2014/02/20 00:00

オノセイゲンのDSDマスタリングで甦る、坂本龍一『戦場のメリークリスマス』と『Coda』

1984年に発足したレコード会社「ミディ」。その長い歴史のなかで、坂本龍一、矢野顕子、EPO、ローザ・ルクセンブルグ、遠藤賢司、さらにはサニーデイ・サービスやゆらゆら帝国、グループ魂などなど、各時代で日本の音楽史を彩るアーティストのタイトルをリリースし続けてきた。現在、設立30周年を記念して、この偉大なるレーベルの作品が次々とリマスタリングでリイシューされている。OTOTOYでも、レコード会社の共同設立者のひとりである坂本龍一の2作品、『戦場のメリークリスマス -30th Anniversary Edition-』と『Coda』のリマスタリング・ヴァージョンを配信開始。しかも、DSDの高音質で甦る。

また、今回の配信を記念して、リマスタリングを行ったオノセイゲンと、サウンド&レコーディング・マガジン編集長である國崎晋の特別対談を掲載。オノセイゲンが掲げるマスタリングのポリシーや、そもそも"録音"とはどのような意味を持つ行為なのかなど、興味深い話が次々と飛び出している。坂本龍一の過去の貴重な写真とともにお楽しみください。

坂本龍一 / Merry Christmas Mr.Lawrence -30th Anniversary Edition-

【配信フォーマット / 価格】
(左)DSD(1bit/5.6MHz)+mp3 まとめ購入のみ 7,000円
(中左)DSD(1bit/2.8MHz)+mp3 まとめ購入のみ 4,500円
(中右)WAV(24bit/192kHz) まとめ購入のみ 4,000円
(右)WAV(24bit/96kHz) まとめ購入のみ 3,800円
※すべてのパッケージにPDF版ブックレットが同梱されます。

※Windowsをご利用のお客さまへ
本作品のDSD(1bit/5.6MHz)ヴァージョンおよび、WAV(24bit/192kHz)ヴァージョンは、ファイル・サイズが4GBを超えているため、Windowsに標準搭載された解凍ツールでは正常に展開できない場合がございます。その場合、お手数ですが、Explzhという解凍ソフトをお試しください。

Explzhのダウンロードはこちら : http://www.ponsoftware.com/archiver/download.htm

【Track List】
01. Merry Christmas Mr.Lawrence
02. Batavia
03. Germination
04. A Hearty Breakfast
05. Before The War
06. The Seed And The Sower
07. A Brief Encounter
08. Ride Ride Ride(Celliers' Brother's Song)
09. The Fight
10. Father Christmas
11. Dismissed!
12. Assembly
13. Beyond Reason
14. Sowing The Seed
15. 23rd Psalm
16. Last Regrets
17. Ride Ride Ride(reprise)
18. The Seed
19. Forbidden Colours
20. Batavia(M-3)
21. Merry Christmas Mr.Lawrence(M-34)
22. Germination(M-9)
23. Germination(M-11)
24. The Seed And The Sower(M-16A)
25. M-7 銃殺
26. M-10 俘虜
27. The Seed And The Sower(M-16 ヤジマ)
28. A Brief Encounter(M-17)
29. The Fight(M-19)
30. Last Regrets(M-20 and M-22)
31. Father Christmas(M-23)
32. Before The War(M-12)
33. M-14 行
34. Dismissed!(M-25)
35. Beyond Reason(M-26 to M-27 take2)
36. M-29 処刑場
37. The Seed(M-29)
38. The Seed(M-33)
39. Last Regrets(take2)
40. M-28A take2
41. M-1 Free Time
42. 23rd Psalm(M-30 take2 INST)
43. M-13 カネモト切腹
44. Ride Ride Ride(M-18 INST)
45. Merry Christmas Mr.Lawrence(Theme Free Time take1)
坂本龍一 / Coda

