INTERVIEW : 阿部共成、根岸たくみ(swimmingpoo1)
僕は日本エレクトロニカ / フォークトロニカにおける"裏名盤"として、また入口として、swimmingpoo1のデビュー作『Half Asleep』を多くの人に薦めている。エレクトロニカを基調とし、ポップ・センスに溢れたメロディー・ラインと、軽快かつフォーキーなアコースティック・サウンドはすこぶる愛らしく、無防備に人懐っこい。2010年にリリースされた2nd『How To Enjoy Swimming』では、ゆらりとしたアンビエンスと、前作での柔らかな雰囲気をそのままに、よりビートを押し出したダンサブルな作品を聴かせてくれた。そしていよいよ11月13日、約3年振りとなる3rdアルバムをリリースする。まず、間違いなく彼らの最高傑作であり、名盤である、と断言したい。
緩やかなアコースティックのアンサンブル。絵本や童話のなかに紛れ込んだような詩世界。どこか懐かしくホッとするような、いなたくあたたかな肌触りのあるサウンドは、口づさめる程にメロディックなポップ・センスで綴られる。今回は、swimmingpoo1の中核を担い、Bertoiaでの活動でも一躍その名を知らしめた、根岸たくみと、swimmingpoo1でリード・ギターを担当する阿部共成に、結成から現在に至るまでを訊いてみた。彼らの背景に迫るインタヴューと共に、ぜひ『BONKURA』を手にとって聴いてみてほしい。
インタヴュー&文 : 鎌田修平(nm records)
MDの録音機能を使って一発録りみたいなこともけっこう長い期間やってましたね
――まず根岸さん、ご結婚おめでとうございます(笑)。お相手がmurmurさん(根岸も所属するバンドBertoiaのギター・ヴォーカル)だと知り、びっくりしました。
根岸たくみ(以下、根岸) : 隠していたわけでもないんですけど、大っぴらにしてたわけでもなくて(笑)。
――Bertoiaもよく聴かせてもらっていて、murmurさんのウィスパー・ヴォイスもすごく印象的だったんですけど、swimmingpoo1でもコーラスで参加されてますよね。
根岸 : 今回は1曲だけなんですけど、「You Say "NO!"」っていう曲でコーラスをやってもらってます。以前からもコーラスで参加してもらったり、という感じですね。
――1stのときも参加していましたよね。
根岸 : 1stも2ndもそうですね。基本的にはmurmurにコーラスで参加してもらっていて、それと別にmurmurのソロは僕がレコーディングやエンジニアをやったりしていて。で、ちょっと一緒にやろうかっていうことで、Bertoiaもいま一緒にやってるっていう。
――根岸さん、望月さん、阿部さん、3人の出会いや結成の経緯などお伺いしてもよろしいですか。
根岸 : 出会いは、三鷹四中に阿部と望月がいて、そこに僕が転校してきたんです。最初は僕の家や望月の家に集まってよくファミコンをしたりして。そこから、自分の父親がYMOオタクで、シンセサイザーが家にいっぱいあったんですけど、それとパソコンを使って多重録音とかを中学の終わりくらいからはじめて。そこに阿部、望月のふたりも一緒にやるようになったっていうのがスタートですね。一番最初はスティーヴ・ライヒの「エレクトリック・カウンターポイント」のギターの感じで、多重録音でそういうことができたらなーみたいに始めたんです。
――そこからデビューがいくつくらいだったのでしょう?
根岸 : 僕が大学生のときですね。みんな学生か仕事をはじめたくらいのときにNovel SoundsのHEADPHONES REMOTEさんのCDを聴いたことがキッカケになって、レーベルから声を掛けてもらって在学中にレコーディングして出しました。ネットで「すごくいいね」っていうことを書いたら、レーベル側から連絡がきて(笑)。
――増井さん(Novel Sounds代表)から(笑)?
