenoise shortcutとしても活動してきた杉本清隆が、じつに9年ぶりの新作をリリースした。リスナーの好みも音楽を聴く環境も年ごとにものすごいスピードで変化している昨今、9年間の月日は結構長い。気が付いたらあっという間に時代の空気に置いていかれてしまうはず。ところが、今作『グッバイ・レイディ』はそんな浦島太郎感とは無縁の、ツボを心得たポップ職人ぶりが光るメロディ・ラインと参加ミュージシャンの卓越した演奏、甘くも大人の色気を感じさせる歌声による、古臭さなど微塵も感じさせない瑞々しいポップ・ソングたちだ。5曲(うち2曲はオフ・ボーカル)じゃあ、まだまだ物足りないけれど、初めてソロ名義で作品をリリースした杉本の現在とこれからをこのインタヴューを読むことで、今後の活動に注目してほしい。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
インディーズのフィールドでやりたいなと思って始めたのがオレノイだった
――杉本さんの音楽的キャリアの出発点は、ゲームのサウンド・クリエイターからという認識で合ってますか。
杉本清隆(以下、杉本) : そうですね。ヒット作に関わっていた関係もありまして。自分的にはバイト感覚でやってたんですけど(笑)、急に知られるようになってしまって。もともと、アーティスト志向だったので、自分で曲を作って歌ってというのをやっていて。それがゲームのサウンド・クリエーターをやっていると、なかなか思うような形にできないなと思っていったん辞めたんです。
――そこからorangenoise shortcutを始めたんですか。
杉本 : そうです。『pop'n music』はゲーム画面で色んな曲を選べるようになっていて、その中にジャンル名と曲のタイトルとアーティスト名が出るんですよ。結構いろんなタイプの曲を書いてたんで、曲のジャンルに合わせて、架空のアーティスト名をいくつか名乗っていたんです。その中の1つがorangenoise shortcut (以下、オレノイ)だったんですけど、自分のやりたいことに近かったので、コナミを離れてインディーズのフィールドでやりたいなと思って始めたのがオレノイだったんです。最初は宅録で曲を作ってライヴをやってCD-Rを売るようなユニットだったんですけど、もともとバンドをやる目的で始めたのでバンド形態になって。レーベルも活動中に決まって、何枚かアルバムも出させてもらいました。
――オレノイは2008年に活動休止となり、今回は初めてソロとして杉本清隆名義での作品でリリース自体9年振りですよね。その間はサウンド・クリエーターとしての活動をしていらっしゃったんですか?
杉本 : サウンド・クリエーター的な活動はあまりやっていなくて。音楽専門学校の先生をやっていました。そこの学校に将来ゲーム会社に入って曲を作りたいという学生や、バンドで曲を作ってCDを出したいとか、色んなタイプの生徒が集まる「ミュージックアーティスト科」があるんですけど、そこで主に作曲と、ピアノ、たまにバンドアンサンブルも教えていました。
――『グッバイ・レイディ』でもパーカッションとクレジットされていますが、オレノイの作品ではドラムを自分で叩いてたんですよね。
杉本 : そうです。オレノイ初期のアルバムとベスト盤の新録曲だけですが、自分でドラムをやっていました。大学生のときに打楽器を専門に勉強していて。音大でクラシックパーカッションをやっていたんです。それで自分でもやってみたいなって。音楽歴でいうとクラシックピアノを習っていたんですけど、「イカ天」(「平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国」)に影響されて、バンドをやりたいなと思ったんですよ。じゃあバンドをやるときに何をやりたいか考えたんですけど、ピアノはそんなに好きじゃなかったんです(笑)。なんか、ピアノを弾いてる自分に違和感を感じてしまったので。男子がピアノ習っていると「え~!?」みたいな感じがあったじゃないですか?
