2014/11/28 21:54

どこまでも洗練された”雑多”ーーブルックリンのインディー・ロック・シーン立役者、TV On The Radio3年半振りのアルバム

TV On The Radio

TV On The Radioは2001年にニューヨーク・ブルックリンにて結成された4人組。2006年にはSPIN誌のアーティスト・オブ・ザ・イヤー受賞。2008年にリリースした『Dear Science』が同じくSPIN誌にて年間ベスト・アルバム賞を受賞。デヴィッド・ボウイ、ナイン・インチ・ネイルズ、マッシヴ・アタック、ザ・ルーツなどさまざまなミュージシャン達から支持されるなど、2000年代以降のUSインディー・ロックの一連の流れを生み出したと言っても過言ではない彼らが、3年半振りにアルバムをリリース。2011年の『Nine Type of Light』リリース直後にバンドのベースとキーボードを担当していたジェラード・スミスが肺がんで亡くなるというバンド存続の危機を乗り越えて生み出された今作は、今までよりも更に強靭に音への探究心が1曲1曲に閉じ込められた1枚となっている。

TV On The Radio / Seeds
【配信形態】
/ alac / flac / wav(16bit/44.1kHz) / mp3 : 単曲 205円 アルバム価格 1543円

【Track List】
01. Quartz
02. Careful You
03. Could You
04. Happy Idiot
05. Test Pilot
06. Love Stained
07. Ride
08. Right Now
09. Winter
10. Lazerray
11. Trouble
12. Seeds

スマートかつ、クレバーに、さまざまなジャンルへの愛と探求心


雑多な人種が混じり合い、常に新しいカルチャーを生み出しているNYのブルックリンのインディー・ロック・シーンの先人として、刺激的な音楽を生み出して来たTV On The Radio。レコードショップに行くとさまざまな音楽がジャンルに分けられて陳列されているが、今作『Seeds』を聴いたとき、自分ならどこに置くのが正解なのかと考えてしまった。ロック? ニューウェーブ? ソウル? エレクトロ? 黒人音楽への理解と白人音楽の理解度の高さが生み出す音像はアーティスティックではあるものの、リスナーの耳を置いていかない絶妙なキャッチーさ。雑多な音楽性を持つバンドは数々居るが、ここまでスマートかつ、クレバーに、さまざまなジャンルへの愛と探求心を持って音を鳴らせるバンドは多くない。

そんな今作の1曲目を再生するとまず聴こえてくるのはハンドクラップとゴスペルのようなコーラスだ。そこに乗るベースラインとグロッケンの音。徐々にギターのフィードバックが聴こえてくると曲はいつの間にか浮遊感を帯びたトラックへと変化をしている。1曲目から曲の持つ振り幅に持っていかれると、2曲目にはダブステップ調のトラックにソウルフルな歌声と女性コーラスが乗った曲が続いていく。3曲目にはローファイなインディー・ロック・ナンバーと思いきや途中からブラスロックなアレンジが挟まれたりと冒頭3曲から既にこのバンドの懐の深さが伺い知れる。そんななかで逆に強烈なインパクトを持つのが11曲目の「Lazerray」。シンプルなガレージ調のロックン・ロール・ナンバーが最高に気持ち良い。バックでコーラスを取るケリスの歌声も良いアクセントになっている。

彼らは、雑多な音楽性を取り込むことで失われてしまうまとまりの無さという壁をスルッと乗り越えることの出来る希有なバンドだ。一聴して分かる音の足し算、引き算、その一音一音が計算されたサウンドの肝は、バンドの中心人物であるデヴィッド・シーテック(Pro, G)のプロデュース力の高さだろう。彼のプロデューサーとしての能力の高さは、NME誌の「未来を担う音楽人TOP50人」に1位(!)として選ばれていることや、女優スカーレット・ヨハンソンやBeady Eyeなどの多数の有名アーティストのプロデュース作品からも伺い知ることが出来る。そんな数々のアーティストのプロデュースを経た彼の経験がこのアルバムに厚みを出していると言える。常にフレッシュなバンドが現れるブルックリンのシーンで彼らは既にベテランだが、まだまだ前へと進む姿勢が現れた1枚。是非一聴してもらいたい。(text by 高木理太)

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Kelis / Foods

【最近のDavid Sitek Prouduce Works1】今年のFujirockのWhite Stageでのライヴも記憶に新しい、R&Bシンガー・ソング・ライターであるケリス。今回のTVOTRのアルバムでもコーラスで参加。70年代ソウルやファンクの匂いのするホーンやオルガンの中にちらりと顔を出す現代風のアレンジ。後はなんと言っても、彼女のハスキーで艶かしい歌声が最高にクール。

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【最近のDavid Sitek Prouduce Works2】2009年結成のハードコア・パンク・バンドである彼ら。TVOTRと同じくブルックリン出身の黒人白人混成バンド。2011年にはSummer Sonicにて来日も果たしている。今作はストロークスのギタリストであるジュリアン・カサブランカスが見惚れ、自身のレーベルからのリリースという経緯もあり、世界的な注目度が更に高まった。前作のオールド・スクールなハードコアから新たなハードコアの形を示そうとしている1枚。12曲26分で吐き捨てるように繰り出される曲達は痛快極まりない。

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【最近のDavid Sitek Prouduce Works3】ブラジル・サンパウロ出身の4人組ガールズ・ディスコ・パンク・バンドCSSの2013年作。ダークな世界観のエレクトロ・トラックと少し気だるいボーカル。2曲目の「Hang Over」のエレクトロ・リゾート・ミュージックな仕上がりが最高にカッコいいです(ちなみにこの曲の共同作曲者はランシドのティム・アームストロング!!)

PROFILE

TV On The Radio

米ニューヨークはブルックリンを拠点に活動するデイヴィッド・シーテック(Pro、G)、トゥンデ・アデビンペ(Vo)、キップ・マローン(Vo、G)、ジャリール・バントン(Dr)、ジェラード・スミス(B、Key)で結成した5人組ロック・バンド。2011年、ベーシスト、ジェラルド・スミスが肺がんにより死去、その後休止期間を経て活動を再開。大絶賛を受けた2ndアルバム『リターン・トゥ・クッキー・マウンテン』はPitchforkで9.1点を獲得(年間ベスト第2位)し、SPIN誌ではその年の年間ベストアルバムに選出される。3rdアルバム『ディア・サイエンス』はPitchforkで9.2点、08年のRolling Stone誌、SPIN誌、ザ・ガーディアンでも年間ベストに選ばれる。05年Summersonicにて初来日を果たし、翌06年には恵比寿Liquidroomにて単独公演を行っている。

[レヴュー] TV On The Radio

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