2014/07/06 17:24

結成から7年、ついに音源化された壮大なサウンドスケープ——no.9 orchestra、待望の1stアルバムを独占ハイレゾで!!

no.9 orchestraを率いるno.9こと城隆之

no.9の名義で活動し、エレクトロニカのフィールドを中心に7枚のアルバムを発表してきた作曲家の城隆之。そんな彼が率いるバンド、no.9 orchestraが、結成7年目にして初のオリジナル・アルバムをリリースした。その活動がスタートしたのは2007年。以来、no.9名義の楽曲を、ギター、ドラム、ヴァイオリン、ピアノといったフィジカルな楽器で演奏するというコンセプトのもと、圧倒的なライヴを披露しつづけてきた。このたび、ライヴでしか楽しむことのできなかった彼らのサウンドがついに音源化され、『Breath in Silence』という名のアルバムにまとめられたのだ。しかも、OTOTOYではこの作品を、24bit/96kHzの高音質で独占ハイレゾ配信。no.9 orchestraが描き出す壮大なサウンドスケープを、アーティストがスタジオで聴いているのと同じ音で楽しむことができる。バンドを率いる張本人、城隆之へのインタヴューとともにお届けしよう。


no.9 orchestra / Breath in Silence (24bit/96kHz)
【配信形式 / 価格】
ALAC / FLAC / WAV : 1,620円(税込、単曲は各270円)

【収録曲】
01. with millions of love -fine-
02. Left the wind
03. after it
04. Good morning
05. inside outside
06. Re: bug beats
07. Source of harmonics

INTERVIEW : 城隆之(no.9 orchestra)

不完全な部分が重なりあったとき、そこにソウルが宿る

——ファースト・アルバムのリリース、おめでとうございます。no.9 orchestraは2007年から活動をスタートさせて、7年越しでようやくオリジナル・アルバムをリリースすることになりました。そこで今回は、そもそもno9というソロ・プロジェクトをバンド編成にした経緯から伺いたいのですが。

: 僕自身、20代の頃はロックとかファンクとかジャズとか、いろんなバンドをずっとやってきた人なんです。それがだんだんと作曲がコンピュータでできるようになってきて、ひとりでロジカルに思考するような作曲スタイルに変わっていきました。だけど、やっぱりライヴではPCに向かって演奏するというスタイルにフラストレーションが強くなってしまって。自分の中の熱とコンピュータがフィットしない感覚があったんですよね。それで周りにいた人たちに声をかけて、2007年にno.9 orchestraを立ち上げました。

——城さんは以前、no.9名義でリリースされた『good morning』がソロ活動の集大成になったとおっしゃっていたと思うのですが、それがちょうど2007年ですよね。

レーベル liquid note records  発売日 2007/03/15

01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12.

※ 曲番をクリックすると試聴できます。

: あの作品は2005年には完成していたものなんですけど、ちょうどその頃から作曲のスタイルが単にロジカルなものだけではなくなっていって、ライヴに意識が向かうようになりましたね。集大成というよりは、セカンド・ステージのスタート・ラインに立ったという感じです。

——なるほど。それからライヴ活動を続けてこられて、ついにファーストをリリースされるわけですが、なぜこのタイミングでアルバムを出そうと思ったんでしょうか。

: no.9 orchestraはメンバーの変更がすごく多かったんですが、それがようやく固定されたというのが大きな理由です。メンバーの出入りが多いうちは、なかなかひとつの演奏スタイルにまとめることが難しかったんですよね。今のメンバーは自主的にアイディアを出せる人たちだし、技術的にも一定以上のレヴェルに達していると思うので、そういう状態で作品をひとつ残しておきたいなと。

——そんなファースト・アルバムはタイトルが『Breath in Silence』で、直訳すると「静けさの中の息づかい」といったところだと思いますが、ここにはどんな思いが込められているんですか?

: やっぱりバンド編成の大きな特徴として、微妙なリズムの揺れとか、空気感のグルーヴとか、演奏者の個性とか、そういう人間ならではの部分があると思うんですけど、僕の中で「Breath=息」っていうのはそれを象徴する言葉だったんですよね。実際バンドで演奏するときって、みんなで息を合わせてリズムをとっていくわけじゃないですか。長くコンピュータで作曲してきた僕にとっては、それがすごく心地いいことなんです。

——そうなんですね。「人間ならではの部分」が今作にとって重要だと。

: 重要なのは確定されていない部分、固定されていない部分だと僕は思うんですね。どんなに作り込んだって、実際に演奏するときは頭の中でいろいろ考えているわけで、何テイクやったって完全に同じになることはないじゃないですか。そういう血の通った、ある意味では不完全なグレーの部分が重なりあったときに、きれいなグラデーションができるというか。そこにソウルが宿るというか。

