kilk records 秋の新作ラッシューーFerriとAUDIO BOXINGの同時リリースから読み解く現在のkilk recordsとは?

「精神に溶け込む、人生を変えてしまうほどの音楽との出会い」をテーマに、2010年、Aureoleの森大地により設立されたレーベル、kilk records。2013年5月にはさいたま市の宮原にライブスペース「ヒソミネ」をオープンさせ、2.5Dとのコラボレーション番組を定期的に行なうなど、音楽にまつわるカルチャー全般に対し積極的にアクションを起こしつづけている。そんなkilk recordsが、豊穣な新作をリリースするタイミングにきている。そこで本特集では、秋の収穫といわんばかりに、11月5日に同時リリースされる、Ferriの2ndアルバム『∞(インフィニティー)』とAUDIO BOXINGの1stアルバム『Tried and True』を中心に、Aureole、コッテルの作品をライターの田山雄士の独自取材とともに切り取っていく。もちろん、FerriとAUDIO BOXINGの作品は、ハイレゾにてフラゲ配信スタート!! それでなく、各1曲ずつフリー・ダウンロードも行なっちゃいます。ポスト・ロックやエレクトロニカ、ダブステップの先へ。常に進化を求めるkilk recordsの現在にぜひ触れてみてください。
>>Ferri「subliminal affirmation(24bit/48kHz)」のフリー・ダウンロードはこちら
>>AUDIO BOXING「You’ll Remember It (feat.Tujiko Noriko)(24bit/48kHz)」のフリー・ダウンロードはこちら
kilk records、秋の新作を2作同時リリース
Ferri / ∞(インフィニティー)
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) : 単曲 200円(税込) / まとめ価格 2,000円(税込)
mp3 : 単曲 150円(税込) / まとめ価格 1,500円(税込)
【収録曲】
1. ash / 2. sacrifice / 3. starry
4. lost sanctuary / 5. subliminal affirmation
6. rusty chandelier / 7. butterfly illumination
8. torn / 9. eternal return
10. forepassed / 11. we are all in unison
>>>soundcloudにてフル試聴実施中
AUDIO BOXING / Tried and True
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) : 単曲 200円(税込) / まとめ価格 1,500円(税込)
mp3 : 単曲 150円(税込) / まとめ価格 1,200円(税込)
【収録曲】
1. You’ll Remember It (feat.Tujiko Noriko)
2. Boxing Fight
3. Growl (feat. Ferri)
4. Aggressor
5. Bubble (feat. コッテル)
6. Demonic
7. Squeeze
8. Ghost Sign(feat.üka)
>>>soundcloudにてフル試聴実施中
エレクトロニカ、ダブステップの先へ進むkilk recordsの現在とは?
立ち上げ時より個性的なアーティストを次々に輩出するほか、ライヴハウスのヒソミネを開業するなど独自の路線を切り拓いているkilk records。ここでは、この気鋭レーベルのホットな最新情報をまとめてチェックしておきたい。
新たなフェーズに突入したAureole
まずは、kilk records主宰の森大地が率いるAureole。9月に突如フリー・ダウンロードでリリースされたEP「Ghostly Me / The House Of Wafers」(※現在もダウンロード可)には度肝を抜かれたリスナーも多かったのではないだろうか。
「Ghostly Me」はパーカッシヴかつ攻めたビートに乗せて疾走するアッパー・チューンで、鋭角的なギター・リフ、英語と日本語の中間を行くようなウィスパー・ボイスなどの個性が散らかることなくシャープにまとまっている。「The House Of Wafers」も鍵盤とヴィブラフォンによる切ないメロディのイントロから蠢くベース・ラインへの転換、そのクールな展開を生かした終末観に圧倒された。いずれの楽曲にも言えるのは、ミニマルの快感を追求していること、そして上記の魅力すべてを集束させて肉薄するダイナミズムがとんでもなく骨太になっていることだ。もはやポスト・ロックやエレクトロニカで括れるわけもない。ここに来て、Aureoleはそんな新たなフェーズへ入ったのだと思う。
“中東サイバー萌え萌えファイター”へ覚醒したコッテル(köttur)
