2009/09/09 00:00

数多くのアーティストとコラボレートした『1939〜MONSIEUR』でその存在感を知らしめたムッシュかまやつと、王道にして斬新なブルーズ・サウンドで話題沸騰のブルーズ・ザ・ブッチャー(永井ホトケ隆×沼澤尚×中條卓× KOTEZ)がタッグを組んだ本作『ロッキン・ウィズ・ムッシュ』。共演ライヴを精力的に行ない培ったグルーブはさすがの一言。抑えたテンポのローリング・ストーンズ「Satisfaction」は、若い世代がブルーズを聴く橋渡しとなるだろうし、永井ホトケ隆のギターにKOTEZのハープが絡みムッシュかまやつが吠えるB.B. キング「Rock Me Baby」は、もうエロティック過ぎます(笑)。今回、まさかのムッシュかまやつと永井ホトケ隆にインタビューをすることが出来た。今作の制作過程と共に、この機会に聴いてみようと思う。「ブルーズっていったいなんなの!?」

インタビュー & 文: 飯田仁一郎

曲の隙間に、すごく自由になれる瞬間があった

—永井さんとブルーズとの出会いを教えてください。

永井ホトケ隆(以下N) : 同志社で偶然知り合った塩次伸二達とハードロックのバンドをやっていたけれど、『全ての大本はブルーズなんじゃないのか?』ってベタなことを本気で思って、ブルーズ・ロックをやりだしたんです。ジョニー・ウィンターとかの。でもある時、本当の黒人のブルーズを聴いちゃった。で、完全にこっちだなって思ったんです。70年代の初頭にね、NHKで2つの番組を見たんです。1つはシカゴ・ブルーズっていう、シカゴのドキュメンタリー映画。そこにマディ・ウォーターズやバディ・ガイが出てて、初めて動いている 彼らを見た。その半年後、スーパーショーって番組に当時好きだったレッド・ツェッペリンが演奏するってんで見ていたら、又バディ・ガイが出てきたんだけど、ツェッペリンよりも圧倒的にかっこ良かったんです。ツェッペリンが、上半身裸みたいな服を着て、腹をだしながら歌っているのに対して、バディ・ガイはスーツでびしっときめて、335のギターを弾いていた。ギターをギュンってならすたびに、スーツのネクタイがよれるんです。その姿がめちゃくちゃかっこ良かったんですよ。それでも最初は、ツェッペリンに比べて音圧がないし、全部同じように聴こえた。でもね、バディ・ガイの音楽は音がカスカスなのに明確に何を弾いているのかがわかったんです。で、ずっと聴いていたら、聴かなきゃ気がすまないみたいに取り付かれてしまったんです。ブルーズを。 その後、魅了されたまま、今にいたるんです。

—ムッシュさんと永井さんが出会ったのはいつ頃ですか?

N : ちゃんとお互いを認識したのは、80年代半ば頃。もちろんそれまでに僕はザ・スパイダースも見ているし、ムッシュの存在は知っていましたよ。One Night Stand Brothersやウォッカコリンズも見に行っていましたし。出会いのきっかけは、セッションだったかな。場所は、高円寺のJIROKICHI か目黒の鹿鳴館で、近藤房之助がいた気がするんだけど・・・ 忘れちゃった(笑)。その後は、ある企画で僕がムッシュにインタビューしたり、ライブに時々ゲスト参加してもらったり。親密になったのは、2000年代半ばに、ブルーズ・ザ・ブッチャーの前身、ザ・ブルーズパワーってバンドで、ムッシュのレコーディングに呼ばれてからかな。その頃から、頻 繁に一緒にツアーをやるようになったんですよね。そのうちに、今回のようなアルバムを創りたいとお互いが思うようになったんです。

—今回のようなアルバムとは? カヴァー・アルバムってことでしょうか?

