S.L.A.C.K.が満を持してリリースしたニュー・アルバム
S.L.A.C.K. / 我時想う愛
「EPでも無く、アルバムでも無い『我時想う愛』って作品」(本人談)
【TRACK LIST】
1. But Love 2. Noon Light 3. 東京23時 4. いつも想う 5. Come inside 6. We Need Love 7. タワ事 8. 夕方の風 9. My HOOD My HOME(skit) 10. I Can't Take it 11. 何もない日に 12. Had Better Do
【Guest】
GAPPER、BUDAMUNK、ISSUGI、SEEDA、SQUASH SQUAD、YAHIKO...
2nd albumをもう一度復習しておこう!
S.L.A.C.K. / WHALABOUT
前作デビュー・アルバム『My Space』から1年も経たないだろう。前作に比べ、ラップ、トラック共に、更に独自のゆるさと鋭さが共存している。もちろん大半のトラック・メイクを自らが手掛ける中、お馴染みMonjuから16Flipがトラック提供。フィーチャリングに仙人掌。そして、Jazzy Sportから話題を呼んでいるBudamunkyのL.A仕込みのビートも興味をそそる。
変化したS.L.A.C.K.
ズレそうなくらいレイド・バックしたビートに、気が抜けそうな自然体。想像をふくらませ共感を誘ってくる断片的な描写が連続するリリック。それが今の日本のヒップ・ホップで最も注目されているラッパー、S.L.A.C.K.のスタイル。2008年に手売りした100枚のCD-R『I'm Serious(好きにやってみた)』が瞬く間に多くのヒップ・ホップ・ファンの間に広まり、一気にS.L.A.C.K.の所属するDown North Campにも熱い視線が向けられる。その熱が冷めぬまま数ヶ月後に、ファースト・アルバムの『My Space』をドロップ。手売りから広まったS.L.A.C.K.の噂は、多くの確信に変わった。ZEEBRA、KREVA、ライムスター宇多丸が、この謎の新人を高く評価し、S.L.A.C.K.は日本語ラップのアンダーグラウンドの域で突出した存在となった。続いて、兄のPUNPEEとその友人GAPPERとのユニットPSGによる『David』、2ndソロ『whalabout』と立て続けにリリースする作品も話題となり、彼は日本語ラップ・シーンにおけるテン年代の幕開けを代表する存在となった。曽我部惠一とのコラボレーションでPSGを知り、この少し変わったラッパーを知った人も多いのではないだろうか。もはやS.L.A.C.K.の才能に対する期待の眼差しは、スケーターやB-BOYによるものだけではなくなった。
S.L.A.C.K.がここまで目立つ存在になったのは、その特異なスタイルで注目を集め、さらにはS.L.A.C.K.が一貫して描く現代的な世界観が、多くの共感を得ることに成功したからだ。ラップにありがちな豊かさへの渇望や、自らのスキルの高さを誇張する事もしない。S.L.A.C.K.は、日々友人と楽しく過ごせていればそれで十分なのだ。そんな「最低限で暮らしたい」と歌えるラッパーに、多くの人々がヒップ・ホップの新たな可能性を感じ、ジャンルを超えてリスナーが共感していった。サンプリングは、主張し過ぎず、ヨレヨレなビートの打ち込みは、洋邦見渡せど誰とも似ていない。まるで親しい友人と話すかのように書かれたリリックを、リラックスを促すビートの上で、ゆるくラップする。ヒップ・ホップ特有の形容詞にリアルという言葉がクールと同義語で使われるが、素のままという意味の「リアル」な音楽をクールに提示してきたのがS.L.A.C.K.だ。
