新たなJ・マスキスの咆哮『Several Shades of Why』

ダイナソー・Jrのギター&ヴォーカルとして知られるJ・マスキスのソロ作品が配信開始! ソロとしては初となるスタジオ・レコーディングで作られた『Several Shades of Why』 は、ほぼ全編アコースティックで、様々な音楽活動をしてきた彼の作品群の中でも、極めて繊細で信じがたいほどの美しいアルバムである。ドラム・レスにする事によって、新たな方向へ向かうこれまでとは違った音楽を見いだしたマスキス。しかしそれでも私達が知っているマスキス節は健在。新たなマスキスの"今"を是非聞いてください。

J MASCIS / Several Shades of Why
説明不要、ダイナソーJr. のフロント・マン、J・マスキスがライヴ盤『マーティン+ミー』以来、実に15年振りとなるソロ・アルバムをサブ・ポップからリリース! ダイナソー・Jrの轟音とは対照的な途方もなく美しいアコースティック・サウンドに乗るJ・マスキスの途方もなくやるせないヴォーカルがあまりに素晴らしい、文句なしの傑作!


ブロークン・ソーシャル・シーンの中心人物ケヴィン・ドリューをはじめ、ソフィー・トルドー(ex-ゴッドスピード・ユー! ブラック・エンペラー)、ベン・バードウェル(バンド・オブ・ホーシズ)らもゲスト参加。

SPECIAL DISC REVIEW

*本頁では、岡村詩野音楽ライター講座の受講生のお二人に寄稿いただきました。

自分の歌いたい歌を自分のために歌う

 90年代初頭に興ったオルタナティブ・ロック・ムーブメントの中心にいたバンド、ダイナソー・Jr。このバンド名を聞いて僕の頭に浮かぶのは、ジャズマスターというギターを持ってステージに立ち、殺伐としたディストーション・サウンドをまき散らすヴォーカル&ギター、J・マスキスの姿である。暗い路地裏のような雰囲気の中にほんの少しの温かさを注いだメロディーを生み出す、マスキスのソングライターとしての才能も素晴らしいけれど、それ以上に僕が魅力を感じているのはギタリストとしてのマスキスだ。曲の間奏部分で空間を切り裂くようにうなりを上げるギター・プレイは本当に素晴らしい。そういえば僕はマスキスのマネをしてジャズマスターを買ったのだった。

 僕にとってマスキスはそういう存在であるため、マスキスにとって初となるこのソロ作品がアコースティック・ギターのみを使った弾き語りの曲だけで構成されていることを知ってしまうと、曲を聴いていなくてもこれはお遊びでしょと思ってしまうのである。マスキスの本領はジャズマスターをギャンギャンと鳴らしてこそ発揮されると思っているからだ。とは言ってもバンドのメンバーのソロ活動はサイド・プロジェクトなのだから、リリースする作品が軽い雰囲気のものになるのは普通なのかもしれない。

 ところがこの作品からはサイド・プロジェクトだからといってサラッと聴き流すことができないような、静かなる気合いみたいなものを感じる。マスキスが鳴らすアコースティック・ギターの音はピックを使わずに指で弾いたかのような丸みを帯びていて、歌のメロディーには今までと何ら変わらないマスキスらしさがある。ドラムはいっさい入っておらず、所々にヴァイオリンやエフェクトをかけて歪ませたアコースティック・ギターが差し込まれている。穏やかな雰囲気を漂わせる作品ではあるものの、全編を一筋の芯が貫いていて、それが僕の心をつかんでいるのだ。

 ここには、おれの歌を聴いてくれ、といったような厚かましさはまるでない。それが何よりもいい。この作品でのマスキスは自分の歌いたい歌を自分のために歌っているように見える。村上春樹の『ノルウェイの森』に“ある年齢をすぎたら人は自分のために音楽を演奏しなくてはならない”というセリフが出てくる。マスキスはそんな雰囲気を放っているのだ。僕にはそんなふうに音楽をやっているマスキスがとてもうらやましく見えた。
(text by 小澤 剛)

純然たる歌い手としてのアイデンティティ

 「轟音を掻き鳴らす」とは一種の虚飾である。根拠のない自信と、根拠が無いことを知るがゆえの焦燥。唸るノイズと振り乱す髪は唯我独尊を掲げる若さと愚かさの象徴ではなく、自身のアイデンティティを形成するための隠れ蓑だったのだろうか。往々にしてディストーション掻き鳴らしてきた人たちも、いずれ年を経て、老成という名の衰えの下にノイジーなサウンドから離れて行く。しかし、マスキスも本当にその一部でしかないのだろうか。『グリーン・マインド』から20年を経て、本作『Several Shades of Why』を聴いた時、そんな疑問を抱いた。マスキスは20年の時を経て、本当に老成したのだろうか。

 本作を聴き込み、同時に『グリーン・マインド』を聴き直すにつれて、両作に通底するメロディやアコースティック・ギターの響きが近しいものであることを感じ始める。それこそドラムもベースも鳴らない本作にあってさえ、大半のサウンドを奏でるアコースティック・ギターをディストーションの効いた音に塗り替えれば、『グリーン・マインド』が再び鳴り始めるような。時にポップな風体を醸しつつ、その裏で憂いをエッセンスとして据える音楽。すなわち、共にメロディを起点としたメロウ&ポップな音楽。20年の時を経ようとも、そこにあるのは純然たる歌い手としてのアイデンティティと羨望と失望がある。

 そんな感傷を抱くと、熟成の後に生まれたような本作が途端にひどく青臭い作品に思えてくる。彼はいつだってシンガー・ソングライターになりたかった。けれど彼はそれだけの資質を備えていなかった。だからダイナソー・Jrが必要であり、ディストーションが必要だった。けれど地位も名誉も手に入れ、ギター・テクニックにも磨きがかかった今となってはそんなものは必要ない。もはや歪んだ世界にいることはない。好きなようにやればいいのだ。そんな言葉が自然と浮かび上がってくる。

 もしもマスキスがJeff Buckleyのように歌えたら、きっとノイズを纏い縛られることもなかった。もっと純粋に軽やかに憂い歌うミュージシャンになったのかもしれない。つまりマスキスにとってのダイナソー・Jrは若き日に見られるカタルシスから生じたのではなく、致し方なしの選択であり、本作が老成というよりもむしろ青さを蒸し返した作品だという気さえしてくる。そして本作は、20年を経た現代において、『グリーン・マインド』の実像を浮き彫りにする作品なのかもしれない。
(text by 各務浩平)

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各務 浩平

J マスキス『Several Shades of Why』配信開始!

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