2011/10/16 00:00

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James Blake / CMYK EP
2011年最も注目すべきアーティスト、ジェイムス・ブレイク。スティービー・ワンダー、エロル・ガーナー、ジョニー・ミッチェル、レイ・チャールズ、アート・テイタム等に影響を受け、ピアノに夢中だった彼が大学でダブ・ステップに出会う。様々な音楽的要素を含んだオリジナリティに溢れる2009年のデビュー作はブログ界を騒がせた。「CMYK EP」はそんな22歳のミュージシャン/プロデューサーが伝説的レーベルR&S Recordsから2010年にリリースした第1弾EP。
James Blake / Klavierwerke EP
2010年最もビッグなリリースと言われる「CMYK EP」に続きジェイムス・ブレイクがR&S Recordsからリリースした「Klavierwerke EP」。彼のヴォーカルが斬新なサウンド・スケープに複雑に織り込まれ、時にBurialのアーバン要素をちらつかせながら、ジェイムス独自の世界を展開。ここ数年に現れた最もエキサイティングなアーティストのこれからに要注目である。

2011.10.12 東京公演@恵比寿リキッドルーム-Live Report-

思えば出会ったときから、ジェイムス・ブレイクには小気味よく裏切られている。昨年秋、何気なくジャイルス・ピーターソンのラジオを聴いていると、いままでに聴いたことのないような麗しい声が流れてきた。アンニュイでセクシー、そしてグラマラス。上品で削ぎ落とされたビート、野太すぎるベース、緊張感ある静と動の間合い。まさに引き算の美学。まったく新しいタイプのネオソウル・シンガーが登場したと、とんでもなく胸躍った。

すぐさま調べてみると、ジェイムス・ブレイクの「リミット・トゥ・ユア・ラブ」という曲だった。完全に黒人のシンガー・ソングライターだと思っていたら白人で、しかもダブ・ステップ(ドラムン・ベースやUKガラージ、グライムなどから発展したエレクトロニック・ダンス・ミュージック)の新星という。1988年に北ロンドンで生まれ、クラシックやゴスペルを学んだあと、クラブ・ミュージックに衝撃を受け音楽制作をスタート。EPではボイスカッティングやサンプリングを駆使したぶりぶりのダンス・ミュージックを聴かせてくれたかと思うと、デビュー・アルバムではゴスペル・エレクトロニカとでも言うような、自身の声をフィーチャーしたメロディアスで内向的な曲のオンパレード。変則的なビートと重低音は変わらぬものの、その音楽性の変わりように驚いた人たちも多いだろう。ジョニ・ミッチェル、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ、ディアンジェロ、ブリストルサウンド、ブライアン・イーノ、アーサー・ラッセルやレディオヘッド。彼らを彷彿とさせもするが、そのどれでもない。果たしてライヴはどんなものになるのか? 10月12日(水)、恵比寿リキッドルームでの初来日公演に向かった。

チケットはソールド・アウトというだけあって、会場に入るとすでにたくさんの人が。男性が多いが、カップルやサラリーマン、外国人、子供連れなど多彩な顔ぶれでにぎわっている。開演の20時ぴったりに、前座のシンガー・ソングライター、キャサリン・オカダが出てきた。「こんばんは。私は、ジェイムスの、友達です」と会場を沸かせたあと、牧歌的でフォーキーな歌を6曲披露。ギターの演奏はたどたどしかったものの、ファルセットがきいた透き通るハイトーン・ボイスが印象的だった。

