サニーデイ・サービス『東京』、そしてサニーデイ自身を読み解く──「岡村詩野音楽ライター講座」より合評

2016年5〜7月に開講された『岡村詩野音楽ライター講座』では、「サニーデイ・サービス特集」と銘打って、全6回を通してサニーデイの作品や活動に焦点を当ててきました。そのなかで、20年前に発表され、この2016年に再び日本のポップ・ミュージックのマスターピースであることを再認識させるに至った『東京』(2016リマスター盤)の合評、さらに講座を通してサニーデイ・サービスを見つめ直すなかで推敲した「サニーデイ・サービス論」、計4つの原稿を掲載します。

サニーデイ・サービス『東京』(2016リマスター盤)クロス・レヴュー

サニーデイ・サービス / 東京
【Track List】
01. 東京 / 02. 恋におちたら / 03. 会いたかった少女 / 04. もういいかい / 05. あじさい / 06. 青春狂走曲 / 07. 恋色の街角 / 08. 真赤な太陽 / 09. いろんなことに夢中になったり飽きたり / 10. きれいだね / 11. ダーリン / 12. コーヒーと恋愛

【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3
単曲 270円(税込) / アルバム 2,700円(税込)

ストロベリー・フィールズ・フォーエバー

サニーデイ・サービスが1996年に上梓したセカンド・アルバム『東京』の歌詞には、東京をあらわす言葉がひとつも現れない。90年代中期を感じさせるような同時代的な表象もまた見当たらない。千鳥ヶ淵の桜をあしらったアルバム・ジャケット、冒頭の「東京」という曲名は聞き手をあわく東京へといざなうけれど、そこに描かれるのは実のところ、場所や時代を越えて立ちあらわれる12編の恋の風景だ。楽曲そのものに目を向けても同時代性は薄く、敢えてくくるならば、はっぴいえんどやはちみつぱいなどをルーツとする和製フォーク・ロックが鳴らされている。東京という記号性からも同時代性からもたくみに距離をとりながら、みずみずしい若者たちの心理と日常が、時の止まった真空の中にあるかのように保存されている。

本作は発売当時、その咀嚼には数年間を要しつつも、渋谷系へのオルタナティブ、あるいは決別の実践としてリスナーに受容されていった。メジャー・デビュー直後に発表された2枚のEP盤『星空のドライブ』『COSMIC HIPPIE』に見る、あからさまな渋谷系フォロワーとしての曽我部恵一の音楽性は、ファースト・アルバム『若者たち』において70年代への憧憬に満ちたフォーク・ロックへと大胆に変容する。リスナーを大いに戸惑わせたこの転向の背景にあったのは、渋谷系という文脈への真摯な(自己)批判精神だったのだろう。表象のかずかずを記号のたわむれとして遊び、消費する… そのような態度を乗り越えんとする試みは、『若者たち』という過渡期を経て、時代・記号性の漂白された『東京』のみごとな透明さへと結実していた。

20年の時を経て『東京』に耳をかたむける。驚くほどに「今」のアルバムとして響いてくる。同時代の喧噪から距離を置こうとする脱・渋谷系という(おそらくは無意識裡になされた)たくらみは、20年の熟成期間を経てようやくその事件性を塩抜きされたようだ。このアルバムには、若者たちがおりなす日常の普遍的なうつくしさが、結晶のようにかがやいている。『東京』にはスマホもLINEも登場しないけれど、ここにはやはり2016年という「今」を生きる若者が歌われている。彼/彼女らがいつか振り返って気付く、もう消えてしまった恒星から届きくる光のような、淡いまたたき。本作は、3人体制での活動を終えたサニーデイ・サービスにとっても、そしていつの時代の若者にとっても、永遠の苺畑なのだろう。(text by 金田渉)

愛おしい瞬間を思い出してほしい

2016年5月、20年の時を経て、サニーデイ・サービスの2ndアルバム『東京』の『「東京」20 th anniversary BOX』が発売された。同時代に作られて消えていった作品は数多くあるにもかかわらず、なぜ『東京』は、今なおリマスター盤が発売されるほど愛されているのであろうか。そこには90年代のノスタルジーという言葉では片づけられない魅力があるはずだ。私は『東京』の魅力とは、いつの時代でも聴き手にとって「日記」のような存在であることだと思う。日常の中で、ふと美しい風景を見つけて、ハッとさせられる、そんな経験が誰にでもあるはずだ。『東京』はそんなハッとして、胸が高鳴るような日常の美しい瞬間を書き記した日記なのだ。

