2013/11/15 00:00

“Dubbing 06″ あらかじめ決められた恋人たちへ Release TOUR 2013

言葉を用いないインストゥルメンタル・サウンド、しかも鍵盤ハーモニカやテルミンといった、普段スポットを浴びない楽器が主旋律を奏でるという、異色のダブ・バンドとして存在するあら恋。代官山UNITでのワンマンは、池永のソロ・ユニットとして始動してから16年、上京後、バンド・メンバーを固定してから6年が過ぎた中で、表現したかったシネマティックな音像がついに目の前に現れたと言って過言ではない、会心のライヴとなった。バンド名や特殊な楽器編成だけでは語り尽くせない、音楽としての純粋な素晴らしさに包まれた彼らのステージを詳細にレポートする。

11月9日、代官山UNITにて、あらかじめ決められた恋人たちへのワンマン・ライヴ「Dubbing06~LIVE DOCUMENT~」が開催された。

あら恋の「Dubbing」シリーズは、これまで映像や舞台装置などを全面的に駆使した単発のコンセプチュアルなステージとして挙行されてきたが、今回は、9月11日に発売された5枚目のフル・アルバム『DOCUMENT』のレコ発も兼ね、全国7カ所7公演のツアーへとグレードアップ。代官山UNITでの公演は、11月1日@梅田Shangri-La、11月2日@名古屋CLUBUPSETと行われてきた120分のフルセット・ワンマン・ライヴとしては締めくくりの公演となり、MC一切なし、ストイックな演奏に照明と映像による演出が高次元に融合した、本ツアーのひとつのハイライトとなった。

ミニマル・ミュージックの祖スティーヴ・ライヒの代表作「18人の音楽家のための音楽」がBGMとして流れる中、バンマスである池永正二を筆頭にメンバーが登場。暗転した状態のまま、アルバム『DOCUMENT』でもオープニングを飾るエモーショナルなトラック「カナタ」へとなだれ込み、ライヴはスタートした。UNITに駆け付けたオーディエンスも、その印象的なギターのイントロ、そして荒々しさを纏った演奏に素早く反応し、一気に会場のボルテージは上がる。続いて「Res」、「Nothing」と、『CALLING』以降、バンド体制になったことで獲得した解放感と疾走感に満ちたナンバーを立て続けに繰り出し、その怒涛のグルーヴで会場を鷲掴みにしていく。

インダストリアルなビートを特徴とする「Conflict」では、テルミン、鍵盤ハーモニカ、タンバリン、ジャンベなどを楽曲に応じて使い分けるマルチ・プレイヤー、クリテツがフロアタム・ドラムを乱打。さらに3rdアルバム『カラ』の人気曲である「トオクノ」でも、ライヴ・メンバーとして定着した大竹康範のギターが加わり、サウンドに厚みを与えるライヴならではのアレンジがなされていた。池永も鍵盤ハーモニカのみならず、ときにはトラックにリアルタイムでエフェクトを、ときには自らライトを持ってメンバーを照らすなど、曲ごとに目まぐるしく変わっていく彼の舞台上の動きも大きな見所であったと言えるだろう。

第2部に入ると、「ワカル」、「クロ」といった、センチメンタルなミディアム・テンポのナンバーを演奏。さきほどまでの鬼気迫るステージングとは打って変わり、1音1音を丁寧なブレスで鳴らす池永。その巧みなメリハリの付け方は、“シネマティック”を標榜するあら恋の面目躍如といったところ。そして中盤のクライマックスには、川上未映子の長編小説『ヘブン』にインスパイアされた同名曲を、ライヴ・バージョンで披露。小説は、いじめに遭う1組の少年少女の、恋愛とも友情とも違う形で導き出された確かな絆と、それが無残にも引き裂かれていく様子を描いた作品であるが、内容に感銘を受けた池永がその少年少女の“辿り着けなかった幸せな結末”を想像して描き出したのが「ヘブン」である。ライヴでも、鍵盤ハーモニカが叙情的で儚さを漂わせながら、祈りを込めてしっとりと鳴らされ、その残響が深く胸を貫いていった。

大きなブレイクを挟むことなく、第3部がスタート。池永ソロ時代を思い起こさせるノイズ「Shadow」から「Fire Glove」へと繋がるヘヴィ・ダブ・サウンドに、攻撃的な「Out」を繋げる『CALLING』の裏ベスト的セレクトを展開。「Out」ではいつにもまして池永がシャウト。キムのドラム、劔樹人のベースからなるリズム隊も本領発揮と言わんばかりに、太くエグみすらあるサウンドを弾き出していく。そしてその流れの中で、『DOCUMENT』で最もファンキーでトライバルな長尺ナンバー「テン」を。ミニマムなリズムのループと、ブレイク時に挟まるノイジー&メタリックな質感のギターが映える楽曲を、感情の赴くまま一心不乱に演奏するメンバーの姿は圧巻。また、以前はそのダークで無機質なサウンドに戸惑っている感があったオーディエンスも、今回の東名阪のツアーでは、そのリズムの快楽性に沸き立ち、身を委ねているのが大きな変化であった。

「テン」のアウトロからは一気にポップ・サイドのあら恋を象徴するダンス・チューン「前日」へ突入。ここまでストイックに溜め込んだグルーヴを一気に解放するかのような凄まじい演奏に、会場の誰もが歓喜の声を上げ、高揚を見せる。そのわかりやすさは、ある意味では過剰とも言えるものであったが、言葉のないインスト・バンドでは必要不可欠であると思うし、実際にそれを演奏の説得力で押し切っていたのは流石の一言と言えよう。個人的には、楽曲中盤のテルミンソロの後、珍しくスポットライトを浴びた劔のベースの立ち姿と誠実な音が強く印象に残り、グッとくる瞬間でもあった。その余韻に浸る隙もなく、あら恋のライヴ・バンドとしての評価を不動にしたオルタナティブ・ダブ・ロック「ラセン」を演奏。メンバーの表情にはさすがに疲労の色が滲むものの、強靭で活きたサウンドが継続して鳴らされており、池永の言語化できないシャウト、ステージの最前まで飛び出しジャンベを連打するクリテツ、さらにギターを振り回す大竹と、メンバーのアクションとテンションも最高潮となった。

