2011/01/12 00:00

PaperBagLunchboxが、3rd album『Ground Disco』をリリースした。

2006年に1st Album『ベッドフォンタウン』をリリース、 同年に渋谷AXで行なわれたSyrup16g主催のイベントに参加するなど、バンドの動向に期待が高まる中で5年間の沈黙を続けた彼ら。『Ground Disco』は、1枚の音源も出すことなく、日夜曲作りとライヴ活動に明け暮れてきた彼らの「空白の5年」を経て辿りついた、待望の新作。12編の物語から紡ぎあげられた、1本のロード・ムービーのようなトータル・コンセプト・アルバムとなった。さらに、これまでライヴ会場やホームページのみで販売されていた2nd Album『LOST&FOUND』も同時販売開始。「空白の5年」に彼らは何をしてきたのか? その答えがここに。

『Ground Disco』

1. Ground Disco / 2. アーバンソウル / 3. watching you / 4. キスレイン / 5. VELVET / 6. 月のまばたき / 7. 明け星 / 8. オレンジ2011 ver. / 9. マイムを踊れ / 10. ストップ / 11. 帰れない街 / 12.運命の丘
『Lost&Found〜2006-2010〜』

1. アコースティックボート / 2. さよならメトロノーム / 3. メロウゴーラウンド / 4. オフ / 5. ワンダーサラウンド / 6. ユキノハラ / 7. ティコ / 8. おやすみ

INTERVIEW

どうか、この音源で満足しないで欲しい。確かに素晴らしい作品だが、まだこの先がある。とりあえずはこの後3月まで続くリリース・ツアーに足を運んで欲しい。未来でもなく、過去でもない、今、目の前にあることを歌う彼らのライヴは、恐怖すら感じる程に生々しく、忘れられないものになるだろう。

2010年の10月、2ndアルバム『Lost&Found〜2006-2010〜』のリリース・ツアーで、体を揺らしながら歌っていたナカノヨウスケは、「こんなに一気に感情を吐き出してしまって大丈夫だろうか。終わった後、空っぽになってしまわないか?」と不安にさせられるほど感情的だった。最後に演奏した「おやすみ」のノイズと轟音で、彼らの音の形を借りた感情は客席を飲み込み、ライヴが終わった後はしばらく何も考えられなかった。まるでラスト・ライヴのようだった。

2006年に1stアルバム『ヘッドフォンタウン』をリリースしてから、ライヴは定期的にやりながら、曲を書きためながらも、リリースなどの表立った活動は見せなかったPaperBagLunchbox。その空白の5年についてはCinra.netの連載「音楽を、やめた人と続けた人」にて語られているが、その5年を終えた今を最も生々しく切り取ったのが今作『Ground Disco』だと言えるだろう。12曲それぞれが違う感情として独立し、アルバムを通して聴くと、ひどく人間的な作品に仕上がっている。2ndアルバムから4カ月足らずで3rdアルバムをリリースし、一度のツアーで20本近い公演をこなすなど、5年の月日を取り戻すかのように、再び活発な活動を見せ始めたPaperBagLunchbox。彼らに今作への思い入れと、今後の意気込みについて語ってもらった。

インタビュー&文 : 水嶋美和

ただもうとにかくやるしかない

——結成から10年とのことですが、PaperBagLunchbox(以下、PBL)以前はそれぞれ別のバンドで活動していたんですか?

恒松遙生(key, Chorus, Programming / 以下、恒松) : 本格的にやるバンドはみんなPBLが初めてですね。
伊藤愛(Druns, Percussions / 以下、伊藤) : 私はドラム自体も初めてでした。

——大学で出会って大阪で活動して、上京を決めたのはいつ頃ですか?

恒松 : 2004年ぐらいに友人に誘われて横浜のイベントに出て、それを観たバンドがまた東京のイベントに呼んでくれて、その時に今のレーベルの人に声をかけられました。
伊藤 : 大学卒業と同時にバンドで上京しました。卒業式の前日に引っ越したから、2005年の春ですね。
恒松 : それから2006年の2月に1stの『ヘッドフォンタウン』をリリースして、次の作品を作るために一旦ライヴを断ってたら、そのまま5年が経ってしまって。
伊藤 : でもライヴは絶対に月に一本はやろうって決めていたので、活動自体は途切れてません。

——今作『Ground Disco』では、80曲ある中から12曲にまで厳選したとのことですが、曲自体は結構な数があったんですね?

