リー・ラナルドが、キャリア初となるボーカル・アルバムをリリース
Lee Ranaldo / Between The Times & The Tides
【価格】
MP3、WAV共に単曲150円 / アルバム1500円
【参加アーティスト】
スティーヴ・シェリー(ソニック・ユース)、ボブ・バート(80年代初頭にソニック・ユースに在籍)、ジム・オルーク(元ソニック・ユース)、ネルス・クライン(ウィルコ)、アラン・リヒト
ボーカル・アルバムとしてのアイディアの豊富さ
2011年、誰もが驚いた、サーストン・ムーアとキム・ゴードンの離婚によるソニック・ユース活動停止。その後にリリースされる本作は、ソニック・ユースでの活動の他、ソロ・ワークも精力的に行ってきたリー・ラナルドにとって初めてのフル・ボーカル・アルバムである。これまでノイズ・ミュージックやインプロビゼーションの要素を多分に含んだ実験的な作品を発表してきたリー。しかし、本作は「比較的」全うなロック・アルバムであり、実際に過去の様々なロック音楽からの影響を汲み取る事ができる。ソニック・ユースに見られるささくれだったパンクの質感はないものの、バンドのもう一方の要素であるサイケデリックなエッセンスは感じられるし、「Hammer Blows」のように、カントリー~アメリカン・ロックの影響を受けた強力なメロディを持ったトラックも登場する。「Tomorrow Never Comes」は曲名から分かる通り、ビートルズの「Tomorrow Never Knows」のオマージュとして書かれた曲である。
とはいえ、このアルバムは単なる過去の名曲を焼き直したもの、というわけでは全くない。今書いたことは、トラックの上辺だけを説明しただけにすぎず、実際の曲の細部を聞いてみると、「Off The Wall」や「Shouts」に見られるような、ユニークなフレーズや、ほぼ全曲にわたる実験的な音処理も一方で聞き取ることができる。
これには、リー個人の趣向だけでなく、ゲストとして参加したミュージシャンの功績も大きいだろう。ドラムにスティーブ・シェリー(ソニック・ユース)とボブ・バート(プッシー・ガロア、元ソニック・ユース)。ベースにジム・オルーク(元ソニック・ユース)、ギターにウィルコのネルス・クラインなどなど、いずれも一筋縄ではいかないミュージシャンばかりである。特にネルス・クラインは一聴して彼と分かるような、エフェクターを駆使しながらのテクニカルな演奏で、ウィルコの時と同じようにリーの楽曲にも強烈なフックを挟んでいる。(前述した「Tomorrow Never Comes」での彼の演奏を是非聴いて欲しい。)
『Between The Times & The Tides』=「時と流れの間」というアルバム・タイトルにはどのような意味が込められているのだろう。示唆的な言葉であり、数多くの読み取り方ができるが、このタイトルは80年代以降のロック・シーンにおいて最重要のバンドであるソニック・ユースのギタリスト、リー・ラナルド個人の「時と流れの間」に挟まった音楽をパッケージングしたもの。つまり彼の音楽史の記録を示したものであるとする見方は、一つの解釈として的を得ているのではないか。本作のロック・アルバムとしてのバラエティの豊かさ、アイディアの豊富さがそのことを証明しているはずだ。(text by 上野山純平)
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Lee Ranaldo Profile
ニルヴァーナやダイナソーJrと並びUSオルタナ黄金時代を代表するバンド、ソニック・ユースのギタリストとして1983年から11年の間にインディー7枚、メジャー9枚、通算16枚の公式スタジオ・アルバムを発表。2009年には20年振りにインディーから新作『ジ・エターナル』を発表し話題をさらった。ソロとしては多数のセッション/実験作を発表。2012年に発表する『Between The Times And The Tides』はリーの"キャリア初"となる渾身のボーカル・アルバム。ギタリストとしてROLLING STONEが選ぶ2003年度グレイテスト・ギタリスト100選で33位に選出される程の人気と実力を誇る。