2012/03/16 00:00

folk squat、10年目の最高傑作が完成!

平松泰二と田原克行によるfolk squatをポスト・ロック系ユニットと思っている人は、ぜひ今回のアルバムをきっかけに認識を新たにしてほしいと思う。そのタイトルもズバリ『folk squat』。これこそが自分たちの第一歩、新たなスタートであることを宣言しているような凛々しい1枚だ。過去、徹底的にヒートアップしないように抑制し、あくまでオブスキュアな音作りの中から美しいメロディを創出していた彼らは、ここにきて10年以上に渡るキャリアの中でのそうした禁じ手をふりほどき、少々のズレや少々の暴走もそのまま形にしてしまおうとする大らかさと柔軟さを一つの武器にしている。これまでには間違いなくなかった表情だ。その結果、メロディアスはメロディアスでも、実にヒューマンで深い暖かみを持った作品に仕上がった。これを新たな“歌モノ”と言わずして何といおう。平松と田原の二人に久々に会って話を聞いてきたので彼らの本音をお届けしよう。

インタビュー&文 : 岡村詩野

folk squat / folk squat

1. come to the ground / 2. oar / 3. blind alley / 4. seabed / 5. signpost / 6. lightness / 7. for the moment / 8. roundabout / 9. this like / 10. recollections

販売形式 : mp3 / HQD

folk squat INTERVIEW

――約4年と一口に言っても、folk squatの場合はここ3年ほどほとんど表舞台に出ることがなく、動向が伝わってこなかったじゃないですか。もうやめてしまったのかなとさえ思っていたのですが、実際にはどのような状態にあったのですか?

田原克行(以下、田原) : 今まではアルバムを出してしばらくすると「次のを作んなきゃ」感みたいなのが出てきて、で、制作に入っていたんですけど、今回はなかなかそうはならなかったんです。さらにお互い忙しくて2年くらいはプライベートでも離れていた感じだったんですね。1年間くらい会わなかったこともありましたね。

平松泰二(以下、平松) : 僕は何もなくても曲を作る方なんで、とりあえず何に使うこともなく曲は作っていたんです。毎回そうなんですけど、今までだともう少し早い段階で時期が来たら(田原に)聴かせて、「いいね、いいね~」って盛り上げてもらって(笑)、それでアルバム作りに入っていたんですね。

――今も曲のベーシック部分や断片は平松さんが作っている?

平松 : そうですね。鼻歌みたいなものがある場合もあれば曲だけの場合もあれば、自然の音を録ってきてそれを元にしたり… 色々ですね。

田原 : 今も基本は平松がきっかけとなる曲を作って、それを二人で合わせていきます。普通のバンドだと2、3年間何も動きがないと活動停止とか解散とかってことになると思うんですけど、ウチらの場合は半年くらい集中して曲を作ってレコーディングして出したらまたしばらくそれぞれ別の時間を過ごして間をあけて… って感じが自然で。でも、今回に限ってはその時間軸がいつもより遅かったんですね。

――なぜ今回はなかなかやる気が上がってこなかったのでしょうか?

田原 : やっぱり4枚アルバムを作ってきて、ちょっと色々考えてみたりしていたんですよね。このまま今までと同じでいいのかな? ってことも考えたし、ガラっと変えて違うことをやりたいとも思ったりもして…。でも、最終的にはfolk squatの良さってやっぱりメロディと歌声だろうってことは一貫していて。そこに従っていけばいいんだっていうところに気づいたんですよね。

平松 : 僕自身はこれまでの作品にあまり納得がいってないところもあったんですよ。それはあくまでサウンド・メイキングの部分というか出音での話なんですけど。プログラミングの構築の仕方が自分でも納得いかないなっていうか。そういうことを自分でも改善しようっていうのが最初にあって、それで制作の動き出しがちょっと遅くなったのもあります。色々模索してしまっていて…。でも、その過程の中で気づいたのは、あまり考え過ぎない方がいいかなってことで。

――folk squatは、ロウ・ファイなUSインディー好きの田原さんと、スタジオで緻密に曲を作っていくタイプの平松さんという両極端な個性の共存によって成立していますよね。で、その両者が交わるところがメロディの良さを追求するというところだった。今までの作品はそういう限られたポイントにフォーカスしていくような作り方だったと思うんです。でも、今回はその枠が広げられたような気がするんですよ。「こうじゃなきゃダメ」「これはNG」という禁じ手をかなりなくしたというような印象がするんですね。