N : そうですね。普段僕等がライブでやっていることそのままなんです。このアルバムの録音期間だってたった2日間。ほぼテイク・ワンの別取りは一切なしで行いました。そうやって普段通り行うのが、一番楽で自然なことなんです。スタジオは・・・ どこだったっけ? 新宿の・・・ また忘れた(笑)。
ムッシュかまやつ(以下M) : グリーンバード!

—永井さんが思うムッシュさんの魅力を教えてください。

N : 僕はムッシュをずっと聴いていましたから、魅力を一言で表すのは難しいけれど、いつでも楽にやっているところですかね(笑)。ムッシュを見ていると、自分がいかに力を入れ過ぎて生きているかってのが分かる。そして、もっと力を抜いていきようって思う。何をやっている時も、無理な力が入っていない、いつも変わらないんです。でも、急にとてもアヴァンギャルドなことをして、皆を驚かすんです。

—ムッシュさんが思う永井さんの魅力を教えてください。

M : 彼をブルーズの師として尊敬しています。僕は、ブルーズらしい音楽はやっていたけれど、ブルーズとちゃんと向かい合ったことがなかったんです。本格的にブルーズをやったのは、ブルーズ・ザ・ブッチャーが 初めて。ちゃんと向かい合ってみると、とても楽しいし、勉強のしがいがあることに気づいたんです。だから、目下永井さんから学習中です(笑)。

—録音してみて、ブルーズに対する新たな発見はありましたか?

M : そうですね。ブルーズってもっとかっちりしていて、カテゴリーの中にはまっているものだと思っていたんです。でもね、やってみると心が自由だったんですよ。


—心が自由?

M : つまり以前は、ブルーズ特有のワン・コードやたった3つのコードで展開する曲って、保守的に感じていたんです。でもそんなこと全然なかった。それぞれの曲の隙間に、すごく自由になれる瞬間があったんですよ。なんて言ったらいいんだろう。音の裏側に潜んでいる、自分の心を解放するって事かなぁ?
N : だから、実は制約が少ないって事なんだよね。ブルーズで最も大事なことは、リズムがグルーブしているかどうかってこと。少ないコードの中で、どんどんグルーブの渦が大きくなっていくその中に入っちゃうと、凄く自由になれるんです。演奏者もお客さんも関係なく、永遠にこのビートの渦に漂っていたいって感じることができるんです。
M : ブルーズって自分次第。演奏者が奏でている音楽を聴いて、アドレナリンが出るんじゃなくて、自分からその鳴っている音楽に向かっていくものなんですよね。
N : そうそう。ブルーズの種類は、ピアノ、ボーカル、バンド編成のものから、ロック調、パンキッシュやフォーキーなもの等様々。みんなが好きな音楽の中にも、必ずブルーズの匂いを感じることができるから、是非一度この世界を尋ねてもらいたいですね。

—以前ライブ・ハウスの店長に、「ブルーズは50歳になってからわかるんだよ! 」って言われました。

N : (笑) それはね、おっさんがよく言う台詞。でも50歳になってもわからない人はわからないですよ。
M : 僕なんか、60歳を過ぎてからブルーズをやりだしたからね(笑)。
N : 昔は、ジャズ喫茶で店主に「俺ブルーズが好きなんだ」と言うとね、「じゃぁこれを聴かせてやるよ」とか言って、ビリー・ホリディ等をかけるんです。で、何も言っていないのに、「どうせわかんないだろ? 」て言ってくるんですよ(笑)。だからね、そういう言い方をする人は、どこの世界にもいるってこと。ブルーズは、わかるかどうかじゃなくて、好きかどうかでいいんだよ。

—ブルーズ・ザ・ブッチャーのサウンドは、現在の若者がよく聴いている種類のものではないと思うのですが、『ロッキン・ウィズ・ムッシュ』を機会に、彼らにブルーズの面白さに触れて欲しいと思いました。人生の先輩として、若い世代に伝えたいことはありますか?

