遠くで音楽が鳴っていた。あの世とこの世の狭間で軋みをあげるシューゲイザーギター、ドラムの鼓動、咆哮、あるいはおぼろげな電子音、そして虚空に散らばった言葉。生という夢、死という覚醒。テーブルの桃を取りあげようと籐のソファから転げ落ちたその瞬間、床に落ちていたCDが目に入った。記憶は断片的だ。さかりのついたバギーパンツの女がスピードフリークに群がっていた90年代の渋谷、危なっかしいナイーブどもが地獄の蝙蝠のようにタクシーで乗りつけた00年代の下北沢、指に挟んだまま消えたジョイント、得体の知れない錠剤、無軌道なセックス、始まりも終わりもはっきりしない狂乱の日々のまぼろしがこのCDには定着されている。もういちど最初から聴いてもいいかな、聴きこぼしたリフがあるかもしれない、真逆の意味に捉えられる言葉があるかもしれない、その前にアレクサンダーをもう一杯。畜生、ああたしかにお洒落な奴らだよ。生きること死ぬことを超越した永遠の存在を探し求めてるんだからな。それ以上スタイリッシュな魂がほかにあるかい?