2013/09/11 00:00

ビョークやシガー・ロスと並んで、アイスランドを代表するバンドとして高い評価を受けるムームが、4年ぶりのニュー・アルバム『Smilewound』を日本先行でリリース。初期メンバーである双子姉妹のギーザが本格的に復帰したことでも話題の今作は、生音中心のポップな楽曲から、幻想的なエレクトロニカ・トラックまで多彩な表情を持った1枚となっている。日常の喧騒を忘れ、ぜひゆったりと耳を澄ませて聴いていただきたい。

mum / Smilewound
【価格】
mp3、WAVともに 単曲 200円 / まとめ購入 1,500円

【Track List】
1. Toothwheels / 2. Underwater Snow / 3. When Girls Collide / 4. Slow Down / 5. Candlestick / 6. One Smile / 7. Eternity Is The Wait Between Breaths / 8. The Colorful Stabwound / 9. Sweet Impressions / 10. Time To Scream And Shout / 11. Whistle (feat. Kylie Minogue) (Bonus Track)


変わることのない“人の営み”のうつくしさ

ここにひとつのもこもことした帽子がある。正真正銘、アイスランド産の羊毛で編まれたヴァイキング帽で、一昨年、旅行に行った友だちが買ってきてくれたものだ。村の老人たちによる手作りの品ということで、手触りはよくとても温かで、冬山にスキーに行ったときは大変重宝したのだけれど、ちょっと風変わりなデザインのためになかなか東京の街中では使いづらい。きたるべきシーズンの到来を待って、今年も冬山に携えていこうと思っている。しかし、北欧の手みやげというのは、往々にして他国ではその使用の用途を制限されることが多い。あまりにも独自の文化をもっているがために、その国の色がどうしても出過ぎてしまうのだ。ミッキー・マウスは世界的なアイコンにはなったが、ムーミン・トロールはトーベ・ヤンソンの物語抜きには語れない。どうしても雪に埋もれた大自然と、その景色と同じくらい白い肌の人々のことを想像せずにはいられないのだ。

アイスランドのポップ・ミュージックもまた、やはりそのような傾向を持っていて、彼らの音楽というのは、世界的に流通しているポップ・ミュージックの中でも、かなり異色の地位を占めているように思う。まぁ、音楽は土産物とは違って、使用の用途を制限されるということはないのだが、それでも、アイスランドという国そのものと切り離せない、独特の色合いを纏っていることは間違いない。

Mum / Toothwheels
Mum / Toothwheels

たとえば、アイスランド出身のアーティストをあげてみてもわかるだろう。、、、オブ・モンスターズ・アンド・メンなど。みな一様に、メランコリックで自然と人間の連綿とした営みを感じさせる音楽だ。これには、やはりかの国の風土が影響しているとみて間違いない。アメリカとヨーロッパの中間地点にあり、四方を海に囲まれ大自然と共に暮らし、社会・経済状況は不安定だが人々に不安はない… そんなゆらゆらとした、どこかはっきりとしないが影響力の非常に強い風土に生きる人々の生み出す音楽には、同じ様な陰が落ち、同じ様な光が射すの最もなことだ。しかしながら、ムームが、ビョークやシガー・ロスと決定的に異なるのは、やはり大自然との向き合い方が圧倒的に薄いということ。ビョークの『POST』が崖の上で大自然と生きる少女を想起させるのに対し、ムームの『Yesterday Was Dramatic - Today Is OK』はむしろ、温かな人と人のつながりを思い起こさせる。これはムームというバンド自体が、あくまでも“人の営み”を体現するバンドであり、あたかもコミューンやヒッピーの集団に近いような形態をもっているからである。

たとえば、今作『Smilewound』においても、それは証明されている。97年の結成時からのメンバーであり、06年に脱退したギーザが今作では復帰したことによって、全体のサウンドは初期作を思い起こさせる様な仕上がりになった。ムームは、割と頻繁にメンバーが流動的に変わるバンドだが、それによってサウンドが変化することを恐れないバンドでもある。その在りかたは、人口流入の激しかったヨーロッパにおいて、つねにそうした文化交流の拠点となり柔軟に姿を変え続けてきた、アイスランドそのものの姿であるともいえるかもしれない。チップ・チューンのようにチープな打ち込みサウンド、そして、それとは対照的に、生楽器のアンサンブルの豊かな温かみ。薪がくべられた暖炉の周りで、長い冬を乗り切るために粗末な楽器を用いて歌を歌っていた、彼らの祖先となんら変わらない音楽との付き合いかたをいまも続ける、ムーム。何年経ったとしても、決して、変わることのない“人の営み”のうつくしさを彼らの音楽から感じ取って欲しい。(text by 小田部仁)

mumの過去作はこちら

mum / Yesterday Was Dramatic - Today Is OK

ムームの原点とも言うべき傑作デビュー作が嬉しいリイシュー! エレクトロニクスとアコースティック楽器によるオーガニックなサウンドを融合させた音楽性と、ポップでキュートな世界観で世界各地のリスナーをムームの虜にしたこの一枚。複雑に作り込まれたリズム、幻想的なヴォーカル、生楽器の旋律が絡み合いまるでひとつの物語のような作品となっている。

mum / Early Birds

ムームの初期レア音源集! 本作は2001年のデビュー作リリース前の98年から2000年に録音されたもので、デモテープやアナログ限定リリースからのレア音源、未発表音源など15曲を収録! ファースト・アルバムにおけるエレクトロニカ・サウンドの萌芽と、まだ開花する前のオリジナリティとクリエイティヴィティが詰まった初々しいコンピレーション。

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no.9 / The History of the Day

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沖縄出身の女性シンガー・ソング・ライター。J-POPシンガーOLIVIAの実妹。5年ぶりとなる本作は、前作同様、ミニマルなエレクトロニカを基調としながら、芳醇さを増したオーガニックで温かみのあるトラックが、表現力にさらなる広がりが生まれた歌声を包み込み、天上の音楽とでも言うべき荘厳な美しさを湛えた作品となった。

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PROFILE

mum

アイスランドの首都レイキャビークで結成されたドリーミー・ポップ・バンド。2000年に『イエスタデイ・ワズ・ドラマティック-トゥデイ・イズ・オーケー』でデビュー。エレクトロニクスとアコースティック楽器によるオーガニックなサウンドを融合させた音楽性が高い評価を受け、イギリスだけで40以上の媒体から年間トップ10に選出される。これまでに5枚のスタジオ・アルバムをリリース。過去には原田知世など日本のアーティストへ楽曲提供を行ったこともあり、フジロックやtaicoclubなど様々なフェスにも出演するなど、ここ日本でも高い人気を持つ。

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この記事の筆者

[レヴュー] mum

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