2011年6月29日、ミューズ音楽院にて様々なスピーカーを聞き比べてみました。多くの人が、ヘッドフォンやイヤフォンで音楽を聴くようになったし、スピーカーを前にじっくり音楽を聴くという体験は少なくなったように感じます。でもやっぱりその体験は音楽を聞く上で欠かすことの出来ない行為。スピーカーの特性によって音楽が連れて行ってくれる世界は全く異なっているのです。

今回は、ステレオサウンドやミューズ音楽院の協力を得て、30万円以下のスピーカーを9セット程集めました。ゲストには、ワイヨリカのAzumiさんとエンジニアの葛西敏彦さん、コメンテーターにステレオサウンドの武田昭彦さんをお迎えし、会場のミューズ音楽院に集まったオーディエンスと共に一つ一つのスピーカーを聞き比べてみました。PCオーディオをはじめてみたい方、スピーカーに興味があるけれど選び方がいまいちわからない方。ぜひ参考にしてみてください。

MUSIC IS THIS! vol2 DSDを様々なスピーカーで聴き比べてみよう
2011年6月29日(水)@ミューズ音楽院

司会進行 : 飯田仁一郎
写真 : ハタエアヤミ
主催 : ミューズ音楽院
協力 : オトトイの学校、ステレオサウンド

聞いたDSD音源はこちら


坂本龍一+やくしまるえつこ
「adaptation 05.1 - eyrs 〜 adaptation 05.2 ballet m_canique - eyrs」


2011年元日にNHK-FMで放送された『坂本龍一ニューイヤー・スペシャル』のために収録された演奏。坂本が柔らかなタッチでピアノをゆったりと奏でる中、やくしまるは飴を袋から開けてなめ、ティーカップでお茶を飲み、久しぶり会った知り合い… それもかつては深い仲にあったと思われる異性を相手に駆け引きめいた会話を始める。軽い鼻歌が発せられたと思いきや、今度は英語の朗読が始まる。坂本のアルバム『未来派野郎』収録の「Ballet Mécanique」の歌詞だ。さまざまなアーティストによってカバーされているこの曲に、やくしまるはまた新たな息吹を加えて、この日のセッションを締めくくっていた。


DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN
『巨星ジーグフェルド 2011.02.20 Part.2』より「Mirror Balls-Encore-」


2011年2月19日〜20日に新宿文化センター大ホールで行われた菊池成孔のダブル・コンサートより、第2夜のDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN公演の模様をDSDで録音。2010年の日比谷・野外音楽堂、京都・ボロフェスタに続く復活第3弾となったライヴは、ホール中を熱狂の渦の中へ落とし込んだ。

オープニング・トーク

——Azumiさんがスピーカーを意識するのはどんな時ですか?

Azumi(以下、A) : やっぱりレコーディングの時ですね。私自身、何も耳ができていなかったデビュー前から、スタジオで「ヤマハ NS-10M」で聴いていたので、基準がそこになってしまいましたね。すべての音の分離がちゃんとしていますから。家で聴くときはBOSEを何台か置いて聴いています。好みとしてはローとミッドがきちんと出て、「ヤマハ NS-10M」とは違う仕事のことを思い出さない音のものが好きです。

——葛西さんがスピーカーを意識するのはやっぱり仕事のときですか?

葛西敏彦(以下、K) : そうですね。基本的には「ヤマハ NS-10M」はどこのレコーディング・スタジオにもあります。大抵スタジオには二つスピーカーがあるんですよ。ここに並んでいるような小さめのものと、大きく、壁に埋め込んであるようなもの。あとはラジカセもあります。

——どれを基準に聴いて作業をするんですか?

K : そのときの音楽のジャンルによって変わることが多いです。小さい音やアコースティックものは小さなスピーカーで聴いて、キックの音がラウドなものや打ち込みは、押し出してくる感じを聴きたいので大きなスピーカーで鳴らします。個人的には大きなスピーカーが好きなので、大きなスピーカーでドン!と聴きますね。

——武田(昭彦)さんはものすごくスピーカーに詳しいですが、スピーカー市場は今どんな感じなのでしょうか?