根岸 : まず佐藤さん(HEADPHONES REMOTE)から「ありがとう」って感じで返事がきて。そのときに僕らもデモ音源みたいなのをmy spaceとかにアップしていて、それを聴いてくれたみたいで。「もしよかったらレーベルから出しませんか」っていうお話をもらって。
――阿部さんとしては当時を振り返ってみてどうでしょう。
阿部共成(以下、阿倍) : 中学校から学生時代にかけて、パソコンで録音してたっていうのもあったんですけど、一方で当時MDの録音機能を使って一発録りみたいなこともけっこう長い期間やってましたね。大学生くらいまでそのMD録りっていう原始的な方法で(笑)。3人で、アコースティックでやる場合はその手法で録るっていうこともよくやってて。そこはいまのアコースティックで表現していくっていうベースにも繋がってるかな、っていうのはあります。
――そのころからの楽曲が1stに入ってるというのはありますか?
阿部 : 一部あったと思うんですけど。
根岸 : 2ndにちょっと入ってるかな。
――あ、2ndに入ってるんですね。
根岸 : 最初にインスト・アルバムを出したいなっていうのがあったんですけど、増井さんのほうから歌もので攻めようっていう話になって。その後やっぱり最初に出したいやつを出しときたいってことで、2ndをそのあとに出してっていう。1stと2ndは学生時代に作っていた曲をベースに作ったんですね。なので新曲がほとんど入ってないんですよ、1stと2ndって(笑)。8割くらいがデモとかの拡張になっていて。やっと3rdで全部新曲でいこうかっていう感じで。
水の音をテーマにしたインストをやりたいなというのが最初にありました
――swimmingpoo1というユニット名も、ふわりとした音にも合ったネーミングだと思ったのですが、これは結成当初から決まっていたんでしょうか。
根岸 : 3人だったり僕が1人だったり、いろんな形態でやっていたんですけど、それを全部デビューに向けて統括したというか。それがまずswimmingpoo1なんですけど、バンド名は、僕がずっと水泳部だったっていうところがあるかなと(笑)。2ndの曲を最初にswimmingpoo1として出そうと思ってたので。水の音をテーマにしたインストをやりたいなというのが最初にありました。
――swimmingpoo1というのは根岸さんがネーミングしたんですね。
根岸 : そうですね。元々は3人でアコギを使ってやる時はスナフキンズって名前だったんですね(笑)。僕が宅録でエレクトロニカを作ったりしてたのがswimmingpoo1だったんですけど、そっちにスナフキンズを合体させちゃった感じですね。
――阿部さん的には3人で、となったときにユニット名なんかは考えたりしてたんですか?
阿部 : まったく考えてなくて、ずっとそのスナフキンズってものが大学生ぐらいまで続いちゃってて。で、一方でそのswimmingpoo1っていうエレクトロニカで、当時は主にボーズ・オブ・カナダに根岸くんも僕もハマってて、そういう音色みたいなものをできたらなっていうのはスナフキンズとは別であったんですけど。CDを作るって話になったときに、経緯はよくわからないんですけど(笑)。最終的にはそのswimmingpoo1っていうふうに吸収されていったという形ですね(笑)。あまりなんでそうなったかは覚えてないんですよ(笑)。
根岸 : 僕もだから、ボーズ・オブ・カナダとかムームみたいなエレクトロニカ・ユニットにしようと思っていたんだけど、日本語の歌ものを最初に出すようにっていう話になったときに、ならじゃあスナフキンズの方なんじゃないかっていうことで、合体させちゃったんですね(笑)。
――3人ともギターをされてますよね。曲作りとしてはどういう感じで仕上がっていくのでしょう。
根岸 : 曲作りは基本的には、僕か望月のどっちかが原曲みたいなものを作るんですけど、それを完成前にみんなに投げて膨らませていきますね。皆ギターのフレーズができたものをお互いくっつけていくような感じです。そこに阿部っちがリードギターを足して。作曲っていうことで言うと、どっちか2人っていうことになるんですけど、それを後でみんなで完成させる感じですね。ちなみにギター3本なんですけど、阿部がエレキギター、僕がクラシックギターで、望月がフォークギターっていうのはずっとデビュー当時から変わらない構成です。
――2ndのトラックでAphex Twinみたいな印象のあった曲があったんですけど、その辺りからの影響はありましたか?
根岸 : そうですね。ギターを弾くときにはあまり気にしないですけど、トラック作りのときは、WARPだったりNinja Tuneだったり、普段はそういったところを好きで聴いてるので、そっち方面の影響は出てると思います。あと日本だとROMZとか。
――ギターポップやネオアコからの影響もあるかなと、聴いてて思ったんですけど、その辺りで影響を受けたアーティストはありますか?