オーケストラを率いるno.9こと城隆之

——たしかにno.9名義の作品は細部までカッチリと作り込まれているのに対して、no.9 orchestraの音源はより自由度が高いというか、より余白の部分が多いのかなと思いました。

: 僕がno.9とno.9 orchestraの違いをどう捉えているかというと、音楽的にも作品のヴィジョンも、すべて自分でコントロールできるのがno.9、ある種のハプニングが伴うのがno.9 orchestraという感じなんですね。自分は作曲家だという意識が強くて、音響的な部分も含めてこだわり抜くno.9の作品と、プレイヤー / プロデューサーとして関わるno.9 orchestraの作品という違いがあります。結果としてもっとも違うのは、ロジカルとフィジカルの差異からくる、景色や感情の表現の違いだと思いますね。そして、そんな想いをもった仲間たちがいるということです。日々練習をするプレイヤーにとって、すでにある曲に個性を入れるのはとても重要なこと。それが重なり合えば必然的に進化します。

——楽譜以上のものになっていく感動がありますよね。

: そうですね。それをリスナーのみなさんにも味わってもらいたいです。

——逆に城さんは今作でどこまでバンドをコントロールしたんですか?

: 僕は楽曲を作るだけ作って、まずはメンバーに思うように弾いてもらいました。そのうえでスタジオに入って、「こっちのほうがいいんじゃない?」って言ったり。とはいえアレンジも完成したものにはせずに、つねにライヴを意識して余白を残しておくというか。

ギターの音だけで何日間か聴きつづけた

——まさにハプニングが起こる状態にしておくということですよね。でもレコーディングをすることで、音源としてひとつの形に定着しちゃうわけじゃないですか。そこに対する怖さみたいなものはありませんでしたか?

: 怖さはあったけど、メンバーを信頼してたのでたぶん大丈夫だと思ってました。実際、今作に収録された曲は全体では多くて3テイクしか録音していないんですけど、もう1テイクやっておけばよかったっていう曲はまずないです。もちろん重ね録りはしていますけど、鮮度がほしかったんです。そういう意味では奇跡的だったなって思います。

——今作に収録された曲はすべて、no.9名義で一度リリースしているものですよね。バンド編成オリジナルの新曲をやるっていうアイディアはなかったんですか?

: もちろんそれも考えました。ただ、プロセスとしてno.9の曲をバンドでやる意義があったし、no.9の原曲があるからこそのリミックス感覚がおもしろいと思ったんです。リスナーにはno.9を聴いてもらったうえで、「バンドになるとぜんぜん違う!」っていう感想をもらうのがいちばんうれしかったりします。

——はじめからno.9 orchestraとしてオリジナル曲を作ってしまうと、それこそハプニングが起こりにくくなってしまう。

: そうですね。チャレンジはしたんですけど、結局は僕が「ああしたいこうしたい」って言ってしまうので、ひとりで作るのと変わらなくなってしまうんですよ(笑)。でも、あきらめずに今後もチャレンジします。

——リミックス感覚とおっしゃってましたが、まさに原曲と聴きくらべるとぜんぜん違うものになっていてびっくりします。特にバンド編成ではギターがフィーチャーされていますよね。

: そうですそうです。僕、レコーディングでこんなにギター弾いたの初めてだったんですよ。1曲目の「with million of the love -fine-」なんかは、絶対に弾かないと思っていたギター・ソロを入れてしまって。でもやってみるとすごく新鮮で、「ギター・ソロっていいわ〜」みたいになりました(笑)。

——ギター・ソロに目覚めたと(笑)。バッキングの音も前に出てますよね。

: うちの伊藤智也のギターをすごくフィーチャーしましたからね。彼の才能はハンパないです。普段、ああいうバッキングって当たり前のように流れていってしまって、あらためてそれを聴こうとはあまり思わないですよね。実際、僕もレコーディングするまでは彼があんなにすごいことをやってるって知らなかった(笑)。

——あらためて聴いて驚いたんですね。

: 「こんなマメなことしてんのか」って(笑)。ギターの音だけで何日間か聴きつづけたくらい、本当に驚いて。だからかなりミックスで前に出しました。

——そのあたりはまさに原曲といちばん違うところなので、聴きどころですね。

: 特に「Source og harmonics」、「Good morning」あたりのバッキングはぜひ聴いてほしいですね。「Re: bug beats」にいたっては僕のギターの音を全部消したくらいですからね(笑)。

「これはやばいから、絶対ハイレゾで出したほうがいいよ」って(笑)

——聴きどころと言えば、今作はドラムの音がとてもきれいに録れていますよね。これは生音ならではの部分でもあるし、ハイレゾならではの部分でもあると思いますが。

: そうなんですよ。mp3とかの圧縮音源でいちばん犠牲になるのが鳴りものじゃないですか。だから鳴りものがいかに現実の音のまま収録できるか、という部分には気をつかいましたね。鳴りもののエアーの部分って、打ち込みでもコントロールはできるけど、実際に叩いたときって響きがどんどん重なりあうじゃないですか。それってコントロールできないんだけど、その何とも言えない倍音が美しいんですよね。

