2011/08/11 00:00

学んでこなかった大きさをレゲエで感じる

──今まで考えてきたことが確信になった?

ラ : うん、そうだね。レゲエはレベル(=反抗的)でありつつ低俗的な部分もあるし、なんでもカヴァーしちゃう音楽。最近、ビートルズのメロディーをちょっと使ったらダメだってことになって、わざわざ作り替えたんだよ。1回作られたメロディーはみんなものだと思うし、それぐらいイイじゃん! って思うんだけどさ… また話が逸れましたね(笑)。

──こだまさん、3.11以降の現状についてはどう思われます?

こ : えーっと、人の言葉を借りると説明しやすいから言うけど、とある女性の作家と3.11以降に酒を呑む機会があって、今と同じようにその人に質問をしたんですよ。「原発事故以降、書くことに影響はありました? 」って。そうしたら「全然ないです」って言われちゃって、ちょっと意外だった。「どうしてですか? 」って訊いたら、「もともと自分の作品の基にあるから、こういう状況になっても動揺しない」って言うんだよね。で、言われてみれば僕のアルバムのなかにもそういう視点はあったわけで… もちろん、3.11以降いろんな思いはあるけどね。特に福島の原発については。

──やっぱりチェルノブイリの時とは感覚が違いますか。

こ : 違いますね。あんなことは起きてほしくなかったけど、起きてなかったらどうなっていたんだろう? とも思う。福島だけで済めばともかく… 本当はあんな事故が起きることなく、「やっぱり原発はダメだよね」という世論になっていくことを願ってたわけですよ。起きたらダメなんだよ、ああいうことは。自民党の連中だって、昔からは信じられないようなことを言い出してるけど。
ラ : 中曽根さえ、ね。中曽根に「どの口がそんなこと言うんだ? 」っていう曲を作ってあげてもいいかもね(笑)。あんだけの事故が起きても粘り強く原発を推進していこうというヤツがいるのも信じられないよ。あとね、オレの場合は歌が1曲減っちゃったんだよ。「人身事故」は歌えない。「死ぬならひとりで行ってくれ~ 」っていう歌だからさ。世の中が安穏をしているなら、死も笑えるんだよ。人を殺すような歌も歌える。でも、(震災で)たくさんの人が亡くなったから、そういう歌は歌えないよね。

──ステージに立つときの気持ちは変わらない?

ラ : 変わらないですね。「辺野古を忘れるな」とは歌うようにしてるけど。何かに集中してるとバランス悪くなっちゃうから。でも、原発のことも辺野古のことも、その裏にはアメリカという大きな存在があるわけで、そこは変わらず言っとかないといけないかなと思って。

──高円寺のサウンド・デモ(2011年4月10日)のときは“CCPP”(註)も歌っていましたが。 (*CCPP : ひたすら<チンチンピンピン>と繰り返される、破壊力抜群の1曲。)

ラ : 他のトラックでパンク・バンドが出てたから、「オレこそがパンクだ! 」っていう自己主張もあったんだけど。… ダメだ、だんだん酔っぱらいの発言になってきたな(笑)。

──3.11以降、レゲエに限らず、レベル・ミュージックの「レベル」の持つ重みが変わってきてるように思うんですよ。今まではそれがキャッチ・コピー的に使われてきた側面もあると思うんですが、この時代、レベルという言葉にはこれまで以上のリアリティーがあると思いますし。

ラ : 簡単な話。自分で考える力があるか、ないかでレベル(反抗)するか、しないか変わってくる。考えないヤツはレベルしないでしょ? 国が正しいと思ってるヤツはレベルしないわけだ。つまり、考えないヤツ、学ばないヤツはダメなんだよ。そういう意味では、わざわざレベルと言わなくても、考えるか、考えないかというだけの話という気もする。

──それは震災以前から変わらないことですよね。

ラ : うん、変わらないね。
こ : 僕は一番学んでこなかったし、自分で自分を見るかぎり、かなりダメな人間だから… 。
ラ : やっと分かったか(笑)!
こ : だから、ランキンのようには言えないところもあって。自分が許されるのならば、もっといろんな人を許せるんじゃないかっていう気もするし。そのなかで今回の原発事故のようなことが起きると… 。
ラ : そういうことを言ってるからお前のトランペットは内省的なんだよ(笑)。たまには気分を変えて攻撃的なものがあってもいいんじゃないの?
こ : うーん、そうねえ… (全員爆笑)。だからね、僕とランキンは本当に違う部分も多いの。前は呑むと喧嘩になったこともあったし。
ラ : そうだっけ(笑)? 全然自覚ないなあ。
こ : お互いに突っ込んだり、突っ込まれたりすることもありながら、こういう関係が続いてるのが嬉しいですよね。ま… 僕が目指してるのは、自由っていうことと、差別のこと、それが自分に言い聞かせてる2つの問題ですね。自分とはまったく正反対の人に対しては割と平気でいられるものなんですよね。ところが、自分と接点がある人とはそうもいかない。ある時期まで友達だったのに、だんだん仲悪くなっていくこともある。そういうなかで人は生きていくわけでしょ? だから、そういう人間関係なんかよりも、本当に悪いのは誰なんだ? ってことを絞り込んでいきたいわけ。で、本当に悪いのは原子力発電所ですよ。人の生活をゼロ以下にしてしまうんだから、あんなに悪いものはない。3.11以降、そのことは強く思いますね。