N : たった一言「チャックベリーを聴け! 」ですね。でも、絶対ちゃんと聴かなくちゃいけない。1、2曲で終わるんじゃなくて、一人でじっくりアルバムの最後まで聴いて欲しい。そうすれば、皆が好きな音楽の源流がここにあることを感じることが出来るから。もし感じることが出来なければ、その人はロックを感じないんだって思った方がいい。
M : 色んな音楽があっていいと思うし、色んな楽しみ方があっていいと思うんだけど・・・ 「ブルーズは楽しいぜ」って事かな(笑)。年をとると、好きなもの、欲しいものややりたいこと等が少なくなっていくんですよね。なのに、ブルーズって本当に面白いって思ってる。この年になって、又自分のやりたいことが出来たってだけで、とっても嬉しいんですよ。

撮影:菅原一剛

—最後に長く音楽を続けてこられた、その秘訣を教えて頂けませんか?

N : 音楽をやる上で、嫌なことはしないことですね。僕は、音楽を演奏することを仕事だと思っていないんですよ。大学時代に「この曲を歌いたい!」と思った、その初期衝動の延長にいる感じです。プロ・ミュージシャンが、技術を売るって事なら、俺にはその技術はないんです。ただ音楽が好きでやってきたら、たまたま今のようになれただけです。秘訣は、アマチュア的でいることかなぁ。今でも、タワー・レコードや中古盤屋にいって盤を探すのが趣味ですから。
M : 僕も似たようなもの。仕事と思って我慢して演奏していた時期もあったけれど、その仕事すらも趣味としてやるって腹をくくったんです。そこからは、がらっと気持ちが変わりましたね。あと、僕よりも何倍も何十倍も音楽が好きって人がまわりにはたくさんいて、その輪の中に自然と入っていけるんです。その時に、やっぱり自分も音楽が好きなんだなぁってこと気づくんです。音楽好きは自然と集まるし、自然とコミュニティが出来ちゃうんですよ。
N : そうですね。長く音楽を続けている人は、みんないいプレイヤーであると同時に、良いリスナーでもあるんです。ローリング・ストーンズが来日して、初日の最初に演奏されるスタート・ミー・アップのギターのフレーズに「うわぁ、かっこいい」ってなっちゃう。たったそれだけのことで、幸せになっちゃうんですよ。みんな良い音楽を聴いた時に幸せになれる人たちなんですよね。で同じように、自分が演奏している時でも、幸せになれる瞬間があるから止められないんです。

PROFILE

ムッシュかまやつ
1939年、東京生まれ。日本ジャズ界の草分けティーブ釜萢を父に持ち、幼少時代よりジャズなどに触れて育つ。青山学院高等部在学中から米軍キャンプでカントリー&ウエスタンを歌うようになる。50年代に〈小坂一也とワゴンマスターズ〉に加入しプロデビュー。60年代初頭にテイチク・レコードに吹き込みも。アメリカ留学を経て、田邊昭知率いるザ・スパイダースに加入。「バンバンバン」「あの時君は若かった」など数々の名作を残した。70年に解散後はソロとして、73年に吉田拓郎と「シンシア」、75年には「我が良き友よ」が大ヒット。その後も、セッションシンガーとして精力的に活動を続けている。09年、井上順、今井美樹、トータス松本など多くのゲスト・ミュージシャン達とコラボしたアニヴァーサリー・アルバム『1939〜MONSIEUR』を発表した。

