2012/06/30 00:00

Kyte、新章に突入する4thアルバムをリリース

2012年5月9日に恵比寿リキッドルームで行われたTeam Meとのカップリング公演でも話題を呼んだ、英レスターシャー出身のバンド・Kyteが約2年振り4枚目となるアルバムをリリース! プロデューサーにジョン・グッドマンソン(ビキニ・キル、スリーター・キニー)を迎え、バンド初となる海外レコーディングをシアトルにて敢行。今作はレーベル移籍後初の作品であり、3人編成となってからの初リリースと、まさに初もの尽くし。バンドがどんな進化を遂げたのか、聞き逃し厳禁の注目作です。OTOTOYでは、彼らの来日公演のサポートからミュージック・ビデオの制作までを行い、公私ともに親交の深いバンドであるnumber0の藤井保文のレビューとともにお届けします。

Kyte / Love To Be Lost

1. Love To Be Lost / 2. You & I / 3. Breaking Bones / 4. Almost Life / 5. Friend Of A Friend (featuring Alessi's Ark) / 6. Every Nightmare / 7. Over, After / 8. September 5th / 9. Aerials / 10. Half Alone / 11. Scratches / 12. Blood Anger / 13. Hopes and Twisted Dreams (Bonus Track) / 14. Somewhere Else Inside Your Head (featuring Alessi's Ark) (Bonus Track)

販売形式 : mp3/wav(ともに1500円)

変わらないその先の景色

Kyteの新譜を聴いている。以前にも増した深い低音の作り込みと、少しワイルドな歌い方になったNick Moonの声。これまでのKyteらしさが色濃く残りながら、少し、オーセンティックというか、でっかい感じになった。リズムの音色と、エレキ・ギターの音色・メロディがこれまでのKyte、そこに正統派なメロディ・ラインが現れて声の存在感が増し、アコースティック・ギターやシンセ、ベース、コーラスなど曲ごとに新たな表情を作っている。3人になったことが大きいのだろうと思う。不遜なことをいうと、ボーカルNickの表現力が豊かに膨れ上がった気がする。何度か聴いていると、ああ、新しいことにチャレンジしているんだな、と思い始めた。この間、ミュージシャンはチャレンジしてるかどうかだ、みたいなことを言ってた人がいて、確かにと思った。

少し前の話をしてみる。僕はnumber0というバンドで、これまで何度かKyteと一緒に演奏させてもらっている。アルバムについて徒然書くより、その中でいくつか印象深かった出来事に触れて今を考えてみようと思う。

初めて彼らと一緒にステージに立った時、Kyteは5人でほぼ20歳くらいだった。KyteイチのイケメンJamie(最初に脱退メンバー)が、緊張で手をぶるぶる震わせながら鉄琴を叩いていた。初めての海外公演となる東京初日を経て日本を巡り、東京公演の2日目、まだ若い彼らは初日と比べ物にならない演奏をしていて、末恐ろしく感じた。2ndアルバムのリード・トラック「Eyes Loose Their Fire」のミュージック・ビデオを自分が作った縁もあって、日本に旅行しにきたNickとディズニーランドに行った。少年のようにはしゃぐ彼(というかほぼ少年)は、イギリスでレイトン教授2をやってると言ってた。「日本ではもう3出てるよ」と言うと、「そりゃ君ラッキーだね」と言われた。何度か彼とメールをして身近に感じるようになった一方で、Kyteはどんどん次のステージへ昇った。CD屋に足を運んだとき、知らないバンドのポップに「ポストKyte」の文字があった。実感させられるかのように、サマー・ソニック2009ではNickが完全にスターになっていた。彼の描いていた一つの画が眼前に広がった瞬間だったのではないかと思う。彼のビジョンや人柄から『Love To Be Lost』はその景色の延長にあるアルバムだと感じることが出来るし、そのうちオーケストラでも引き連れてライヴしてくれるんじゃないだろうか。音楽をやる人にとって大事なことだと思うが、密かな野心が垣間見える瞬間がある。

2010年に一緒に全国ツアーを回らせてもらった時は、ギターのTomやドラムのScottともいろいろ話が出来た。名古屋では手羽先の山ちゃん本店に行こうと思ったのにもう閉まってて、なぜかKyteとnumber0でタコスを食べた。それ以来、会えていない。