覚醒したアーティストといえば、千代によるソロ・プロジェクトのコッテル。つい1年前まではkötturとして、どちらかと言うとダークで内向的な世界観を表現していた彼女が、別人みたいな“中東サイバー萌え萌えファイター”へと大変身を遂げ、新たなビジュアルとサウンドを披露したときは本当に驚いた。
しかしながら、もともと彼女が持ち合わせていた積極性とジャンルレスなスタイルを尊重すれば、この変化は納得できるし、前作『トマト帽のベレー』までで見られたグライム、エスニックの要素もじつはしっかりと残っている。苦手を克服するかのようにラップや明るく外向きなアプローチに奮闘するさまは不思議な萌えポイントとなっており、そこにオーガニックな歌声とチープ風な作り込まれたトラックが重なればもう病み付き! そんなタワーレコード渋谷店限定シングル「灼熱ファイターガール」が10月に発売されているので、まだの方はお店にゴーして、ポップさを全面に押し出した最新型コッテルに触れてほしい(※OTOTOYでも配信予定!!)。
本能的な怒りとともに大きなスケール感を描くFerri
そして、kilk recordsの秋のリリースで特に注目なのがFerriとAUDIO BOXINGの新譜だ。2011年に『a broken carousel』でデビューを果たしたFerriの約3年ぶりとなるセカンド・アルバム『∞(インフィニティー)』がついに完成! 前作とは比べものにならないほどスケールの大きい仕上がりとなったのは、彼女自身がやりたいことを徹底的にやり切った証だろう。森大地(Aureole)、KASHIWA Daisuke、cellzcellar、Yamato Kasai(Mili)、Takahiro Kido、AJYSYTZ、Yuki Murata、ükaら数多くのアーティストとコラボしていても、歌とアレンジにブレはない。
前作は全曲を森さんにプロデュースしてもらって安心だったんですけど、今回はイニシアチヴを取るのが私だったので、不安も大きかったです。お願いしたアーティストはそれぞれ個性があってすばらしい皆様ばかりですが、一方でアルバムとしてまとまらないのではないかと。そんな中、ミックス、マスタリングの多くをcellzcellar氏にお願いしたのがいい結果につながったと思います。氏とはイメージする風景も近く、音楽に関して師のような存在でいろいろ相談してたのもあり、私の描くアルバム像を理解していただいてたのが大きな助けでした。何より最初に悩みを打ち明けたとき、「その中の芯となるのがFerriさんの歌だから」と言ってもらえたことが勇気になって、歌に集中できました。(Ferri)
Ferriもやはり挑戦している。彼女の場合は持ち前の妄想思考を敢えて極限まで膨らませ、楽曲に落とし込むことで、結果的に新しい価値観を提示してみせた。
イメージした映像は『ファイナルファンタジーXIII-2』なんです。音楽というよりゲーム中の一瞬一瞬の映像が曲とリンクしてて、“この曲はこのシーン!”みたいな感じで作りました。MiliのYamatoさんには画像を添付して「この主人公でこの世界!」とお伝えしたら、すぐに「わかった!」ってご理解いただいて(笑)。森さんには「足下から地面が崩れる瞬間の音」なんて曖昧なことを言ったり、KASHIWA Daisukeさんはアルバムの中でスパイスとなる確信があったので、逆に何もリクエストをしなかったり。今回のテーマになってる“世界の終焉を見届ける双子の姉妹の物語”も『FF13-2』から来てます。ゲームはまた少し違う設定なのですが、どんどん“自分だったら”っていう妄想が膨らんでいきました。(Ferri)
また、出産を経験したことも本作に大きな影響を与えているという。
出産は私の人生を大きく変えました。子供ができて、守るべきものができて、世界に対して怒りや不安を感じることも増えましたね。その意味で、音楽には攻撃性が増した気がします。本能的な怒りというか。ですが、曲1つ1つは怒りを取り込みつつも、曲の主人公になり切って、空想での世界の終わりをどう見届けるか。そう目線を変えて作るように努力しました。“なぜ、この世界が終わりを迎えたのか”は聴いてくださる方がそれぞれの主人公になって考えていただければと思います。一方で「forepassed」「we are all in unison」はとてもポジティヴに人生を捉えてて、世界は生死で繰り返すという漠然とした尊さと哀しみを込めたこの2曲でアルバムを完結させることにしました。「we are all in unison」は木戸さんに「息子の産声をどうしても入れてほしい」とお願いしたんです。(Ferri)

こうした確固たる世界観を持っている彼女もまた、ジャンルに縛られた印象はない。何か今作で指向したサウンドなどはあったか聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
正直ないです(苦笑)。私が好むのはやはり映像的であることでしょうか。わかりやすく言えば、「モルダウ」みたいな。“ああ、この瞬間は川はきっと清く細い流れで、ここからは少し水かさが増して、ここからは流れが速くなって”。そんな画を思わせてくれる曲が好きなんです。なので、私の中ではすべての曲にMVのような映像ができてるんですよね。(Ferri)
