2015/10/19 16:31

美しく、壮大、時にノイジー ーーsoejima takumaデビュー・アルバムをハイレゾ配信

今や日本を代表するテクノ / エレクトロニカ・レーベルであるPROGRESSIVE FOrMから、また新たな才気あふれる人物が現れた。その名もsoejima takuma。彼のデビュー・アルバムとなる今作『Bouquet』は、ピアノやストリングスなどの楽器群と、電子音とが丁寧に計算され尽くした上で混じり合っている。美しく、壮大、そして時にノイジーな1面を見せるこのアルバムには、kilk recordsよりアルバムを発表しているFerri、分解系レコーズよりアルバムを発表しているSmanyに加え、声のみで作り上げるアヴァン・クラシック・ヴォイスという手法を中心に活動する本田ヨシ子、静かな中に秘めた熱くエモーショナルな歌声を持つ女性シンガー・ソングライターKatsuki(香月)も参加。OTOTOYでは今作をハイレゾで配信すると共に、音楽制作へのきっかけ、そして今作がうみだされるまでをインタヴュー。

soejima takuma / Bouquet
【配信形態】
【左】ALAC / FLAC / WAV / AAC(24bit/48kHz)
【右】MP3

【配信価格】
【左】単曲 216円(税込) / まとめ購入 1,800円(税込)
【右】単曲 162円(税込) / まとめ購入 1,500円(税込)

【Track List】
01.Melt Alone / 02.Fallout of Sky / 03.Coelacanth feat. Smany / 04. Catastrophe / 05. A Faint Blue / 06. Outbreak feat. Katsuki / 07.Aire / 08.Rafflesia / 09.Daisy / 10. Anemone feat. Ferri / 11. Allium / 12. Noir Fr feat. Honda Yoshiko / 13.Coelacanth feat. Smany Instrument / 14.Outbreak feat. Katsuki Instrument / 15.Noir Fr feat. Honda Yoshiko Instrument

INTERVIEW : soejima takuma

ドビュッシー、権代敦彦といった近・現代音楽に傾倒しつつ、池田亮司や渋谷慶一郎といったエレクトロニック・ミュージックからも強い影響を受け、緻密に塗り重ねたグリッチ・ノイズやサウンド・コラージュを軸にピアノなどの生楽器を織り交ぜるスタイルを確立する新たな才能soejima takuma。画家の矢野ミチルとの共同展示など多岐な活動を行う本人に、日本を代表する名門電子音楽レーベルPROGRESSIVE FOrMからデビュー・アルバムをリリースするにあたりその音楽感や制作などを語ってもらった。

インタヴュー : 山田渉(キュレーター)

密に繋がり合えば日本のアート・シーン自体がもっと面白くなる

ーープロフィールによれば、17歳から音楽活動を始められたとのことですが、まずはsoejima takumaさんの音楽との関わりのスタートからこれまでの活動についてお聞かせください。

soejima : 僕が17歳だった頃はYouTubeやニコニコ動画がちょうど定着したくらいで、主にそこで音楽を楽しんでいました。最初こそポストロック系のバンドものをばかり漁ってたんですが、次第に関連動画に出てくるエレクトロニカに惹かれてしまって、そちらにシフトしました。丁寧で緻密な音の使い方がよかったんだと思います。だんだん聴くだけじゃ物足りなくなって、自分でも作ろうと思い、ノート・パソコンにフリーの打ち込みソフトをインストールして、音楽の簡単な理論書片手にマウスで打ち込んでいました。最初は楽譜も読めなかったので、まずは読み方から勉強して、より理解を深めるためにピアノを始めようかと思ったのですが、当時はピアノを買うお金もなくてタンスに鉛筆で鍵盤を描いて、それで練習してましたね…(笑)。

