2014/11/18 19:17

千葉県を中心に活動を続けるcamellia。約2年振りのリリースとなる待望の1stフル・アルバムでは、プログレッシヴなインストゥルメンタルと美しい歌を纏め上げる手腕に磨きがかかっている。変拍子、奇数拍、ポリリズムなど、言葉にすると取っ付きづらい印象を与えることが多いが、この作品ではそれらが完璧に計算され、効果的に使用されている。演奏はさらに綿密に、言葉はより素直に、彼らの持ち味が絶妙のバランスで融合した一枚だ。 

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camellia / “42'23” (左:MP3 右:HQD)

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【Track List】
01. “13'27” part1 / 02. “7'56” / 03. “10'10” / 04. “5'40” / 05. “13'27” part2 / 06. “5'10”

INTERVIEW : takashiishiwata(camellia)

無限の反復と一瞬の驚きがもたらす、音楽のよろこびと不思議。各ところで評判を呼んだEP2枚を経て、camelliaが、ついに1stアルバムをリリースする。彼らの楽曲は緻密に構築されており音楽的知性を感じさせるが、それと同時に、心の澱がそっと溶かされていくような、そんなポップな陶酔感も感じさせる。この絶妙なバランス感覚に基づいた音楽はどのようにして生まれるのか、camelliaのマエストロでありバンド・リーダーの石渡隆史に話を聞いた。

インタヴュー& 文 : 小田部 仁

あんまり内に籠っているような印象を与えるような作品にはしたくなかったんです

ーー前作から2年振りのリリースになるわけですが、今作は収録時間が44分と前作とおよそ倍の収録時間になっていますね?

takashiishiwata(以下、石渡) : EPをすでに2枚出したので、そろそろフル・アルバムを作ろうっていう気持ちが今回は元々ありました。収録時間に関してはあんまり難しく考えているわけではなかったですけど、単純にアルバムのフォーマットとしてLPに収まるくらいのサイズの作品、つまりその時代の音楽が好きなので、うまーく微調整してそうしました。ちなみに今回の作品は製作期間を7ヶ月位かけて録音したので、満足度がわりと高くて。最後まで何度も聴いてもらいたいっていうような作品になってます。

ーー前2作は、楽曲のアプローチとして似通っていた部分も多かったと思うんですが、今回の作品はフル・アルバムであるということも影響してか、camelliaの音楽が飛躍したような印象を受けました。まず、最初のコンセプトとしてはどのようなアルバムを思い描いていたのでしょうが?

石渡 : 純粋な意味でのキャッチーさ、みたいなものは意識していました。まあ僕らの根本である、ミニマリズムとかインストと歌の両立、と言うようなこだわりはもちろんありますけど。できるだけ、小難しい楽曲ながらも意固地にならないで、開けた感じを出したいなと。あんまり内に籠っているような印象を与える作品にはしたくなかったですね。

ーーすごく子供っぽい質問になってしまうかもしれないんですが、アルバムの最後に収められた歌モノの曲が、僕は、とても好きなんですけど。この曲のアルバムにおける役割って、最後に着地点や箸休めとして機能しているんでしょうか? それとも、何か必然的な別の意味があるんでしょうか?

石渡 : あそこにあの歌を入れる、と言うことは自分にとって割と自然でした。単純にやりたかった。昔はインストにかける比重が大きかったんですけど、最近はそういうこともなくなってきて、歌とインストの割合をイーブンに近づけてもおもしろいのかな、とも思ったり。派手なインストで、指をめっちゃ早く動かしてる方が安心な時もあるんですけど… 今は、ちょっとでも心に引っかかることとか、我慢していたところも歌ってみてもいいなと思っていて。そういう意味で、あの歌で終わらせるというのは、良く言うと何をやっても自分達なんだ、と言う気持ちの現れですね。そんな大げさでもないんですけど(笑)。

自分の頭だけじゃなくて、耳や感性を信頼する

ーー石渡さんは、以前のインタヴューで「歌とインストの作曲の仕方に区別はつけない」とおっしゃっていましたが、インストゥル・メンタルにおける曲想って、どのようなところから湧いてきますか?

石渡 : まず、使いたいフレーズのようなものがあって、そこに合わせてパズルのように構築していくんです。あんまり一曲単位で考えているようなところは無くて「最近こういう曲調が多いから違う風にしよう!」っていう単純な発想もありますね。ちょっと似たような曲が多くなってきたなぁ、と思ったら「久しぶりに16分の15の曲でもやるか!」「BPM250の曲はどうだ!」みたいな感じでわざと縛って作ったりもする(笑)。

ーー今のお話を伺っていると、石渡さんは、かなりご自分の音楽に対して楽典的にコントロールが効く音楽家なんだなぁと思うんですが、逆に、高揚感みたいな感覚的な要素っていうのは音楽のどのような部分に見いだしているんですか?

