INTERVIEW : LD&K(菅原隆文、神山英治)
ここ数年、新人発掘オーディションが盛んだ。その内容は、「閃光ライオット」や「RO69JACK」のような大型イベントと連動したものから、ライヴハウス規模でのもの、伝統あるもの、最近はじまったものまで、大小新旧さまざまである。その成長をともにし夢を観ていくことができるという点で、オーディションで選ばれて、レーベルなりマネージメントをみつけるというのは、アーティストにとっても望ましいことである。一方で、360°ビジネスといわれるような、音源販売以外のグッズ制作や、ライヴ制作なども担うというビジネス的な側面も持っているゆえに、アーティストは、どれだけ信頼できるパートナーとともに夢を観ていけるか、ということが重要になってくる。つまり、そのオーディションがどんなオーディションなのかというのは、その後の活動において非常に重要なものなのである。
2014年からスタートした「宇田川コーリング」は、ガガガSP、かりゆし58、ストレイテナーなどを輩出してきたレーベル、〈LD&K〉主催の新人発掘オーディションである。デモテープ選考を経たアーティストたちが、渋谷CHELSEA HOTELでオーディション・ライヴを行い、上位3組が発表される、というシステムで、すでに3~6月までの各月に4回行なわれてきた。筆者は6月のライヴに足を運んだのだが、芸人が司会を務め、各アーティストがライヴを行い、審査員がコメントを残すという形で、ショーとしても楽しめるよう練られていた。特に印象的だったのが、そこで優勝したバンドたちがストレートに喜びを爆発させていたことだ。これはパフォーマンスの場だけでなく、真剣勝負の場でもある。それがリアルに伝わってきた。
そして、9月10日、4ヶ月の間に選ばれた12組の音源を収録したコンピレーションがリリースされる。そのなかから選ばれた最優秀アーティストは、〈LD&K〉からのデビューを約束されている。最優秀アーティストはまだ選ばれていないが、果たしてどのアーティストが選ばれ、どのように世の中に出ていくのか。その過程を見せてほしいと〈宇田川コーリング〉主催者にオファーしたところ快く受け入れてくれた。また、なぜこのタイミングでオーディションをすることにしたのか、そしてどんなアーティストを探していて、どうしていきたいのか、といったアーティストとしても気になる部分も正面から答えてくれた。〈宇田川コーリング〉とはなんなのか? 主催者の2人に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
そのとき僕はショックだったんですよ
ーーここ数年、オーディション・バブルと言っていいくらい、音楽業界では様々なオーディションが開催されていますけど、なぜこのタイミングでLD&Kもオーディションを始めることにしたんでしょう?
菅原隆文(以下、菅原) : そもそもLD&Kは今年で20周年なんですけど、ほとんどがデモ・テープかライヴハウスからのし上がってきたアーティストたちで、オーディションをしたことがなかったんです。他にもある有名オーディションも素晴らしいと思うんですけど、アーティストを成長させて世の中に発信していくという意味では、音楽事務所やレーベルの担う役割とメディアの担う役割って違うと思うんですね。
ーー媒体が主催のオーディションは、メディアとしての側面を持っていながら、その役割を拡張させてきているわけですが、音楽事務所やレーベルには、そことは違うやり方があると。
菅原 : それぞれのキャラクターがあると思うんです。実は、いまLD&Kに所属しているドラマチックアラスカは、某オーディションを通して知ったんです。そのとき僕はショックだったんですよ。
ーーショック?
菅原 : 昔って、まずはレコード会社にデモ・テープを送っていたと思うんですけど、いまのアーティストは媒体やフェス主催のオーディションに送ることが多いんです。つまり、メディアとかイベント現場のほうが強くて、僕らの役割がなくなっているんじゃないかって。そこで、僕らにできることってなんだろうと真剣に考えたんです。
ーーなるほど。
菅原 : そのなかで、アーティストの魅力を一緒になってユーザーにいかに伝えていくかという部分で言えば、メディアは浅く広く携われるのに対して、マネージメントは狭く深くやっていくことができるっていう根本部分に行きついて。そうした特性を踏まえたうえで、僕らならではのオーディションをしなければならないと思ったんです。だからこそ、宇田川コーリングは“一撃必殺”と謳っています。要するに、バランスは取れてないかもしれないけど、いびつなパワーをもってるアーティストであれば、LD&Kがマネジメントをして世の中を問うことができるんじゃないかなって。
ーーちなみに、マネジメントが最も得意とするものってなんでしょう。
菅原 : アーティストと向き合うことだと思いますね。アーティストも人間なので、本当にそれぞれすべて違っていて。その人の魅力や才能を本当に理解してあげることは、マネージメントならではだと思っています。
僕らはアーティストに食べさせてもらってるわけじゃないですか?
ーー2010年前後ってアーティストとリスナーがダイレクトに繋がれることが礼賛されて、中間にいるレコード会社やメディアを省くことがいいみたいな風潮があったじゃないですか。プロダクションやマネージメントという立場としても、そういう変化を感じていましたか?