Coelacanth feat. Smany MVより

ーーかなり苦労されたようですね(笑)。それにしてもいきなり理論書を片手にというのに驚きます。何か「理論を学ばねば」と思ったきっかけなどはあるのでしょうか。

soejima : これは思い込みといいますか、僕にとって作曲という行為は感覚的というよりはむしろ数学的な領域にあるという意識が常にありました。なので、理論を知らなければ作曲はできないという強迫観念といいますか…。実際、音律を発見したのはピタゴラスですし、ギリシャ・ローマ時代には音楽は数学的な分野として扱われていたみたいなので強ち間違いではなかったんですが、実際に音楽シーンと携わってみて、ガッチガチに理論的なアプローチで制作してるのは大抵が西洋芸術音楽に携わっているような人たちだけで、その他の世界では感覚的に作曲する方が圧倒的でした。これはカルチャー・ショックと言いますか、衝撃でしたね。これ以降僕自身の制作のアプローチに即興要素やノイズ要素が随分増えて、今のスタイルに辿り着いたように思います。

ーー音楽の本質的な側面を察していたというのは慧眼ですね。理論書を読む以外だと、作曲を学ぶにあたって参考にした、あるいは影響を受けた作家や作品はあるでしょうか。

soejima : 現代音楽の話になってしまうのですが、ミニマル・ミュージックにストーリー性を織り込むという意味で影響を受けたのは圧倒的に権代敦彦やジョン・ルーサー・アダムスです。後は武満徹、グヴァイドゥーリナあたりですね。現代音楽はすごく好きなんですが、完全に不協和音で固めた、いわゆる無調音楽は最初聴いたときの感動とは裏腹に中毒性があまりなかったりしてそこまで好きではないんです、好みの問題というか単純に耳に残りにくいので…。今、例に挙げた作曲家は不協和音、協和音にあまり頓着のないので個性を読み取りやすく、それでいて先進的かつ聴きやすさが両立されてますね。エレクトロニカ・音響系のアーティストだと高木正勝さんや坂本龍一さん、池田亮司さん、world's end girlfriendさんあたりの影響はかなり受けてると思います。理由はさっき挙げた現代音楽家の方々と全く同じです。もちろんフィールド自体が違うので不協和音と協和音の比率は全然違いますが、個人的な印象として何かすごく近いものを感じます。

ーーなるほど。確かに、不協和音と協和音はsoejimaさんの楽曲でも魅力的なバランスで掛け合わされていますね。堅実な音の展開にノイズなどが巧妙に組み合わされているところも共通する部分かも知れませんね。それでは、次に今回のアルバムのことについてお聞かせください。他のアーティストのフィーチャリングやヴォーカリストの参加、また自身の展覧会への出展など、共同で制作される作品も多いようですが、その辺りは意識されてのことでしょうか。

soejima : そうですね、昔からかなり意識的に共同制作は行っています。ただ、今回制作したアルバム『Bouquet』についてはレーベルのPROGRESSIVE FOrMからアルバム全体がある程度見えた時点でヴォーカル曲を作ってみたらという提案がありまして、以前共同で制作したSmanyさんや香月、一緒に制作したいと思っていたFerriさん、本田ヨシ子さんに歌詞やメロディを丸投げする形でお願いしました。もともとはインスト用に書いていた曲を少しだけヴォーカル用に書きかえて送ったので、Aメロ、Bメロ、サビみたいな流れが一切なく、相当やりにくかったんじゃないかなと…(笑)。その後仕上がった歌に対してもう1度オケを加筆修正するような形で作品が仕上がりました。共同制作はいい意味で想定できないレスポンスが多くあるので、制作の視野がかなり広がりますね。