【配信フォーマット / 価格】
(左)DSD(1bit/5.6MHz)+mp3 まとめ購入のみ 4,500円
(中左)DSD(1bit/2.8MHz)+mp3 まとめ購入のみ 3,500円
(中右)WAV(24bit/192kHz) まとめ購入のみ 3,200円
(右)WAV(24bit/96kHz) まとめ購入のみ 3,000円
※すべてのパッケージにPDF版ブックレットが同梱されます。

【Track List】
01. Merry Christmas Mr.Lawrence
02. Batavia
03. Germination
04. A Hearty Breakfast
05. Before The War
06. The Seed And The Sower
07. A Brief Encounter
08. Ride Ride Ride
09. The Fight
10. Dismissed!/Assembly
11. Beyond Reason
12. Sowing The Seed
13. Last Regrets
14. The Seed
15. Japan
16. Coda

対談 : オノセイゲン×國崎晋

ビートたけしによる件のラストのセリフとともに、映画「戦場のメリークリスマス」(1983年 / 監督 : 大島渚)を象徴するメイン・テーマとして、あのフレーズはあまりにも有名だ。ある世代から下にとっては、映画のサントラというイメージからも離れて、あのフレーズと言えば単に坂本龍一の代表曲という認識すらあるかもしれない。

坂本龍一による映画のオリジナル・サウンド・トラックとしては初となる『戦場のメリークリスマス』は、1982年に制作され、翌1983年に発表された作品だ。YMOが1983年の“散開”直前であったこと、そして1987年に映画『ラスト・エンペラー』にて同じくサントラを手掛けてグラミーを受賞し、YMOのみならず世界的なアーティストとしてさらなる評価を受けたことなどを加味すると、やはりタイトル曲の知名度を横に措いても、そのキャリアのなかで重要な位置を占める作品と言えるだろう。

かなりの部分がアナログ・シンセの名機「Prophet-5」で作られたという『戦場のメリークリスマス』に対して、今回同時にリリースされる『Coda』は、そのピアノ・ヴァージョンとも言えるアルバムだ。1983年にリリースされた本作は、サントラの楽曲を坂本自身がピアノ・ソロで弾き直している(「Japan」「Coda」を除く)。

そしてこの2作が、DSDと言えばこの人、オノセイゲンによるDSDリマスタリングで甦った。ちなみに『戦メリ』に関しては、オノセイゲンはエンジニアの田中信一とともに、当時のレコーディングも手掛けている。

さて、このリマスタリング作品を紹介するにあたって、うってつけの対談を用意してある。昨年の〈DSD SHOP 2013〉にて、オノセイゲンと國崎晋(サウンド&レコーディング・マガジン編集長)が行った対談だ。本作のリマスタリング秘話、さらに話は巡って、過去のアナログ・テープ・マスターのDSDによるアーカイヴィングにまで及んだ。

(以下は、〈DSD SHOP 2013〉の関連イヴェントとして開催された「KORG MR-2000SとTASCAM DA-3000で録音された同音源を聴き比べてみよう」にて、『戦場のメリークリスマス -30th Anniversary Edition- 』を聴きながら交わされた2人の会話を文章化したものだ)

文&対談構成 : 河村祐介

スタジオの音をそのまま届ける、それがマスタリング

オノセイゲン (以下、オノ) : 『戦場のメリークリスマス -30th Anniversary Edition-』のDSDマスタリングをした時期は、まだTASCAM「DA-3000」は発売前で、現場には何年もKORG「MR-2000S」しかなかったんです。だからオリジナルのアナログ・マスター・テープから「MR-2000S」(5.6MHz)とSONY「SONOMA」(2.8MHz)の両方に録りました。「SONOMA」は、SACD(スーパー・オーディオCD)の唯一安定して動く業務用の編集機で、対応は2.8MHzだけ。といっても、13年も前の機材がいまだに現役で、しかもいちばん音のいいDSDデジタル・オーディオ・ワークステーションであるってすごいことです。國崎さんが取材に来てくれたときにお聴かせしたのは、最初に「SONOMA」で編集を進めていたヴァージョンでした。でも、最終的には「MR-2000S」でアナログ・マスター・テープから5.6MHzのDSDにアーカイヴィングしたものを選択しました。私のやり方は、一番レゾリューションが高い5.6MHzのDSDを作ったら、そこからあとはダウンコンバートするだけです。

