2016/10/14 17:27

仙台の至宝yumbo、MC sirafuらゲストを迎え約6年ぶりの4thアルバム『鬼火』リリース!

新ヴォーカル・高柳あゆ子をフューチャーし、バンド初のマルチ・トラック・レコーディングで発表された名盤『これが現実だ』から早5年9か月。仙台を拠点に活動するユンボが、4thアルバム『鬼火』をリリースした。『これが現実だ』リリース直後に発生した東日本大震災の影響で一時活動休止を余儀なくされながらも、新メンバーに芦田勇人と皆木大知を迎え、リーダーの澁谷浩次が映画音楽を担当するなど、活動の幅を広げてきたユンボ。今作では、ゲストにMC sirafu(片思い、ザ・なつやすみバンド他)、遠藤里美(片思い)、波多野敦子(ジム・オルーク・バンド他)という豪華ゲストを迎え、2枚組全14曲というボリュームの大作を完成させた。OTOTOYでは、歌詞カードのpdfを付属して絶賛配信中!心地よさと不気味さが混じり合った、絶妙な楽曲群を是非体験して欲しい。

yumbo / 鬼火(16bit/44.1kHz)
【Track List】
01. 悪魔の歌
02. 石が降る
03. 地獄の歌
04. 偉大なるサークル
05. 暗がりにひとつ
06. 失敗を抱きしめよう
07. 人々の傘

01. 優しい音楽
02. 悲しきマグロ
03. 真夜中のパーティー
04. 嘘の町
05. 馬男
06. 薬のように
07. 鬼火

【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC / MP3
単曲 150円(税込) / アルバム 1800円(税込)

鬼火の気配と揺らぐ二つの世界

周知の通り、ユンボが拠点とする仙台は2011年の東日本大震災で大きな被害を被った。バンドのリーダー・澁谷をはじめとして、一部のメンバーは避難生活を余儀なくされていた時期があったのだが、そんな中でも避難先のbook cafe 火星の庭で、本作にも収録されている「人々の傘」「鬼火」を演奏し、YouTubeに即時公開するなど、音楽を止めることはしなかった。その動画に映る彼らと音楽は、驚くほどに平熱で、当たり前の素振りで、心地よい。まるで被災地から届けられた音楽とは思えないのと同時に、彼らの音楽への深い愛情を感じるものであった。

5年9ヶ月ぶりに届けられたユンボの4thアルバム『鬼火』。本作は、エンジニアに演劇の方面から本儀拓を迎え、一般的なレコーディング・スタジオでのやり方とは異なる手法を用いて録音が行われたそう。それもあってか、全体的に角のとれた音色になっており、ピアノ、ギター、ホーンによって生み出される繊細でコンパクトなアンサンブルは、室内楽のようで美しい。

しかし本作のキモは、そのサウンド感とヴォーカル・高柳あゆ子が綴る、夢と現が重なり合いはみ出し合う絶妙な歌詞との心地いいズレである。タイトル曲「鬼火」では「鬼火が燃やし尽くした街角は 切り分けられた魚のようにとても静かだ」と、穏やかな曲調にしては鋭いことばを綴り、「地獄の歌」では「いつかあなたが愛した物語を踊り子たちが誤って床に落とした ざわめく追悼の響き 宴の途上で渦を巻く」と、現実からはみ出したもう一つの世界を歌っている。

鬼火とは、いわゆる”火の玉”のことを言うらしい。つまり、霊魂だ。本作を聴いていると、どこかに、見えない誰かの存在が――誰もいないのだが――感じられて仕方がない。なんでもない日常の中で、時折感じる何かの気配。身の回りのあらゆるものに宿る霊魂が、ユンボの歌の中で語りかけ、はしゃぎまわり、ときには悪さをする。牧歌的な曲調や高柳の素朴な歌声も相まって、彼らの音楽に見る景色は、遠い過去の記憶が蘇るかのようにも思えるし、今目の前にある景色のようにも思える。このような小さなズレたちが全編にわたって散りばめられており、それこそが本作を心地いいものにしているのだ。きっとこれ以上浮世離れしたものになりすぎても、現実によりすぎても駄目なのだろう。

普段の暮らしに疲れてしまった人にこそ、本作を強くおすすめしたい。本作を聴けば、きっとあなたの目にも――なんでもないいつもの風景に――いろんな鬼火が見えるはず。そして、忘れてかけていた本当に大事なことを思い出せるに違いない。

文 : 寺島 和貴

PROFILE

yumbo

澁谷浩次 (pf, b, vo, 作詞作曲)を中心に、1998年に仙台で結成。幾多のメンバーの変遷を経て、2013年までに山路智恵子(perc)、工藤夏海 (hrn)、高柳あゆ子 (vo)、芦田勇人 (eupho, g)、皆木大知 (g,b)が順次加入し、現在のラインナップとなる。高柳加入後初の作品であり高い評価を得た3rdアルバム『これが現実だ』以来、5年9ヶ月振りとなる2枚組アルバム『鬼火』と長らく廃盤状態となっていた1stアルバム『小さな穴』(2003)を2016年10月12日に発売。

>>yumbo アーティスト・ページ

この記事の筆者

[レヴュー] yumbo

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