石渡 : んーどうですかね、僕はそのワクワクするような感覚しか持ち合わせてないつもりですけど。でも、そういう感覚って分析するのは難しいですよね。作曲と言う意識的な行動は、本当は心底ワクワクしていないってことかもしれないじゃないですか。自分的にはレベルが高いと思っている予定調和、って感じというか。なので自分がドキドキする為の状況を整えるために、何重にも構築して曲を作っているのかもしれないですね。うちらは僕が曲の中身を全部書いてるんですけど、メンバーに先に情報を与えずにスタジオに入って、口頭でいきなりフレーズ伝えてみんなで「せーの!」で作っていくんですよ。
僕の頭の中では一応音は鳴っているんですけど、演奏するまで、やっぱりどうなるかわからない。なのでいい感じでアレンジできていた時の最初のドキドキや高揚感は重要ですね。「いまの、良かったんじゃね?」みたいな。

ーーじゃあ、楽典的な部分に関してはどこまで重きをおいていますか?

石渡 : 自分がもっている知識っていうのは、楽典を上下巻にわけると、上巻分ぐらいのもんなので、必然的にそれに基づいて作っても限界が出てくる。だから、そこを越えるために自分の知識だけじゃなくて、耳や感性を信頼する。そうしないと自分の能力以上のものが作れないタイプなんですよ。いいものってたまたまできるときもあると思うので。考えて、考えて、作っていくと、どうしても似てしまったり、自分のもっている能力の範囲に統一されていっちゃう。それはすごくつまらないので、知識を使う時は使いますけど、最後は感覚ですね。

ーーっていうことは、ある程度、インプロヴィゼーションにおいて偶然生まれてきたものが楽曲にも還元されていくっていうことなんだと思うんですけど、camelliaの音楽は完全にインプロじゃなくて、枠組みのようなものがあると思うんですが。

石渡 : 楽曲の長さは絶対的なところはあります。ジャム・バンドっぽいインストがあんまり好きじゃなくて、それはプレイヤーによる指示とかで、観ている側にも楽曲が変化していくのが予測出来てしまうじゃないですか? そうすると「なんで?」っていう驚きが無くなってしまう。だから、パッと聴きでは数えられない小節数とかに重きを置くこともあります。

ーーそれって、演奏するの大変そうですね…。

石渡 : 僕らにとっては普通なんですけどね。普通のバンドだったら4~8小節位で進行していくところを、僕らだったら32小節とか64小節で進行してたり。まあアンサンブル的に、それぞれ演奏している拍が違うので、ギターは32小節なんだけどベースは48小節みたいなズレはあります。でも時間的には同じ長さで変化していく。大変ですねって言われることも多いですけど、実は、これってズレてるからこそ変化するポイントが分かりやすいっていうのもあるんです。ズレ方を聴いて「あぁ、ベースと2拍半ずれてるからこっちは今は何小節目だな」っていうのがわかってくるんですね。

楽曲の長さに耐え得るだけの魅力的なリフがなければならない

ーーインストってクラシックからアンビエントに到るまで、本当に色々な種類、そしてアプローチがあると思うんですけど、camelliaの音楽っていうのは、クラシックのように主題(テーマ)が何度も形を変えて出て来るようなタイプではない。かと言って、ロック・インストのようにリフ一本で成立する感じでもない。どちらかというと小さなフレーズが、長い反復の中で変化を徐々に生み出していく、そんな音楽だと思うんですが、どういったポイントを楽曲の中では意識されていますか?

石渡 : ミニマル・ミュージックの要素は好きなので、ある程度の長さはやっぱり必要だと思ってますね。もちろんただ長いだけでもダメで、楽曲の長さに耐え得るだけの魅力的なリフがなければならない。それを少しずつ変化させつつ伏線引いて、大きな波のようにする、と言うのが基本的なイメージですかね。実は、明確なテーマを考えるって言うのは僕あんまり得意じゃないんですよ。テーマってどうしても大げさになってしまうでしょ? それと、管楽器とかいればいいですけど、僕らは人数が少ないので、テーマを弾く人間がいるとベーシックを弾く人間がいなくなっちゃうんですよ。今後はバランス良く作っていけたらといいな、と思ってますけど。

ーー今作では、割とハッキリとしたジャズ的なアプローチがみられると思うんですけど、インストってジャズに転ぶと、そのまま一辺倒にそっちの方向性に向かいがちだと思うんですが、camelliaの場合そうなっていませんよね。あぁいう楽曲に対するアプローチってご自分ではどのように捉えていらっしゃるんですか?