──なるほど。

こ : これまでの学校教育では学んでこなかった大きさをレゲエから感じるんですよ。アフリカからカリブに連れてこられた人たちの大きさがレゲエのなかにはある。どれだけ人を許さないといけないか。そして何を許してはいけないか。人間関係上のちょっとした諍いだって、放射能に比べたら全然許容できるし、もっとレゲエから学ばないといけない。だから、なんてしょうもない国だったか、思い知らされる日々なんですよ。
ラ : それは確かにあるな。天災ならどうにか決着付けられるけど、今回は人災だからさ。それも人の愚かさが招いたものだから。結局、ウソをつくことがミッションになってるヤツらがいるんだよね。それによって犠牲者が増えることはミエミエなんだよ。
こ : だからさ、レゲエのなかで歌われてきたアルマゲドン――あそこには宗教的な意味合いも含まれてるけど――が象徴する世の中になってきてるんだよ。そして、そのなかでどう生きるかということが重要なんだと思う。次の世代以降、どう暮らしていくのかを思うと… アメリカでは別の惑星にノアの箱船みたいに渡る計画が真面目に進められてるみたいだけど、そういうのはもういい。そこまでして生きていきたくないし、ノスタルジーにもこだわっていられない。これから生きていく人たちの将来を思うと、こんな世の中でもより良い状態にあるべきだと思う。

PROFILE

RANKIN TAXI(ランキン・タクシー)
ここ数年のレゲエ・ムーヴメントの主導者であり、日本のレゲエ・シーンを牽引し続けているジャパニーズ・レゲエ界のオリジネーター、ランキン・タクシー。80年代からレゲエDJとして活動し始め、Taxi HiFiなるサウンド・システム・クルーを結成。そのレゲエに対してのアプローチは、真摯かつユーモアに溢れているが、ときに過激でもあり、まさにレベル・ミュージックの体現者としての一面も持ち合わせている逸材である。その言動は多くのアーティストに影響を与えており、リスペクトしている支持者は多数存在する。また、RANKIN TAXI&NODATIN(通称RAN-TIN)アコースティック・デュオとしても、意欲的にライヴに出演し、話題を博している。
そして昨年春、20年以上振りに “Taxi HiFi” NEWサウンド・システムを61cmウーファーのDOSS BASS! なシステムに完全リニューアル。更に現在、21インチ=53cmウーファーのバック・ロードホーン・サウンド・システムを、精魂込めて製作中!
順調! 快調! 絶好調! “Mr. CCPP” ランキン・タクシー!! 爆裂ヒット・チューン「チンチンピンピン」(CCPP)はレゲエザイオン着うた、着うたフル・チャート共に1位獲得。iTunes Music Store2位(レゲエチャート)を記録し、さらには、「チンチンピンピン (BUZZER BEATS REMIX) feat. サイプレス上野」(CCPPBB)もリリースし、レゲエ界のみならずヒップ・ホップ界でも話題を呼んだ。2011年4月、ランキン・タクシー&ダブアイヌバンドで、「誰にも見えない、匂いもない 2011」を制作、DIY Hearts「東日本大震災義援金募集プロジェクト」にて配信限定で発表し、国内外から話題を呼ぶ作品となっている。

ランキン・タクシー Myspace

こだま和文
トランペッター。82年、それ以降の音楽シーンに多大な影響を与えることになる日本初のダブ・バンドMUTE BEATを結成。作曲、演奏のみならず、アート・ワークも手掛ける。セカンド・アルバム『LOVERS ROCK』(87年)では米スリーマイルアイランド原発から立ち上がる煙の写真に「LOVER’S ROCK」と血の色で刻んだジャケットが注目され、レゲエの本質であるレベル(反体制)的な姿勢を体現する。90年、ミュート脱退後は確信的なソロ活動を展開、盟友・屋敷豪太とのユニットKODAMA & GOTAを経て、99年以降は自身の活動をDUB STATIONと名付け、ターン・テーブルをバックにしたサウンド・システム・スタイルでの演奏を行う。
これまで共演を果たしたレゲエ・グレイツは、ローランド・アルフォンソ、リー・ペリー、オーガスタス・パブロ、ジャッキー・ミットゥー、リコ・ロドリゲス、グラディ・アンダースン等。レジェンドに名を連ねる錚々たるメンツである。また、フィッシュマンズ、チエコ・ビューティー、ロッキンタイム等のプロデュース、梶間俊一監督『集団左遷』、鈴木清順監督『殺しの烙印 ピストルオペラ』のサウンドトラックなど活動は多岐にわたる。
音楽以外でも、文筆、版画、絵画などでも音楽と共通した独自の世界観を表現、その異才を存分に発揮している。日本のレゲエがネクスト・レベルに向かい扉を開ける瞬間、そこには常にこだまがいた。孤独を湛えた音色と無垢なメロディが奏でる静かなアジテーション。それを支えるタフでファットなリディム。すべてが真摯なメッセージを放ち、こだまの息吹はやさしく美しく、どこまでも響きわたる。

こだま和文 official HP

大石始
音楽雑誌編集者を経て、2007年5月から約1年間の海外放浪の旅へ。帰国後はフリーランスのライター、編集者、DJとして活動中。2010年に初の著作「関東ラガマフィン」(BLOOD)が、2011年に共同監修・一部執筆を手掛けた「GLOCAL BEATS」(音楽出版社)が刊行。各媒体やワールド系を中心にしたCDの解説などで執筆するほか、トーク・イヴェントやラジオ出演も多数。異国の地で味わう音楽と酒をこよなく愛する南国愛好家、重度の旅中毒患者。

[インタヴュー] RANKIN TAXI

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