田原 : それはあるかもしれないですね。今回はかなりラフというか。結構感覚とか瞬発力勝負で曲を仕上げるようになりましたからね。僕ら自身、新しい音楽に影響を受けて取り入れて… って作り方を今は殆どしないんです。それをやっちゃうとキリがないし… だから情報は『&レコード』から出ている作品くらいですよ(笑)。

平松 : あまり考え過ぎちゃうと却ってよくないから、なるべく自然にやって出た音をどんどん発展させていこうとしましたね。歌い方にしても、「ここは絶対崩せない」というようなこだわりが今まではあったんですけど、今回はギターの音やトラックに導かれる感じで歌ったりもして… 臭い言い方ですけど(笑)。

田原 : 「これはNG」っていうのは確かに昔はもっとギチギチにありましたね。例えば「ストレートなもの、熱いものは全部外す」というのは初期の頃はかなり明確に決めてたことなんです。

平松 : それは共通認識としてあったね。

田原 : ちょっとでもエモくなったらやらない、みたいなね。こういうコード進行はダメ、とかね。活動していく中で徐々にそういうのはなくなってはきていたんですけど、今回のアルバムではそこがかなりなくなった実感があって、今はほとんどなくなってますね。力が抜けてきてるんですよ。

――その結果、これまでの持ち味だったメロディアスで抜けのいい旋律が却って浮き立つようになった。

平松 : そうなんですよね。自分たちでもここまでキャッチーになれるんだってことがわかったっていうか。

――そもそもその潜在的なメロディ感覚のルーツにあるものはどういう音楽なのですか?

平松 : 僕はレコードで聴く人なんで、やっぱり60年代のバンドやアーティストの作品が今も根っこにありますね。ビーチ・ボーイズ… ブライアン・ウィルソンとかが自然と刷り込まれているのかもしれないですね。左手の動きでコードを表現してポップに聴かせちゃうようなところとか、特にメジャー・キーの場合とかそうなんですけど、こういうやり方があるんだって気づかされますね。あくまで音を繰り返し聴いて学ぶ感じでしたけど、自分の中のそういうメロディアスな感覚って、あくまでもそういう作り方の工夫みたいなところから得たものが多いですね。

田原 : 僕は平松と違ってUSインディーからの影響でポップな感覚を学んだ感じですね。ちょうど93年から98年までアメリカの大学にいたので、ちょうどグランジ、オルタナの時代を向こうで体験してるんですよ。セバドーとかペイヴメントとか…。だから、このfolk squatも初期ではロウ・ファイっぽさを出すことをすごく意識していたところはありますね。そういうロウ・ファイの中のポップな感じが自分の中に染み付いてるところはあるかもしれないです。

平松 : でも、僕ら二人ともなんだかんだで柔らかくなったと思いますよ(笑)。

田原 : うん、昔みたいに3、4時間ディスカッションするなんてことなくなったもんね(笑)。しかも1フレーズで3、4時間(笑)。

平松 : で、そこで会話が停滞して雰囲気が悪くなるという。同じ部屋の中にいるのに互いに妥協しないから一切口をきかなくなるという(笑)。

田原 : でも今はそういうことはなくなりましたね。その点で作業がスムーズにもなったし、互いの合致点を理解しつつも、柔軟にとりこんでいこうという意識も高まってきてるんだと思います。もうあまりこねくり回すこともやめようって言ったりして。

――例えば平松さんがaoki laskaのデビュー・ミニ・アルバム『about me』(2011年)のプロデュース、録音、ミックスが手がけるような体験が視野を広げたのではないかとも思えるんですね。客観的に作品を見る目線で自分たちの作業にも接することが出来るようになったというか。それによって、歌とメロディの良さが比較的素直に引き出されたのではないかと思いますよ。

平松 : そうかもしれないですね。aoki laskaさんの仕事の経験はすごく大きくて。自分にはこういう可能性があるんだってことに気づかされたし、それを自分の手で納得できる形にしていくことができるんだってことにも気づかされたんですよね。こういうことをやってもいいんだよっていう自信につながったりもしましたからね。

田原 : うん、それは僕から見ても大きかったと思います。お互いの作業についても客観的に見られるようになりましたからね。folk squatはエンジニアが二人いるような感じだったんですけど、今回は互いに足りないところとか、引き出した方がいいところを冷静に見られるようになったんですよ。

