2013年kilk recordsの新連載、第4回目は海保けんたろー

kilk recordsの主宰者、森大地が、さまざまなゲストとともに音楽業界にありかたについて語りあう対談「kilk records session 2013」。4回目となる今回の対談相手は、ロックバンド、SONALIO(ex.メリディアンローグ)のドラマーであり、アーティスト支援サービス「Frekul」を運営する株式会社ワールドスケープの代表取締役社長でもある海保けんたろー。バンドマンであり会社の経営責任者という、同じ立ち位置にいる2人。「ここまで思想が一致しているとは」とお互いが口にするほど意気投合した対談。そこで語られた音楽業界に対する疑問点、改善案、そしてその未来。「ここ数年で“新・音楽業界”みたいなものが作られていく気がする」という2人は、今後連携して音楽業界を盛り上げて行くという。音楽を愛するものとしての使命感に満ちた発言の数々を、括目して読んでほしい。

進行・文 : 岡本貴之

kilk records(森大地)

2010年、Aureoleの森大地により設立。「精神に溶け込む、人生を変えてしまうほどの音楽との出会い」。kilk recordsはそういった体験を皆様にお届けすることを第一に考えております。オルタナティブ・ロック、ポスト・ロック、エレクトロニカ、テクノ、サイケデリック、プログレッシブ、フォーク、アヴァンギャルド、アンビエント、ヒップ・ホップ、ブレイクコア、インダストリアル、ジャズ、クラシカル、民族音楽... 。魂を震わせるような音楽であれば、ジャンルは一切問いません。kilk recordsが最もこだわりたい点は「独創性」です。信じられないほどの感動や興奮は「独創性」から生まれるように思えます。これから多数の作品をリリースしていきます。末永くkilk recordsにお付き合いくだされば幸いです。

kilk records official HP

海保けんたろー

SONALIOのドラマーで、株式会社ワールドスケープ代表。Frekul(フリクル)の代表でもある。Frekulは、リスナーとアーティストをダイレクトにつなぐ新しい無料音楽配信サイトです。mp3やメッセージをアーティスト本人から受信したり、アーティストを応援したりすることができます。iPhone Androidにも対応している。

フリクル official HP

2013年のkilk recordsを担う新人アーティストをいち早く紹介するコンピ

7人の新人アーティストが集結したフリー・サンプラー

VA / kilk Sampler 2013 New Artists
【参加アーティスト】
Ajysytz / urbansole / Glaschelim / AUDIO BOXING / köttur / Marrybelle / arai tasuku

artwork : kiloglams

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独立するとしてどんな方法があるのか、考え直した(海保)

森 : 海保さんと知り合ったきっかけとして、最初にうち(kilk Records)のアーティストのMemeとFerriが、フリクルに登録していたんですよね。

海保 : はい、僕はそれでkilkを知ったんです。めちゃめちゃ良い人たちが入ってきたぞって。まずは音楽からインプットされた感じですね。それから「ヒソミネの祭典」(2013年3月横浜で開催)を観に行かせて頂いたんですけど、森さんがバンドをやっていらっしゃるのを知らなかったんですよ。“kilkの代表の方”という認識で。普通にイベントを楽しんでいて、最後のバンドを観たら「あれ!? 代表の森さんが歌ってる?」って(笑)。

森 : はははは。

海保 : 僕はそこで恥ずかしながら初めて森さんがミュージシャンであることを知ったんです。

森 : ところで、海保さんはどんなきっかけでフリクルを立ち上げたんですか?