石渡:まぁ、なんかネタないかなぁ、あージャズやってみるか、ぐらいですかね(笑)。まあ自分達が何かスタンダードなリズムを使ったらどうなるのかなってトライしてみるのは何でもすごく面白いです。僕らの場合、素養がないぶん絶対にコテコテにはならないので。今回だと、ジャズを本格的にやっているミュージシャンだとできないアプローチをしていくことが怖くない。後半はドラムン・ベースになっちゃってるし(笑)。

ーーご自身がこれまで受けてきた音楽的な影響の中で一番大きかったものってなんですか?

石渡 : ぱっと出てこないですね。音楽は本当に何でも好きなんですよ、クラシックからポップスまで、よく好きでしょって言われるのはプログレッシヴ・ロック。実際かなり好きです。ただ、ブルーズはちょっと苦手でしたね。ベーシックなスリー・コードの曲っていうのがちょっと。ようは楽曲の面白さっていうよりも、プレイヤーの魅力でなりたっているところが、よくわからなくて。個人の技量を判断する能力っていうのが昔無かったんですよ、だから、同じフレーズの繰り返しに聴こえてしまって… だったら、「わ!」って驚くような曲のほうが好きだった。元々は、演奏よりも曲の引っかかりで音楽の好き嫌いを判断しているところがありましたね。ビートルズ、ニルヴァーナとかは単純に曲が好き。キング・クリムゾン、ブライアン・ウィルソン、トータスとかは曲の伏線、芸術性が好き、みたいな。好きなの言っていくときりがないです。そういう広くて雑なところからの影響なのかもしれないんですけど、camelliaでも難しいところはすごく難しくするし、簡単なところは簡単でいいやって思うし、歌を使う使わないも、そんなに頑にはなっていないんで。常に何かしらから影響は受けてますよ。

パンクやオルタナティヴ・ロックにあるような初期衝動的な部分が重要です

ーー前作から何年かを経て、今、camelliaにおけるバンド・メンバーの状況ってどうなっていますか?

石渡 : メンバー全体の基礎力の向上があったので、新しい曲に手をつけるにしても、覚えてもらう時間とか練習する時間がすごく短くなってきていますね。前作は曲のある箇ところがどうしても演奏出来ないから、それをできるようになるまでに1年とかかかっちゃたりしていたんだけど、最近では、その時と同じ難易度の楽曲でもできるようになるまでのスピードが格段に早い。僕としては嬉しい手応えがありますね。

ーー今作もそういうバンドの充実した状況が反映されたところは大きいんでしょうか?

石渡 : そうですね、リズム隊のレコーディングはスムーズでしたから、助かりました。後は、音の作り込みからもう一歩踏み込んで、メンバーにも楽曲を更に好きになってもらった状態で録る、ということは意識してました。その辺はうまくいったかなと思います。

ーーライヴに関してはいかがでしょうか? 新作を作り終えて、今の状況としてはどのような状態にありますか?

石渡 : 状態はすごくいいと思います。細かく作った楽曲を、ライヴでは気にしないで派手にやる、というのが僕らのスタイルなんですが、それが確立できてきたような気がします。決して、演奏で楽曲の難しさを表現したいというわけではないんです。言葉にしたら安っぽいんですけど、パンクやオルタナティヴ・ロックにあるような初期衝動的な部分が重要です。楽曲の緻密さとのギャップはかなりあると思います。

ーーcamelliaというバンドにおける、演奏の緊張感ってどのようなものですか?

石渡 : 自分達ではよくわからないですけど、観ている人にはたまに怖いとか言われますからね、それなりに緊張感あるんじゃないですかね?(笑)。曲があぁいう感じなのに、怪我したりとかわりと危ういパフォーマンスもあるので、初見の方には驚かれることが多いですね。そういう意味では、観客の思った通りにはいかないライヴになっているのかなとは思います。
これは個人によって感覚がかなり変わると思うので、まずは見に来て下さい(笑)。

ーーこのcamelliaというプロジェクトでは、完璧な音楽を追究したいっていう想いはあるんでしょうか? それとも、フレキシブルに隙間をもたせながら音楽として完成させたい?

