2012/09/07 00:00

トクマルシューゴ、約2年半振りの新作『Decorate』

日本が世界に誇るポップ・マエストロ、トクマルシューゴ。アルバム『Port Entropy』以来、約2年半ぶりの新作となる『Decorate』は、タイトル曲をはじめ、ライヴでは既にお馴染みとなっているBugglesのカバー「Video Killed The Radio Star」、ナット・キング・コールのバージョンでも知られる「When I Fall In Love」のインスト・カバーの全3曲を収録。この珠玉の3曲を聴いて、11月にリリースされるアルバムを期待して待ちましょう。

トクマルシューゴ / Decorate

約2年半ぶりとなる待望のリリースは、来るべきフル・アルバムのリリースへ向けた先行シングル「Decorate」! トクマルシューゴの天才性を集約しつつ未踏の境地へ踏み込んだ、代表曲「RUM HEE」に比肩する新たなポップ・アンセムがここに誕生!

【配信形式】 wav / mp3
【価格】 単曲 250円 / アルバム 750円 (wav / mp3 共に)

トクマルシューゴ『Decorate』Cross Review

本頁では、「岡村詩野音楽ライター講座」受講生のお三人に寄稿頂きました。

『いつまでも途中のまま』なのだ(text by 田中 三千穂)

“decorate”を改めて辞書で引いて見ると、<飾る。特に、シンプルなもの、本来美しくないもの、単調なものを、飾って美しくすること>とある。なるほど、今回のタイトル「Decorate」とは、トクマルシューゴの音楽そのものを表す言葉ではないだろうか。シンプルな歌声とシンプルな音で、幾重にもdecorateしたメロディー。しかもその“飾り”はギターやドラムなどの楽器だけでなく、目覚まし時計だったりノコギリだったり、まるで音が出るものを総動員しているかのようにバラエティ豊かである。ノコギリの音は横山ホットブラザーズの専売特許かのイメージもあるが、トクマルシューゴはそれも見事に“飾り”のひとつにしてしまうのだ。そしてそれらが生み出すサウンドは、まるで子供の頃に見た人形劇のように、しっかりと人の手が入っているが故の温かさが感じられる。

夏も終わりゆく夕暮れに「Decorate」を聞いた。温かく優しくて、どこかメルヘンチックなメロディーが、過ぎゆく夏を惜しんでいるようで、なんだかとっても切ない気持ちになる。その一方で、歌詞の世界は現実的で、確固たる意志が伝わってくる。目指す方向は定まっている。目標がはっきり見えている。それに向けてやるべきこともわかっている。だからなんとかその目標に近づけるように、自分を信じて、ときには強がって、できることをただただ積み重ねていく。進歩には終わりがなくて、決して満足することはなく、ただいつまでも成長し続けるのみ。そう、『いつまでも途中のまま』なのだ。そんな決意を感じる歌詞。優しいメロディーとは真逆の頑固さがある。この歌詞も、トクマルシューゴの音楽そのものを表しているのではないだろうか。シンプルな音で飾る音楽を、これからも創り出していく。その探求には終わりはなく、より多くの聞き手が彼の音楽を見つけてくれるように飾り続けていく。それは彼の決意であり、ある意味頑固なこだわりなのだろう。

カップリングにはバグルスの「Video Killed the Radio Star」と、ナット・キング・コールをはじめ多くの歌手により取りあげられてきた「When I Fall in Love」のカバーが収録されている。バグルスによるオリジナルの「Video Killed the Radio Star」こそ、当時の最新機器を駆使してアレンジが施された、まさにdecorateされた作品だった。彼はそれをまた異なる角度で飾り付けたうえで、『Decorate』のカップリングに収録してみせる。技術革新を皮肉ったその歌詞が、よりストレートに伝わってくるようだ。

本質的な楽曲の良質なメロディー(text by 小林 翔)

広がるようなサビに向かってドラマチックに展開していく爽やかでポップな先行曲、「Decorate」の他、シングルのみの収録となるカバーが2曲の計3曲入りで、ウクレレをメインにした牧歌的なカバー「Video Killed The Radio Star」はライヴでもよく演奏されているナンバーの初音源化となっている。どの楽曲もこれまで同様、自身が収集した多種多様な楽器やがらくたの音がそれぞれの楽曲のイメージに合わせて綿密に組み合わせられ、沢山の音の一つ一つがきらきらと光るように鳴るポップスとなっている。

今回のシングルで面白いのはCDと配信の他にソノシートでの販売が行われる点だろう。ソノシートとは薄くて柔らかいビニール製のレコード盤のことで、安価での製造ができるものの、傷みやすく、音質はレコードに劣り、記録時間も短い。『Decorate』のソノシート版についても、この記録時間の問題から「When I Fall In Love」が未収録となっている。音質がいまいちで、未収録曲ありと良い所がないソノシートでの発売の理由について考えていくと、実際はその逆なのではないかと思い至る。つまり、今回のシングルにおいてCD・配信版とは別の目的を実現するためには、どうしてもソノシートが必要であったのだと。

これまでの作品においては、用いられた多種多様な音は録音後、PCによって非常に細かくに加工され、楽曲に用いられている。そうした繊細な音がソノシートを通して削ぎ落とされていった時、楽曲に残るものはメロディーしかない。例え、その繊細な、トクマルシューゴ的と捉えられている音が抜け落ちて、メロディーだけになっても、充分に自分の音楽が成立する。今回のソノシートはそれを示すために意図的に選ばれたように思える。そして、そうやって示された楽曲の良質なメロディーは、彼がインタビュー等で一番重要と語っている、「ポップであること」の条件の中で、実際には、彼にとって最も本質的なことなのではないか。もちろん、ソノシートでの販売は、アルバムからの先行シングルという再度リリースされる形態であるからできた、いわばトクマルシューゴのいたずらとでも言えるものなのだろう。けれども、それは確信犯的であり、ソノシートの聴く度にノイズがかっていくであろう音はトクマルシューゴの音楽の本質を今までと異なる側面から明示すものとなっている。

