2010/01/22 00:00

「21世紀の精神異常者」から40年を経て放たれる狂気のエレクトロニック・ジャズ

このアルバムを聴いた時の感触は、誤解を恐れずにいえばキング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」、もっといえばマイク・オールドフィールド「チューブラー・ベルズ」である。新しい、それも2010年という年にリリースされるアルバムでこれ程までに壮大なスケールを持ち、エキセントリック且つしらけさせない説得力を持ったアルバムが早々に登場することは誰も予想していなかったし、2010年代を生きようとしている音楽ファンからすれば頼もしい。ヒーロー不在を嫌でも感じさせる2009年だったから、尚更である。

遊びごころ溢れる1曲目の、盟友バンドThe Thing(大友良英などと共演)による導入から、2曲目は既にアルバムの核心を突いたような美しい旋律の連続。あぁ、ロックはまた初期衝動を取り戻し、新たな深みに向かっていくのだということを確信させる。 「ロックは死んだ」とか、「昔は面白かったけど今の音楽は面白くない」というセリフは、過去の音楽体験に価値をつけ、少しでも認めてもらいたいというセリフに他ならない。細分化が進むと同時に新陳代謝を繰り返し、彼らのようにカテゴライズを許さない、ジャンル自体を生み出しているようなバンドが今の音楽シーンの顔である。90年代型の巨大な音楽ビジネスが無効だという話と、面白い音楽があるかないかという話はどう考えても一緒くたにはできないはずだ。

狂気のエレクトロニック・ジャズ・バンドである彼らは、オマー・ロドリゲスやFLYING LOTUSからリスペクトされる立場であり、今作はトータスのジョン・マッケンタイアがミックスを手掛けている。ノルウェー国内でのアルバム売上は15000枚を超え、ライブはいつもソールド・アウト。日本でもミュージック・マガジンの年間ベスト・アルバムに挙げられたりと、ノルウェーのクラブ・ミュージック〜ポスト・ロック〜 エレクトリック・ジャズ・シーンを世界に紹介するきっかけとなったバンドといっても過言ではない。
(彼らのHPからも1曲フリー・ダウンロードは可能であるので参考にしてほしい。http://www.jagajazzist.com/v2/news.php

ただここで明らかにしておきたいのは、ミュージシャンズ・ミュージシャンにありがちな敷居だけがやたら高い難解さや、テクニックに傾倒した独りよがりな世界観とはそもそも一線を画しているということだ。もともと、ダンス・ミュージックを基礎にしてその音楽性を高めてきた彼らゆえに、そのグルーヴはまず肉体的に「ノれるかノれないか」というところに重点を置かれているかのように聞こえる。その上に幾重にも絡んでいく美しい旋律。壮大なスケールというとついつい高尚なイメージに構えてしまうが、難解にみられがちなジャンルに遊び心を忘れない彼ら独特のエッセンスはここ日本でも有効なようで、2009年初来日時の熱狂をみれば明らかである。ジャズだけでなくプログレやシューゲイザーなどからの影響を公言する裾野の広さを持つ彼らだからなのかもしれない。 若干23歳で音楽史を変えたクリムゾン・キングの宮殿を作ったロバート・フリップと同じく、彼らもバンドを結成したのは若干18歳のとき。 収録曲にある通り、彼らの作る世界観は音楽! ダンス! ドラマ! で構成されているのである。フリー・ジャズよりもスリリングで、プログレッシブな中にも遊び心があり、シューゲイザーという枠にははまらないドラマチックな展開。クリムゾン・キングの宮殿から40年経った今だからこそ、オスローからの回答に耳を傾けてほしい。(text by 南日久志)


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JAGA JAZZIST PROFILE

オスロー郊外にあるトンスベルグという小さな街で1994年にスタート。2001年、デビュー・アルバム『A Livingroom Hush』を<Warner (Scandinavia)>からリリースし、絶大なる称賛を受け、ノルウェーのみで15,000枚という驚異的なセールスを記録。その後バンドは、ノルウェー以外の世界各地に発信するため、オスローを拠点とする<Smalltown Supersound>と契約を結ぶ。2002年は年間を通し、圧倒的なライヴ・パフォーマンスで、ファン、評論家を魅了した。その後<Ninja Tune>の注目を得て、現在まで続く、 <Smalltown Supersound>と<Ninja Tune>の協力体制が築き上げられた。

この記事の筆者

[レヴュー] Jaga Jazzist

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