「はじめまして」。転換BGMのビョークの曲がやむと、2人のサポート・メンバーをしたがえて、いよいよジェイムス・ブレイクが登場! 会場は一気にヒート・アップ。最初に言ってしまうと、その瞬間から終演まで、心のなかで「いやっほーい! 」「すごい、すごい、すごい」と叫ばずにはいられないほど、凄まじい1時間半だった。そして出会ったときの勘違いと音源の変遷に続いて、今回も粋に裏切られた。内省的で物静かなアルバムのイメージはどこへやら、情熱的で攻撃的、ほとばしる肉体性に満ち溢れたライヴだったからだ。上手にジェイムス・ブレイクの電子ピアノ、アナログシンセ、真ん中にドラム(一部パッド)、下手にギター、サンプラーというシンプルなバンド・セット。が、そこから生み出される音像はダイナミックでスリリングで重厚感がある。序盤の「アンラック」は、ニューロティックな声とビート、挟み込まれるノイズが刺激的。声を重ねていって左右に振り、不穏なムードをたたえて始まった「アイ・ネヴァー・ラーント・トゥ・シェア」は、それぞれの音がからみあって終盤に爆発するさまがたまらない。まるで大聖堂で歌われる讃美歌のごとく、声とピアノが響くのは「リンディスファーン」。アリーヤのトラックをサンプリングし、ダブ・ステップとR&Bの融合と名高い「CMYK」から、ファイストのカバーであり代表曲「リミット・トゥ・ユア・ラブ」に続くところで、フロアの盛り上がりも最高潮に。そして音の広がりときめ細やかさを感じられるソウル・ナンバー「ザ・ウィルヘルム・スクリーム」へ。ジェイムス・ブレイクの父親で、ジャズ・ロックで有名なコロシアムのメンバーだったジェイムス・リザーランドの曲が元になっている。他の曲も、メロディーを大事にしたソウル、ゴスペルと、実験的でダンサブルなエレクトロニカの混ぜ合わせ具合がすばらしい。その組み合わせ方、タイム感やアレンジセンス、どれをとってもずば抜けている。

とにかくステージからPAから、ディレイにループ、パンニング、フィルターやノイズなどが飛び交うザッツエフェクト祭り。とくにシンセベースは自由自在に音を伸ばせるので、重低音がパンチのきいたものになっている。声もオート・チューンやボコーダーで揺らがせたり補正したりして、一種の楽器にしているのが斬新だ。それにしてもどこからどの音が出ているのか、どこからが生音でどこからがエフェクトなのか、それぞれの演奏のタイミングをどうあわせているのか、正直よくわからない。謎すぎる。その不気味で不可思議な匿名性も、ジェイムス・ブレイクの特長として挙げておきたい。

足の裏から腰、背中、後頭部まで、同時多発的にびりびり伝わってくる重低音。沸き上がる拍手と歓声。打ち込みも同期もせず、あくまでバンド・セットの生演奏で鳴らされる音。影の主役と言っても過言ではないほど、せわしなく動きまくるPAと照明。そのどれもが、内から外から自己の肉体に響いてくる。一曲終わるごとに観客から力強いリアクションがあることからも、その満足度と熱気が伝わってきた。エフェクトを駆使すればするほど、ステージもフロアも肉体性が際立つ。EP、アルバムやデジタル・ミスティックズのカバーとバランスよく聴かせてくれたが、どれも鬼気迫る凄みを感じた。

とはいえジェイムス・ブレイクの本質は、その歌心にあるだろう。それは最初と最後に披露された、まっさらな声とピアノのみの弾き語りが物語っている。「どうもありがとう、うれしいです」とはにかみながら歌われたのは、彼が敬愛するジョニ・ミッチェルのカバー「ア・ケイス・オブ・ユー」。独特のピアノ回しと、泣きのファルセット・ボイスが会場に響く。静謐で美しい時間。これほどまでにフィジカルで、ソウルフルで、エレクトロニックなライヴもなかなか観られるものじゃない。今後もどんな音作りでわれわれを裏切ってくれるのか、楽しみで仕方ない。(text by 福アニー)

James Blake INTERVIEW

——まず始めに、日本での初ライヴはいかがでしたか。

James Blake(以下、J) : 最高だったよ! 観客のリアクションがとびっきりよくて、演奏するのが楽しかった。

——それはよかったです。昨日のライヴ(10.12@東京公演)、かなりハードでアグレッシブなサウンド・メイキングで驚きました。というのも、アルバムのムードのまましっとりとやると思ったので。ライヴ・ハウスでやる際に、意識した点はありますか。

J : 歌と演奏が、誠実にできるような環境を作りたかったっていうのはあったよ。アルバムの曲を同じような解釈のままライヴでやりたくなかったし、もうちょっとパフォーマーとしての自分を打ち出したかったというか。アルバムを作ったときはメロディーなりキーボードのパフォーマンスなりは全部ひとりでやっていたわけだけど、それを観客の前で心地よく演奏できるような環境を重視したんだ。