TASCAM「DA-3000」
KORG「MR-2000S」

國崎晋 (以下、國崎) : 『戦場のメリークリスマス』のリマスタリングをセイゲンさんがやっていたのは、2013年のかなり早い時期ですよね。まだ暑くない、夏の前だった記憶があって。

オノ : その時期は世界で僕と國崎さんの2人しか聴いてないです。

國崎 : 僕は今回のリマスターにあたってライナー・ノーツを頼まれていて、その取材のためにサイデラ・マスタリングのスタジオを訪れて。

オノ : そのときは「SONOMA」(2.8MHz)で聴きましたね。

國崎 : でもこうやって最初からDSDリマスターしてそれをそのまま出すっていうのはいいなあって思っています。しかも、今回はSHM-CD(スーパー・ハイ・マテリアルCD)でも発売されているんですけど、CDはどうやってリマスターをしているのかとセイゲンさんに尋ねたら、「DSDで取り込んで、それをそのままAudioGateで変換しただけ」って。「ええええ!」みたいな。

(一同笑)

國崎 : あくまでもセイゲンさんのなかでは、このDSDマスターこそが今回のリマスターということなんですよね。

オノ : そうです。その話、すごく大事なとこでね。サイデラ・マスタリングのお客様の99%は、CDマスタリングのためにいらっしゃいます。CDマスタリングの工程には、当たり前ですが、まず最初にマスターをプレイバックするという工程があります。最高のプレイバックこそマスタリングの重要なところで、それ以上はないんです。そこでサイデラ・マスタリングとしてお勧めすることは、ミックス・マスターをここでプレイバックするときに、DSDとPCMとパラで録っておけばいいと。マスタリングでポイントとなるのは、ミキシング・エンジニアが、スタジオでアーティストとともに「やった! できた」となる瞬間。そのミキシングのときに、例えばモニター環境として低域が出過ぎるスタジオで、それを知らずにミキシングをすると、その分だけマスター・テープは相対的に低音が少なくなってしまいます。その逆もあり。マスタリングでは、その部分は補正をしないといけないのです。だからミキシングして、プレイバックで「いいね!」というのが出れば、そのまま「いいね!」をリスナーに届けるっていうのが大事ですよね。マスタリング作業は、大きな写真を、その解像度を変えず、器の大きさに切っただけ。質感、つまり音色は変わらない。そこがすごく大事なところ。

坂本龍一

國崎 : でもアーティスト・サイドは、マスタリングにそれ以上のことを求めることが多いですよね。

オノ : だいたいの人はね。だいたいの人は、他のCDと比べて、ヴォリュームが小さいと言います。

國崎 : 今回の坂本さんは、そういう意味ではおまかせで?

オノ : 一応両方聴いてもらっています。AとB、2パターンで。少しヴォリューム上げることできますけど、そうなると音色はこう変わりますと。坂本さんは、当たり前のように音色重視のほうを選んでくれます。