海保 : 僕はフリーターをやりながらバンドでドラマーをやってきて、メジャー・デビューしたんですけど、テレビで曲が流れたりしても意外とCDが売れないっていうのと、あとは売上に対して思ったよりお金がもらえないということを体感して。僕たちだけじゃなくて周りのミュージシャンたちも同じで。メジャー・デビューってゴールかと思ったら全然違ったっていうことを味わったんです。それで「この先どうする?」ってバンドのメンバーで話しはじめて。じゃあどうすればミュージシャンは食えるようになるのか、ビジネスモデルについて考え出したんです。それがなんとなくメドがついたので、事務所とか何もかもやめて独立して、やっていこうぜってなったのが最初のきっかけなんですけど。

森 : なるほど。

海保 : 音楽って今はiPhoneとかデータで聴かれますよね? でもデータはどうしてもコピーされてしまうので、そこでマネタイズするというのはあんまり現実的じゃないと思ったんです。だから無料で音源を宣伝材料として使いながら、いかに効率よく、中間業者を挟まずに、ライヴとグッズ販売とファンクラブの3つに動員するかというシステムを探したんですけど、なかったんで作ろう、と。それならもう会社にして、僕らだけじゃなくていろんなミュージシャンがそういう活動をしていくというムーブメントができたら、ビジネス的にも音楽業界的にもおもしろそうだね、っということで立ち上げたのが「フリクル」なんです。

海保けんたろー

森 : なるほど。それはメジャーでやっていくなかで音楽業界の問題点が見えてきて、それをみずからの手で変えたいと思ったのでしょうか? それともメジャーじゃなくなってからミュージシャンが食べていくためには? という危機意識が大きかったんですか?

海保 : メジャーでCDが出るたびに、売れる期待を込めて満を持して出すわけですけど、でも「あれ?」っていう結果が何回か出ると、なにかを変えなくちゃいけないんじゃないかなっていうふうに思い始めるんですね。それはメンバーだけじゃなくスタッフさんとかもそうだと思うんですけど。時期によっては自分達の音楽性に疑問を持ち始めたりとか(笑)。とりあえずスターになるとかいう以前に音楽で食えているという状態をまずは作らないと、というメンバーの共通意識があって。

森 : はい。

海保 : でもそれは、「あいつがいなくなれば」とか「あの会社がなくなれば」とかいう問題じゃなくて、ゼロから考えた時に何が一番ベストなのか、というのを考えた結果なんです。だからメジャーにいたときに、取り分が少ないって思ったことも、別に「あいつらに全部持っていかれてる」っていう被害者意識みたいなものはなくて、単純にこれだけの人が関わってるから必然的にそうなっちゃうよね、というのは理解してて。でも昔はCDが売れていたからきっとそれでもよかったと思うんですけど。でもいまはCDが売れていないのに流通とか宣伝のシステムがあまり変わっていないっていうのが、原因っぽいよねっていう話もして。

森 : なるほど、わかります。

海保 : ですから、将来の不安を覚えるたびにメンバーでなんとなくそういう話をする機会があって、例えば独立するとしてどんな方法があるのかな、とか。そういう根本的なところから考え直してみるようになってきたんです。

組み合わせていくことが近道だと思うんです(海保)

森 : なるほど。フリクルはmuzieやMySpaceといった、わりと近い音楽サービスと比較しても特徴的なのが“ファンクラブ”っていう部分だと思うんです。そこをピックアップしたというのはどういう理由があったんですか?

海保 : そもそもmuzie、MySpaceとかAudioleafとか、僕らも使ってはいたんです。ただやっぱりそこからは1円も入ってこないんですよね。それで、「新曲が出来るたびにそこにアップロードすることに意味があるんだろうか?」という疑問がまずひとつですね。

森 : ああ「ただ聴いて終わり」っていう。

海保 : はい。誰が聴いてくれたのかもわからないという。たまにメッセージくれる人もいるんですけど。もっと、支持してくれている人もいるとは思うんですけど、それを僕らは知らずにいるっていう。それで、ファンクラブという部分になぜフォーカスしたかっていうと、“コピーできないもの”なら、お金が稼げるんじゃないかな、と。

