2012/02/16 00:00

郷愁を誘うプログレ・ポップ・バンド、ヤーチャイカとは?

「ヤーチャイカ」、まず響きが美しい。意味はロシア語で「私はかもめ」。そんな郷愁を誘う名前を冠したバンドが、初の全国流通盤『ただしくはばたけ、鳥たちよ』をリリースする。2008年、東京で結成の男女4人組。フォーク、プログレ、サイケ、J-POPを「和」の情緒でもって聴かせる。癖になるリフとメロ、緻密な構成、懐かしくも怪奇的な歌詞。ハイ・トーンな歌声と鍵盤でやわらかさを持たせつつ、リズム隊は意外にゴリッと骨太だ。FUJI ROCK FESTIVAL'11のROOKIE A GO-GOに出演、2012年2月にはライヴ・イベント「みんなの戦艦」でZAZEN BOYSやおとぎ話などと共演と、着々と活動の幅を広げている彼ら。満を持しての本作リリースにあわせ、各メンバーに楽曲紹介、制作秘話、驚くほどばらばらな音楽的バックグラウンドなど、たっぷり話を聞いた。かもめたちの飛翔を見逃すな。

インタビュー&文 : 福 アニー

ヤーチャイカ / ただしくはばたけ、鳥たちよ
2011年にFUJI ROCK FESTIVAL'11の“ROOKIE A GO-GO”に出演、また、自主制作盤がdiskunion下北沢店年間チャート10位にランク・イン! ライヴで引く手あまたとなっている要注目バンド、ヤーチャイカ。ハード・ロック/プログレとポップ/シンガロングなうたものの要素が絶妙に溶けあう希有なサウンド。一見難解でありながらひとつの物語を綴るような歌詞とノスタルジックなオルガンの音色が、聴くものの胸をさらいます。

【TRACK LIST】
01. めのう / 02. 子供たちは大丈夫 / 03. ふるさと / 04. 屋根裏の月

メンバーに種明かしをしないまんまやっていく

――もともと自主企画イベント「自閉帝国!!!!!!!」や自主制作音源「2nd demo」で気になっていて。「ヤーチャイカ」というバンド名の由来は?

ニシハラシュンペイ(G&Vo、以下ニシハラ) : 「かもめ」が「チャイカ」っていうのは知ってたんですけど、意味から入ってなくて、とにかく響きで。あとからチェーホフや池澤夏樹の小説に使われてるっていうのも知りまして。ちなみに僕たちが結成したあと、谷川俊太郎が「ヤーチャイカ」って映画を撮ったんですけど、彼のこと超嫌いなんですごいがっかりしてます。
一同 : (笑)。

――結成はいつ、どういったきっかけで?

ニシハラ : 2008年くらいに大学のサークルで結成しました。僕とドラムは同い年で、ベースは一個上で、キーボードは一個下。僕が前にやってたバンドをやめる時に、近場にいた声をかけやすい人を誘って、ゆるく始めました。当時も今もみんなバンドを掛け持ちしてるので、そのまんまここまでやってる感じです。
キク値ユウタロウ(Ba、以下キク値) : 自分は「楽しいよふかし」で、ドラム(ナカムラヨシミ)は「はこモーフ」ってバンドを掛け持ちしてます。

左からキク値ユウタロウ(Ba)、ニシハラシュンペイ(G&Vo)、イワタハルナ(Key)、ナカムラヨシミ(Dr)

――こういうバンドにしようというイメージは当初からあった?

ニシハラ : 今も特になくて… 前に僕がやってたバンドをやめて、「理想通りのバンドをやってやるんだ! 」って飛び出してヤーチャイカを組んだんですけど、理想が何なのか暗中模索したまま4年目といいますか。全然わかんないまんま今もやってます。やりたいことがもっとあんじゃねえかなって思いながら、見つかんないから続けられるというか。

――それを他のメンバーはどう見てる?