國崎 : そのまんまDSDに収めるという感じで。

オノ : そうですね。オリジナルを収録したスタジオでモニターが完璧だったらこう聴こえてたはず。 私も現場にいましたので、証人でもあると。

國崎 : オノセイゲンさんは、オリジナルのミキシング時も現場でエンジニアとして参加していたんですよね。

オノ : 田中信一さんと。

國崎 : 当時のミキシングに関わっていたエンジニアがリマスターをするというのは、作品にとっては幸せことですよね。

オノ : アーティストとミキシング・エンジニアが「これで完成!」という状況をそのまま再現するということにおいてそう思います。そのままをリスナーには聴いてもらいたいわけですよね。最近の傾向なのかもしれませんが、一般的に「ミックスでなんとかなるでしょ」「マスタリングでなんとかなる」というのがありますが、それは大間違いだと思いませんか? もちろん、ミックスを仕上げたときの勢いというかノリもあると思いますが、この15年ほどでしょうか、マスタリングでヴォリューム戦争ってやってまして。本当に馬鹿なことやってるなって思うんですけど。なぜかというと、音量とか迫力のことばっかりで勝負しててですね。「音色」のことを考えていない人たちがやってるんで、すごく無責任だなって思います。ま、ジャンルによると言うか、元と同じ音じゃないことを前提としたレコーディング制作が多くの現場なんですね。刺激が強いこと、音量が大きいことをミックスやマスタリングに望むクライアントが少なくないのですが、じつはそれが音楽を壊していることに気がついてないんじゃないかな。

オノセイゲンが掲げるマスタリングのポリシーとは?

國崎 : リマスターの作業において、昔のアナログ・マスターを今でもきちんと再生できるのですか?

オノ : アナログ・マスター・レコーダーって結構チューニングが難しいんですよ。録音も再生も。

國崎 : それをきちんとチューニングした上で、DSDだとそのままの音がキャプチャーできる感じなんですか?

オノ : なんと言ってもDSDが素晴らしいのは、インプットとアウトプットの音が同じ。インプットに入れた音が波形をまったく変えずに再生できる夢のようなレコーダーです。でもアナログ・レコーダーとは、テープに録音した段階で再生音は変形しますので、その変化する具合いを計算して、レコーダーに入れる音作りをしておかないといけないんです。ウォームな音と言われますが、テープのヒス・ノイズを考慮してレヴェルを高く記録しても、アナログ・テープは、ピークが歪みますし、バイアスやテープの種類でも音色が違います。アナログ・マスター・レコーダーの再生には、レコーダーのハイとローのイコライジング調整以外にもアナログのEQを使用しています。それは要するに、オリジナルのミックスを音響ハウス(※マガジンハウスなどによって運営されるレコーディング / ミキシング / マスタリング・スタジオ)でレコーディングしていたときに聴いている具合に補正するために。私はマスタリング時のポリシーとしては、まず「ミキシング時、レコーディング現場ではこう聴こえていたはずだ」というのをリコールしようと努めます。自分の趣味趣向のカラーをつけるのではなく、おそらくモニター環境のせいで低音がこんなはずじゃなかった、とか、本来ミキシング・ルームで聴かれていたであろう音色にもっていくんです。

國崎 : なるほど。

オノ : 手掛けてる作品やジャンルでも変わりますが、マスタリング・エンジニアって、私の師匠にあたるようなグレッグ・カルビでも、テッド・ジェンセンでも、その個性で選ばれますよね。むしろ私のようにトランスペアレンツで、まったく色づけしないことを良しとするエンジニアって少ないです。昔から何人かクラシック系の名手がいますが。私が影響を受けてきたエンジニア、ジョージ・マッセンバーグにしてもフィル・ラモーンにしても、色づけしていくというタイプではなく、ピュアに音楽寄り、演奏時の「音色」を録音するんです。

國崎 : エンジニアって、ある時期から、あの人に頼むとこういう音になる、みたいな話になりましたよね。

オノ : マスタリングでも、J-POPだったら絶対こうガツンとくるみたいな。

國崎 : でもそれは本当は違うかもしれない… と?

オノ : 自分のカラーを押し出すエンジニアはたくさんいると思いますが、私はそれはやりません。

國崎 : 今回だったら『戦メリ』のアナログ・マスターがあって、それをアナログのEQで補正はする。それでそのときは、どういう補正をするんですか。

オノ : それはハイとローのテープ・レコーダーのチューニングです。って言っても針1本くらいしか動かせないので、0.5dB上げるか上げないかとかそんなもんで。それでも印象がけっこう大きく変わるんだよね。

國崎 : その調整で、「当時の音響ハウスでこうなっていたはず」という音になる?