ーーもう1点、アルバム全体のことについてお聞きかせ下さい。アルバムのタイトルが「花束」となっていますが、いくつかの曲を花に例えられているように、色や形、情景のような視覚的なイメージを強く喚起される作品だと感じました。実際のところ、作曲においてはそうした部分からインスピレーションを得られることが多いのでしょうか。

soejima : はい、17歳から20歳くらいまでは音楽関係の知り合いがおらず、ほとんどが美術関係だったこともあり、活動の場がギャラリーや友人の作る自主制作映画、映像の音楽に限られてました。なので、視覚的なイメージから音を喚起していくことが圧倒的に多かったと思います。時間をキャンパスに例えると音は色みたいな感覚で制作していました。よく劇伴作家が映画の音楽を書く際に「映像が本来持っている音を引き出すのが映画音楽家の仕事」みたいなことを言ってますが実際そうだと思いますし、ライヴや個人の制作が多くなった今でも頭にあるぼんやりとした視覚的なイメージを呼び起こすように制作しています。モチーフとしては花が多いんですが、別に動物でも何でもいいです(笑)。最近は自分でも写真を撮るようにして、なるべく音楽と視覚的なイメージのリンクを崩さないように意識していますね。ちなみに今回の収録曲にも友人の映画の為に書いた等の楽曲をアレンジし直して作品として独立させたものが数曲ありますので、そういった意味でも視覚的な要素を喚起しやすかったかもしれません。

ーー周りの環境によってご自身のセンスが育まれていったということですね。先の質問のお答えにもありましたが、音楽を始められたきっかけは、ネットのランダム・アクセス的な部分となっていますよね。ネットでの意図しない出会いというのもそうですが、人間関係を含めた周りの環境を柔軟に取り込まれていつつ、一方で理論や音楽史を重視している部分が面白いと思いました。そのように考えるに至ったのには、何か経緯があるのでしょうか。

soejima : 意図的ではないのですが、特定の分野に依拠しなかったおかげで環境にはかなり恵まれていたと思います。ポップ・カルチャー、サブ・カルチャー、ハイ・カルチャーのそれぞれの考え方や制作への取り組み方って全く違っていて、共感できる部分が各々沢山あります。例えば今のポップ・カルチャー、サブ・カルチャーは大なり小なりその時代の時代性、娯楽性を強く反映してると思うんですけど、ハイ・カルチャーの分野ではそういったものは100年以上前にとっくに終わっていて、それ以降、哲学的だったり理論的だったりちょっと難しい領域に踏み込んじゃってるんですよね。でもこれってアーティストがアイデンティティを求めてる点では両者とも一緒なのに思考経路が全然違うので互いに若干敬遠しあってるんですよ。もっとこういう人たちが密に繋がり合えば日本のアート・シーン自体がもっと面白くなると思いますし、僕にもその架け橋的な役割ができたらなとは昔から思っていました。

Coelacanth feat. Smany MVより

ーー折衷的な作風や幅広い活動からもそうした姿勢が伺えますね。先のお答えにもありましたが、今回のアルバムでは映画の劇伴などの音楽シーン以外で制作のされた曲は収録されているでしょうか。

soejima : 提供した楽曲だと劇伴ではMelt Alone、Coelacanth feat. Smany、Daisyの3曲で、Noir Fr feat. Honda Yoshikoのみファッションショー向けの作品です。ちなみに4曲ともヴォーカルもしくはボイスサンプリング曲で、Melt Alone以外はアルバム収録に当たって、楽曲の独立性を高める為に、相当数加筆と修正をしてあります。映画やショーから楽曲が離れたときに作品のイメージを僕の中である程度組み替える必要があったので、アルバム全体の中の1曲という位置づけを意識して編曲しています。Melt Aloneのみ特別思い入れの強い作品でもあったのでほとんどそのままの状態で収録してありますが…(笑)。その他の曲についても同様に12曲というアルバム単位で作品を考えたときに楽曲1つ1sつがどのように聴こえるかを精査しながら書きおろしました。

ーーありがとうございます。最後に、今後のご活動や展望についてお聞かせください。

soejima : 出来るかぎり特定の分野に捉われず、あらゆる人と仕事ができればと思っています。誰かと関わることで新しい何かを見つけたり、また僕が誰かの新しい何かの発見に繋がればすごく嬉しいですね。