彼らは元々、閉じた環境で音楽を作る人たちだ。Tomが自分の部屋で曲を書いて、Nickが自分の部屋で歌詞を書いて、イギリスの片田舎でみんなで練習する。それが前作から今作にかけて、外へ外へ開いていくのを感じる。本当に怖いことだけど、時に他人や土地の空気を巻き込み、巻き込まれながらマッシュアップすることが思いがけない作品を生み出す。僕もそれを最近肌で感じた。彼らの言う「これまでと違うKyte」はそこからも生まれているのだろう、と強く共感する。

2012年5月の来日公演もすこぶる反応が良かったようだった。2008年渋谷o-nestでのライヴからは想像できなかったKyteがそこにいるのだろう。Kyteはチャレンジすることをやめないし、もっとたくさんの人に聴いてもらうことを想っている。想いながらそれを果たすことは、ミュージシャンの一番の原動力だと思う。アルバムを聴いて、また彼らのライヴを見たいと願っている。その時は頼むから、Nickには一日にレッドブル5、6本飲むのをやめてもらいたいとも願っている。

(text by 藤井保文(number0))

PROFILE

Kyte

UKはレスターシャー出身のバンド、カイト。2007年にデビュー・シングル「プラネット」をリリースすると、米の人気ドラマ「ソプラノズ」のCMソングに起用されて話題となり、同年デビュー・アルバムをリリース。シガー・ロスなどを髣髴させる叙情的なメロディが印象的で、ここ日本でも外資系レコード店を中心にヒットを記録。2008年に初めて行われた日本ツアーでは東京の2公演をはじめとした全公演がソールド・アウトになるなど、高い人気を確立させる。2009年にはセカンド・アルバムをリリース。その年のSUMMER SONIC '09に出演し、圧倒的なパフォーマンスで多くのオーディエンスを魅了。2010年にはサード・アルバムをリリースするなど、デビュー時から活発な活動を行っている。2012年、約2年ぶりとなるオリジナル・アルバムをリリース。

number0

吉津卓保、小林良穂、藤井保文、青葉聡希の4人組。2006年、Rallye Labelより6曲入りのデビューEP「sero」をリリース。2010年には1stアルバム「chroma」をリリース。同年レーベルメイトである宮内優里、Morr MusicのGutherの3組で全国ツアーを行い、その後イギリスの人気バンド、Kyteの全国ツアーにもオープニング・アクトとして参加。海外のバンドともリンクする高い音楽性、楽器に縛られない自由なアレンジとパフォーマンス、映像を使ったステージ演出が各地で高い評価を獲得。また、リミキサーとしてもZaza(US)やThreeTrappedTigers(UK)といった海外バンドのリミックスを手掛ける他、ファッション・ブランドsupport surfaceの東京コレクションでもパフォーマンスを披露し、メンバーの藤井は映像作家としてもKyte(「Eyes Lose Thier Fire」)やフランスのA Red Season Shade(「Oimiakon」)のプロモーション・ビデオを手掛ける等、多方面でその才能を発揮している。

2nd ALBUM『PARALLEL/SERIAL』
プロデュースに堀江博久氏 (pupa/the HIATUS)、エンジニアに美濃隆章氏 (toe) を迎えたリード・トラック「Returning」を筆頭に、ポスト・ロックという枠を大きく超えたサウンドを手にし、新生number0を高らかに宣言する決意と覚悟の傑作。アートワークは Efterklang の一連の作品を手掛けるデンマークのデザイン・チーム、Hvass&Hannival。
1st ALBUM『chroma』
Sigur ros、mumやAlbumleafといった海外のバンドともリンクする高い音楽性、楽器に縛られない自由なアレンジとパフォーマンス。Kyteをはじめ多数の海外バンドとも共演し、ファッション・ブランドSUPPORT SURFACEの東京コレクションでもパフォーマンスを披露。また、リミキサーとしてZAZA(US)やTHREE TRAPPED TIGERS(UK)といったバンドのリミックスを手掛けるなど、国内外から期待を寄せていた彼らの初作。アートワークは現代美術家=中山ダイスケ。

number0 LIVE SCHEDULE

2012年7月7日(土)@京都 UrBANGUILD 「PARALLEL/SERIAL リリース・ツアー」
2012年7月14日(土)@名古屋 K.Dハポン 「PARALLEL/SERIAL リリース・ツアー」
2012年7月16日(月・祝)@渋谷 WOMB 「kilk record presents DEEP MOAT FESTIVAL '12」
2012年8月25日(土) @渋谷 O-nest 「number0 presents multiplication vol.1」

[レヴュー] Kyte

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