2016/06/03 13:08

〈自分をさらけ出す〉決意を固めたベテラン・ラッパー――LIBRO『風光る』インタビュー

 97年に活動をスタートしたトラック・メイカー/ラッパー、LIBRO。2014年に約5年ぶりとなるアルバム『COMPLETED TUNING』をリリースして以降、それまでの長い沈黙が嘘であったかのようなスピード感で新作を次々にドロップしてきた。

 漢やポチョムキン、5lackら4人のラッパーをゲストに迎えてリリースされた新作『風光る』は、サンプリングをベースとしたトラックの上でなめらかなラップが踊る〈LIBRO印〉の楽曲を堪能できる作品となった。数々のアーティストのプロデュース・ワークを続けながらも、枯れる様子を微塵も見せずに自身の新作を作り続ける彼が、今なにを考え、どんな姿勢で音楽に向かっているのか話を訊いてきた。

インタヴュー : 原田星、高木理太
文 : 原田星

MC漢、小林勝行、5lackらをゲストに迎えたフル・アルバム

LIBRO / 風光る
【配信形態】
MP3
【価格】
単曲 257円(税込)、まとめ購入 2,469円(税込)

【トラック・リスト】
1. 風光る
2. オンリー NO.1 アンダーグラウンド feat.漢 a.k.a. GAMI
3. 8時の時報
4. カウントナイン
5. NEW feat.ポチョムキン
6. 永久高炉 feat.DJ BAKU(KAIKOO)
7. キミは天を行く
8. 花道 feat.小林勝行
9. 熱病 feat.5lack
10. 通りの魔法使い feat.仙人掌
11. コントラスト
12. あまなりしき
13. てん

〈友達を驚かせたい〉気持ちで今も音楽を作っている

――最近レーベルのオフィシャル・ブログを開設されましたよね。ずっとサイトを持っていなかったこともあって、LIBROさんの情報を追うのが難しい状態でした。わざと情報をコントロールされていたんですか?

LIBRO : そういうつもりではなかったんですけど、SNSみたいなものも面倒臭くてやってないんですよ。

――LIBROさんは寡作なアーティストという印象があるのですが、2014年に『COMPLETED TUNING』をリリースしてから、ミニ・アルバム『GEAR』、アルバム『拓く人』、嶋野百恵さんとの『オトアワセ』、そして本作『風光る』と、続々と新作をリリースされてます。

LIBRO : そうですね。他のことをやらずに音楽だけで食べていくにはどうしたらいいかをチャレンジしているところなので、1枚作り終わったらすぐ次に取り掛からないと生活できなくなってしまう。だからこのアルバムがいい感じて売れてくれないと困るんです(笑)。でもここ数年は連作みたいな感じで作ってきて、自分の中では今回のアルバムで一旦落ち着いた感じがある。次の作品は1年後くらいに出ればいいかなと。

LIBRO NEW ALBUM 『風光る』トレイラー動画
LIBRO NEW ALBUM 『風光る』トレイラー動画

――リリース・ラッシュの最初の作品となった2014年の『COMPLETED TUNING』をリリースされた頃のインタヴューでは、〈デビュー作である『胎動』の頃の気持ちで制作できている〉と語っていました。

LIBRO : 一度、自分の中から出てくるもの以外の音… 流行りの音を取り入れたほうがいいのかなと思って挑戦してみたけど間違いだということがわかったんです。周りは関係ないと割りきって、始めた頃の質感を突き詰めて自分にしかできない音楽を作ったほうがいいことに気づいた。今は最初の頃みたいに、「この(サンプリング)ネタを使って曲を作って友達を驚かせたい」という気持ちを持ったまま音楽を作っているつもりです。

――『COMPLETED TUNING』で復活してから4作目。それだけの数を作ると、気持ちの変化も出てくるのでは?

LIBRO : 納期が常にあって大変だけど、作り続けることにだんだん慣れてきてはいますね。大変と言っても、自分と同じくらいのキャリアがあるラッパーは自分よりたくさん作品を出しているわけですから。(2015年にリリースした)『拓く人』は、自分が作品をリリースしていない空白の時期のことを振り返って作ったもので、当時の自分の心境がすごく反映されているんです。

――『拓く人』ではほぼ全曲でLIBROさんがラップをしています。他の作品とはなにか違う意味があった?

LIBRO : あれは自分がラップを再開する上で、過去を精算するようなアルバムでした。ラップを1曲でもやるのであれば、全て自分がラップするフル・アルバムを作れることを証明しなければいけなかったんです。当時の自分の心境を詰め込んだ内容になっています。そういった課題が作品ごとにありますね。

――今回のアルバムにも、LIBROさんなりの課題は含まれている?