キク値 : 曲についていえば、曲ごとに変えてきたなとは思いますけど、わりと一貫しているところはあるっていうか。ニシハラの前のバンドも個人的には好きだったんですけど、今と全然違いますよ。より暗くなったと思います。

――今後さらにその暗さを追求していく? それとも明るく?

ニシハラ : どちらがうまくできるかわからないですけど… 今のところは何も考えないで。内に入っていっても結局は外の人も意外と受け入れてくれてるし、このまま暗くなっていってもわがままにはならないんじゃないかなと。

――大学のサークルって早稲田のMMT(Modern Music Troop/オリジナル中心のバンド・サークル)ですよね。SuiseiNoboAzやオワリカラなど、同じ大学出身の先輩バンドから影響を受けたり、参考にしたりっていうのはありますか。

ニシハラ : 活動の仕方は見て学ぶので影響されますし、バンドがかっこよくなっていく過程も学べたと思います。でもそれぞれ自分たちにできないことをやっているし芸風が全然違うので、踏み込まないで追っかける感じですかね。

――曲作りのペースは速いほう? ゆったりめなほう?

ニシハラ : 遅いですかねえ。
イワタハルナ(Key、以下イワタ) : すごい遅いと思います。
キク値 : え、でもマシになってきてない? 半年に一曲みたいな時期もあったし。

――半年に一曲はすごい寡作ですね。

ニシハラ : 今は作ってるアピールしとこうよ(笑)。
キク値 : 確かに『2nd demo』を作ってる時くらいから、徐々にペースは上がってきてるよね。

――いつ頃から制作に取りかかったんですか。

ニシハラ : 『2nd demo』が出たのが去年の6月で、ほんとは昨年末くらいに出す予定で動いてたんですけど色々やっていると結局2月になって。

――「ただしくはばたけ、鳥たちよ」ってタイトルにしたのは?

キク値 : タイトルの理由について、ニシハラからは何も聞かされてないんです。
ニシハラ : メンバーには何も言わないんです。種明かしをしないまんまやってて。タイトルも楽曲の意味も理由、誰にも一言も言わない。

――作っている時も、メンバーに「あのアーティストのあのフレーズのあのムードで」って説明はしない?

ニシハラ : それもほとんどしないですね。だから、曲ができるのが遅いんだと思います。

――曲はどうやって作っていくんですか。

イワタ : ニシハラさんが弾き語りで頭からおしりまで持ってきて… 。
ニシハラ : リフも決めも全部作ってきて。尺は全部決まってる上で、フレーズをどうぞ、全部好きに弾いてくださいってお願いする形で始めるんですけど、何か違うなあっていう時にちょこちょこ言う感じです。曲の頭からおしりは土台でしかなくて、その上にフレーズをどうぞ積んでいく感じ。

――メンバーおのおの、フレーズにおけるこだわりはありますか?

キク値 : 怒られない程度にぎりぎりまでやりたいようにやるっていうのが共通認識としてあって、ニシハラもそのほうが注意しがいがあると思うので。他のパートがどう弾きそうとかはあんまり考えないでばっとやってみて、それでごちゃごちゃしたところの角を落とすような作り方です。
ニシハラ : あんまり干渉しないで最後までいって、反省するみたいな。
キク値 : リズム隊で抜き差ししようってことも、ほんとぎりぎりまで言わない。
ナカムラヨシミ(Dr、以下ナカムラ) : いよいようまくいかなくなった時にやるだけで。
キク値 : ほんとに危機感を感じた時にしか言わないですね。

それぞれがこんがらがっていく様子が面白い

――じゃあ4曲入りってことなので、一人ずつ聴きどころを教えてください。まず1曲目「めのう」をニシハラさんから。妖しい鍵盤とポップなサビが印象的でした。

ニシハラ : 「めのう」は作るのがほんとに大変な曲で。一回完成をみたんですけど、その第一形態はなしになって。メロは全然違うし、残ったのは雰囲気とリフと間奏くらい。僕らほんと曲をすぐポイするんですよ… もう諦めようかなと僕は思ってましたけど、この曲は粘ったかいがあった。