根岸 : ギターポップは実はmurmurの影響もあると思うんですけど、それまでギターポップとかネオアコっていうジャンルをよく知らなくて、そんなに深いところでルーツはないと思うんですけど、コーネリアスさんとかはすごく好きだったりしましたね。あとはネオアコじゃないですけど、旅人さん。僕らswimmingpoo1のメンバー皆で言えば、ギターポップというよりは、ゴンチチとかペンギンカフェとか、そういったアコースティックギターを軸にしたようなインスト作品が皆好きだったりします。ただ僕らの影響どうこうは置いといて、スイプー3人が好きなのは、オルタナの洋楽方面になると思います。
――そうなんですね。
根岸 : 阿部っちはローゼズだよね、やっぱり。
阿部 : それもそうだけど、やっぱりオルタナティヴ・ロックっていうのは3人の根底になっている、一番最初の出発点だとは思います。
根岸 : グランジ、オルタナです。ダイナソー、ピクシーズ、ニルヴァーナ。ちょっと離れるとナイン・インチ・ネイルズ、リンプビズキット。イメージとしてはデジ・ロックみたいなのが一番ルーツにあって、インダストリアル・ロックとか。そこのうるさい部分を取り除いて、ほんわかしたデジ・ロックをしているつもりなんですね。
歌詞はけっこう全部後付けで、映画とか漫画とか小説の内容を切り貼りしてるイメージ
――ありがとうございます。新作についてなんですが、1stでは1/3くらいがボーカル・トラック、2ndはほぼインストで、今作では全編がボーカル・トラックになっていますよね。
根岸 : 1曲だけ望月が作詞して歌ってる「TAMAYURA」っていう曲があって、望月が基本的な曲を作っているんですけど、それ以外の曲に関しては歌詞は僕が書いてます。
――絵本や童話みたいな世界感があって、サウンド的にもそうなんですけど、全体的にいなたいというか、すごく懐かしいほっとする感じで。何かイメージしたものってありますか?
根岸 : 僕はデビュー作から一貫して特にメッセージがなくて、伝えたいことはないんですね(笑)。なんで、歌詞はけっこう全部後付けになっていて、映画とか漫画とか小説の内容を切り貼りしてるイメージです。なので、あまりこだわりはないんですけど、物語っぽくなるように、っていうのはいつも気にしてます。メッセージ性のある歌ではなくて、あくまでも読み聞かせのような。そういう部分が絵本とかそういった、昔話っぽい感じになってるんじゃないかなと。
――根岸さんがルー・リードの「トランスフォーマー」を持ったイラストがブックッレットなんかでも使用されていますが、2曲目の「You Say"NO!"」を聴いて、これか、と思ったんです(笑)。「サテライト・オブ・ラブ」はやはりインスピレーションを受けた1曲だったんでしょうか?
根岸 : 今回のアルバム・タイトルにもなってるんですけど、いまアメリカ方面でBONKURAムービーっていうのが英語になってるんですね。ちょっとオタクだったり、内気なというか、ダメな男の子の青春映画みたいなのが多いんですけど、その中で「アドベンチャーランドへようこそ」っていう少しマニアックな映画があって。その映画のストーリーがまんま歌詞になってるんですよ。主人公が女の子を好きになっちゃうんですけど、その女の子がルー・リードのマニアなんですね。いつも「サテライト・オブ・ラブ」を歌ったり聴いたりしてる女の子で。で、その子を好きになっちゃうんですけど、その女の子はルー・リードをよく知らないような中年のおじさんと不倫関係にあって、主人公になかなか振り向いてくれないと。で、主人公はルー・リードも知らないあんな中年と付き合っちゃって悔しいっていう映画なんですね(笑)。映画を見ると、あ、一緒だ、ってなると思うんですけど、他の曲もみんなそんな感じで、なにかのはなしになってたりするんです。
――もう1つイラストのことなんですけど、出前箱を持ったイラストが出てきますよね。
根岸 : あれは昔の有名なCMの出前坊やのオマージュです(笑)。「You Say"NO!"」ともう1曲リード・トラック的に用意してたのが8曲目の「DEMAE」っていう曲なんですけど、3人でセッション的に作っているときに、なんとなく僕とか阿部っちが思い描いた風景は、出前坊やが夕暮れ時に小っちゃいながらに走り回って出前を届けてる、切ないあのCMの風景だったんですね。あの哀愁感みたいなものがほしいっていうのがよく話に出ていて。で、出前坊やが街を走ってるっていうのが、なんとなくずっと頭にイメージとして残っていて。今回イラストレーターの倉島さんにもそんな感じの状況を伝えて、あのジャケットになりました。