枠組みを気にせず、一線を越えていくFerriは、やはりkilk recordsにふさわしいアーティストなのだと今作であらためて感じられた。
森さんは本当に私の想像の遥か先を行ってるので、もう追いつくのに必死で! 常に新しいことにチャレンジしてますから。私個人としては、自身の世界観をしっかりと表現できるアーティストでありたいですね。でも、変化は恐れないでいたい。たとえば、今と来年の私は違うかもしれないけど、それがまた新しい自分の音楽を生み出すんだと思って、その変化を楽しめる強さが欲しいです。(Ferri)
AUDIO BOXINGが作り上げたブロステップ × EDM ÷ ロック
さて、もう1つの注目盤はAUDIO BOXINGの『Tried and True』。2014年1月にkilk recordsよりデビューEPを限定リリースし、本作が満を持してのファースト・アルバムだ。ツイン・ドラム、ベース&エレクトロニクスからなる3ピース・バンドである彼らはグルーヴの繰り出し方がじつに野心的! いったい、どんなことを意識して楽曲を紡いでいるのだろうか。メンバーのSu+3が答えてくれた。
自分たちのサウンドはダブステップというよりブロステップに近いと思うんですけど、ブロステップのハードさ、EDMの繊細さを残しつつ、あくまでもクラブ・ミュージックではなく、ロック・バンドとして再現することに集中してます。あと、2つのドラムはそれぞれ別のフレーズを叩いてるのですが、その2つが合わさって1つのリズムに聞こえるようにリズムを作ってて、独特なグルーヴを出す点にもこだわってます。(Su+3)
そんな独自のグルーヴとともに印象的なのは、激しく歪ませつつもブライトに弾けた音色。そこからはラウド・ミュージックやハードコアの狂気を感じたりもする。
もともとハードコアをやってたので、ラウドなものは大好きなんです! 個人的にはAUDIO BOXING流のメタルをやってるつもり。あまりメンバーには言ってませんけど(笑)。一見、ダンス〜クラブ・ミュージック寄りな音ですが、キックやローを抑えて、ロック・バンドのミックスにしてます。(Su+3)

基本はインストゥルメンタルのAUDIO BOXINGだが、『Tried and True』では8曲中4曲にゲスト・ヴォーカルを迎えている。デビューEP同様に、Tujiko Noriko。そして、kilk recordsからは先述のコッテル、Ferri、ükaが参加している。Ferriのアルバムもそうであるように、こうしてレーベルメイトがフットワーク軽くコラボするのもkilkらしい。
女性ヴォーカリストをフィーチャーしてる理由は特にないですけど、今回のアルバムに収録されてる曲は女性の声が合うと思ったんですよ。歌い方にはまったく注文はしませんでしたが、英語で歌ってもらうことと暗めの歌詞ということはお願いして、基本的に自由にやってもらいました。Tujiko Norikoさんにはヴォーカルを先に作ってもらって、そこから曲にしたんです。Tujikoさんの作品にはないハードな感じをイメージしました。Ferriさん、ükaさん、コッテルちゃんのは完成した曲にヴォーカルを付けてもらうやり方。どれも想像以上なものに変化して楽しかったですね。(Su+3)
ちなみに、ヴォーカル参加した「Growl」についてFerriに聞いてみると、「すごくかっこいい曲で、メロディ・ラインも私が今まで作ったこともない感じでとても面白かったです! Ferriではないような歌い方を意識してて、Eminemの「Stan」みたいな映像を想像して歌いました(笑)」という答えが。どんな化学反応が生まれているのかは、実際に聴いて確かめてみてほしい。
どれもBPM早めのイケイケな曲ばかりなので、ノリノリで聴いてください(笑)。難しい展開や構成はないです! もし大きいスピーカーがあれば、左右ちょっと離してみるのをおすすめします。LとRがそれぞれ別のドラム・フレーズを叩いてるから、さらに楽しく体感できますよ。いろいろ言いましたが、ジャンルとか関係なしで何も考えずにどうぞ! リリースまでに2年くらいかかった分、妥協のない最高なものが完成したと思います。(Su+3)
ポスト・ロック、エレクトロニカ、ダブステップ etc… その先を目指すkilk records。レーベルのそうした飽くなき挑戦意欲に、AUDIO BOXINGもまた共鳴していくバンドになりそうだ。
常に新しいことに挑戦してるのは尊敬してますし、ウチらのようなローカルで知名度のないバンドをリリースするチャレンジャー精神も好きです。自分らは地方にいるので、そういう音楽シーンについてはあまりわかりませんが、どんなシーンでも活動できるバンドになりたい。オリジナリティには絶対の自信があるから、そこは押していきたいですね。(Su+3)
取材 & 文 : 田山雄士
kilk recordsの連続企画「kilk records session」公開中!