PROGRESSIVE FOrM過去作品

yuichi NAGAO / Phantasmagoria(24bit/48kHz)

疾走感溢れるアップテンポなダンスナンバーから心地よいダウン~ミッドテンポのバラードナンバーまで、縦横無尽に駆け巡るサウンドを展開する驚異的なまでのポテンシャルを秘めた新たなエレクトロニック・ミュージックの才能・yuichi NAGAOによる秀逸デビュー・アルバム!菊地成孔に音楽理論の師事を受けたという素養をベースに、作曲における様々な要素やコンセプトを見事に昇華させた世界観は非常にバランスが良く洗練され、ポジティブな力強さと同時に温かい優しさにも満ちている。巡り変わる幻想風景を旅するようなイメージをキーワードにしたアルバムタイトルである『Phantasmagoria(ファンタスマゴリア)』を軸に、全編高密度な音世界が紡ぎ出された作品に仕上がった。

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Geskia / SFIMT(24bit/96kHz)

flau、術ノ穴などからのリリースでも知られる希代のトラック・メイカーGeskiaの通算7枚目となるアルバム『SFIMT』! 本作の特徴は何と言っても収録全10曲にちりばめられたヴォーカルやボイスの存在。その意味ではGeskia初のヴォーカル・アプローチなアルバムとも言える。フィールド・レコーディングを始めとした多種多様なヴォイス素材の声や歌のフレーズを分解し、ピッチを様々にいじったものを再構築してオート・チューンで歌わせるという手法を取っており、男性らしく聴こえる声も元は女性の声だったり、その逆もあり、楽曲を構成する楽器の一部として声に性別としての役割はもたせてはいないが、そこには強烈な存在感と魅惑的なメロディー・ラインが奏でられている。

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Tetsuya Hikita+NIL / Ferry(24bit/96kHz)

ソロとしてはそれぞれ00年代後半より活動を開始、2012年にユニットとなり同年12月にリリースより約2年、疋田哲也+NILによる待望の2ndフル・アルバムが完成。Electronica、IDM、Techno、Dub、Ambientなど1つのジャンルでは収まらないほどの様々な要素が鏤められた彼等従来のサウンドの良さはそのままに、心の琴線に触れる叙情的なメロディーやコード、大地と大空を駆け巡る情景的なストリングスやシンセサイザー、また聴き手の耳を離さないスムースなリズムと構成力などをはじめ、楽曲としての精度の飛躍とともにその魅力が存分に凝縮されつつ、そこに作品としての一貫性も加わり、非常に魅力的なアルバムに仕上がった。

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PROFILE

soejima takuma

1990年生まれ。福岡県出身。17歳より作曲活動を開始。 活動を続けていくにつれフォーレやドビュッシー、グバイドゥーリナ、権代敦彦といった近・現代音楽に傾倒するよう になり、自身の創作でも和声的なアプローチやミニマル性、アート性を強く意識するようになる。同時に池田亮司 や渋谷慶一郎といった非楽音的なノイズ・ミューシャンからも強い影響を受け、緻密に塗り重ねたグリッチ・ノイズや サウンド・コラージュを軸にピアノなどの生楽器を織り交ぜるスタイルを確立。近年ではBunkai-Kei recordsより2014 年9月にリリースされたsmanyの2ndアルバムにピアニストとして参加、翌月にはMercedes-Benz Fashion Week TOKYOへの楽曲提供、2015年5月には画家の矢野ミチルとの共同展示など活動は多岐に渡る。

soejima takuma Twitter
soejima takuma SoundCloud

PROGRESSIVE FOrM

2000年に設立以来、日本における様々な、新しいエレクトロニック・サウンドをサポートし、海外との繋がりを絶えまなく継続、推進し続け、いまや日本を代表するインディペンデント・レコード・レーベル。

PROGRESSIVE FOrM HP

[レヴュー] とけた電球

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