――わかります。僕も杉本さんと同世代ですけど、「ピアノは女の子が弾くもの」って思ってましたもん。
杉本 : そうそう(笑)、そういうのもあって。ピアノは得意だったので続けてたんですけど、あんまりそれでやって行こう、みたいなことは考えてなかったですね。それでバンドブームが始まったら、「ドラムかっこいい」ってドラムに目が行ったんですよ。「イカ天」の前から「ザ・ベストテン」とか「ザ・トップテン」とか歌番組が好きで。
――そういう番組に出てくるバンドを見てドラムに興味を持ちだしたんですか。
杉本 : だいたい出ていたのが、チェッカーズとかC-C-Bとかで。子どもの頃なのでそういうバンドに目が行くんですよね。C-C-Bのドラム・ボーカルの笠浩二さんを小学生の頃にテレビで見て衝撃を受けたこともあって、そこからドラムが気にはなってました。それと、C-C-Bは全員がヴォーカルを取れるというのも面白いなと思って見てましたね。
自分の中で研究してきたことを、一回形にしてみようと思ったんです。
――歌声を聴かせて頂くと、とても甘い歌声で特徴がありますけど、歌うようになったのはいつからなんですか。
杉本 : 人前で歌うようになったきっかけは、カラオケ・ブームですね。高校生の頃にカラオケで人前で歌うことが面白いなと思うようになって。もともと自分が特徴的な声をしているなっていうのは感じていたので、カラオケで1人デュエットみたいな感じで男女の歌声を1人でやるのを特技みたいな感じで受け狙いで友だちに聴かせたりしてたんですよ。でもヴォーカリストっていう意識はなかったんですけど、大学生のときに作曲を本格的にやり出したんですよ。そのときに、どうせだったら自分で歌ってライヴしようか、みたいなノリで始めたのが、今のスタイルに繋がっている感じですね。当時、DTMのはしりみたいなマッキントッシュの…… 今Macはみなさん結構持っていますけど、まだ高価だったので頑張って買って、打ち込みでトラックを作って。学校の授業よりそっちの方にのめり込んでやっていました。

――『グッバイ・レイディ』を聴いてからオレノイのアルバムも聴かせて頂いたんですけど、常にリズムが跳ねているというか、バンド・ブームのときに流行ったパンクっぽい8ビートの曲とかはないですよね。
杉本 : ああ、そうですね。でもパンクも好きですけどね。僕がそれをやろうとすると変換されてああいう風になっちゃうんですかね(笑)。
――『グッバイ・レイディ』のアレンジにはブラック・ミュージック的な雰囲気も感じますけど、洋楽から受けた影響もありますか?
杉本 : 歌謡曲が好きだって言ってる割には、それをそのままやるんじゃなくて、ちょっと歌謡曲らしくない部分が好きというか。わかりやすく言うと、90年代にCDがバカ売れしていた時期があったじゃないですか? ああいったヒット作がすごく自分は苦手だったんですよ。J-POPっていうくくりになった頃から離れちゃって、洋楽ばかり聴いていましたね。それ以前も、FMとかで洋楽のチャート番組を聴いていたので。でも、今考えるとJ-POPって呼ばれる以前の歌謡曲も、どことなく洋楽テイストのする曲が多かったんですよね。いまでこそわかるんですけど、やっぱり洋楽テイストが入っている音楽とかブラック・ミュージックの要素が入っている曲が自分のアンテナにひっかかってたんじゃないかなって。だからそういう曲が出てくるんだと思います。
――モータウン・サウンドを日本の歌謡曲を通して聴いていたり。
杉本 : そんな感じです。たぶん、そういうフィルターを通して聴いてたんだと思います。
――自分で曲を作り出したときにはどんな曲から作り出したんですか?