菅原 : もちろんありましたよね。ある意味危機というか、業界のシステムが変わってきているなかでは、新しいやり方だったり、基本に立ち合うことが必要だと思ったんです。基本がなにかっていえば、いい音楽を作って、それを世の中に出していくってこと。そこに対しての縛りが、90年代以降、強すぎたと思うんですよ。アーティストに対しての契約条件だったりとか、そういう部分で少し歪になったのかなって。僕らはアーティストに食べさせてもらってるわけじゃないですか? その気持ちを失っている人が多いんじゃないかなと。僕らがやるべきことはミュージシャンの活動をできるだけスムーズにサポートすることで、そこを取り戻して構築していかなくてはならないんじゃないかと強く思ってますね。
ーーでも、オーディションをするってことは、デビュー前から囲い込もうとしているように見える危険性もありますよね。
菅原 : それはまったくなくて。そもそも僕がこのオーディションを始めたのは、囲い込みが嫌だったからなんです。ミュージシャンがいて、レーベルだったりプロダクションがいて、お客さんがいるとしたら、僕はみんながハッピーになれる場を作りたいなと思っているんですよ。ミュージシャンからしてみれば、オーディションはひとつのチャンスですよね。LD&Kのオーディションに出て優勝したらLD&Kから音源を出せる。ただ、出てもらったアーティスト全員によかったと思われる場にしたかったんです。もちろん全員がハッピーにはなれないかもしれないけど、出てよかったと思ってもらえるようなオーディションにしたい。これをきっかけに、他から話があったってことになればいいとも思ってますし、そのためには、宇田川コーリングっていうイヴェント自体がおもしろくなっていかなきゃいけなくて。オーディション自体もひとつのエンターテインメントにしたいんです。まだ試行錯誤してるんですけれど、自分の目当てのバンドが出なくても、宇田川コーリングだから観にいこうというようなものにしたいです。
ーー「宇田川コーリングならでは」という部分を出すために意識していることはありますか?
菅原 : 普段お客さんに見えない部分を見せてあげられたらっていうことは考えています。審査員がどういうことを思ってるかとか、どういう観点で音楽を見てるかを伝えるだけでも、おもしろいですしね。そういうリアリティを持たせたオーディションにしていきたいなと。やらせとかなしにしてね。自然な流れの空間にしたいと心掛けています。
ーーそれじゃあ、バンドが演奏したあと、感じたことだったりをぶっちゃけて話していると?
菅原 : ぶっちゃけるというか、気づいたことを隠さず言うだけなんですよ。フィードバックがあった方が絶対いいじゃないですか? オーディションに出たけど「あれ、なんだったんだろうね?」ってなりがちなんじゃないのかと思っていて。実際そういう話も聞くので、可能な限りみんなに楽しんでもらいたい。最近は司会も入れるようになって、それも込みでおもしろかったら喜んでもらえるじゃないですか。
ーーそれこそ、スーザン・ボイルのオーディションは、審査員のリアクションも大きいし、わかりやすいし、エンターテイメントでしたよね。
菅原 : ある意味、あれを目指してるのかもしれないですね。昔で言うと、イカ天みたいな感じで、キャラクターをハッキリさせたいなと思っていて。正直、僕だったら一緒にやらないだろうなっていうアーティストもいたりするんですよ。でも、そこで感じるものが個性だと思うんで、そこについて踏み込んで話してもいいと思うんですよ。
日本中のブッキングと顔見知りの人間って唯一だと思うんですよ
ーー出演しているアーティストは、どういった形で募集しているのですか?
