2012/05/02 00:00

Black Dice / Mr. Impossible
今年で結成15周年(!)を迎えるニューヨーク・ブルックリン出身のハードコア・ノイズロック・バンド、ブラック・ダイスが3年振りとなる6thアルバムをリリース!

【収録曲】
1. Pinball Wizard / 2. Rodriguez / 3. The Jacker / 4. Pigs / 5. Spy Vs. Spy / 6. Out Body Drifter / 7. Shithouse Drifter / 8. Carnitas / 9. Brunswick Sludge

音楽の基準は"ブラック・ダイス"であるかどうかだけ

とにもかくにも、まずは先行シングルの「Pigs」を聞いてほしい。この曲はピッチフォークで「Best New Music」という賞を獲得した。

このブラック・ダイスというバンド、今年で結成15周年を迎える。ニューヨークのインディー・シーンの重鎮ともいえる存在だ。なんというか、15年目にして、こんな強烈なリフを生み出せることに驚いたのだが、アルバムを聴いてもっと驚いた。「Pigs」のような曲が他に一曲もない。というより、アルバムを通して「似ている曲」というものが一曲もない。ロックやノイズ・ミュージックのエッセンスはもちろん、ブレイクビーツや、ヒップ・ホップのリズムが入っている曲もある。そして、それらの要素が曲ごとに独立しているのではなく、混在している。

しかし、曲調がバラバラであるからといって、散漫な印象を与えることにはならない。逆に、まとまっているのは音色だ。アナログ・シンセを使って作られたメロディやノイズが多くの楽曲に使われているが、その音色はゲームボーイのそれを思わせる。このアルバムに一番近い音楽をあえて挙げるとしたら、それは意外な事に、チップ・チューンやゲーム音楽かもしれない。ただ、その「近さ」はたかが知れている。アルバムを聴いてもらえればすぐにわかるが、このアルバムで鳴っているのは、チップ・チューンに似た音色が使われているだけの、全く別の音楽だ。いくつかのインタビューで彼らはこう語っている。「ブラック・ダイスの音楽の基準は"ブラック・ダイス"であるかどうかだけ。他の音楽を意図的に参照することはしない。ましてや、今のシーンがどうなっているか、その中で自分たちがどういう位置にいるのかなんて気にかけたこともない」と。彼らはきっと、チップ・チューンのアーティストを参照したことなどないだろう。

あらゆる音楽に似ていて、同時に似ていない音楽。誰にでも薦められるようでいて、同時に誰にでも違和感を与えてしまう音楽。それが彼らの作る音楽だ。代替不可能な、「ブラック・ダイスの音」がここで鳴っている。(text by 上野山純平)

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PROFILE

1997年にロードアイランドにて結成(当初は現在ソフト・サークルとしてソロで活躍中のヒシャム・バルーチャも参加、現在のメンバーはエリック&ビョーン・コープランドとアーロン・ウォーレンの三人)。後にニューヨークへと拠点を移し、ジェームス・マーフィ主宰<DFA>やアニマル・コレクティヴ主宰の<Paw Tracks>、<Fatcat>等 から現在までに5枚のスタジオ・アルバムを発表。今年で結成15周年!

この記事の筆者

[レヴュー] Black Dice

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