改めてシンガー・ソングライターとしての非凡な才能を感じ取る
〈時計はいつか止まってしまう / この恋もいつか終わってしまう / 世間を呪うヒマなんてないさ / いのちを燃やせよ〉
「Can't Be Forever Young / いのちを燃やせ」で歌われるこの歌詞は本作のテーマでもありゴッチ自身が震災以降に音楽を鳴らす意思の表明でもある気がする。
後藤正文(Gotch) ソロ名義での初アルバム。まず本作のオープナーでもある先行シングル「Wonderland / 不思議の国」を聞いたときからアルバムを聞くのを楽しみにしていた。
アコースティックギターのワンループリフに打ち込みビートとスクラッチ音が混ざりスライドギターやホーンまでも加わる。どこかベックの「Girl」を彷彿とさせる音の質感でとても魅かれた。アルバムの内容は期待通りでゴッチの幅広い音楽性と音楽愛に溢れた傑作となっている。ずっしりとした8ビートにブルージーなギターリフとブルースハープが絡み合い、サビで一気に霧が晴れるようなメロディーのリフレインが堪らない前述のタイトル・トラック「Can't Be Forever Young / いのちを燃やせ」は名曲だ。
その他にもループするギターの単音リフとコーラスが心地よい「The Long Goodbye / 長いお別れ」 シンプルな弾き語りで作られたであろうカントリー調の「Stray Cats in the Rain / 野良猫たちは雨の中」 ホリエアツシとの共作によるアルバムの中では異色のフォークトロニカ「Great Escape from Reality / 偉大なる逃避行」などアジカンのサウンドの特徴でもあるエレキギターのパワーコードを使ったパワーポップ感はなくアコ-スティックギターとゴッチ自身がプログラミングしたビートを主体にアメリカンオルタナや洋楽インディーの影響を自由気ままに取り入れている。
そのような本作のサウンドに従来のファンが戸惑う内容かというとそんなことはなくそこにはいつものゴッチの歌がある。異なった作風、演奏であれどあの歌が入ればすぐに見慣れた風景が甦る。改めてシンガー・ソングライターとしての非凡な才能を感じ取ることができる1枚だ。
デビューから10年を超え、昨今ではバンドのプロデュースなども手がける。次はどこに向かうのだろう? 本作を経た次のアジカンの作品はどんな感じになるのだろうか? そんな未来に期待してもう1度聴いてから眠ろう。(Text by y.toyo)