——「コントロールできない部分」を重視するというところは最初の話ともつながってきますね。この流れでレコーディングについても伺いたいのですが、今回はどれくらい時間をかけて録ったんですか?

no.9こと城隆之の自宅スタジオで取材はおこなわれた

: 実際にスタジオに入ったのは4日間だったんですけど、その事前準備も含めると半年くらいですね。さらに前の構想段階も含めると1年くらいかかってるんですけど。曲の中で固定する部分とアクティヴにする部分を明確にして、収録する曲もじっくり選びました。

——今回、ミックスは城さん自身が担当されますよね。何か気をつけたところなどありますか?

: 録音はその世界では有名な阿尾茂猛さんというエンジニアにお願いしたんですが、ものすごい迫力満点に録ってくれたので、その良さをいかに殺さないようにするかに集中しましたね。さきほどの話にもありましたけど、とにかくドラムなどの鳴りものが美しかった。すべての音がその場で鳴らされているかのようにレコーディングされていて。僕としてはそれを小綺麗にまとめないようにしましたね。あんまり生演奏のミックスをしたことがなかったんで、逆に常識にとらわれずにできたかなと思います。

——この作品はOTOTOY限定でハイレゾ配信されますが、本当にハイレゾで聴かなければいけない作品だと思いました。

: もともとハイレゾ配信の予定はなかったんです。録りはハイレゾだったのですが、CDリリースを考えて16bit/44.1kHzに落としてマスタリングしていて。でも、今回OTOTOYさんからハイレゾ配信のお話をいただいて、マスタリングをやってくれたnanofingersにお願いしてみたら、「ちょっと1回聴いてみるわ」って。そしたらすぐに「これはやばいから、絶対ハイレゾで出したほうがいいよ」ってメールが来たんです(笑)。「録れた音がそのまんま入ってるから、アナログみたいな芳醇な音だよ」っていう返事だったので、じゃあ、ってことで高音質でのリリースを決めました。情報量が違うので当たり前ですが、ハイレゾ版と通常版にはだいぶ差があると思います。

——なるべくいい環境で聴いてほしい音源だと思います。最後にちらっと今後の話も聞けたらと思うのですが。

: やっぱりいちばん重要なのはライヴなんですよね。だからアウトプット的にはそんなにアクティヴになることはないと思うんですけど、ライフワークとして年に4、5回くらいのペースでライヴはしたいなと。

圧倒的なスケールを誇るno.9 orchestraのライヴ

——城さんのベースは基本はソロ活動にあって、オーケストラのほうはある種の実験の場として機能させていくという感じでしょうか。

: まあ、すでにno.9 orchestraは僕だけのものじゃないので、今後のことはメンバー含めて話しあって決めていければと思います。

——まずは記念すべきファースト・アルバムを多くの人に届けたいですね。

: 今回は今までのリリースと気持ちがぜんぜん違っていて。ソロのリリースのときってけっこう燃え尽きた感覚があるんですけど、今回はみんなで作ったものっていう意識があるから、なんか高校生のときにバンドをやってたときのようなワクワク感があったり、ちょっとメンバーに対する親心があったり(笑)。普段、あんまり自分の作品を「これ聴いて」って人に渡さないんですけど、今回は渡したい。「ちょっと聴いて! お願いだから聴いてくれよ!」っていう感じです。

(インタヴュー & 文 : 長島大輔)

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LIVE INFORMATION

〈LOOP POOL “√(root)” Release Tour FINAL〉
2014年7月20日(日) @渋谷 WWW
開場 / 開演 : 17:00 / 17:00
料金 : 前売 3,000円 / 当日 3,500円 (ドリンク代別)
出演 : LOOP POOL / no.9 orchestra / DJ YOGURT / VJ Akiko Nakayama
詳細 : http://www-shibuya.jp/schedule/1407/005143.html (渋谷 WWW)

PROFILE

no.9 orchestra
ソロ名義"no.9"として、これまでに7枚のフル・アルバムと多くのコンピレーション作品等に参加し、さらに数々の公共的な音楽制作を手掛けてきた作曲家、城 隆之が率いる6人編成のバンド・セット。ギター、ドラム、ヴァイオリン、ピアノといったフィジカルな要素が加わることで、その名のとおりオーケストラを思わせる壮大なサウンドを奏で、会場を包み込むような圧倒的迫力のライヴ・パフォーマンスが話題。2007年の活動開始以来、 7年越しで待望のファースト・アルバムを発表した。

>>no.9 orchestra OFFICIAL HP

[レヴュー] no.9 orchestra

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