kilk records session vol.1 森大地(kilk records)×虎岩正樹(残響塾)「新しいアーティストの考え方」
kilk records session vol.2 森大地(kilk records)×木戸崇博(Ricco Label)「新しいレーベルの考え方」
kilk records session vol.3 森大地(kilk records)×竹中直純(OTOTOY代表取締役)「新しいメディアの考え方」
kilk records session vol.4 森大地(kilk records)×海保けんたろー(SONALIOドラマー、ワールドスケープ代表取締役)「新しいアーティスト・マネジメント」
kilk records session vol.5 森大地(kilk records)×出川光(CAMPFIRE)「新しいプロモーションの考え方」
kilk records session vol.6 森大地(kilk records)×劔樹人(神聖かまってちゃん、撃鉄マネージャー、あらかじめ決められた恋人たちへ)「新しいマネージメントの考え方」
kilk records session vol.7 森大地(kilk records)×永田純(音楽エージェント / プロデューサー)「新しい人と人の繋ぎ方」
kilk records session vol.8 森大地(kilk records)×高野修平(コミュニケーション・プランナー / サブ・マネージャー)「世の中の動かし方」
kilk records session vol.9 森大地(kilk records)×比留間太一(「2.5D」ディレクター)「日本のポップ・カルチャーをここから世界へ」
RECOMMEND
KASHIWA Daisuke / 9 Songs
グリッジ・ビートと耽美な音使いを自在に行き来した、エレクトロニカを提供しているKASHIWA Daisuke。自身の創作活動はもちろん、作家、リミキサー、マスタリング・エンジニアとしても活動し、2013年にはアニメーション映画への音楽提供を果たした。多方面で飛躍的に活動する彼が、このたび『9 songs』をリリース。明治、花王のCM等に楽曲を提供しているヴォーカリスト、pianaを大々的にフィーチャリングした本作。その中身は、柔らかくも透明感溢れる歌声とエッジの立ったリズム・セクションが絶妙にグルーヴした、まさに彼的な“歌モノへの新たな挑戦”が垣間見えるサウンドとなっている。
Tyme. X Tujiko / GYU(24bit/48kHz)
アルバムごとに進化していく、フランス在住の女性音響 / エクスペリメンタル・ポップ・ミュージシャン、ツジコ・ノリコのオリジナルな歌世界にヤマダタツヤ aka Tyme.(MAS)の緻密で豪快なビート感が注ぎ込まれた圧倒的アルバムが完成。Tyme.の不可思議な派手さのあるトラックと、Tujiko Norikoのいつになくポップなメロディが重なり合った、暗くも明るい、踊りながらの年末/年始ムード。「階段から転げ落ちる」ツジコと「ハートをギュンギュンいわせる」Tyme. の強力なコンビネーションにカラダが動き、ハートが “ギュー”となってしまう。
cellzcellar / circus from a bygone era(24bit/48kHz)
こんなとんでもないアーティストがここ日本にいたことを多くの人はまだ知らない。耳の早いリスナーを中心に、かねてより噂になっていた音の魔術師『セルズセラー』がついにその姿をあらわす!まるで御伽の国に迷い込んだかのような不思議な音世界。あまりに素晴らしい圧倒的なデビュー作の登場です。
PROFILE
Ferri
福岡出身、東京在住の女性音楽家。 幼少よりバレエ音楽に親しみ、大学は音楽と舞踊のさらなる飛躍のために単身渡米。6年間LA、NYで声楽、舞踊を学ぶ。帰国後、歌唱活動をはじめ音楽制作をスタート。音楽とは「総合芸術である」と言う持論のもと、映像、舞踊を組み込みながらその世界観を楽曲へと投影する独自のスタイルをベースとしている。 多くの作品へのゲスト参加や他のアーティストとのコラボレーションも行っていて、ソロ活動にとどまらない広い活動を展開。 2012年、kilk recordsより『a broken carousel』をリリース。低音からファルセットまで自在に操る歌唱力と、女神のようだと称される。歌声、そして森大地のプロデュースによる刺激的かつ儚い美しさのある楽曲は国内外問わず、多くの評価を得ている。 新作『∞』では森大地、KASHIWA daisuke、cellzcellar、MiliのYamato Kasai、Takahiro Kido、AJYSYTZなどとコラボレーションし、攻撃的でありながらも透明感のある美しい楽曲がFerriの新たな世界を作り上げている。
AUDIO BOXING
2011年、SU:(術ノ穴)のメンバーである su+3のソロプロジェクトとしてスタート、後にJUZO(Libra)、戸谷(mississippiroid)が加入し、2012年ツイン・ドラム、ベース&エレクトロニクスのバンドとして再スタートする。 ダブステップをベースに二つの異なったリズムから生まれる独特なグルーヴ、独自の解釈でダンス・ミュージックを表現する、ダブステップ・トリオ。 2014年1月にkilk recordsよりTujiko NorikoをフィーチャーしたEPを限定リリース。 2014年11月1stアルバムのリリース。