石渡 : 制作を始める時点では几帳面な部分もあるっちゃありますけど、やっぱり人間なんで何かを作ろうと思っても途中で自分の考え方が変わる時もありますよ。大体、制作のスパンがすごく長いので、最初に思い描いたイメージが完成する頃には消えてしまっているなんてこともある。完成したときに通しで聴いてみて「このバランス感覚で、こういう音楽をやっている奴らっていないよな、でも何か良くね?」って思えたら、それで全然OKです。あまり深く考えてないですね。

ーー今後、どのようなチャレンジをcamelliaでしていきたいとか考えていることってありますか?

石渡 : リリースはできるだけ増やしたいなと思っています。曲も今のアルバム作っている間に何曲かできているので。いきなり知らない曲をやるよりかは「先に音源出してあげたほうがいいのかもな」と、最近は思ってます。僕らの場合は尺も長いので。アルバムしっかり聞いてきたのに知らない曲が1曲20分あった、とか(笑)。何ともいえない感じですよね。
今バンドはすごくいい状態だし、全員やる気なんだけど、何があるかわからない世の中なので、出し惜しみなくその時その時でしっかりやっていきたいっていう気持ちでいます。

RECOMMEND


Brian Eno / The Drop
アンビエント・ミュージックの生みの親、ブライアン・イーノ。アルバムのスタンスとしては、Jazzを意識した作品。本作を構成するミニマリズムとアンビエント、ジャズといった要素は、camelliaの『42'23”』とも共通する。


The Cinematic Orchestra / Motion (Japanese Version)
もともとDJとして活躍していたスコットランド・エジンバラ出身のコンポーザー、ジェイソン・スウィンスコーが中心人物となってスタートした不定形の音楽ユニット、ザ・シネマティック・オーケストラ。本作は、長年廃盤になっていデビュー・アルバム。セカンド・アルバム『Everyday』以降の、本格的なオーケストラとしての体勢が整う以前の貴重な作品です。



Glaschelim / Perfect Cradle
kilkのレーベルサンプラーなどに楽曲が収録され、各方面から絶賛されていたロックバンドGlaschelimの1stアルバム。美しいアンビエント・ギターと重厚なディストーション・サウンドにブレイク・ビーツ、インダストリアルやノイズ系のサウンドをミックス。精神世界を描いた映画のような世界観は、camelliaの音楽と近接している。

live schedule

2013年9月16日(月)@千葉 LOOK
2013年9月20日(金)@盛岡 CLUB CHANGE
2013年9月21日(土)@秋田 LIVE SPOT 2000
2013年9月22日(日)@八戸 ROXX
2013年9月23日(月)@いわき CLUB SONIC
2013年9月27日(金)@越谷 easygoings
2013年9月28(土)@新宿 NINE SPICES
2013年10月4(金)@京都 GROWLY
2013年10月5(土)@神戸 ARTHOUSE
2013年10月6(日)@心斎橋 HOKAGE
2013年10月7(月)@渋谷 STAR LOUNGE
2013年10月11(金)@仙台 FLYING SON
2013年10月12(土)@新潟 CLUB RIVERST
2013年10月13(日)@高崎 SUNBURST
2013年10月14(月)@宇都宮 HELLO DOLLY
2013年10月18(金)@熊谷 HEAVEN'S ROCK VJ-1
2013年10月19(土)@福井 CHOP
2013年10月20(日)@甲府 KAZOO HALL
2013年10月25(金)@水戸 LIGHT HOUSE
2013年10月26(土)@伊那 GRAMHOUSE
2013年10月27(日)@名古屋 CLUB Zion
2013年11月1(金)@札幌 Spiritual Lounge
2013年11月2(土)@札幌 Spiritual Lounge
2013年11月3(日)@旭川 CASINO DRIVE
2013年11月4(月)@苫小牧 ELL CUBE
2013年11月30(土)@稲毛 K's Dream

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PROFILE

camellia
2005年に楽器隊3人で結成され、2010年よりPAを加えた4人編成で活動。ライブ以外での露出はほとんどないものの、会場での演奏が噂を呼び各地で話題になっている。特に楽曲の難易度を理解できる著名人、音楽関係者からの支持は絶大である。比較的音楽性の近いbattels、tortoise、KING CRIMSON、STEEVE REICH等を引き合いに出されることもしばしばあり、その音楽性高さ故に、現在海外での公演は行っていないにも関わらず、当たり前のように世界規模で認知されている。

>>公式HP

この記事の筆者

[インタヴュー] camellia

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