森 : うん、うん。

海保 : データ化・コピーが出来ないものっていくつかあると思うんですけど、そのなかから、僕らは“体験”と“物体”というのにフォーカスをしたんですね。“体験”はライヴ、“物体”はグッズですよね。ファンクラブに関しては、“ファンクラブ限定イベント”だったら体験だし、“ファンクラブ限定グッズ”だったら物体だし、みたいな感じで、両方落とし込めるんですよね。だからファンクラブというかたち、定期課金というところにいかに体験と物体を提供していけるのか、というのが鍵になると思っていて。しかも音楽で生計を立てるという所にフォーカスしていたので、「月額で入ってくる」ということが重要だと思ったんですよ。

森 : ああ、なるほど。

海保 : 例えば、クラウドファウンディングってすごくすばらしいサービスだと思うんですけど、それで食っていくというのはできないんですよ。一発バーンと300万円集めることはできるかもしれないですけど、毎月300万円集められるわけじゃないですから。やっぱり毎月20万円入ってくるとか、そういうものにしなければ食うのは難しいなと。

森 : きっかけ的には、僕がヒソミネを立ち上げたことと似ていますよね(笑)。

海保 : ああ、そうなんですね。

森 : 僕も、コピーできないものっていうのを大事な要素として考えていて。そこで質問なんですが、僕も海保さんも経営する側なんですけど、それを使うミュージシャンの大半はヒソミネやフリクルを使おうが、音楽で食っていくというところまではまだまだ至っていないと思うんです。そのあたりは今どのようにお考えなんでしょう? ミュージシャンが食べていけるようにするのがフリクルの使命なのか、それとも食べて行くことは別な方法でも、助けになれればよい、とお考えなのか、どちらなんでしょうか?

海保 : フリクルのかたちって、基本的に規模を問わないんですよね。ひとつ目安として、例えば月額500円とか800円とかを課金するファンクラブに、2、300人入ってくるアーティストであれば、おそらく月1本位のペースでグッズとかも売って、月額のファンクラブも運営することで、だいたい1人くらいは食って行けるという想定をしているんですよ。間違いなく助けにはなると思うんです。で、わかりやすく、「音楽で食べて行けるためのツールです」っていう説明をすることが多いんですけど、実際は“食べていくこと”を必須にしたシステムではなくて、例えば社会人バンドで土日しか活動していないとか、50人位コアなファンがいるようないいバンドで月額1,000円のファンクラブを立ち上げて50人が入ってくれれば5万円の売り上げが立ちますよね? それだけじゃもちろん食っていけないんですけど、副収入がそこで入ってくれば、という使い方もできるし。現状、フリクルだけで食えているミュージシャンはいないんですが、別にそれが必須なシステムではないですから、ミニマムな使い方もどんどんやってほしいんです。

森 : どちらかというと、いろんなところから少額を集めて、月額いくらになる、というのが一番現実的ですよね。例えばkilkで言うなら、CDの売り上げだけみると、ひとつの作品がバーンと売れなかったとしても、過去のリリース作が月に5枚ずつ売れるとしたら、うちは今、30作品くらい扱っているので単純に合計150枚売れるわけですよね。

海保 : そうですね、確かに。

森大地

森 : それがレーベル単位じゃなくて、バンド単位だとしても同じで、例えばライヴでの収入は5万円、ライヴ会場での物販の売上が1万円、過去のCDが小売店で3万円の売上、映画に曲が使われて5万円の報酬、とか。そういう色んなものが積み重なって、ある程度の額になっていく、と。

海保 : 確かに、積み重ねていくという思想は鍵になると思います。

森 : ですから、僕のヒソミネも、海保さんのフリクルでも、これで食べていけるんだっていうところでは嘘偽りないとは思うんですけど、使ってみて「全然金にならないじゃないか」っていうふうにすぐに諦めてほしくないんですよね。いくつもの組み合わせで成り立つことだと思うんで。