——EPからのダンス・ミュージックや弾き語りも多かったのは、アルバムだけではない部分も見せたかったということですか。

J : うん。EPには最新の曲も入っているので、そういう面も出したかった。

——先ほど、観客のリアクションがとてもよかったと言っていましたね。他の国、またライヴ・ハウス、野外フェス、教会など場所ごとに反応は違うものですか。

J : さっき日本の観客から特別なリアクションがあったと言ったけど、どこに行ってもそういう風に言っているわけじゃないからね(笑)。スイスに行ったら「いや~、スイスが特別! 」なんて絶対言わないタイプだから。本当に日本での演奏はエキサイティングだ。たぶんどこの国よりも、アルバムのムードを観客がつかんで受け止めてくれたからだと思う。場所によってちょっと冷たい雰囲気だったり、ものすごく温かく迎えてくれたり、観客との対話がまったくなかったりとそれぞれだよ。どこがどうだったとははっきり言わないけど!

——あなたと観客がフィットしたんですね。

J : リズムが激しいダンス・ミュージックで発散したいっていう気持ちが伝わってくると同時に、もうちょっと考える音楽やわが身を振り返らせてくれる音楽も欲しているようで、その対比をすごく楽しんでいるように感じたんだ。サウンド・システムの限界とでもいうようなエレクトロニック・サウンドでみんな踊ってくれたし、すべてを体験したいという願望も伝わってきて。それってなかなかないことなんだよ。たとえば自分がライヴを観に行っても、静なら静、動なら動って同じような単調なスタイルだと、すぐ飽きちゃう。劇場に行って劇を観ていても、似たようなテンポで似たような感情ばっかりだと、席が固く感じてお尻が痛くなっちゃうんだよね。逆にすごく刺激的でおもしろくて、テンポもよくて、転換がしょっちゅうあるような劇だと、そういった感覚はまったくない。「もう終わっちゃったの? 」って。それと同じように、観客やリスナーにつまらないと感じさせたくない、飽きさせたくない、という思いでやっているから、今回の反応はうれしかったな。

——ここ日本でも、東京公演のチケット完売や、アルバムのスマッシュ・ヒットなどあなたは人気者です。どちらかというとアンダーグラウンドでエクスペリメンタルな音楽なのに、なぜここまで日本人に受け入れられたと思いますか。

J : 日本人の感性がまだわからないから、なかなか自己分析しづらいんだけど… 。現実と非現実的なものの狭間がぼやかされるとか、シュールさとか、そういうところに響いてくれたってこともあるのかな。自分でもあとから振り返ってみると、それを作ったときの自分はなにを考えていたんだろうって作品がよくあるよ。たぶんこの手の音楽は、すごくダークな部分と明るい部分はもちろん、いろんな「色」加減があると思うんだ。だからなぜそういうふうになっているのか、どういう要素でそうなっているのか、というおもしろさもあるのかもしれない。あとダンス・ミュージックは、結構ダークなパワーがある。とくにDJはフロアでの権力をもっているし、ムードをコントロールできる。でも実は、自分がDJをやっているときは本当にスポットライトを当ててほしくないくらい。単純にミックスして曲をガンガンかけていく、みんなにその一夜を楽しんでもらえるような場を提供する、というのがDJだと思っているから。だからまあ話を戻すと、なんで受け入れられているのかっていうのは、日本人じゃないから説明しにくいなあ(笑)。

——いまDJの話が出ましたが、クラブ・ミュージックに衝撃を受けて音楽制作を始めたんですよね。その一番の魅力はなんですか。また、幼いころに学んだゴスペルやクラシックからの影響も教えてください。