blues.the-butcher-590213 ブルーズ・ザ・ブッチャー(永井ホトケ隆×沼澤尚×中條卓× KOTEZ)
永井ホトケ隆(vocals & guitar)
1972年、同志社大学在学中に〈ウエストロード・ブルーズバンド〉を結成。同年9月のB.B.Kingと共演し深くブルーズに傾倒する。数多くのライヴをこなしながら“関西ブルーズ・ムーヴメント”の核として活躍し、75年レコード・デビュー。同年ライヴ・アルバムもリリース。翌年アメリカ、カナダなど5カ国でアルバムがリリースされ渡米。77年〈ウェストロード〉解散後、吾妻光良等と〈ブルーへヴン〉を結成し2枚のアルバムを残す。80年代、ソロとして活動しながら『エンドレス・ブギ』などのコンサート・プロデュースとレコード・プロデュースも行う。90年代にはソロ・アルパム『フールズ・パラダイス』など2枚のアルバムをリリース。また、大阪毎日放送にてラジオ番組〈ズ・スピリッツ〉のDJを4年半担当。95年ニューヨークのクラブ、「トランプス」にてウエストロードのライヴを行い『ライヴ・イン・ニューヨーク』としてリリース。98年、小島良喜等と〈tRICK bAG〉を結成しアルバム『Last Exit』をリリース。05年東急オーチャード・ホールにてワールド・ミュージック・シリーズのブルーズ編『ヒストリー・オブ・ブルーズ』をプロデュース。過去、B.B.Kingをはじめ、Albert King、Robert Crayなど海外ミュージシャンとの共演も多く、またエッセイストとしても『ブルーズ パラダイス』など3冊のエッセイを発表し、吾妻光良との共著である教則本『プレイ・ザ・ブルーズ・ギター』も出版されている。現在は月刊アフタヌーンに連載の『俺と悪魔のブルーズ』(講談社)の監修を担当。05年から活動していた浅野祥之とのデュオに沼澤尚が参加する形でベースレス・バンドとして結成されたザ・ブルーズパワーを経て、現在blues.the-butcher-590213を中心に活動中。

LIVE SCHEDULE

ROCKIN' WITH MONSIEUR リリースTOUR

  • 9月18日(金)@高円寺 JIROKICHI
  • 9月28日(月)@名古屋 TOKUZO
  • 9月30日(水)@京都 磔磔
  • 10月1日(木)@広島 CREAM
  • 10月16日(金)@元住吉POWERS2
  • 10月28日(水)@横浜THUMBS UP
  • 10月29日(木)@国立地球屋
  • 11月19日(木)@柏ドランカーズスタジアム
  • 12月20日(日)@旭川CAFE GOOD LIFE
  • 12月21日(月)@札幌未定

『THE GREENROOM LIVE '09 OSAKA』

  • 9月27日(日)@大阪 名村造船所(PARTITA&BLACK CHAMBER)

『所沢MOJO10周年イベント "MOJO GROOVE"』

  • 10月12日(月)祝日 @所沢 航空公園 野外ステージ

50歳にならなくてもわかる! 面白いブルーズの世界


The Dirty Dozens / Jimmy Rogers & Left Hand Frank

荒々しい南部系のような音でモダンなスタイルで力強く弾くギターが素晴らしい一枚。楽曲の方はジミー・スタンダードはもちろんブルーズ・スタンダードのオンパレードで、安心して聴けます。そこにレフトのギターが織り込まれるとくれば文句なし!


グレイト・ブルース・マスターズ Vol.1 / B.B. King

激シブのスロー・ブルースから、踊れるファンキー・ブルースまで偉大な10人のブルースメンの楽曲をセレクトした`GREAT BLUES MASTERS`シリーズ(全10タイトル)。本作は第1弾、B.B.キング編。ケント・レコード作品を中心にセレクトした16曲を収録。


Wailin’ The Blues / Louis Myers

シカゴ・ブルース界最高のリズム・セクション、エイシズ。そのギタリストとして活躍したルイス・マイヤーズのソロ第2作。聴いてみて驚くのは、サポートギターのフレディ・ロビンソン。かなりのギタースリンガーで、キレのあるギターを披露してくれています。ボブ・ストロジャー(ベース)、オディ・ペイン(ドラムス)にリトル・ウォルターのバックも務めたフレディ・ロビンスン。極めつけの生々しさ、混じり気無しのシカゴ・サウンド!

この記事の筆者

[インタヴュー] blues.the-butcher-590213 + Monsieur Kamayatsu

TOP