――このイラストって根岸さんが書いてるんだと思っていました(笑)。
根岸 : あ、違います。もう1stから全部、プレイステーションのmoonっていうゲームのイラストレーターさんに依頼してます。ただ1st、2ndなんかは下書きは僕がやってるんですけど、今回はほとんど丸投げでお任せしちゃいました。
あまり機械っていうことにもこだわらないで単純に3人でやって普通にいいなーみたいな
――「トビウオ」もリード・トラック的にYouTubeに先行でupされていましたよね。
根岸 : それもあるんですけど、なんとなくあれだけ夏の曲だったんで、暑いうちに出しときたいなっていう。リリースが11月になっちゃったんで、11月にあれじゃちょっと寒いかなみたいな(笑)。
――なるほど(笑)波打ち際のフィールド・レコーディングやまったりとしたアコースティック・サウンドが、水平線に沈んでいく夕陽のようにセンチメンタルで、とても好きなトラックでした。
根岸 : 哀愁感は近いかもしれないですね。
――さっきの話にも少し出てたんですけど、僕「TAMAYURA」っていう曲すごく好きやったんですよ。
根岸 : なんとなく、日本の古いじゃないですけど、東京じゃない色があるというか。
――そうですね。僕もあの曲っていい意味で田舎くさいというか、ほんとにさっき根岸さんおっしゃってたみたいな古きよき日本というか、ノスタルジックな感じで。すごい好きな感じだったんですけど、あの曲名の由来っていまわかったりしますか(笑)?
根岸 : あれだけ完璧に望月が(笑)。勝手に代弁させてもらうと、「たまゆら」は魂ゆらゆらとは聞いてます。歌詞に意味はないと聞いてますが、古い感じの言葉遣いにしたかったと言ってましたね。
阿部 : 望月くんもわりと意味のある歌詞を作るの苦手な人なので(笑)。そういう雰囲気が伝わるようなものができればたぶんそれでOKな人です。
根岸 : 僕も望月もとにかく曲のイメージだけですね。後は一緒にレコーディングしながらいろいろ話したのは、僕らみんななんですけど、BOOMの「島唄」とかそういう感じの雰囲気を出したいっていうことをよく言っていて。そんな感じで、ちょっと遠くから鳴ってるような、そこも含めて懐かしい感じになったんじゃないかなぁと思います。
――ありがとうございます。今作での聴きどころとしては。
阿部 : 前2作と違うのは3人で決まったコンセプトってあまり決めてなくて、今までのところからまたもう1回スタートを切って作ったもの、という感じで。エレクトロニカとか、ポストロック的な表現にあまりこだわらず、いままでやってきたこととか、これからやってみたいことであるとか。今回はいままでよりわりとポップになったかなとは思うんです。もうちょっと聴きやすさとか、あまり機械っていうことにもこだわらないで、単純に3人でやって普通にいいなーみたいなところをリスナーの人にどう聴かせようかという。
――すごくポップに仕上がってるなーとは思ってて、1stはエレクトロニカ、フォークトロニカの入り口として、お客さんや友達に薦めたりするんですけど、今作もそんな感じで、幅広くお勧めできる作品やなーというのは感じました。
根岸 : 今まで僕、けっこう独裁的にやっちゃってたんですよ。2人に、あれ、こういうの録って、とかいう感じでお願いしちゃうこととかも多かったんですけど、今回はいい意味で3人のパワー・バランスが取れてるというか。今までは多重録音で作り上げたものをあとでライヴ用に3人で弾けるようにアレンジしたものが多かったんですけど、今回は前2作を作ってる間にライヴで披露してったような曲がほとんどになっていて。いままでレコーディングありきだったんですけど、ライヴで見てほしいなっていうのが一つと、後は、今回望月がメインで作った曲が半分近く入ってて。僕は逆に楽器部分とかに力を入れてなくて、歌に専念してみたところもあって、そこら辺をじっくり聴いてもらえたらうれしいなと思います。
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