ナカノヨウスケ(Vocal, Guitar / 以下、ナカノ) : 曲は何だかんだ作り続けてて、まず80曲をざっと聴いて、みんなで投票して30曲にまで絞ったんですが、そこから一つのアルバムにまとめるのが難しくて。そこで2ndと3rdに分けて出さないか? という提案を頂いて、そしたら素直に今までライヴでやってきた曲と新しい曲とで、きれいに分けることができました。
恒松 : 2ndはライヴ会場と通販限定の販売で、ジャケットも洞穴みたいなスタジオで撮って、地下に籠ってる感じ。で、新曲ばかりの3rdは全国流通でジャケットの写真も青空の下。はっきりと分かれていますね。

——曲作りはどのように?

恒松 : 3rdは基本、ナカノくんの弾き語りの曲が先にあって、そのまま使うこともあるし部分的に使ってそこから展開を作ったり変えたり、メロディがそもそもあった曲をアレンジして作ったのが多いかな。2ndは、バンドで合わせて即興的に作るのが多かったかも。
ナカノ : 3rdに関しては「運命の丘」が一番古くて、2年前ぐらい。他の曲は1年の間に出そろいましたね。曲作り月間を設けて、3、4カ月の間に10曲以上作って、いいのだけ残して他は捨てていって。

——「運命の丘」だけ、何か違う感じがしました。他の曲は自分の内面と向かい合う感じの歌詞なんですけど、この曲は外に誘われて行く感じがするなって。曲も浮遊感があって、この曲が最後に来ているのはすごい意味があるんじゃないかと思ったんです。

ナカノ : この曲を最後に持ってくるっていうのは最初から決まってました。1st、2ndと最後を轟音で締めるアルバムが続いたんですけど、この3rdに関しては救いのある終わり方というか、歌ものできっちり締めようって決めてて。「運命の丘」は自分の見た夢そのままを曲にしたんですよ。夢を見て起きてそれをすぐに書きとめて、その日のうちに曲にしたんです。で、バンドで合わせてみたら今までにないグルーヴが出て、「めちゃくちゃいいじゃん!」って。でもどうやって出したらいいのかわからなくて、俺の中にずっと収まってたんですよね。ライヴでも一回ぐらいしかやったことがなかったし。
恒松 : 今までいじっては戻しいじっては戻しを繰り返してて、3rdでやっと完成形になりました。アレンジに苦労した曲です。

——歌詞は全てナカノさんが?

ナカノ : そうですね。で、メンバーから指摘されたら変えていったり。昔は変えさせなかったんですけど、3rdではより開けたものを作りたかったので、自分で作った歌詞を一度まな板の上に乗せてみようかと。メンバーやマネージャーやプロデューサーの意見も多く取り入れて、結果的にすごく開けた言葉になった。みんなから指摘をもらって、誰もがイメージできる言葉に変えていく作業は楽しかったです。

——「帰れない街」を年末の帰省前のタイミングで聴いて、すごい悲しくなりましたよ(笑)。これはどこをイメージしていますか?

ナカノ : 最初から救いの無い歌詞ですよね(笑)。これは伊藤さんが実家に電車で帰った時の景色を聞いて思い浮かべたんです。誰も居ない電車と、トンネルを抜けた先から急に雪が積もってる景色。そのイメージを最初に頭に置いて、ループしてる4コードのすごく淋しげな感じに導かれて歌詞を詰めていきました。僕の歌詞の中には「孤児」って言葉がよく出てくるんだけど、東京に出てきてこの歳になって、もうどこにも帰れないっていう意識がすごく強いんです。個人的な話ですけど実家は帰れない状態だし、中・高もやりたい事が何一つ出来ないような厳しい学校の寮生活で、辛い思い出ばかりだし、心が休まる場所が無い。でも伊藤さんとかは新潟に実家があって、僕が行っても温かい、心休まる場所で。昔からそういうのに対して憧れがすごいあって、そういう気持ちから「帰れない街」っていう言葉が出てきたのかもしれない。
恒松 : この曲全部半音下げなんですよ。ギターもベースも。だからちょっと暗くてブルージー。最後のオルガンとギターの掛け合いも、アカペラでナカノ君が歌ってる音源を先に聴いて、ああいう切ない感じの音が出てきました。

——あと、先ほど言った「自分の内面と向かい合う曲」の中でも、一番わかりやすくて濃いのが「watching you」だと思ったんです。

ナカノ : この曲も内に向かってる感じですか?