――それでは2曲目「子どもたちは大丈夫」をイワタさんに。最初のコーラスからサイケな雰囲気が漂ってますよね。

イワタ : コンピに収録した曲だったので一回録ったことがあって、だからレコーディングは楽でした(笑)。この曲のオルガンの音はどうやって作ったか忘れちゃったんですけど、結構好きな音で、わりと使い回せちゃうなって感じです。普段は揺れのあるハモンド・オルガンみたいな音が多くて、でもこれはちょっとシンセっぽさもありつつ、「ピー」ってあんまり波にならないオルガンの音で、わりと好きです。

――この曲だけシンセっぽくしたのはなにか理由が?

イワタ : いつもどうやって音決めてるか、あんまり覚えてなくて… 。
キク値 : スタジオ来るころには、もうすごい音になってて。
イワタ : 一回宿題で持って帰って、次の時に全然違う音を持って行くことが多いので驚かれます。フレーズはスタジオであんまり考えつかなくて、家に持って帰って朝から晩まで考えることもあります。

左からニシハラシュンペイ(G&Vo)、イワタハルナ(Key)、ナカムラヨシミ(Dr)、キク値ユウタロウ(Ba)

――ナカムラさんから3曲目「ふるさと」を。一転、シンプルな曲調で。

ナカムラ : 大変でした。わりと他の3曲はぱっと聴いてはっと思い浮かぶものがあって叩いていったんですけど、この曲はいろいろ試してもどれも違うって言われて。結局最初の8ビートが採用になって、シンプルな曲なんですけどすごく苦労しました。

――ライヴで演奏する時はどうですか?

キク値 : ライヴは全体的にブレがありますけどね、酒量に左右されたり。僕とニシハラはザルなんですよね。ニシハラは… 。
イワタ : 慢性的に飲んでる。
ニシハラ : まあライヴはめっちゃよかったことは一度もないです。毎回「今日だめだったー」ってカタしてる時に言うんで。
ナカムラ : でも酒量オーバーしてる日は、ライヴやる前に「今日おれダメだわ」って言うよね。
ニシハラ : そんなことないっしょー。

――キク値さん、4曲目「屋根裏の月」をお願いします。

キク値 : 「屋根裏の月」は演奏してて楽しい曲です。ライヴではいつも一番最後にやってて。終わりよければすべてよし、みたいな感じで。

――アウトロが壮大ですよね。ギターが珍しく前に出ているというか。

キク値 : アウトロはそれこそ体調に任せて楽しくやってます。最初はちゃんと決まってなかったんで。あんまり壮大にしようっていう感じではやってなかった。
ニシハラ : そうねえ。あんまり目を見て話さないからね。決まんないよね、いろんなことが。でも視線がぶつからないまんま曲を作ってるのがいいんじゃないかと。

――それは曲のOKラインの見極めが難しそうですね。

ニシハラ : 「これでOK」と思ったから曲として出すんですけど… でもどっかで必ずすれ違ってて、それを本人たちも気づかないまんま、すれ違いのまんま出して。それがいつか修正されるかもしんないし、どんどんずれていくかもしんないし、そのまんまやり続ける。
キク値 : このバンドのこういう曲をイメージしてやろうとはまず100%言い合わない。ニシハラの曲を聴いて、各々の想像する曲なりフレーズなりがあったとしても、それは言い合わないよね。
ニシハラ : 永遠に答え合わせしない。
キク値 : そう。それをしちゃったらそれっぽくなっちゃうし。
ニシハラ : この作品を聴いて思ったんだけど、悪い言い方をすれば、みんな手くせでやってるようにしか聴こえない。でもそれでいいかな。みんなそれぞれ手くせを打破しようとしてる部分も、こんがらがってく様子とかも全部聞こえるし、おもしろいです。

欲をかかないことが一番だと思います

――それぞれの音楽的バックグラウンドは?