――ええ、今ではfolk squatは“歌モノ”のユニットって印象ですからね。もうポスト・ロック云々とは言わせない、というような。

田原 : それは嬉しいですね。実は僕らも昔と感覚が逆転したなって実感があるんです。昔は、トラックがあってそこに歌を乗せていくっていうような感じがあったんですけど、今は逆でコードと歌とメロディがあって、そこにサウンドをつけていくって感じなんですよ。スタート地点からして変わったかもしれないですね。そういう意味でも『folk squat』ってセルフ・タイトルにしているのは、自分たちとしてもすごく自然なことなんです。ここからまた変わっていく第一歩だというような。

――そういう今だからこそ、L'altraのリンゼイ・アンダーソンがヴォーカルで参加していることも大きな意味があると思います。雰囲気出しではなく、あくまで歌と歌との共演という感じがしますよ。

平松 : そうなんですよね。実は特に僕が L'altraが大好きで。彼らのセカンドの『In The Afternoon』とか本当に聴きまくっていたんですよ。その後、ファーストに入ってる「Room Becomes Thick」を聴いて、これはすごいいい曲だな、いつか何か一緒にやれればいいなって思っていたんですけど… まさか今回歌ってもらえるとは思わなかったですね。本当に感激です。

田原 : 彼女たちが来日した時に軽く挨拶をして、僕らのCDを渡して「ぜひよろしくお願いします」って伝えておいたんですけど… 本当にまさかフルで歌ってもらえるとは思わなかったですよね。コーラスだけっていうよりも、このくらいメインで歌ってくれた方が面白いですからね。

平松 : リンゼイが歌ってくれた「seabed」と「recollections」はもともと女性ヴォーカルのイメージで書いていたんです。しかもリンゼイがいいなあって思っていたんで、あがってきた時は本当にピッタリで感動しましたね。

田原 : やっぱりこうやって他のアーティストと接触すると刺激を受けることは当然ありますよね。僕ら、普段ほとんど他のアーティストのライヴとか見に行かない方なんですけど、最近は僕らもこれでも足を運ぶようにしていて(笑)。そろそろ自分たちのライヴに向けてちょっとあげていきたいですね。

平松 : そうだよね。本気でライヴやらないとね(笑)。 

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& records初の日本人女性シンガー・ソングライター。憂いを帯びた声とピアノの調べ、それだけで恐るべき才能を感じさせる6曲。プロデュース、録音、ミックス、マスタリングをてがけたのは、彼女が敬愛してやまないfolk squatの平松泰二。また、YOMOYAの長倉亮介、そして4 bonjour’s partiesの日下部裕一も制作に協力しており、まさに& recordsの日本人勢が総力をあげてバックアップする逸材。

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folk squat PROFILE

2002年4月、平松泰二と田原克行によって結成。2003年2月に10曲入りの1stアルバム『missing weather』をリリース。その後、& recordsに移籍。洋楽ばかりリリースしていた同レーベルにとって初めての日本人アーティストとなる。2年に1枚というマイペースなスタンスでコンスタントに活動。その卓越したメロディー・センスと浮遊感溢れる楽器アンサンブル、音楽ファンをくすぐる独特の音作りが高く評価されており、1stリリース時には日本テレビのインディーズ音楽紹介番組で満点を獲得、Space Shower TVとYahoo!の合同企画「NEW QUALITY MUSIC」で有望新人アーティストとして取り上げられ、2ndの時は主要音楽誌はもちろんMEN’S NON-NOやVOGUEといったファッション誌まで、実に20誌以上にて絶賛された。2009年5月、芸能花伝舎(旧淀橋第三小学校)で開催された廃校フェスに、曽我部恵一、キセル、HARCO、ウリチパン郡、にせんねんもんだいらと共に出演したのを最後に、またしても恒例の長期潜伏期間に。完全に表舞台から姿を消した。その間、各々プライベートな時間を過ごしながら、デモを作るも、少し時間が空くたびに新たな方向性やサウンドの模索に作業は難行する。そしてアルバム数枚分のデモを全て捨て、2011年初頭から再度製作に入る。実に4年ぶりとなる5thアルバム『folk squat』が、結成10周年となる2012年に完成。これまでミックスは田原に負うところが大きかったが、aoki laskaでの経験を元に、今作ではミックスを田原が6曲、平松が5曲行うという、ダブル・プロデューサー体制に。もはやセルフ・タイトルしか付けられなかったというほど、結成から10年間、様々な紆余曲折を経てきた、しかし根本的には何も変わらない彼らの音楽性、メンタリティー、手法、そのすべてが詰まった、極めて濃厚な味わいの、まごうことなき最高傑作。

この記事の筆者
坂本 哲哉

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[インタヴュー] folk squat

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