そんなスタイルが、今作では変化していた。今度は誰も知らないS.L.A.C.K.を聴くことが出来る。S.L.A.C.K.のラブ・ソングはこれまでもあったが、誰かへの愛を明確に、かつ赤裸々に表現しているような曲はなかった。むしろ、上手くいかない関係に少しネガティヴになりそうな心境を、ラップする事で誤魔化している様子が見えてくるような曲が多かった。そんな彼が、このアルバムでは明確な人を目の前にして愛について歌っている。心の中で誰かを思いながら、一人物思いに耽る姿が見えてくるようだ。これまでと同様にルーズではあるが、愛を綴るメッセージがキャッチーに響いてくる。これまでの作品では、ブツ切れにしたメロディーを使う事で「ズレ」を色濃くしてきたが、今作ではキーボードによる演奏が乗せられている。いままで無かったスムースなメロディーを、いかにマッチさせているかが必聴だ。他にも不意を突くかのようにGAPPERのみがラップするというPSGファン大喜びの「Noon Light」、SEEDAとKOJOEという話題のラッパーをフィーチャーし、英語のような日本語ラップのフローを堪能できる「東京23時」と、孤独感の傍らで誰かへと思いを馳せる曲が続く。そんな中で「いつも想う」、「タワ言」、ラストの「Had Better Do」のようにS.L.A.C.K.らしいネガティブな自分を曝け出すビターな曲も挟まれる事で、メロウになりすぎずにバランスを上手く保っている。勿論、今作もS.L.A.C.K.には不可欠な存在であるルーズなヨレヨレ・ビートを作るBUDAMUNK、ファーストから脇を固めるISSUGIも参加している。加えて、過去の作品と明らかに違うのが音質だ。今回は明らかに音のクオリティが増している。以前の平面的な音像と比べてマスタリングの環境の変化が強く反映され、より立体的かつ鮮明に映えて聴こえる。自主レーベルからのリリースは、自身の音楽だけでなく、環境も共に変化している事を知ることが出来る。
ファンにとっては様々な聴き所が盛り込まれ、S.L.A.C.K.の新たな一面を聴ける一枚であり、初めて聴く人にとっても、キャッチーなラブ・ソングが多いという意味で、オススメできる一枚である。日本語ラップにとどまらず、日本のインディー・シーンを賑わすS.L.A.C.K.。その才能に、底は見えない。(Text by 斎井 直史)
特異なスタイルで魅せるヒップ・ホップ
ピンゾロ / P.P.P
昭和、キャバレー、娼婦、JAZZそして新宿。全てを内包し鬼の攻撃的で繊細なラップ、FUNKYでレアなベース、日本人離れした黒くて、スウィンギーなドラムという、危うくも完璧なバランスで、ピンゾロ・サウンドが完成。
SWANKY SWIPE / Bunks Marmalade
SCARSのMCであるBES率いるSWANKY SWIPEのファースト・アルバム。最もヤバイと噂のラッパーBES。このアルバムにはMSCから漢&メシア、SCARSから SEEDA&A-Thug、Back Logic、Simonなど参加の超強力盤。
HOCUS POCUS / 16Picies
ホーカス・ポーカスがいる限り、HIP HOPはまだ大丈夫。我々にそう確信させた08年の大傑作『Place 54』、そして続く来日公演から3年。このサード・アルバムを前に我々は再び確信する。間違いなくヨーロッパ最高のヒップ・ホップ・バンド。
PROFILE
From東京は、Skate Board Bridge(板橋地区)、実兄PUNPEEとその同級生GAPPER、そして兄のGirlFriend DJ MEWから成り立つPSGのラッパー&トラック・メーカー、S.L.A.C.K.は言うならば、Black & Free... 12歳の時からFlowを初め、今に至る。2008年に『I'm Serious(好きにやってみた)』を限定100枚リリース。その全曲がセルフ・プロデュースの作品は、マイナー・ファンからの評価も高い。現在は、Down North Camp、DOGEAR RECORDSとの交流が深く、共に作品制作に取り組んでいる。S.L.A.C.K.の毎日にスケボーと音楽は仲間とつながるための携帯電話みたいなもの...