キク値 : パンクを聴いて、ベース・ボーカルかっこいいなって思って始めましたね。
ナカムラ : 中高生くらいでスウェディッシュ・ポップを通過しました。あとネオ渋谷系。
イワタ : 普通にJ-POPとJ-ROCKから入って。フジファブリック、くるり、奥田民生とか。
ニシハラ : ハード・ロックとフォークですね。ディープ・パープルやツェッペリン、キッス、クリムゾン、イエスと、吉田拓郎や高田渡、友部正人。

――歌詞は全部ニシハラさんが?

ニシハラ : はい。歌詞を書くのは作業のなかで一番楽しい。携帯やメモ帳に、単語や文節やことばをすごいストックしてて、メロを作り始めてある程度のところまでいった時に、そのストックとぶつける。タイトルが思いついたり、メロがもうちょっといく方向が見つかるようなことばがあればその先も作ったりするんですけど、なんも浮かばないなと思ったらその曲はばっと捨てちゃう。

――歌詞も曲もバンド名も文学的で郷愁をそそられるんですけど、音楽以外に影響を受けたものはありますか。

ニシハラ : 人並みに小説も読むし、映画も観ますけど、そんなにインプット・アウトプットに影響は受けてないかもしれないですねえ。

――なるほど。昨年はFUJIROCK FESTIVALのROOKIE A GO-GO枠、今月はライヴ・イベント「みんなの戦艦」に出演と、活動の幅を広げていますね。

ニシハラ : 野外がとにかくやりたかったので。やっぱりライヴ・ハウス以外でやりたい欲はあるよね、とんでもないところでやりたいっていう。
イワタ : 眺めがよかったですね。遠くが見えて。
一同 : かっこいいな(笑)。
ニシハラ : 「みんなの戦艦」は八十八か所巡礼とおとぎ話の間の出順で、ギャルに挟まれつつ、俺らん時はおっさんばっかりだった(笑)。

――今後、気になるバンドとイベントしようってことは考えてない?

ニシハラ : いずれやるかも。otori、トリプルファイヤー、よしむらひらくとか… よしむらひらくは一番好きな人間です。

――3月4日(日)には、下北沢CLUB QueでSuiseiNoboAzとnhhmbaseを迎えた自主企画「Яの行方」をやりますね。それも踏まえ、最後に今後の意気込みを一人ずつお願いします。

ニシハラ : 今年の目標は特にないんですけれども、怪我なく健康第一で過ごしていきたいですね。CDもちょろっと売れたらうれしいなくらい、欲をかかないことが一番だと思います。
イワタ : いっぱい曲ができるといいなと思います。
ニシハラ : 目を見て言ってよ、そういうのは。
一同 : 笑。
ナカムラ : 今までも自分たちのペースだったんですけど、今後もマイペースにやっていければと思います。
キク値 : 4人仲良すぎず、これまでのペースでこれからもやっていければ明るい未来が待ってるんじゃないかなと。
ニシハラ : 仲良すぎずね。仲いいバンドほど醜いものはないよねえ、ほんとに思いますね。
キク値 : 僕らそこまで仲良くないんですよ。それすごい大切、秘訣だと思います。

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ヤーチャイカ LIVE SCHEDULE

ヤーチャイカ自主企画イベント『Яの行方』
2012年3月4日(日) @下北沢 CLUB Que
w / SuiseiNoboAz / nhhmbase
前売り : 2,500円 / 当日 : 2,800円(共に1drink別)

ヤーチャイカ PROFILE

自閉帝国の鼓笛隊
寂しい海辺で拾った金ボタンを大切に手の中で
ころがしていたらいつの間にか溶けてしまった
水中で、胎内で、夢の中で聞こえてくる音楽
あなたの ほんとう を呼び覚ます

ニシハラシュンペイ(G&Vo)、キク値ユウタロウ(Ba)、イワタハルナ(Key)、ナカムラヨシミ(Dr)から成る4人組。2008年結成。FUJI ROCK FESTIVAL'11、ROOKIE A GO-GOに出演。2012年2月22日に初の全国流通盤『ただしくはばたけ、鳥たちよ』をリリース。

この記事の筆者

[インタヴュー] ヤーチャイカ

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