油断して聴いているとチクッと突然棘に刺されたかのようにハッとする瞬間
「Wonderland/不思議の国」というタイトルからは想像できなかったこと。それは軽快なリズムに身を委ね、油断して聴いているとチクッと突然棘に刺されたかのようにハッとする瞬間があった。「このままでいいの?」と言われて痛いところを突かれたような、困ってしまう瞬間がまさにそれで、Gotchなりの表現で提言しているのかもしれない。そして、「出口なき闇を照らしだせ」と背中を押してくれるやさしさも感じられる。
先述のリードトラックも収録されている、Gotch初のソロ・アルバム『Can't Be Forever Young』は、全体的にアコースティック・ギターで心地よくまとめており、加えてシンセ、プログラミング、パーカッションなど多岐に渡ったサウンドがミックスされている。また、「The Long Goodbye」や「Aspirin」でも聴かれる贅沢といっていいほどのコーラスやハモリ使いに自由さを感じ、ゴッチのやわらかい歌声がバランス良くシンクロして有機的に働いている。アジカンでは味わうことのできないグルーヴィーな盛り上がりは、Turntable filmsの井上陽介やストレイテナーのホリエアツシなど、彼が信頼するミュージシャンの参加やUSインディーズで活躍するジョン・マッケンタイアのミックスによって生まれたものであることは間違いない。
そんな自由な音作りから得られる解放感とは裏腹に、「Can't Be Forever Young」は(時計はいつか止まってしまう/この恋もいつか終わってしまう)から“いのちを燃やせ"と静かに叫び、「Lost」には達観した冷静さを感じられ、こちらも身を引き締めなければという思いを呼び起こす。“未来"という言葉は使われていないが、不確かなものに不安を抱きつつも、着実に前へ進もうと喚起している。「Wonderland」もそうだが、このアルバムは「サウンドと言葉」=「飴と鞭」でリスナーをひきつけ、それはGotchが持ち合わせるストイックな姿勢と優しさでできている。(Text by 新垣友海)