2011/12/10 00:00

LOW HIGH WHO?から新進気鋭のトラック・メイカーEeMuがデビュー

初めてEeMuを知ったのはYouTubeだった。リリックを冴え渡らせるトラックに、一瞬で虜になったのを覚えている。今迄、HAIIRO DE ROSSIShing02など多くのMC達と絡んで来たEeMu。彼が作る楽曲には、これまでの24年間に吸収してきた要素が溢れんばかりに表現されている。メランコリックなものから、ハードでアブストラクトなものまで、様々な変化を見せ、実に独創性に満ちている。彼が所属するのは、独自の解釈でヒップ・ホップを発信し続けるレーベルLOW HIGH WHO?。仲間や、関わった人、出会いをとても大事にするレーベルである。その代表でもあるParanelと共に、LOW HIGH WHO?設立から携わっているEeMuが、渾身のファースト・フル・アルバム『Nothings』をリリースした。

今作はMCの参加がなく、トラックのみで構成されている。ここに収められているのは、あくまでEeMuの生活の中から生み出された14曲である。ヒップ・ホップ・シーンのみならずTVやドラマの楽曲も作り出しているEeMuだが、そうした枠組みに縛られることはなく、自分のペースで音楽に触れていく。それ故に生まれる生粋のビートを体感してほしい。LOW HIGH WHO?代表のParanelと共に、LOW HIGH WHO?の今後の展望も兼ねてゆっくりと話してもらった。

インタビュー&文 : 和田 隆嗣

EeMu / Nothings
環ROY、HAIIRO DE ROSSI等、新進気鋭のMCへのビート提供、また話題を呼んだSFサスペンス・ドラマ「SPEC」への楽曲提供などヒップ・ホップを軸にジワジワとその知名度を高めるEeMuのファースト・アルバム『Nothings』がLOW HIGH WHO?からリリース。

【TRACK LIST】
01. .Idiot Dance Music / 02. On a tongue / 03. Around my House / 04. taboo / 05. birth / 06. 6ー4 / 07. Dawn / 08. mizu / 09. mitei / 10. super free / 11. Impermanence of all things / 12. Black Screen / 13. Nothing / 14. out

EeMu インタビュー

——まずは自己紹介をお願いします。

EeMu(以下、E) : 北海道出身で、LOW HIGH WHO?のビート・メイカーEeMuと申します。ビート・メイク自体は中学生の時からやっていて、当時つるんでいた友達がACIDという音楽製作ソフトをくれて、そこからトラック制作にのめり込んでいきましたね。

——その間は北海道のクラブなどで活動していたんですか?

E : いや、ほとんど出来ていなかったですね。ずっと家に籠りながら音源を作りこんでいました。今では当たり前ですけど、当時、音源を発表出来る掲示板がネットにあって、そこで発表していたんです。
Paranel(以下、P) : LOW HIGH WHO?のメンバーは、ほとんどがその掲示板を通して知り合っているんです(笑)。

——Paranelさんとも、その掲示板で知り合ったんですか?

E : そうですね。
P : LOW HIGH WHO?の初期メンバーが知り合った掲示板は、Undergrond Theaterz(通称:アングラシアター)とmuzieなんですよ。ネット・ラップの先駆けだったんですよね。
E : 今で言うMyspaceですね。当時は、あまり人口が多くなかったです。
P : DOTAMA君とか5W1H君もそこ出身なんですよね。

——知り合ってからは、どういう流れで活動し始めたんですか?

P : 住んでる場所は離れていたんですけど、発信元がネットだったので、どんどん音源を出していこうという話にすぐになったんです。しばらくしてから、EeMuが大学進学のために上京したので、タイミング良く音源制作に取りかかることができたんです。

——もしLOW HIGH WHO?に入っていなかったとしても、東京に来てトラック・メイカーとして活動していたと思いますか?

