このサイケデリア、不気味で愉快なピエロのようだ――アニコレのエイヴィ・テア率いるAvey Tare's Slasher Flicks、鮮烈デビュー
アニマル・コレクティヴのメイン・ソングライター、エイヴィ・テア率いる新バンド… その名も、“エイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックス”! 気になるバンド・メンバーはなんと、ダーティ・プロジェクターズのエンジェル・デラドゥーリアン、ポニーテイルやボアダムスで活躍するジェレミー・ハイマン。USインディーが凝縮されたような超豪華な顔ぶれの3人組が放つのは、エイヴィ・テアらしいポップでユニークなセンス満載、それでいてグルーヴ感に溢れたサウンド。表情を変えながら展開されるドリーミーな世界は、アニコレ好きはもちろんそうでない人にも堪らない一枚です!
Avey Tare's Slasher Flicks / Enter The Slasher House
【価格】
alac、flac、wav ともに 単曲 205円 / まとめ購入 1,543円
【Track List】
1. A Sender
2. Duplex Trip
3. Blind Babe
4. Little Fang
5. Catchy (Was Contagious)
6. That It Won't Grow
7. The Outlaw
8. Roses On The Window
9. Modern Days E
10. Strange Colores
11. Your Card
どこまでも広がっていく宇宙のようなサウンド
ナイフ片手に顔に奇妙なペイントを施した3人組。バックにはサイケなドクロ。そんなおどろおどろしいアーティスト写真で登場したのは、アニマル・コレクティヴ(以後アニコレ)のメイン・ソングライターの一人であるエイヴィ・テアの新バンド、エイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックスだ。
なんとも奇妙な顔はフランスの映画作家ジョルジュ・フランジュ監督のカルト的傑作「顔のない眼」に出てきそうな雰囲気。ホラー映画、特にスプラッター(血しぶきなど生々しい表現のあるもの)が大好きというエイヴィ・テアならではといったところだろうか。スラッシャー・フリックスという名前もスプラッター映画の意らしい。個人的にアニコレというとパンダ・ベアの印象が強いが、今作を聴いてみるとやはりエイヴィ・テアがいてこそのアニコレなんだなと感じさせられる。今作はアニマル・コレクティヴ作品でいうと2009年リリースの傑作「メリウェザー・ポスト・パビリオン」に近い。トリッピーでサイケデリック、ギター、エレクトロニクス、キーボードを重ね合わせた奇妙なサウンド・テクスチャーはまるで万華鏡のよう。2010年にリリースしたソロ作は深い樹海の中を彷徨っているような、暗めのサイケデリアな作品だったが、今作はもっと愉快で不気味なピエロのようなサイケだ。そしてなんといってもエイヴィ・テアのソング・ライティングが抜群に良い。前衛的なだけでなくポップさも兼ね備え、カオティックなサウンドに負けないメロディーの良さがキラリと光っている。
聴いているとアニコレの印象が強くエイヴィ・テアばかりに目がいきがちだが、他の2人のメンバーにも注目してほしい。ダーティー・プロジェクターズのエンジェル・デラドゥーリアンをキーボード、そしてドラムはポニーテイルやボアダムズでも活躍しているジェレミー・ハイマンという今のUSインディー・シーンに欠かせないバンドの二人だ。特にジェレミー・ハイマンのドラムがこのバンドの要といっても過言ではない。ドラムとパーカッションによるバリエーション豊かなフレーズと音色で、どこまでも広がっていく宇宙のようなサウンドをしっかりまとめている。
もし来日公演があるなら是非とも参加したいが、パンダ・ベアー、エイヴィ・テア共に個人の活動が活発になるとアニコレとしての活動がどうなるのか不安なところでもある。2009年以降アニコレとしての単独公演はない(2012年にTAICOCLUBで来日している)ので、ファンとしてはこちらも是非ともお願いしたいところ。ともあれこのエイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックス、本家アニコレにも負けない素晴らしいバンドなのは確かだ。
(text by 吉野敬一郎)
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PROFILE
Avey Tare's Slasher Flicks
USインディー・ムーブメントの火付け役であり、今NYシーンのトップに君臨するアニマル・コレクティヴのメイン・ソングライター。アニコレとして通算10枚のアルバムを発表しており、常に年間ベスト・アルバム上位にランクインされる人気バンド。10年、ソロ・デビュー作『ダウン・ゼア』を自身が運営するレーベル<Paw Tracks>から発表。また、元ムームで妻のクリア・ブレッカンなどとコラボ作も発表している。