杉本 : あんまり、誰々みたいになりたいっていうことがなかったんですよ。曲を組み立てて、こういう進行にするとキュートだとか、ぞわぞわってなるなとか、音とか音階とかコードに耳が行っちゃうんで。
――歌を一番前に出しつつも凝ったアレンジが聴けますけど、その辺りの手法はどうやって身に着けたんでしょうか。
杉本 : 9年間、専門学校で教えているんですけど、結構勉強したんですよ(笑)。色んなジャンルを。昔の洋楽とかジャズのことも教えたりするんですけど、その感覚が果たしてちゃんと自分の中にあるのかなっていうことを、今回の曲は試してみたくなったというか。自分の中で研究してきたことを、一回形にしてみようと思ったんです。だから、歌謡曲のテイストもあるし、J-POP的な要素もあるし、洋楽やジャズのテイストもあるっていう、色んなおいしいところを混ぜて組み立てた感じです。
――今作は音楽Webサイト「ポプシクリップ。」の新レーベルmiobell records(ミオベルレコード)からリリースされましたが、これはどんな経緯で実現したのでしょう。
Mr.K(miobell records主宰) : 僕はもともと杉本さんのファンだったんですけど、自分でもイベントをやるようになって杉本さんに出てもらったことからお付き合いが始まったんです。今回のリリースの流れで言うと、今年の夏に僕がもう1つお手伝いしているバンド、Alma-Grafe(アルマグラフ)のCDを出したいねという話が出たんです。そのときに、自主でやった方が良いのかなって漠然と考えてたんですけど、たまたま夏のイベントで杉本さんにお会いしたときにそのことを話してみたら興味があるとおっしゃったんです。
杉本 : 以前よりKさんからも「何か出さないんですか?」って言われていたので(笑)。今回の話はもともと「ポプシクリップ。」が出している冊子の付録用に作る予定で話がスタートしたんですけど、いつのまにか単体で出すことになったんですよ。
Mr.K : 杉本さんはキャリアがある方ですし、久々に出すのであればせっかくだからキチンとしたスタジオアルバムを出した方が良いなと思ったんです。それと、杉本さんのいた音ゲー界隈のミュージシャンたちは、今でこそヴォーカロイドや声優とかゲーム音楽を作って売れている人たちも出てきていると思うんですけど、ゲームとかオタクカルチャーの文脈で語られることはあっても、音楽専門誌ではあまり取り上げられてこなかった人たちだと思うんですよ。だから今回こうやってOTOTOYから配信されてインタヴューが掲載されることって、結構意義深いことだと思っていますし、杉本さんの音楽はメインストリームの人たちの市場に出て行っても十分聴いてもらえる音楽だと思うんですよね。今回新レーベルを立ち上げてリリースするにあたって、そういう気持ちもあります。
自分の中で自然にイメージが出来てきたんです。

――ソロでやってみよう、というのは以前から考えていたことなんですか。
杉本 : オレノイというバンドがあってライヴをやっていたんですけど、活動休止以降は、じつはソロでやって行くつもりもなかったんですよ。でもやって行くうちに、やっぱりちょっと自信もついてきたんですよ。今まで電子ピアノでやってたんですけど、グランドピアノがあるライヴ・ハウスで弾きながら歌ったときに、「ああ、このスタイルはいいな」と思って、これで自分のソロをやってみたいなと思ったんですよ。全然、レベルは違いますけど、ベン・フォールズ・ファイヴが好きだったのもあって。ソロでやるんだったらそういう形でやろうかなって、自分の中で自然にイメージが出来てきたんです。
――3曲プラス、演奏だけのオフ・ボーカルが2曲収録されていますが、これは既にあった曲からチョイスしたのでしょうか。
杉本 : 3曲目の「Seaside Christmas」は以前からあった曲で、時期的にも良いかなと思って入れたんですけど、あとの2曲は新しく作りました。タイトル曲は今回のリリースが決まってから書いた曲です。
――各パートは杉本さんが作った設計図をもとに演奏している感じなんですか?
杉本 : ギターに関しては、今回はきだしゅんすけ君っていう、映画音楽の作曲をしている昔からの友だちが弾いているんですけど、きだ君もすごく洋楽を聴いてきた人で、僕の持っていない引き出しから楽曲に合うギターのアレンジを色々提案してもらいながら、結構自由に弾いてもらいました。ベースの永田範正さんも僕と聴いてきた音楽の感じも近いって事もあって、コードとリズムの感じだけ提示して、あとは自由に弾いてもらいました。
――「グッバイ・レイディ」のギターは、歪んでないけどクリーントーンでもないっていう、絶妙な音を出してますよね。
杉本 : 絶妙ですよね(笑)。僕もそう思います。本当はもうちょっとグルーヴにもこだわりたかったんですけど、綺麗な曲なので歌もしっかり整えようかなとも思ったんです。今は結構機械で整えられるじゃないですか? でも、そういうのを歌も演奏もあえてしていなくて、ちょっとデコボコした感じは残したんです。BPMも曲の前半と後半でちょっと違うんですよ。
――「It’s A Shiny Day!」もそうですけど、2曲ともオフ・ボーカルが入っていることもあってコーラスワークを駆使していることがとてもよくわかります。こういう部分もサウンドクリエーターとしての研究の成果ですか?