E : 絶対にやっていましたね。大学では特に音楽サークルとも絡みが無いですから。今はLOW HIGH WHO?が忙しくていっぱいいっぱいなので、他に掛け持ち出来る余裕もないんですけどね(笑)。

——EeMuさんの地元・北海道でも音楽活動を行うコミュニティーはあったんですか?

E : いや、全然なかったですね。だから、自分の作った音源を発表出来る場所が出来たことが、すごく嬉しかったんです。音楽をやっている奴はいたんですけど、コミュニティみたいなものはなかったので… 寂しい感じでした。ディグってても、なんか寂しいんですよね(笑)。でも、東京に来る前に2年間いた札幌では、TecnoやHouseのDJをよくやっていましたね。後は、ダークサイケデリックなんかも(笑)。レイヴにも行っていたし、クラブ・ミュージックも好きだったので、自分の音源の要素にも含まれていると思います。
P : 一時期ヒップ・ホップから離れている時期があったよね。

——なるほど。今作の『Nothings』も、ダンス・ミュージック寄りですよね? 制作の経緯を教えてもらえますか?

E : もう、勢いで作り始めましたね。
P : 「もう出しちゃえよ! インストだけでやっちゃえよ」っていう感じだったと思います(笑)。トラック・メイカーのフィーチャリング・アルバムが最近の定番になってきているように感じていたんですよ。僕はあまのじゃくなので、「だったらフル・インストの方が面白いし、かっこいいでしょ」って言って、始めたんです(笑)。
E : その中でも、イージーリスニングの部分と、ダンス・ミュージックの双方を聞き取れるように意識して作りました。

——11曲目の「Impermanence of all things」は、特にこのアルバムを象徴するような曲だと思いました。『Nothings』というアルバム・タイトルにはどういう意味が込められているのでしょう?

E : アルバムを通してMCが入っていないことを指す「Nothings」という意味もあるんですけど、もう一つあるんです。今年は、最近の身の回りで親しい友人が亡くなったり、大きな地震被害があったり、変化が大きい一年だったと思ったんです。そこで、変わらないものは無いんだなっていうのを再認識して、「Nothings」がハマるかなと思って付けました。でも、曲の意味を付けてから制作に入るときもあれば、先に曲が出来てから名前や意味をつける時もあるので、時と場合によりますね。今作であれば、11曲目の「Impermanence of all things」は日本語にすると「諸行無常」っていう意味で、このアルバムの中でも核となる曲になっています。

——物事をインプットする瞬間って、どういう時が多いですか?

E : 映画を観たりしている時かな… でも人から得る影響も大きいですね。人が作ったトラックに感化されて「負けてらんねぇな」って思ったりすることが多いですね。後は、風景からもよく刺激を受けます。あんまり外観に浸り過ぎると、大体メランコリックなビートになっちゃうんですけどね(笑)。子供の頃の映像もよく思い出しますね。

——映画は何が好きですか?

E : クエンティン・タランティーノとか好きですね。結構バカみたいな映画が好きなんです。邦画だと園子温監督の作品が好きですね。あれは、ヤバいです。

——すごい意外な路線が、沢山出てきますね(笑)。

E : 園子温監督ともコラボレーションしたいんですよね。今Ghost2Ghostっていう別名義で、「架空ホラー映画のサントラ」を作る活動もしているんですけど、それで一緒に何かやりたいですね。結構えげつない音をしているんで、クラブではプレイ出来ないですけど(笑)。
P : TAKUMA THE GREATが一緒にやりたいって言っていました(笑)。
E : HAIIRO(DE ROSSI)君も気に入ってくれてましたね。

想像を膨らませてもらいたい

——「taboo」のPVを見て、その作品の色にかなり驚いたんですけど、あれは舞台用に制作したんですか?