本編ラストとなった「Fly」、そしてアンコールの「Back」では、柴田剛監督が制作したMVをバックに演奏。アルバムのリード曲となった壮大なダブ・バラード「Fly」と映像のコラボレートは、今回の東名阪のツアーが初となった(名古屋ではスクリーンがないためステージの前に紗幕を垂らして映像を投影)。映像を流すことでイメージが固定化される懸念もあったが、「Fly」ではその名の通りそれぞれの想いが飛翔し、まるで無限の広がりを見せるかのようであった。「Back」も含め、じっとその映像を食い入るように見つめ、涙を流す者もいれば、時折、目を閉じて音に耳を傾ける者もあり、その“終わり”をきっちりと実感させられる演出は、エンドロールへのこだわりを見せる池永の意図が反映された結果と言える。ダブル・アンコールを期待する声も東名阪すべてで上がったが、UNITでは池永本人が登場し、「今日はやり切ったので」と挨拶すると、それに誰もが納得し、終幕した。

小さな声で礼を述べるほかは一切MCを入れず、その音と池永のシャウト、そして照明を駆使して世界観を作り、120分ぶっ続けで演奏をやり抜いた今回の「Dubbing06」。東名阪で同じセットリスト / 演出を駆使するため、これまでの「Dubbing」シリーズの中では最もシンプルなスタイルとなったが、それでもオーディエンスの満足感がまったく変わらなかったのは、『DOCUMENT』というアルバムで提示されたスケール感を、きっちりと再現できていたことが大きい。喜怒哀楽を静から動へ、動から静へという圧倒的なダイナミクスで表現し、「どんな形であれネクストへ繋がる原動力のひとつになれば」という池永のメッセージを100%そのサウンドに落とし込んだ彼らのライヴは、無二の輝きを放ち、明日への希望として、生きとし生けるすべての者へと還元されるエネルギーを持っていると言えるのだ。(text by 森樹)

>>「あらかじめ決められた恋人たちへ、16年間の歴史を振り返る!」特集ページはこちら<<

セットリスト


“Dubbing 06″ あらかじめ決められた恋人たちへ Release TOUR 2013 [LIVE DOCUMENT]
2013年11月9日(土)@代官山UNIT

1. カナタ
2. Res
3. Nothing
4. Conflict
5. トオクノ
6. ワカル
7. クロ
8. ヘヴン
9. shadow
10. fireglove
11. out
12. テン
13. 前日
14. ラセン
15. Fly

encore 
back

2年3ヶ月ぶりのフル・アルバムを高音質で配信!

あらかじめ決められた恋人たちへ / DOCUMENT

【配信価格】
(左)HQD(24bit/44.1kHz) 単曲 300円 / まとめ購入 2,000円
(右)mp3、WAVともに 単曲 250円 / まとめ購入 1,800円

【TrackList】
01. カナタ / 02. Res / 03. Conflict / 04. へヴン / 05. クロ / 06. テン / 07. days / 08. Fly
「DOCUMENT」 New Album Release Trailer
「DOCUMENT」 New Album Release Trailer
影から光に向けて放たれた、轟音と祈りのメロディ…
幾多のフェス、ツアーを経験しスケール感の増した轟音インスト・ダブ・ユニット“あら恋”、2年ぶり待望のフル・アルバム。“旅立ち”をコンセプトに構築された、シネマティックに疾走するサウンドが胸を貫く。

PROFILE

あらかじめ決められた恋人たちへ

池永正二(鍵盤ハーモニカ、track) / kuritez(テルミン、Per、鍵盤ハーモニカ) / 劔樹人(Ba.)/ キム(Dr.) / 石本聡(DUB P.A.) / 宋基文(P.A.) / 松野絵理(照明) / etc…

1997年、池永正二によるソロ・ユニットとしてスタート。叙情的でアーバンなエレクトロ・ダブ・サウンドを確立し、池永自身が勤めていた難波ベアーズをはじめとするライブハウスのほか、カフェ、ギャラリーなどで積極的にライブを重ねる。2003年には『釘』(OZディスク)、2005年には『ブレ』(キャラウェイレコード)をリリース。このころからリミックス提供や映画 / 劇中音楽の制作、客演などが増加。2008年、拠点を東京に移すと、バンド編成でのライヴ活動を強化。そのライブ・パフォーマンスと、同年11月の3rdアルバム『カラ』(mao)がインディー・シーンに衝撃を与える。2009年にはライヴ・レコーディングした音源を編集したフェイクメンタリー・アルバム『ラッシュ』(mao)を発売。2011年、満を持してバンド・レコーディング作『CALLING』をPOP GROUPからリリース。叙情派轟音ダブバンドとしてその名を一気に知らしめ、FUJI ROCK FESTIVAL、RISING SUN ROCKFESTIVAL、朝霧JAM等、大型フェスの常連となっている。2012年、2曲30分からなるコンセプト・ミニ・アルバム「今日」を発表。それに伴う恵比寿リキッドルーム公演から始まるワンマン・ツアーも大盛況に終わる。

またPVにおいても、柴田剛監督による「back」や、17分に及ぶ「翌日」等、話題を集めており「踊って泣ける」孤高のバンドとして独自の道を切り開いている。

>>あらかじめ決められた恋人たちへ Official HP

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