オノ : ある意味で、ヴァーチャルなんですよね。なぜかというと、アナログ・テープ、テープ・レコーダーの解像度としてはそれが入っているわけですが、ところが当時のモニター・システムっていうのが、現在のモニター・システムほどの解像度がないんですよ。

オノセイゲンと國崎晋が語る、録音とは何か

國崎 : 今回の『戦メリ』のように、昔の優れた作品をDSDリマスターしていくのもとても嬉しいことだと思いますが、一方で新しい音源をもっともっと作っていく必要があるのではと思います。セイゲンさんはそういう試みはいろいろやってらっしゃいますが、これからやりたいことはありますか?

オノ : いまね、録音はもうすべてDSD 5.6MHzですね。やりたいことは、映像が4Kの時代ですから、4K映像に相応しいレゾリューションのオーディオ。映像は4Kなのに音はAACでいいと思いますか? ダメでしょ。これからの時代に圧縮音声なんて本末転倒です。きちんと空間全部を精密に、しかもカムコーダーで簡単に、5.6MHzのDSDで、8か10トラック使って立体サラウンドで録りたい。立体サラウンドDSDもカムコーダーで普通に録れるようにしたいです。音楽でもフィールドでもなんでも。突然ですが、録音って何ですか? サンレコの編集長として。

國崎 : 深すぎる質問ですね! うーむ、普通に考えたら「記録」ですよね。

オノ : そう。残しておかないと残らない記録。テープが回っていれば記録は残る。

國崎 : 録音とは「ある時間単位で残ること」ですか。写真とやっぱ違うな~と思ってて、その時間分だけ、ものすごくリアリティがある。しかもやっぱりトリガーになる。記憶をトリガーするものになるな~と。

オノ : いいことおっしゃる!

國崎 : じゃあセイゲンさんにとって録音とは?

オノ : 録音とはね、ひとことで言えば「タイムマシン体験です」。つまり時間と空間を自由に行き来できる。ミュージシャンはステージで演奏してると、絶対に客席側での自分の音って聴けないんですよ。ミュージシャンは、いつもそれを聴いてみたいと思っています。時間と場所を移動できれば、さきほど演奏した自分の音を、その時間に戻って客席から聴くことができる。あるいは1950年代のニューヨークっていまの人間の技術では行けませんけど、録音を聞くと「当時のニューヨークってこうだったんだな~」という聴覚的な情報だけは体験できる。それ以外の社会背景とかすべて抜け落ちてしまうんですが、少なくともマイクから録音された音だけは再現できる。つまり時間と空間を飛び越えてますね。何らかの事情で行けない場所や過去のライヴも聴くことができる。時間と空間を自由に行き来できるだけではなく、編集をすることにより、実際には起こらなかった展開、新しいシナリオを組み上げられるのも録音ならではです。

國崎 : たしかに…。

坂本龍一

オノ : そう考えるとね、自分の時間がどんどん過ぎていくのに、1曲のミックスに10時間とか1日かかっているともったいないんですよね。もちろん1980年代にそういう実験というか、創造的なミキシングや編集、コラージュはやりつくしましたので、今は試行錯誤しないで限りなくリアルタイムでマスターを残すようにしています。ジャズのライヴ・レコーディングは、ダイレクト2トラック録音が基本です。3分の曲は3分で終わってほしい。