——というより、内側にいる自分と対面している印象がすごく強い。歌詞にも「君」って言葉が出てくるんですけど、一人称というか、自分自身に語りかけてる感じがしました。

ナカノ : この2ndが出るまでの5年間、作品は作っているのにどこにも出ていけず、闇の中をふらふら彷徨っている自分がいて、3rdはそこから先に進んで、全部わかった上でそういう自分を大丈夫大丈夫って言って抱きしめに行っている。前向きになって先に進みたい自分と、ファンタジーの中で縮こまって安心していたい自分の、今までお互いをすごい批判しながら反発し合っていた関係が、最近やっとぐっと近づいた。バンド自体も、今まであったメンバー内での分裂がなくなって、やっとPBLという一つの人格にまとまってきた。3rdはその瞬間が収められているアルバムだと思います。
恒松 : 前はもっと主観だったのが今回は客観が入って、まあ今も内向きっちゃ内向きだけど、僕らにとってはすごい前向いている感じがしますね。
ナカノ : 決してわかりやすく「前行こうぜ! 」っていう訳じゃないんですけど、彷徨っているものを助けたいという気持ちが自分自身に対してがすごくあります。たとえば、最初の「Ground Disco」はもうバンドやめちまいたいって気持ちで大きな爆弾を爆発させて、そこには何も残らないと思っていたんですけど、砂煙の向こうにメンバーがまだ居て「まだ続けようよ」って肩を叩いてくれる。そこで歌い続ける決意を固めて、前に進む曲になってるんです。でも爆発させちゃったから、今までやってきたことも全部なくなっちゃって、ただもうとにかくやるしかない。だから未来に対して必ずしも輝かしいイメージがある訳ではない。かと言って、過去を振り返ってる曲もない。まさしく今の音なんです。

何か一つぐらい変わらないものがあってもいいんじゃないか

——今までの作品作りと大きく変わった点はありますか?

ナカノ : さっきから僕がやたら喋ってるんですけど、今回、僕は歌詞を書いて歌ってるだけなんですよ。出来上がりはプロデューサーとか、ヨウちゃんとか、事務所の方とかエンジニアとか他の人に任せきっていたので、どんなアレンジを加えて何を乗せていくかはマスタリング終わって初めて知りました。
恒松 : ベースはベースだけ、ドラムはドラムとパーカッションだけっていう風に、それぞれプレイヤーとして専念してましたね。メンバー内では僕だけがマスタリングまで関わって。そういうのは今回が初かな。
ナカノ : だから僕はこの作品をすごい客観的に見れてると思うんです。その上で、こんなバランスで音楽をやっているバンドは聴いたことがないと本気で思った。懐かしい、新しいじゃなくて、本当に今のこと。果たしてこれが受け入れられるのかとも考えたんですけど、だからこそ応援してくれてる人にとって見ててわくわくするバンドなのかもなって思いました。今まで以上にお互いを信頼して尊敬し合ってチーム・プレイの中から生まれた、今までで一番エキサイティングな作品になっていると思います。
恒松 : レコーディング自体もあまり時間がかかってないので、これぐらいだったらまたいつでも作れるぞって思います。
ナカノ : 始まりに過ぎないんですよ、このアルバムは。この作品で自己と対面して、次の作品で外へ出ていきます。

——じゃあ、「運命の丘」は言わば次回予告みたいな感じですか?

ナカノ : そうです! どこに連れてってくれるんだろうっていう期待に、次回で答えます。

——アルバムの最後の最後に小さい声で「はい、オッケー」って入ってるんですけど、あれはどういう意図で?

恒松 : 実はあれはすごい重要で、「帰れない街」から「運命の丘」で夢の世界に入って、7弦で荘厳に終わった後のあの「はい、オッケー」で、ちゃんと現実に帰れるようになってるんですよ。
ナカノ : 俺の場合、リアルに帰れる街がないんですけど、そういう奴が帰れるんですよ。バンドに。音楽の中に。歌を歌っている時は誰かと居れる。アルバム後半の曲はアルバム全体で聴くと生きるようになってます。流れの中で見えてくる景色がある。プロデューサーの人がこのアルバムをロード・ムービーに例えていたんだけど、本当にそうだなって思うんです。一日、二日と経過していって、実際の生活の中ではそれほど大きな変化はないんだけれど、頭の中では色んなイメージが駆け抜けていく。悪夢を見たり良い夢を見たり、楽しい時間があれば悲しい時間もある。感情をずっと揺らしていると、ある瞬間にすっと元気になってる。そういう意味で今回の『Ground Disco』は12種類の方法で感情を揺り動かして、終わった後に「ま、いっか」ってすっきりする。そういう効果のある作品になってると思います。

——以前にライヴでナカノさんが歌う姿を見て、感情で歌って、感情で踊る人だなと思ったんです。ここまで一気に感情を吐き出してしまって大丈夫なのかなって心配するぐらい。