LIBRO : MC漢 をフィーチャリングした「マイクロフォンコントローラー」(『COMPLETED TUNING』収録)という曲があるんですけど、その歌詞には〈ラップをするなら乗り越えなければいけないハードル〉が書かれていて。自分がラップをするにあたって、やるべきことが全て書かれていると言ってもいい内容だった。今回のアルバムでは、『拓く人』の全編でラップしている内容を、1曲目に詰め込んだつもりなんです。2曲目以降がこれからの自分がやるべきことをラップしています。

LIBRO 「マイクロフォンコントローラー feat. MC漢, MEGA-G, LIBRO」
LIBRO 「マイクロフォンコントローラー feat. MC漢, MEGA-G, LIBRO」

――漢さんは新譜でもフィーチャーされていますが、『拓く人』、『COMPLETED TUNING』の2作にも参加しています。漢さんのパブリック・イメージとLIBROさんの飄々としたキャラクターがマッチしないと思っているのですが。

LIBRO : それは、漢の懐のでかさによるものですね。どちらかというと俺のほうが壁を作りがちな性格なんで。2010年くらいから付き合いはあるんですけど、鎖グループができた時に一緒に新しくなったBLACK SWAN(レーベル)からEPをリリースしないかと誘ってくれたんです。その時はまだラップ・アルバムを出すことに迷いがあったんだけど、BLACK SWANから『GEAR』を出せたことで、『拓く人』を出す決意ができた。

D.L『THE ALBUM』を聴き直して、自分のやりたいことを再発見できた

――新作は収録曲の半分でラッパーが客演していて、『COMPLETED TUNING』と『拓く人』の中間のような構成だと思いました。漢、DJ BAKU、ポチョムキン(餓鬼レンジャー)、小林勝行、5lack、仙人掌がゲスト参加しています。ゲストを半分ほど入れることは最初から決まっていた?

LIBRO : 『拓く人』はゲストが少なめだったんで、今回はもうちょっと増やそうかなと思っていました。あと『COMPLETED TUNING』のとき世話になった人も誘えたらいいかなと思って。漢と小林勝行君ですね。あと5lack君も以前誘っていたけれどタイミングが合わなくて。

――以前、小林勝行さんがフィーチャーされた「ある種たとえば」では、登場人物が時空を超えるというぶっ飛んだ内容の歌詞で驚きました。アルバムの中で特別インパクトのある曲だったと思いますが、今回もああいった癖の強い歌詞の曲が届くという懸念はなかったですか?

LIBRO : 確かにちょっと危惧はあったんですけど(笑)、今回のオファーに関してはサビの部分を先に録って送ってあったんです。関西に行った時にイベントで一緒になることもあるんですけど、最近の小林君は肩の力が抜けててマインドがすごい良いからぜひ一緒にやりたいと思って。

LIBRO「ある種たとえば feat.小林勝行」
LIBRO「ある種たとえば feat.小林勝行」

――5lackさんが参加した「熱病」は、タイトルも歌詞もLIBROさんの「雨降りの月曜」を引用していますね。

LIBRO : 5lack君とはデータのやりとりで曲を作ったんですが、ラップ入りのトラックが戻ってきたときに「カヴァーさせてもらいました」って書いてあって、それがめっちゃありがたかったです。

――エレピのループを使ったトラックもウォーミーでLIBROさんらしいと思いました。

LIBRO : 自分がストックしているビートの中で「5lack君に合いそうだな」と思ってたものを向こうが選んでくれたんです。

――歌詞の中には「憧れのラッパーと」というフレーズが入っていて、LIBROさんへのリスペクトを感じる内容で。一方、LIBROさんもPSGに関しては、ブログで「日本語ラップの可能性を開拓し続けている」と絶賛されていました。

LIBRO : 5lack君のリリックのいいところは自虐がないところ。ネガティヴな言葉が出た瞬間、強い言葉を使ってひっくり返すところがかっこいい。決して凹まないというか。PSGの登場でラップのスタイルも変わったと思うんです。5lack君より前に彼のようなラップをしている人はいなかったし、PUNPEE君共々「天才なんじゃないか」って思ってて。

――DJ BAKUさんが参加している「永久高炉」は唯一のインストで、この曲を起点にアルバムの流れが変わっています。BAKUさんとはどのような作業をしたのでしょうか?

LIBRO : 『オトアワセ』では、「このラッパーの言葉をこすってください」とお願いしてスクラッチで参加してもらって。今回はD.L(DEV LARGE)さんとMAKI THE MAGICさんの声を入れたいとお願いしてたんだけど、BAKU君から戻ってきた音を聴いたら声ネタもサンプルっぽく構成してあって、一切こすりが入ってなかった(笑)。「やっぱりスクラッチを加えてください」とお願いしなおして入れてもらったものを更に俺が再構成して… という感じで作っていきました。

――D.LさんとMAKI THE MAGICさんの声を入れた理由は?