國崎 : たしかにそうですね。

オノ : もちろん、そうではない音楽もありますよ。でもね、早く仕上がることはいいことなんです。自分の時間はどんどんなくなっていきます。人生どこかで終わるのは確実でね、200歳まで生きる人間はいませんよね。だからなるべく「もう一度」とか「今度やりましょう」というのはなし。それから重要なことですが、録音って何かが起こる前に回ってないと録れないんですよ。当たり前ですが。何か起こった時にはテープはすでに回っているということと、それ以前に、そこにいないとダメっていうこと。昔のジャズの名盤と言われているものは全部そうなんだけど、ミュージシャンがいつ来るかわからない。来てからセッティングやマイク・チェックではなくて、いつきてもパッとテープが回り出すっていうのが、すべてのジャズやドキュメント・レコーディングの基本です。

國崎 : とにかく録りなさいと。

オノ : そうです。録りなさい、ですね。「テイク1録れたから聴いてみようか?」なんて、もしプレイバックする時間があるんだったら、プレイバックを聴く時間よりテイク2を録りなさい。ジョン・ゾーンと私は、2時間スタジオに入ったら、捨てる部分のない2時間分のテープを残します。

國崎 : 素敵ですね!

オノ : リアルタイム以上に、必要以上に時間のかかる仕事って、手順がどこか間違っています。

國崎 : もちろんね、時間かけたならではの良さの出るレコーディングってのもあると思うんですけど、ライヴPAやテレビ番組の収録など、実時間で一定以上のクオリティを上げているのを見ていると、レコーディングもそうしてほしいなと思いますね。

オノ : 『戦メリ』とか『音楽図鑑』とかのように時間をかけられるなら、これはまたまったく違う意味がありますが。その話は次回。

國崎 : あの時はスタジオで曲作っていましたけどね。お金が湯水のごとく使えた時代でしたから。

オノ : それがまたペイしてたからね。経済が回っててね。

國崎 : しかも30年後にこうやってリマスター作品としてまたリリースされるっていう。

オノ : ようやくあの頃の音が劣化しないでDSDアーカイヴできる。CDマスターではまったく充分ではないんです。アナログ・テープは本当にどんどん劣化しちゃうから、いますぐDSDアーカイヴです。

國崎 : たぶん本当にいま最後のタイミングに来ているのかなと。デジタルで録音できるテクノロジーが進んでて、アナログ・テープが再生できるのが限界ギリギリっていう。ここから先も、もっともっといい録音方法が出てくるかもしれないけど、アナログをいい状態で再生できる可能性がだんだんなくなってきちゃうから。そういう意味ではセイゲンさんがおっしゃるようにDSDにマスターを移しておくというのは正しいと思います。

オノ : そうですね。「MR-2000S」や「DA-3000」は、個人で録音やってる人にとっても、すべての録音スタジオにとってもベネフィットです。こんなレゾリューションがこんな値段で録音再生できるんですから。

(2013年12月9日、渋谷ヒカリエ8F aiiima2にて)

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PROFILE

オノセイゲン
1958年生まれ。エンジニアであり、プロデューサーであり、ミュージシャンでもある。坂本龍一をはじめ、渡辺貞夫、加藤和彦、ジョン・ゾーン、アート・リンゼイ、マンハッタン・トランスファー、オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット、マイルス・デイビス、キング・クリムゾン、ジョー・ジャクソンなど、名だたるアーティストのプロジェクトに数多く参加。DSDレコーディング、DSDマスタリングにおいては、企画開発当初よりコンサルティング、国内外でデモンストレート、レクチャーなどを重ねており、多くのミュージシャンから厚い信頼を得ている。サイデラ・パラディソ代表取締役。

>>Saidera Paradiso

國崎晋
1963年生まれ。サウンド・クリエイターのための専門誌「サウンド&レコーディング・マガジン」編集長。ミュージシャンやプロデューサー、エンジニアへの取材を通じた制作現場レポートや、レコーディング機材を使いこなすためのノウハウ、新製品のレヴューなどを中心に構成される誌面は、プロ / アマを問わず、多くのクリエイターの情報源として重宝されている。2010年からは、レコーディングを目的としたライヴ・イヴェント〈Premium Studio Live〉を開始。収録した音源をDSDで配信するレーベル活動も展開している。

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