曽我部恵一は『東京』で、日常、特に恋愛のそうした瞬間を街の風景に落とし込んだ。例えば、「恋におちたら」の《昼にはきっときみと恋におちるはず / 夜になるとふたりは別れるんだから》という歌詞に代表されるように、彼は、「君に逢いに行く」という胸が高鳴る瞬間の裏側にある別れまですべてを丁寧に描き、歌にしている。印象的な美しい桜のジャケットも、春という出会いの季節の、新しいことが始まる期待感と、その反対にある別れという痛みのすべてを表しているように感じる。美しいことだけでなく、その裏側にある痛みも含めて、すべてを歌に昇華することで、リアリティが生まれる。さらに、日常の美しいことの愛おしさ、輝かしさが際立ち、かすかな希望がもたらされるのだ。

『東京』を聴いていると、曽我部恵一の歌や言葉、クリーンでシンプルなサウンドによって、自分の記憶の中に眠っていた胸が高鳴る瞬間が呼び起こされる。自分のどうしようもない日常の中にも、愛おしい瞬間があったことに気付かされる。つまり、『東京』を聴きながら思い描く情景は、自身の記憶の中にあり、人それぞれ異なるのだ。20年前の発売当初の記憶かもしれないし、今日、もしくは未来のことかもしれない。だからこそ、『東京』という日記の主人公は常に誰かのことである反面、自分でもあるのだ。日常に翻弄されている人こそ、『東京』を聴いてほしい。恋人とのデート中にふと感じた愛おしい瞬間や、美しい風景を見て胸ときめいた瞬間、日常にはそんな美しい瞬間があることを思い出すはずだから。(text by 齊藤幸)

70年代と10年代を繋ぐ唯一無二の1枚

「ぶっちゃけシャーラタンズの前座やったときより、今日の方がはるかに緊張してますよ」──これはシャムキャッツの夏目知幸が、今年2月にサニーデイ・サービスと対バンした際に放った一言。冗談交じりなこの発言は、現代において、サニーデイ・サービスおよびその象徴たる『東京』がいかに重要な存在であるかを如実に表している。そして『東京』が再評価されているのは、現在から見て、サニーデイ・サービス以前の70年代と、以降の2010年代がオーバーラップする作品だからではなかろうか。

「街へ出ていく」「喫茶店でひといき」「コーヒー」などの70年代テイストな歌詞で飾られる、"きみ"と2人の恋物語。洋楽志向な渋谷系の影響が残留する96年という時代において、曽我部恵一は全曲全タイトル日本語という徹底してドメスティックなアルバム作りを行った。これは以降のサニーデイ・サービスにも見られない『東京』だけの特徴である。そして、『東京』のリリースは、曽我部自身も大きく影響を受けたと語るはっぴいえんどなどの70年代音楽に対して、再度目が向けられるきっかけとなった。1つ1つ噛みしめるような象徴的な日本語詞によって、時代との違和感をあえて演出し、曽我部自身の原体験である70年代にインスパイアされた世界観を見事に表現しきったのである。

そして、2016年現在活躍するバンドたちの中にも、『東京』の遺伝子が脈々と受け継がれている。例えばnever young beachのように、「なんてことのない」日常で生きる若者を高らかに歌い上げるバンドもいれば、シャムキャッツのように甘くほろ苦い青春や恋愛を歌うバンドもいる。すなわち、『東京』の中で作られた曽我部流の、いわば「青春喫茶ロック」は、サニーデイから影響を受けた若手バンドたちの指針になっており、単に20周年を迎えたという事実だけでなく、近年の音楽ムーブメントを踏まえれば再評価されるのは至極当然なことだと言える。

『東京』のリリースによって『風街ろまん』が新たな意義を見出したように、2016年という時代の中で、今度は『東京』に新たな価値が与えられることとなる。サニーデイ・サービスがこの作品を生み出さなければ、90年代は(ポスト)渋谷系支配下のままで終わり、中村一義やくるりなどの後続の誕生や、近年「シティポップ」として括られるバンドの充実もありえなかったかもしれない。『東京』は“70年代と今を繋ぐ"唯一無二の役割を果たした1枚である。(text by 信太卓実)

2016年に読み解く「サニーデイ・サービスとは」

サニーデイ・サービス / DANCE TO YOU
【Track List】
01. I’m a boy / 02. 冒険 / 03. 青空ロンリー / 04. パンチドランク・ラブソング / 05. 苺畑でつかまえて / 06. 血を流そう / 07. セツナ / 08. 桜 super love / 09. ベン・ワットを聴いてた