LIBRO : ふたりとも面識はなかったんですけど、尊敬はしてますから。『拓く人』を作った後にD.Lさんの『THE ALBUM』を聴き直したら、自虐ではない表現で己を戒めるようなメッセージが入ってて、自分もこういうことがやりたかったんだということを今更自覚したというか(笑)。でも、自分の経験が追いついていない状態で戒めみたいな言葉を入れると、後でその戒めに自分が締め付けられるということもあるので難しいんですよね。

どこまで自分をさらけ出して嘘なくやれるのかを試している

――『拓く人』というアルバム自体もそうだったんですが、本作に入っている「NEW」なんかもLIBROさんが新しいことをスタートする宣言と読めるような内容かなと。

LIBRO : 「NEW」っていうのはポチョムキンが出してきたタイトルで、最初は笑っちゃったんですけど、迷いなく振り返らず先に進む、更新するという歌詞の内容とフィットしてるなと思って。

LIBRO「NEW feat.ポチョムキン」
LIBRO「NEW feat.ポチョムキン」

――『風光る』という言葉は、〈日差しが強くなる季節に、あらゆるものが輝くように見える〉という春の季語らしいのですがそれは意図されていた?

LIBRO : 季語だというのは知らなかったですね。喉元に詰まってうまく表現できない気持ち、言葉になる前のもやもやした感覚を表現するようなタイトルにしようと思っていて、『コントラスト』にしようかと思ってたんです。

――最近の活動についてもお伺いします。復活以降はライヴも行っていますが、バックDJを置かずにLIBROさんひとりでやってますよね。

LIBRO : 活動休止前のライヴはバックDJをに頼んでいたんですけど、自分でやったほうが早いなと思って。あと、(曲同士を)繋ぐ感じも自分でできたほうが新しいものが生まれるんじゃないかなって。まだ実験中なんですけど、パッドで曲の頭出しをして、エフェクトをかけたりしながらラップするというのをやっています。今の形でもっと精度を上げて行きたい。

――実際ひとりでライヴをやってみてどうですか?

LIBRO : どこまで自分をさらけ出して嘘なくやれるのか、修行だと思ってやってます。これまでは自分をさらけ出したくなかったところがあったけど、今はこれまでやってなかったことを全部やっていきたいと思ってて。

――新作にエモーショナルに聴こえるのもそういった、自分をさらけ出したいという気持ちがこもっているからでしょうか。

LIBRO : エモーショナルな要素は猫ちゃんの影響もありますね。自分のパートナーが野良猫の保護活動を本気でやっていて、1匹実家にあずけてみたら猫ちゃんへの愛がどんどん激しくなってしまって。2年位前からなんですけど。その間に亡くなった猫ちゃんへの悲しい気持ちとか、エモーショナルな成分が詰まっているのがこのアルバムなんです(笑)。

OTOTOYで配信しているLIBROの過去作品

LIBRO 『胎動』1998年

1998年にリリースされたファースト・ミニ・アルバム。ブラジルのジャズ・サンバをサンプリングした90年代日本語ラップ・クラシック“雨降りの月曜”は、トラック・メイカーとしてはもちろん、ラッパーとしてもLIBROの名前を世に知らしめるきっかけとなった。

LIBRO『COMPLETED TUNING』2014年

MC漢、鬼、小林勝行など東西を問わない個性的な12名のラッパー、シンガーを招いたフィーチャリング作となっている。プロデュース作として作られているため、LIBRO自身がラップで参加している曲にも〈feat. LIBRO〉とクレジットされている。2014年にLIBROの自主レーベルAMPED MUSICからリリース。

LIBRO『拓く人』2015年

LIBRO自身が「はじめてのソロ・フル・アルバムのようなもの」と語るように、客演を迎えることが多かった彼がほぼ全曲でマイクを握った渾身のアルバム。これまでの活動を更新するかのように前向きな言葉が並んでいるのが特徴的。

LIBRO × 嶋野百恵『オトアワセ』2015年

『胎動』から現在に至るまで数多くの楽曲で共演してきたヴォーカリスト嶋野百恵と連名でリリースしたアルバム。双方が5曲ずつヴォーカル/ラップで参加している。嶋野百恵の声をカット&ループし、トラックの一部として使用するなど、声に対するアプローチの自由度を感じさせる作品。

PROFILE

 日本のヒップホップ・シーン黎明期から活動をスタート。97年にラップ、トラックメイキング双方を手がけるスタイルでデビュー。98年にリリースしたミニ・アルバム『胎動』は、全く新しい風を吹き込むオリジナリティ性を提示、大きな話題を呼ぶこととなった。2014年5月、当代きっての個性的なラッパーを招いた『COMPLETED TUNING』、そして2015年1月にはBLACK SWANからEP『GEAR』を、同年4月、全編で自身がマイクを握ったソロ・アルバム『拓く人』をリリース。10月には嶋野百恵をゲスト・ヴォーカルに迎えたアルバム『オトアワセ』をリリース。

>>Amped Music オフィシャルブログ

この記事の筆者

[インタヴュー] LIBRO

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