2010/08/07 00:00

OTOTOY POWER PUSH!

OTOTOY編集部が今イチオシのアーティストを紹介するOTOTOY POWER PUSH。今回ご紹介するのは、デトロイトの重鎮セオ・パリッシュの大ヒット曲「Chemistry」や、フライング・ロータスのデビュー作『Reset EP』収録の「Tea Leaf Dance」、さらに最近ではボノボの最新作『Black Sands』などへのヴォーカル参加など、現代のエレクトロニック・ミュージックを語る上で必要不可欠なアーティスト達から絶大な人気と信用を獲得している、UKソウルの新星アンドレア・トリアーナのデビュー作だ。ローファイでレトロな懐かしさもありながら、コンテンポラリーな空気感を纏った時代を超越したサウンド。ボノボことサイモン・グリーンが全面的にプロデュースを担当した『Lost Where I Belong』は、”此処ではないどこか”の、美しい景色と物語を見ているような錯覚を覚えるシネマティックな作品に仕上がっている。

アルバム・タイトル曲「Lost Where I Belong」では、叙情的なメロディを歌い上げるアンドレアのヴォーカルを中心に、生音のストリングス、ブラス・サウンドや巧みなドラム・ワークが、それぞれパズルのピースのように完璧に組み合わさって、一枚の絵画を描いている。かと思えば、ボーナス・トラックにはフライング・ロータスのリミックス・バージョンが収録されていて、オリジナルの生音のライヴ感を生かしたサウンドに対し、うねるベース・ラインと独特のビートが練り合わされた、L.A.テイスト溢れるビート・スタイルを披露している。「Up In Fire」のライヴ・サウンドからのサンプリングを駆使したタイトなエレクトロニック・ミュージックから「X」のセンチメンタルなバラードまで、一見バラバラのように思えるこの作品全体に統一感を与えているのは、ボノボの絶妙なサウンド・プロダクション、というのももちろんのことだが、一番はやはりアンドレアの安定感のあるヴォーカルだ。デビュー作とは思えないほど、すこしひんやりとした温度感でクールに淡々と歌いながらも、しっかりと存在感を記憶に残す彼女のブレのない唄声が、この作品に一本の道筋を与えているのは間違いない。それはロンドンという街の風景や音に影響を受けながら育まれてきた彼女の感性が、「Freeflo Session」という即興のライヴ・パフォーマンスの場で成熟した結果培われた、表現者としての確固たる信念の表れとも言えるのかもしれない。そう、彼女はただのアイコンではない。アイコンになりうる、アイコンとして耐えうる、というのも一握りの人にしか与えられない才能の一つではあるが、アンドレアからはアイコンとしての存在感に加え、内包している強烈なアーティスト性が伝わって来る。気鋭のアーティストたちとのコラボレーションを経て、アンドレア・トリアーナ名義でリリースされたばかりのデビュー作を前にして、早くも次回作が楽しみで仕方がない。(text by 蓑島 亘司)

Andreya Triana 参加作品

Andreya Triana / Lost Where I Belong (single)

タイトル曲ともなっているデビュー・アルバムからの先行シングル。フライング・ロータスのリミックス・バージョンのインストや、アコースティック・バージョンを収録した全5曲。

Bonobo / Black Sands

複雑さと繊細さが共振し、柔らかな音色と心地良いリズムが情感豊かなサウンド・スケープを編み上げる。生楽器の優れた構成と綿密なアレンジメントに長け、卓越したビート・プログラミングのセンスを備える稀代の音楽家、ボノボことサイモン・グリーンの才能が余す所なく発揮され誕生した、叙情系ダンス・ミュージックの新たなる金字塔!

PROFILE

サウス・イースト・ロンドン出身。7歳の時から歌い始めたというアンドレア・トリアーナは実験精神に溢れ、独学で音楽を学んできたヴォーカリストだ。「Freeflo Sessions」というタイトルの彼女自身によるショーで、サンプラーを駆使してヴォーカルのループやパーカッシヴなサウンド、ビートをライヴで披露し注目を集めていく。2006年にRec Buill Music Academyへ参加し、自身の即興スタイルを進化させ、いまの音楽シーンの第1線で活躍するミュージシャンとの交流をもつようになった彼女はフライング・ロータスとのコラボレーション曲「Tea Leaf Dancers」で一躍注目を集める。UKソウルの新星として、いまもっとも目が離せないヴォーカリストだ。

この記事の筆者

[レヴュー] Andreya Triana

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