菅原 : まずは、デモテープを募集しています。逆に、うちがオーディションやりますっていうことをいろんな人に話してたので、全国各地の関係者の方から「このバンドだしてもいいですか?」って話もきたりしていて。
ーー宇田川コーリング用に、ブログも書かれていらっしゃいますが、全国各地をまわって、総移動距離を記しているのがおもしろいですね。
菅原 : あれはうちのスタッフの神山が書いているんです。やっぱり顔がみえるのがいいじゃないですか? このオーディションは、この人がみてくれるんだっていうのがわかったほうが安心すると思うんですよ。そういう名物的な人って、グレートハンティングの加茂(啓太郎)さん以外いないじゃないですか。もっといてもいいんじゃないかなと思っていて。それが、うちでいうと神山なんです。
ーーなるほど。
菅原 : 神山に言ったのは、年内中に東京中のライヴハウスのブッキングに全員会ってきてくれってことで。そのなかで、もしいいアーティストがいたら教えていただいて誘ってみようと。そして次は、日本全国のブッキングの人たちと会ってきてくれって言ったんですよ。日本中のブッキングと顔見知りの人間って唯一だと思うんですよ。そういうことがやれれば自ずと情報も集まってきますし、そこで信頼関係ができれば誠実な付き合い方をしていけると思いますし。
ーー実際に、ブッキングの方に会うことで、普段入ってこないような情報が入ってくることも多かったと。
神山英治 : そうですね。東京にいただけでは気づけないような全国のライヴハウス界隈の情報がみえてきましたね。
菅原 : いまって、ネットを見ればなんでもわかるような気になっているんですけど、いわゆる生の情報っていうのはわからないんですよ。元・外交官の佐藤勝さんが「外交上の機密は生の情報が大事だ」って言っているんですよ。それって、ある意味、音楽の現場でも一緒だと思っていて。信用できない人から「教えてくださいね」って言われても、教えないと思うんですよ。そこは信頼から始まると思うし、彼ならそれができると思ってます。東京だけじゃなくて、6月には大阪で、7月には名古屋でもオーディションをやったんです。年内に福岡でもやろうと思っていて、そういうときに全国のネットワークが活きてくると思うんです。どっかのタイミングでそれぞれの地区で優勝した人を集めてやってみたり。そういうことを考えてますね。
ーーそれぞれの土地に足が着いた形での開催にしていこうと。
菅原 : そうですね。デモを送ってきてねっていうのは、まだ受け身だと思うんですよ。そこから攻めて情報を取りにいっていろんな人に出会って、LD&Kならではの仕事ができればと思っています。
一撃必殺のアーティストを百戦錬磨するのが僕らの仕事
ーー今まで宇田川コーリングの1次審査を4回やられてきて、“一撃必殺”という部分にひっかかるアーティストというのはいましたか?
菅原 : もちろん、いますよ。本当に一撃必殺です。一回は殺せるんでしょうけど、安定的に殺せるかどうかわからない(笑)。一撃必殺のアーティストを百戦錬磨するのが僕らの仕事だと思っているので。
ーー“一撃必殺”っていうのは、具体的にいうとどういったところから感じますか?
菅原 : 想像を超えてるアーティストですよね。やっぱり僕らが想像した範疇で「いいアーティストだね」っていうのではなくて、「え?! どうしちゃったの、この人たち」みたいなところですよね。
ーー僕は若いアーティストに取材やライヴで会うことも多いんですけど、レーベルやマネージメントに不信感を抱いている人も少なくないんですよ。契約して1年で結果が出ないと、放り出されちゃうんじゃないかって。
菅原 : それは顔が見えないからだと思いますね。誰がジャッジして、誰が決定権をもってやってるのか。僕も思うんですけど、メジャー・レーベルと仕事をしていて、誰がそれ言ってるの? ってことがすごいあるんですよ。そこは正面で向き合えるような関係性を築きたいと思いますね。
ーー宇田川コーリングでの採点方法はどのようにやられていますか?
菅原 : まずみんなの基準を作ってから、細かい項目を作って、僕らが求めている像に合うようなパラメーターで評価してもらっています。だから、わりと一般的ですよ。演奏力だったり、歌唱力だったりとか、雰囲気とか、そういうところで5段階評価をつけてもらってやってます。
ーーオーディションも数を重ねていけば、特色がでてくると思うんですね。宇田川コーリングはまだ色はつけていませんが、どういう色を出していきたいですか?
菅原 : それは、これからでてくるんじゃないですかね。ただ、やっぱりバンドが多いですよね。バンド限定のオーディションにしてるわけじゃないんですけどね。“一撃必殺”であればどんな形態でもいいんです。
ーー今のところ出演されてる方で傾向はありますか?
菅原 : ばらばらですね。当日まで、僕もどんな出演者なのかほとんど知らないですよ。せっかくオーディションをやるので、僕だけ知ってると審査によくない気がするんです。他の審査員もいるので、フラットな状態でいろいろ言いながら楽しくやっています。
ーー宇田川コーリングはこれからも続けていく予定ですか?
菅原 : そうですね。いろいろ考えてるんですよ。一緒にやりたいという人も増えてきてるので。大阪はもはやコラボ・イヴェントにして、梅田シャングリラで定期的にやろうかなとも思っています。名古屋もいいアーティストがたくさんいるので、そこでも定期的にやっていければと考えています。3月に始めたのでまだ数ヶ月しか経ってないんですけど、自分たちがどういうことを考えているのか、もっともっとアーティストたちに伝えていきたいなと思っています。
ーー腰をすえてじっくりやっていこうとしているんですね。
菅原 : いま、僕はインディーズ・レーベルとして、マネジメントとして、やるべきことがものすごくクリアに見えてるので、いろんなことが上手くいくんじゃないかなと思っています。
ーーなかなか音楽業界の話になると暗い話になることが多いから、希望のある話が聞けてよかったです。
菅原 : 暗くなるのはわからなくもないんですけど、変わらなきゃならないと思うんです。音楽はなくならないので、他の人が考えられないようないいものを作り続けないと。そういうアーティストと関係を築きあげていきたいです。
ーーどんなアーティストが出てきて、優勝するのか、楽しみにしています。