ナカノ : 感情を揺り動かして最終的には浄化していく。30分なり1時間なり演奏が終わった後にすっきりしてる。そういう風にしたいんですよ。循環させたいんです。これから相当な数のツアーの中でそれをやり続けて、どんどん別の生き物になって、どんどん自分に近づいていきたい。3rdを完成させて自分が何をやるべきかがはっきりしたし、これからPBLを通してやれることも明確になった。やっぱり自分は感情だなって思うんです。感情を燃焼して昇華させて音楽を作るタイプだから、元気な曲もあれば、さっき話した「帰れない街」のような救いの無い曲もある。僕らが何でそんな振れ幅で演奏するのかっていうと、一人の人間の中には色んな感情があるじゃないですか。その全部をやりたいんです。最終的に感情なんて所詮は感情で、そこにはあるけどいずれは流れていくもの。だから、一つの感情にとらわれちゃうときついよって。色んな曲があってしかるべきだし。
恒松 : これもある種コンセプト・アルバムだと思うんですけど、コンセプト・アルバムって全部で一曲じゃないですか。でも一曲一曲がそれぞれちゃんと独立してるコンセプト・アルバムって、今のポップスのアルバム作りにはなくて面白いなと思います。さっきナカノ君が言ってた通り、一個一個の感情が独立してるなって。

——すごい人間的で、濃い作品ですよね。

恒松 : 基本濃いんで(笑)。
ナカノ : おとぎ話のインタビューとか読んでても、音楽ももちろん、すごい濃いじゃないですか。どこを切っても有馬(和樹)君が居るし。そういう音楽が好きだから、そういうの作らなきゃって思うし、求められてるとも思うんですよ。毎日色んなことがあって、周りも自分も変わっていく。けど、何か一つぐらい変わらないものがあってもいいんじゃないかって、みんな思いたいじゃないですか。そこに音楽は答えられるものだし、俺達4人が解散しないでメンバー変えずに続けているっていう事実もまさにそう。これからもそういうのを見せていきたいですね。

3rd album『Ground Disco』リリース ツアー2011

  • 1月23日(日)タワーレコードNU茶屋町店 (インストアライブ)
  • 1月27日(木)渋谷O-NEST(exPoP!!!!!、 入場無料)
  • 1月29日(土)タワーレコード新宿店(インストアライブ)
  • 1月30日(日)静岡 JAMJAMJAM
  • 2月3日(木)神戸 太陽と虎
  • 2月4日(金)京都 MOJO
  • 2月5日(土)タワーレコード近鉄パッセ店(インストアライブ)
  • 2月5日(土)名古屋 UPSET
  • 2月10日(木)横浜 Lizard
  • 2月13日(日)松本 ALECX
  • 2月17日(木)宇都宮 Heaven's Rock VJ-2
  • 2月18日(金)水戸 SONIC
  • 2月19日(土)仙台 Park Square
  • 2月20日(日)新潟 Club Riverst
  • 2月25日(金)岡山 CRAZY MAMA 2ndRoom
  • 2月26日(土)大阪 中百舌鳥Club Massive
  • 2月27日(日)四日市 Club Chaos
  • 3月4日(金)豊橋 ell.KNOT
  • 3月5日(土)浜松 FORCE
  • 3月6日(日)京都 VOXHALL
  • 3月12日(土)札幌 Spiritual Launge
  • 3月13日(日)札幌 mole
  • 3月18日(金)千葉 稲毛K's Dream
  • 3月20日(日)大阪 福島2nd Line
  • 3月21日(月・ 祝)名古屋 Club Rockn' Roll
  • 3月26日(土)東京 新宿MARZ

PROFILE

2001年、大阪で結成。結成当時から変わることのない、Dr.伊藤とBa.倉地のグルーヴィーで非凡なリズムとVo.ナカノヨウスケ の聴く者を独自の世界へと惹き込む歌、そして、それを包み込むKey.恒松の音世界。この4人から放たれる音は、多くのオーディエンスの共感を導き出す。2005年、1st EP「PBL EP」、2006年、1st Album『ベッドフォンタウン』をリリース。1st Albumは各地各所で絶賛の嵐となり、新時代の幕開けを予感させる反響となった! 同年12月には、渋谷AXで行なわれたSyrup16g主催のイベントに参加し、パフォーマンスが賛否両論を沸き起こす等、その同行が注目されていた。が、しかし、その後5年間の沈黙。5年間1枚の音源も出すことなく、日夜曲作りとライヴ活動に明け暮れる。5年と言う歳月が流れ、一度消えかかった灯火は新たな光となって輝きだし新世界を照らしだした。その光は、以前よりも遥かに美しく力強く輝いている。膨大なセッションとライヴの中で紡がれた楽曲を凝縮した5年ぶり待望のニュー・アルバム『Lost & Found 〜2006-2010〜』、そして2011年1月12日にはサード・アルバム『Ground Disco』をリリース。

この記事の筆者

[インタヴュー] PaperBagLunchbox

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