【配信形態 / 価格】
ALAC / FLAC / WAV / AAC
価格 まとめ購入 1,800円(税込)/ 単曲 200円(税込)
サニーデイ・サービス / 24時
【Track List】
01. さよなら! 街の恋人たち / 02. 果実 / 03. 今日を生きよう / 04. 月光荘 / 05. 海へ出た夏の旅 / 06. シルバー・スター / 07. 黄昏 / 08. 経験 / 09. カーニバルの灯 / 10. ぼくは死ぬのさ / 11. 堕天使ワルツ / 12. 海へ出た夏の旅~再び / 13. 太陽の翼 / 14. 4月18日のバラード / 15. 24時のブルース

【配信形態 / 価格】
ALAC / FLAC / WAV / AAC
価格 まとめ購入 2,700円(税込)/ 単曲 270円(税込)

サニーデイ・サービスとは、「今」を生きるすべての人のビビッドなリアルそのもの

私にとってのサニーデイ・サービスは、「自分自身」である。彼らと親子ほど年の離れた、性別も異なる私がそんなことを言ったら笑われるだろうか。彼らの音楽は明るいけど切なく、美しいけど醜い。前向きだけど後ろ向き、そんな希望と絶望を孕んだアンビバレンツなものである。一方、受験や就職を経て、現実の厳しさや限界を受け入れた自分と、それでも夢や可能性を諦められない自分。精神的モラトリアムから抜け出せない私の中にも、常に相反する感情が存在している。胸が苦しくなるほどに、彼らの音楽は今の私自身である。

私が1番彼らに自分自身を投影するのは、まるで掃き溜めのように混沌とした感情が渦巻く異色作、『24時』だ。堕落的で悲壮感たっぷりの“僕は死ぬのさ”。反対に、夜の絶望の中から希望を見出したような、ハッとするほど美しい“月光荘”。迷いや不安、諦念、さらには夢や希望まで、あらゆる感情がぶちこまれており、なんの統一性もテーマもない。それでいて、当時のピリピリとした空気を真空パックしたようなリアリティがあり、いつ聴いても新鮮である。そんな空気を肌で感じ、当時の彼らに自分を重ねるのだ。

しかし、なぜ彼らはこんな混沌とした作品を作ったのだろうか。答えは簡単だ。作るしかなかったからだ。前作『サニーデイ・サービス』で、バンドとしての完成形を見てしまったことで、彼らは次に進むべき道を見失ってしまった。混乱した状態の中で前に進むためには、迷いもがく自分たちのありのままを曝け出してでも次の作品を作るしかなかったのだ。そうしてできてしまったのが『24時』であり、もはやサニーデイ・サービスのドキュメンタリーである。だから、混沌としつつも、痛いほどに生々しい。

そんな当時の彼らや今の私だけでなく、誰もが時に行き詰まり、迷いながら日々を生きているのではないだろうか。時代や年齢、性別なんて関係ない。つまり、サニーデイ・サービスとは、90年代の若者たちのセピア色の思い出ではなく、「今」を生きるすべての人のビビッドなリアルそのものだ。その証拠に、2016年8月にリリースとなった最新アルバム『DANCE TO YOU』も制作に1年以上費やしている。一度昨年の夏に完成したにも関わらず、何回も作り直しを行ったからだ。彼らは40歳を過ぎてもあの頃と何も変わらない。だからこそ、彼らの音楽はエバー・グリーンなのだ。迷いながら生きる私たちを救うのは、いつの時代もサニーデイ・サービスのような音楽なのかもしれない。(text by 齊藤幸)

『岡村詩野音楽ライター講座 夏季集中講座』受講生募集中

音楽評論家として活躍する岡村詩野のもと、音楽への造詣を深め、「表現」の方法を学ぶ場、それが「岡村詩野音楽ライター講座」です。ここにはプロのライターを目指す人から、ライティングの経験はないけれど音楽が好きで、表現の幅を広げたい! という人まで、幅広いバックグラウンドを持った参加者が集い、学び合っています。

そんな「岡村詩野音楽ライター講座」の夏季集中講座が開講。集中講座ならではのより丁寧で濃度の高い授業内容となっております。音楽ライターになりたい人、音楽評論を集中して学びたい人、今までなかなか都合が合わずに参加できなかった人、夏休みの自身への課題等、動機はなんでもかまいません。ぜひ一度参加してみてはいかがでしょうか? また3日(土)の夜には、先生も参加する交流会を行いますので、様々な質問をぶつけてみてください。この夏季集中講座で、あなたが好きなバンド/アーティストを素敵な文章で人に伝えれるようになってみましょう!

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