杉本 : コーラスワークに関しては、まったく研究してないんですよ(笑)。全部アドリブでやったんです。色んな音楽を聴いて自分の中に沁みついているものがあるんですよね。ノリですね、完全に。人が歌っているところに乗っかるのが好きなので(笑)そういうところが出ているんだと思います。

――「Seaside Christmas」はレゲエですけど、打ち込みですよね。
杉本 : はい、これはギターとベース以外は打ち込みです。これは音ゲーの仕事をやる前からDTMで曲作りをしているとき、20歳のときに作った曲の焼き直しなんですよ。当時、ドラムンベースが流行っていて、音ゲーとか関係なく打ち込みで作っていたんです。この曲もじつはもともとドラムンベースでアレンジしてた曲だったんですよ。そこから放っておいたんですけど、何年か前のイベントのときに思い出して。歌詞も当時は全然ぼんやりした歌詞だったんですけど、今回はテーマをXmasにしてアレンジもレゲエ調にしたんです。あとこの曲はFISHMANSが好きで。
――ああ~それは感じました。歌い方もちょっと似てますもんね。
杉本 : ちょっと意識してます(笑)。これはかなりFISHMANSですね。
――OTOTOYからはハイレゾ配信されますが、ハイレゾならではの聴きどころを教えてもらえますか?
杉本 : 結構ライヴっぽい演奏なので、ハイレゾだとそれが臨場感のある説得力のある感じで伝わるんじゃないかなと思います。ぜひハイレゾで聴いてほしいです。
――今回はマキシ・シングルですが、今後はアルバムを作ることも考えてますか?
杉本 : ライヴ限定発売したCD-Rの宅録音源が何曲かあるので、それをレコーディングしなおして出したいなという希望はあります。ちょっとお休みしていた感じなので、2017年からは精力的に活動して行きたいですね。今回の作品で勢いがつけば良いなと思っています。
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通算15枚目のオリジナル・アルバム。「KONCOS」の2人(古川太一、佐藤寛)とのスリーピース編成を中心に、ソロ・デビュー以前からの盟友「NEIL&IRAIZA」(堀江博久、松田岳二)らのサポートの元、風通しの良いバンドサウンドを奏でています。
LIVE SCHEDULE
杉本清隆『グッバイ・レイディ』発売記念インストアライブ
2017年1月24日(火) @下北沢モナレコード
時間 : OPEN 19:30 / START 20:00
料金 : 一般¥1000+1drink モナレコードにて『グッバイレイディ』を購入(通販含む)した方は特典のポストカード持参で500円割引
出演 : 杉本清隆・Special Guest TWEEDEES
詳細 :
321 Birthday Live vol.9 ~Shimi-zimi 43~ at 渋谷gee-ge
2017年3月20日(月/祝)・2017年3月21日(火) @渋谷gee-ge
PROFILE
杉本清隆
「orangenoise shortcut」として2002年より都内を中心にライヴ活動を開始。 2008年の活動休止までに、Softly!レーベルより 5枚のアルバムを発表。 ネオ渋谷系や「pop'n music」ファン中心に人気を集める。 現在はソロ名義で、orangenoise shortcutの特徴でもあるギターポップ、ネオアコ感覚を継承しつつ、独特のハイトーン・ヴォーカルを生かしたピアノロックなスタイルでライヴ活動を続けている。実に9年ぶりとなる、ソロ名義の初作品「グッバイ・レイディ」をmiobell recordsより2016年12月14日にリリース。