2012/03/14 00:00

2/23@渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール

2月23日木曜日の夜。平日だというのに渋谷の駅前は相変わらずの人の波だ。雨が降っていたのだろうか、道が濡れている。冬場に似合わぬしっとりとした空気の中5分ほど歩くと、会場である文化総合センター大和田さくらホールに到着。駅前の喧騒を忘れる程の静かで落ち着いた場所だ。この日は、昨年12月にリリースされたアルバム『わが美しき故郷よ』のレコ発ツアーの最終公演。畠山美由紀は、東日本大震災の被災地である宮城県気仙沼市出身のシンガー・ソングライターだ。生きる喜びと悲しみを、表現豊かな声で歌う。ツアー名ともなっている『わが美しき故郷よ』とは震災後「こんな状況だからこそ曲を作ろう」という意志のもと、約9か月の制作期間を経て出来たアルバムだ。

会場内に入ってみると、スーツを着た仕事帰りの人や年配のご夫婦など年齢層は少し高め。しんと静まった会場に思わず気持ちが引き締まり、背筋がぴんと伸びた。中島ノブユキ(Pf)、小池龍平(Gt)や栗原務(Ds)とバンドのメンバーが先にステージに上がり、続いて畠山美由紀がステージに登場する。1、2曲目は「その町の名は」から「風の吹くまま」と、アルバムと同じ流れ。緩急豊かな歌声で、一気に畠山美由紀の世界へと導かれる。ステージは淡い光で照らされ、曲の軽やかさと相まって朝焼けのようなふんわりとした心地よさが感じ取れた。続く「Moon River」。これはご存じのとおり映画「ティファニーで朝食を」の主題歌だ。彼女はMCで、この曲の「There's such a lot of world to see(世界にはまだ見るべきものがたくさんある)」というフレーズが好きだと言っていた。「知らぬ世界を見てみたい」といつまでも好奇心を失わない彼女の笑顔は、とても優しく愛情に満ちていた。そして「わが美しき故郷よ」朗読~表題曲へ。溢れんばかりの故郷への愛を語る詩だ。読み上げられる一語一語と静かに奏でられるバック・バンドの演奏に、一同耳を澄ませた。

ドレス・チェンジをし、「海がほしいのに」「What A Wonderful World」とカヴァー曲が続く。最後のアンコールには「ふるさと」。「みなさんも立って一緒に歌いましょう」という彼女の呼びかけに皆起立し、ゆるやかなテンポのピアノとギターに合わせ合唱する。誰もが知っている、“ふるさと”を描いた曲だ。普段は意識することのない、しかし誰にでも共通する、日本人の心の中の風景。彼女は以前、被災地へ赴きライヴをした際、誰もが知る曲を合唱することで「スタンダードな曲が持つ力を感じた」と述べていた。(OTOTOY・畠山美由紀『わが美しき故郷よ』インタビューより)共に声を合わせて歌うことで、その瞬間だけかもしれないが、「誰かと繋がっている」という安堵感に包まれる。それは震災後、人々を覆った寂寥感や喪失感を埋めるもの足り得るのかもしれない。そんな歌の力と共に、畠山美由紀という女性が持つ心の芯の強さを感じた夜だった。(text by 碇真李江)

畠山美由紀の作品

畠山美由紀 / ふたりのルーツ・ショー -LIVE at Nikkei Hall 2011.09.11-

2011年9月11日に日経ホールで行われた『ふたりのルーツ・ショー』。ともに今年がデビュー10周年にあたる畠山美由紀とアン・サリー(しかも誕生日は1日違い! )の2人が、それぞれ自らのルーツとなった音楽をカヴァーして披露したこの公演から、畠山美由紀のパートのライヴ音源をまとめたアルバム高音質で配信開始。畠山美由紀の人間味あふれる暖かい歌唱と笹子重治(Guitar)、織原良次(Bass)、黒川紗恵子(Clarinet)といった鉄壁のバンドによる演奏が圧巻。新曲「わが美しき故郷よ」は詩の朗読と歌の部分をノーカットでお届け。さらにアン・サリーとのデュエット曲から「蘇州夜曲」も収録しました。

>>>畠山美由紀『ふたりのルーツ・ショー -LIVE at Nikkei Hall 2011.09.11-』特集はこちら

畠山美由紀 / わが美しき故郷よ

2011年、東日本大震災後、アルバム制作に向かい生まれた名曲の数々。すでに全国各地のライヴで大きな感動を巻き起こしている新曲「わが美しき故郷よ」、おおはた雄一や栗原務(Little Creatures,Double Famous)と共作した新曲、NHK総合の震災ヒューマン・ドキュメンタリー番組で使用された「ふるさと」など、カバー曲を含めた、全12曲収録。

>>>畠山美由紀『わが美しき故郷よ』インタビュー特集はこちら

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