海保 : おっしゃる通り、組み合わせていくことが近道だと思うんですよ。フリクルもそういう考え方ですね。だからこそ、バンドのメンバーやマネージャーの方にビジネス的な視点を持ってもらいたいんです。いまだに、90%くらいのアマチュア、インディーズ・バンドってお金を払ってライヴをやっているイメージがあるんですけど、僕は、速攻黒字化できるじゃん、と思っていて。というのは、単純にすごく狭い所に出ればいいんですよね。

200人くらいのキャパが当たり前になっていて、全然ニーズに合ってないんですよね

森 : そこでヒソミネですよ(笑)。

海保 : (笑)。まさに、都心を少し離れたりとか、ノルマをあんまり課してこないところって沢山あるんですよ。なのにそういうところには出ずになぜか下北沢の名前のあるかっこいいライヴハウスに出て、ノルマ2〜30枚、でも5人しか呼べませんでした、みたいな。仮に5人しか呼べなくてもやれるところは必ずあるので、そこで2〜30人呼べるようになったら初めてノルマ15枚とかの所に出ればいいと思うんですよね。

森 : ヒソミネも、そういう問題をクリアしたいと思って作ったんですよ。

海保 : いや、ヒソミネは本当すばらしいですよ。雰囲気もすごくかっこいいし。

森 : ありがとうございます。海保さんがおっしゃったように、いま多くのバンドに必要なライヴハウスってその規模だと思うんですよ。うちも渋谷O-nestとか、2〜300人規模でやったりもするんですけど、月1でそれをやったら、埋まらないなと思うんですよ。それをやるとしたら、ヒソミネレベルの規模が必要だなと思ったんですよね。でもそういうところが意外となくて。昔の名残りなのか、200人くらいのキャパが当たり前になっていて、全然ニーズに合ってないんですよね。

海保 : おっしゃる通りです。僕は、今の負のループみたいになってしまったのは、ミュージシャンが悪いと思ってるんです。2、30年前のバンド・ブームの時期っていうのは、いまよりも都心にライヴハウスが少なかったらしいんですよね。そうすると、まずはオーディションを受けて、落ちて、やっと受かっても平日しか出させてもらえなくて、ファンが付いてきたらやっと週末に出させてもらえるっていう流れになっていて。そうすることで、「土日にあそこのライヴハウスに出てるやつらは相当すごいぞ」っていうブランディングができていたらしいんですよ。だから、そのライヴハウスに誰が出ているとかじゃなくて、飲んだ帰りにちょっとあそこのライヴハウスに行ってみようっていうこともあったらしいですよね。かなりの高確率でいいバンドが出ているっていうことで。それが、ライヴハウスが乱立しはじめて。でもバンドの数が増えたかというとそうではなくて。そうすると、ライヴハウス側もハコを埋めないと経営がなりたたないんで、実力がなくてもバンドが出演できるようになっちゃったんですよね。例えばラーメン屋が乱立してたらまずいほうの店はつぶれますよね。でもライヴハウスはアーティストからもお金を取るという部分で生き延びてしまったんですよね。本来はお客さんから集めたお金をアーティストとお店がシェアして、両者が儲かっていくっていう理想的なモデルが成り立っていたのに、ファンからもアーティストからもお金を取ることによって、ライヴハウスはガラガラでも存続できるっていう状態にしてしまった。でもその状態を止めるのはすごく簡単で、ミュージシャンがそういうライヴハウスでやらなければいいんですよ。要は、背伸びしないやり方をみんながすれば、おのずとライヴハウスも淘汰されていくはずなんですよね。そうすることによって昔の理想的な状態に戻すことができるはずなんですよ。なのに、「なんでミュージシャンがお金払ってライヴやっちゃうんだよ? 」ってすごく僕はモヤモヤしてるところなんですよね。そこの意識が変わればな、と思ってます。だから、みんなヒソミネみたいな所に出ろ、と(笑)。

森 : ありがとうございます(笑)。

>>>第2部に続く

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