ポジティヴなエネルギーに満ちた作品(text by 岡本貴之)

海外での高い評価と共に国内でも知名度を上げているトクマルシューゴの2年半ぶりの作品は3曲入りのマキシ・シングル(2・3曲目はアルバムには収録されないようなので貴重なカップリング曲となっている)日本語歌詞のオリジナルが1曲、英語詞のカバー曲が1曲、インスト・カバーが1曲という構成は、合計してもたった9分の短さながらも、凝りに凝った奥深いサウンド・ディレクションが爽やか且つ濃密な世界を作り出している。

1曲目「Dacorate」は幾重にも重なるアコースティック・ギターが8分の6拍子のリズムに乗って軽快に曲をリードする、躍動感溢れるタイトル・トラックにふさわしい1曲。曲中のトライアングルやリコーダーの音、サビのコーラス等はまるで自然の中で楽器隊を率いて指揮しているようなエバーグリーンな印象を感じさせて楽しい。実際には多くの楽器その他を自ら演奏し録音しているのだから、その閃きとアイデアを楽曲にまとめる手腕には感服する。バグルスのカバー、「Video Killed The Radio Star」はライヴでもお馴染みになっているようだが、実際にYouTubeでライヴでの演奏を観たところ、ウクレレ一本での弾き語りながら途中のコーラスやサビの数人の声が重なる部分まで、声色を巧みに変えながら見事に歌い込んでいて驚いた。間奏でも自らカズーを咥えて吹いており、シンプルながらも非常にクオリティの高いカバーとなっているこの楽曲が収録されたことはファンにとっては大きなプレゼントだろう。もちろんライヴでの弾き語りとは違い、よりきらびやかな演奏となっている。ラストはこれまたカバー曲、ナット・キング・コール等で知られるスタンダード・ナンバー、「When I Fall in Love」をインストでカバー。テルミン等を使った一筋縄ではいかない癖のあるアレンジとなっているが、中盤からメロディーを弾くギターはチェット・アトキンスのラグタイムギターを思わせる流暢なフレーズで曲に締まりを与えている。

昨今の音楽シーンでは、アーティストは轟音ギターやノイズ・ミュージックでエネルギーを放射し、音楽ファンはロック・フェスやライヴ・ハウスで爆音や重低音の渦に身を委ねそのエネルギーを受け取ることがアーティストとリスナーの関係になっている場合が多い。このシングルに収録された楽曲達はそれとは対極の、一聴すると非常に耳触りの良いBGMのように聴こえるかもしれない。しかし緻密に作り上げられた楽曲の1音1音に込められた熱量からは、じっと大人しく聴いているだけではいられない躍動感が伝わってくる。軽やかな音に駆り立てられて何か行動を起こしたくなるような、今の時代のコミュニケーション・ミュージックとしての息遣いが確かに感じられるポジティヴなエネルギーに満ちた作品だ。

DISCOGRAPHY

Night Piece

2004年、NYのインディ・レーベルからリリースされた記念すべき1stアルバム。全くの無名であり日本語歌詞であるにも関わらず、その独特な作風が様々なメディアで取り上げられ、海外メディアPitchForkでは8.6点を記録。著名な世界中のアーティストが賞賛するなど、トクマルシューゴの存在を世界に知らしめた。 ライヴではお馴染みの 「Such a Color」、「Light Chair」、「Typewriter」「The Mop」「Paparazzi」などを収録。

Rum Hee

「パラシュート(PARACHUTE)」級の超名曲! とすでに話題沸騰の「ラムヒー(RUM HEE)」をフィーチャーした、待望のニュー・リリース! ロング・セラーとなったサード・アルバム『EXIT』からさらに大きな飛躍を遂げたポップ・ジーニアス、トクマルシューゴの新境地を示す大傑作!

『Rum Hee』リリース時のインタビューはこちらら

Port Entropy

無印良品やSONY「VAIO」 新CM 、バンクーバー・オリンピックのスポット広告で楽曲起用、NHK「トップランナー」出演、ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100 人」にも選出! 超ロングセラーとなったサード・アルバム『EXIT』以来、2年半ぶりとなる待望のフル・アルバムが遂に完成! トクマルシューゴ以外には成し得なかった新しいポップ・ミュージックの形がここに。長く聴き継がれるマスターピースになることに疑いの余地がない、今年最大級の話題作。

『Port Entropy』リリース時のインタビューはこちらら

PROFILE

トクマルシューゴ

東京都出身。2004年のデビュー以来、これまでに4枚のフル・アルバムを発表。作詞・作曲、アレンジ、演奏、レコーディング、ミキシングまでを自身で手掛ける。ステージでは、ソロ、トリオ、セクステット等、様々な編成とアレンジを使い分けながら、録音とは異なる推進力に満ちたパフォーマンスを展開。日本語詞による独自のポップスを追求していながら、その音楽は欧米やアジア各国でも高い評価を得ている。

>>トクマルシューゴ WEB

この記事の筆者
オト トイ

OTOTOYの運営事務局です。 よろしくお願いいたします。

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[レヴュー] トクマルシューゴ

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