J : クラブ・ミュージックは現代のダンス・ミュージックで、すごくトライバルでもあるよね。ひとつの音楽でみんなが同時にトランスにかかるようなところがあって、そういう音楽を作ることができるのはすごくユニークな体験だと思っているんだ。同じフロアでひとつの音楽を聴いて、みんなが同じ瞬間、同じ気持ちを共有しているという感覚がすごく好きなんだ。もちろん酔っぱらっている人もいれば、純粋に音楽を楽しむ人もいれば、友達に会うための人もいる。楽しみ方はまちまちなんだけど、同時にひとつの体験ができるというのがたまらない。あとリズムも魅力的。ドラムは演奏しないけど、パソコンでドラム・サウンドを構築することができるから、なにが人に訴えかけるようなビートかって考える。これはもう、練習とセンスの問題! なかなか人々に衝撃を与えるようなビートっていうのはうまく作れないんだけど、それができたときはうれしいものだよね。ゴスペルに関しては、歌よりもピアノやオルガンにインスピレーションを感じた。ハーモニー、コード、歌の部分がうまくまじり合うところとか。たとえば一般的に、ソプラノ、アルト、テナー、ベースという4パートから一定のルールに従ってハーモニーが生まれるよね。それをゴスペルのハーモニーだったりピアノだったりに入れ替えて考えていたんだ。だから歌よりもハーモニーに魅了されたな。

——いままでのEPではダンス・ミュージック、アルバムでは歌もの、新作EPでは共作やカバーと音源ごとに進化していると思います。次はどういう音作りをしたいですか。

J : 次のアルバムはバンドを作品づくりに迎え入れたい。今回のアルバムはどちらかというとピアノや歌に重点をおいたところがあるんだけど、ダンスっぽい感覚的な要素があるものを入れていきたいな。もちろん僕が歌ってね。2枚目のアルバムで、新たな境地に行けたらと思っている。EPやアルバムっていうのは、そのときの自分のポラロイド写真みたいなものなんだ。だからクラブにいたらクラブっぽい曲を書くし、ツアー・バスばかりに乗っていたらクソみたいな音楽になっちゃうし、家にいてピアノがあれば、やっぱり自然とピアノに体が向いていく。ちなみにツアーばかりやっていると、なかなか成長できないというのが持論。アーティストが1枚目を出して2枚目で沈没するっていうのも、その間に会場に行って演奏するばかりの生活になってしまって、いろいろと体験する時間がなくなるからじゃないかな。

——なるほど(笑)。それでは最後に、あなたを音作りに駆り立てる最大のモチベーションを教えてください。

J : やっぱりカタルシスかな。自分のなかにあるものをどうしても発散しなければならない。それって音楽家に限らず、作家でも、誰でもみんなそうだよね。秘めているものを爆発させたいという欲求だよ。

——ありがとうございました!

取材・文 : 福アニー
通訳 : 松田京子
ライヴ写真 : 岸田哲平

INFORMATION

サウンド、ボイス、沈黙、リズム、じらし、そして緊張感… ダブ・ステップの枠を越え、独自の音楽的宇宙は拡大し続ける。ボン・イヴェールとの共作曲、ジェイムス・ブレイクが敬愛するジョニ・ミッチェルのカヴァーに、新録曲を加えたCD2「イナフ・サンダーEP」、日本通常盤CDにさらに2曲のボーナス・トラックが加わったCD1の2枚組をリリース。

来日記念版がリリース
CD1 : 日本盤ボーナス・トラック2曲収録(全15曲―通常盤に2曲追加収録)
CD2 : Enough Thunder EP(Bon Iverとの共作楽曲、ジョニ・ミッチェルのカヴァー曲、新曲収録)

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PROFILE

James Blake
1988年に北ロンドンで誕生したジェイムス・ブレイクは、幼いころからピアノを学びクラシックの基礎を身に着けた後、ゴスペルやティーンエイジャーのときクラブで聴いたグライムやガラージに衝撃を受け作曲をスタートする。ダブ・ステップの神童としてその個性が各メディアから急速に注目を受け、2011年活躍が期待される新人リストBBC Sound OF 2011では2位に登場し今年2月にデビュー・アルバムを発表。繊細なメロディ、規則にとらわれないリズム、複雑なビート、張り詰めた音そして沈黙にジェイムス自身のボーカルを融合した独自のサウンドを作り上げ衝撃的なデビューを飾る。この並外れた才能は音楽の境界線を破壊するだけではなくそれを超越し音楽的な宇宙へと広げここ日本でも話題騒然。輸入盤が大ヒットを記録するなか6月に日本デビューが決定、待望の来日公演が決定した。

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この記事の筆者

[インタヴュー] James Blake

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