P : あれは去年、僕が俳優さんを起用して作ったもので、そのサウンド・トラックをEeMuにお願いしていたんです。カンヌ映画祭に出そうよって言って制作していたんですけど、それが流れてしまった時の映像です。テーマは「お母さんが、自分の子供の命を助ける為に自分の命を捨てる」というものなんですけど、それが「taboo」という言葉にリンクしているように思えたんです。

——EeMuさんは、「SPEC」(TBS系ドラマ)などマスに向けた音楽制作も行っていますが、何か違いを意識しながら制作を行っていますか?

E : サウンド・トラックに関しては、提供する側から「こういう感じにしてほしい」っていう注文があって、まずはサンプルをもらうんです。なので、それに沿うように作りますね。自由度は少ないですけど、その分新しい引き出しが増えるかなと思ってやっています。やり続けているうちにスキルはアップしましたし、やりがいもありましたね。それまでは自分のやりたいようにやっていたので、勉強になりました。

——LOW HIGH WHO?は、forte(HAIIRO DE ROSSI等が所属するレーベル)との関係も強いですよね?

P : MCの丸君が、藤沢の専門学校時代の友達だったんです。そこから丸君の後輩にもあたるDINARY DELTA FORCEとかにも親近感が湧いていったんです。
E : DOTAMAさんと「chessmusic」という曲を作って、それにフューチャリングでHAIIRO君が呼ばれて。そこからですかね。
P : でも最近は、HAIIRO君のEeMu愛を凄い感じます(笑)。

(一同笑)

——レーベルの色が似ているんですかね?

P : 色は被ってないんですけど、寄り添っているんですよね。
E : HAIIRO君のリリックにもかなり影響されましたし、今作でもその影響は出ていると思います。「未来永劫」に関しても、その場でアイデアを出し合ってすぐ作ることが出来たのでね。

——ビート・メイクを始めて10年近くになるわけですが、アイデアが出なくなってきてしまうこともあるんじゃないですか?

E : そうですね。今迄にかなり作ってきましたけど、「もうやらない方がいいんじゃないか」って時もありました。追い込まれる時もありましたね。そういう時は、全く関係ないことをやったり、映画を見に行ったりして、音楽に触れないようにしています。色々なところからインプットをするようにしているんです。クラブも最近は、ヒップ・ホップの現場が多いんですけど、テクノやミニマルのクラブにも行っていますね。後は、LOW HIGH WHO?にも参加しているsunnova君のビートもかっこ良かったりして、身の周りからもう一度影響を受け直したりします。

——EeMuさんの身近にある音楽って、どういったものですか?

E : Prefuse73は好きですね。スコット・ヘレンの2000年初頭のセカンド・アルバムが好きなんです。後は、LAのビート・シーンも好きですね。あの煙たさと歪な感じは凄いなって思います。Jay DIILAも好きで、『welcome 2 Detroit』なんか昨日も聞き込んでいましたね。

——ビート・メイカーは、顔が見えなくてもネットで話題になると一瞬で話題になる特徴がありますが、今後ネットを活用した展望はありますか?

P : どうですかね… 。でも、ヒップ・ホップのフリー・ダウンロードをやり始めたのって多分LOW HIGH WHO?が1番早かったと思うんですね。今もネット・レーベルという形でやっていますけど、後々はショップを持ちたいです。今まで、ネットをかなり活用してきたこともあって、地方のメンバーも含めてLOW HIGH WHO?には、20人以上のメンバーがいるんです。もし店舗を持てるようになったら、独自の音源をどんどん出して行きたいですね。あわよくばカフェもやりたいです(笑)。
E : LOW HIGH WHO?は色々な音楽を発信していながら、ぶれない軸があると思います。カラフルなレーベルなんです。

——EeMuさん自身の展望はありますか?

