2013/08/15 00:00

1996年のデビュー以来、数々の世界的大ヒットを生み出し、UKロック界を牽引してきたグラスゴー出身の4人組バンド、トラヴィス。力強いロック・アンサンブルとメランコリックな美しいメロディで世界中に根強いファンを持つ彼らが、5年の沈黙を破りニュー・アルバム『Where You Stand』をリリース。プロデューサーにはザ・ハイヴス、ザ・カーディガンズなどの作品を手がけたマイケル・イルバートを迎え、ロンドン、ノルウェイ、ニューヨーク、ベルリン(ボウイ作品で知られるハンザ・スタジオ)など、世界各地で作曲&レコーディングが行なわれたという今作。5年もの準備期間を経て綿密に創りあげられたこの1枚からは、輝き続ける彼らの静かな熱情を感じ取ることができる。

Travis / Where You Stand
【配信形態】
WAV、mp3

【価格】
mp3、WAVともに 単曲 250円 / まとめ購入 1,500円

【Track List】
1. Mother / 2. Moving / 3. Reminder / 4. Where You Stand / 5. Warning Sign / 6. Another Guy / 7. A Different Room / 8. New Shoes / 9. On My Wall / 10. Boxes / 11. The Big Screen / 12. Anniversary (Bonus Track) / 13. Parallel Lines (Bonus Track) / 14. Ferris Wheel (Bonus Track)

『Where You Stand』アルバム・メイキング映像
『Where You Stand』アルバム・メイキング映像

地に足をつけキャリアを積んできたバンドとしての説得力

今年6月、ホステス・クラブ・ウィークエンダーに出演した彼らのライヴを観た際、そのあまりの説得力に「う~む、さすが」などと、唸ってしまった。ブルースやカントリーからの影響を感じさせるレイドバックしたプレイはもちろん。ギター1本(しかも、完全マイク無しの究極のアンプラグド・ヴァージョン)で、大ヒット曲「Flowers In The Window」を、会場まで巻き込んで大熱唱してしまうプレイ・アビリティの高さには、ブリット・ポップ時代にしのぎを削っていたバンドならではの底力を感じた。

トラヴィスというバンドは、正直なところをいうと、僕ら日本人にとっては、オアシスやブラ―などのブリット・ポップ本流のバンドと比べるとやっぱりちょっと地味な印象があるバンドだ。「Why Does It Always Rain On Me? 」や「Flowers In The Window」などの当時の熱心な洋楽ファンにとってはお馴染みだった彼らの代表曲も、いまの若い洋楽ファンにとっては、残念なことに「Wonderwall」(オアシス)や「Creep」(レディオヘッド)ほどには知られていない。オアシスやブラ―を中心とした当時のイギリスのポップ・ミュージックを巡る“狂騒”というのは、当時のイギリスの外交政策=クール・ブリタニカに端を発し、音楽だけでなく、政治・エンターテインメント・ファッションその他諸々の要素を巻き込んだ、音楽とは離れたところにあるプロモーション合戦に軸が置かれていたわけで、そういった表層的な熱狂から一歩引いたところで、淡々と“いい曲”を書き続けていたトラヴィスは、バンドとして非常に優良児だった。あるいは“良い子過ぎた”と、言えるかもしれない。

Travis / Where You Stand
Travis / Where You Stand

しかし、ブリット・ポップ・ムーヴメントから20数年たち、当時、華々しく中指を突き立てていたポップ・スターたちの現況をみて思うのは、いまも変わらず一貫したスタンスで説得力を持ち続けるというのは難しいな、ということ(特に誰とは言わないけれど)。当時の青臭い言葉を、中年に達したいま歌おうと試みると、やはり言葉は上滑りしていく。トラヴィスが、前作『Ode To J.Smith』から5年を経て、この『Where You Stand』で証明してみせるのは、彼らがデビュー以来こだわり続けるスタンスの確かさと、地に足をつけキャリアを積んできたバンドとしての説得力である。トラヴィスは一貫して、バンドとして著名になることというよりも“いい曲を残す”ということにこだわり続けてきた(彼らの3rdアルバムのタイトルはご存知の通り『The Invisible Band』である)。今作においても、人生における普遍的なテーマを歌った楽曲の強さと、かろやかなメロディー・ラインの美しさは健在である。円熟したバンド・アンサンブルは力強く、フラン・ヒーリィの歌声はどこまでも優しい。『Where You Stand』のタイトルが示す通り、自分たちの来し方行く末に思いを馳せるバンドの等身大の現在が記録されている。

特にすばらしいのは、3曲目の「Reminder」。息子に向けて「あれをしてはいけない、これをするならこうしなさい」とうるさく小言を言う“オヤジ”になったフランならではの楽曲なんだけど… 自分がこの世から消えてしまっても、それでも愛を伝えたいという切なる想いが込められていて、「あぁ、息子ができたら必ず聴かせよう」なんて思ってしまっている時点ですでに、トラヴィスの術中にハマってしまっている。派手なところも、センセーショナルな部分もなにもない、このトラヴィスの最新作『Where You Stand』。でも、キャリアを積んだバンドとしての人肌の温もりと、いつになっても色褪せない、その楽曲のうつくしさには、注目して然るべき輝きがある。昔からのファンの人にはもちろん。いまからファンになる少年少女にも、いい音楽を聴きたいなら、これじゃないかなと安心して薦めることの出来るアルバムだ。(text by 小田部 仁)

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PROFILE

Travis

スコットランドはグラスゴー出身、レディオヘッドやオアシス、コールドプレイと並び英国を代表するロック・バンド。1997年に『グッド・フィーリング』でアルバム・デビューを果たすと、99年ナイジェル・ゴドリッチをプロデューサーに迎えたセカンド・アルバム『ザ・マン・フー』をリリース。この作品がじわじわと話題を呼び全英チャートの1位を獲得すると、全世界で約400万枚のセールスを記録。続くサード・アルバム『インヴィジブル・バンド』(2001年)は全英チャート初登場1位、全世界で約300万枚を売り上げ、トラヴィスのUKトップ・バンドとしての地位を確実なものとした。03年には4th『12メモリーズ』、04年ベスト・アルバム『シングルス』、07年5th『ザ・ボーイ・ウィズ・ノー・ネーム』をリリース。その後古巣INDEPENDIENTE/EPICとの契約満期終了を経て、2008年、6th『オード・トゥ・ジェイ・スミス』を自らのレーベル、レッド・テレフォン・ボックスから発表、大きな話題を呼んだ。2013年、約5年ぶり通算7枚目となる待望のオリジナル・ニュー・アルバム『ウェア・ユー・スタンド』をリリース。

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この記事の筆者

[レヴュー] Travis

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