E : Nothings』は色々な人に聞いてもらいたいですね。海外の人とかにも聞いてもらいたいです。ダンス・ミュージックをやっている人との繋がりがあまりないので、もっと絡めるようになりたいですね。それこそ、DJの方がサポートしてくれたりしたら最高ですね。
P : Impermanence of all things」をクラブでかけると、たまらなくかっこいいんですよ(笑)。
E : クラブだと、そこも意識していてベース音を作らなければいけないじゃないですか? まだ自分はそこまで作り込めていないと思うんですけど、爆音でも響くようにもっと精度を上げていきたいですね。

——日本語ラップもよく聞かれるんですか?

E : 聞いていましたね。
P : EeMuは、ラップもかっこいいんですよ。絶対ファンがいるって思う位に。
E : 昔、ちょっとだけやっていたんですけど、ラップをやっているとトラックも作りやすいんですよね。どこでMCが気持ち良くなれるかとか分かるから。

——でも昔聞いていた日本語ラップと今の音とでは、作り方も何もかも違うと思います。意識しているとこはありますか?

E : Ableton Live、ソフト・シンセ、microKORGを今は使っているんですけど、 流行に乗りすぎないようにしています。昔のフレーバーも残しつつバランスを取って作っていますね。僕はサンプリングあってのビート・メイクが好きなので、上手く混ぜていきたいんですよね。日本語に関しては、リリックのイメージに沿うように作っています。

——ビート・メイカーのテーマって、言葉がないだけに伝わりづらい分野だと思うんですけど、EeMuさんはどうやってテーマを設定しているんですか?

E : 100%伝えるっていうのは難しいと思うんです。だから受け手側が何かを感じて、更に想像を膨らませてもらえたら良いと思ってます。

——今絡みたいMCはいますか?

E : S.l.a.c.kさんですね。あの人はやばいですね。
P : SIMI LABも是非絡みたい人達です!

——トラック・メイカーとし、目標にしている人はいますか?

E : DJ KRUSHさんには憧れていますね。海外でも通用するライヴを行っているじゃないでかすか? 今、俺もDJよりライヴに力を入れているので、研究し続けたいと思います!

——期待しています! ありがとうございました!

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言わずと知れたstillichimiyaのビート・メイカーYoung—Gがスピリチャルかつ力強いビートで「タマトギ」を、神門のプロデュースで知られる観音クリエイションが淡く切ないピアノで「Pellicule」を、多彩なサウンド・プロデュースで知られるEeMuが「風よ吹け」を、Solvents and orbitsが繊細なピアノと圧倒的な展開力を駆使して「偽物の街」を担当。ドラマチックな旋律でトラックを組み上げ、自作曲のみでライヴも行い、クラブ・シーンでその名を知られるsoegiが「未知との遭遇」をプロデュース。LOW HIGH WWO?代表で術ノ穴からCOASARU名義でリリースを控えるParanelも2曲を構築。

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DJ INFORMATION

BUTTER
2011年12月13日(火)@青山蜂
Open : 21:00
Entrance : 1000円(1D付き)
Live : THEE OTHA SIZE(太郎本人 from 近所のメンバー/SQRaTHC、石井芳明 from 山嵐、高橋遥 from ニッチインダストリー )
Dj : SUNNOVA、EeMu、flag、KMC、呂布
Food : koootona

PROFILE

EeMu

北海道出身、中学からヒップ・ホップに目覚め、高校の頃には音楽性を確立し、全国のEDWINショップの店内BGMのオファーも来るほど当時は周囲を驚かせていた。その後、自身の多名義によるプロジェクト、様々なアーティストへのトラック提供をはじめ、現在はWEBサイトやCM、ドラマなどテレビ音楽などにも提供している。ブラック・ミュージックからクラブ・ミュージック、環境音楽などにも幅広くセンスに取り込み、仲間からラッパーから、音楽家たちからも愛されるビート・メイカーとしてコンポーザーとしてレーベル「LOW HIGH WHO?」を支え続けている。

EeMu official HP
LOW HIGH WHO? official HP

この記事の筆者

[インタヴュー] Real Estate

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