武田昭彦(以下、T) : 今、若い人はiPodとヘッドフォンやイヤフォンで聴くっていうのが主流だと思うんですが、PCオーディオというのも流行ってきています。これまでヘッドフォンでしか聴いたことのなかった人がスピーカーに興味を持ちはじめているんですよね。

——簡単に、PCオーディオの説明をお願いできますか?

T : 今日は大きく分けて2種類のスピーカーを用意しています。まずは、アンプがはいっていないタイプの「パッシブ・スピーカー」。プリメイン・アンプにUSBの端子がついているものであれば、PCとアンプを繋いで、アンプとスピーカーをケーブルで繋げば聴くことができます。

——もう一方の「アクティヴ・スピーカー」は電源がありますね。こちらはどういう仕組みなのでしょう?

T : 今日用意したスピーカーにはUSBの端子がついていないのですが、USB端子のついたアクティブ・スピーカーもあります。本当に簡易にPCオーディオを始めるのであれば、USBでパソコンとスピーカーを繋ぐだけで始められます。

実際に聴いてみよう!

——今日はDSDを再生するKORGのMR-2000と、9つのスピーカーを使って聴き比べていきます。まずは、代表的なスピーカー「ヤマハ NS-10M」。これはどんなものなのでしょうか?

T : 80年代初頭からボブ・クリア・マウンテンというエンジニアの方が自分のスタジオで使うようになったんです。その際に高域がうるさいということで、ツイーターの前にティッシュをかぶせるっていうスタイルが日本でも流行ったりしました。

——いかがでしたか?

K : 僕は普段スピーカーを持ち込んで仕事をすることが多いんですけど、持ち込むことができないときはやっぱりこれを使っていますね。大体のスタジオにあります。
A : 好きか嫌いかと言われたら普通(笑)。好き嫌いを越えて、音やバランスを判断する基準になっているんですよね。

——続いて、「スキャンダイナ The minipod loundspeaker」。

T : こちらのスピーカーは、もともとイギリスのモニター・スピーカーを作っている会社のエンジニアが設計したユニットを使っている、デンマーク生まれのスピーカーです。このダルマさんみたいな形にも理由があって、各ユニットの干渉がないように、非常に理にかなった設計になっています。
A : これ、白もあります?
T : あります。カラー・バリエーションも豊富ですね。
A : 前に見た事あります。
K : 面白い音ですね。ライブっぽさもあるし、フラットな感じなんだけど、ホーンのアンサンブルもしっかり見えるし、バランスもいい。色んな用途に使えそうですね。

——ミックスには向かなそうかな、と思いましたが。

K : ものによると思います。テクノや打ち込みには使わないですけど、中低域のファットさ、ゆるさが残っているので、そういうミックスがしたい時にはいいかもしれないですね。

——「エラック BS182」。

T : こちらはドイツのブランドなんですけど、歴史あるブランドで非常にライン・ナップが豊富です。
A : 1曲目の場合は、声が聞き取りやすいなと思いましたね。2曲目はもう少し各楽器のハイ/ミッド/ローの分離があったら聴きやすいなあと思いましたね。
K : 全体的にスピードが速いですね。ハイ・レンジのスピードが速いので、声が見えやすいシャープなイメージですね。2曲目もスネアの「タン! 」って音やアタックのしゃきっとした部分がよく見える。全体的に真面目なイメージですね。Yシャツを着たサラリーマンのようなイメージ。「俺はゆるくねえぞ」って感じ。
A : (笑)。きっちりしてましたね。

——「音のスピード感」って、どういうことでしょう?

K : 楽器ごとのアタックがどのくらいのスピードでやってくるのか。例えばキックの音ひとつとっても、低域から高域まで到達する速さが違うんですよね。このスピーカーに関しては、ハイの音が速く耳に入ってきた。

——「エクリプス TD510」。

T : こちらは真ん中にユニットが一つだけついているんです。カー・オーディオも作っているブランド会社で、コンシューマーとプロ・オーディオ用に開発したスピーカーです。
A : ハイが柔らかくて、家で聴くのにいいと思いました。あと音楽がドラマティックに聞こえました。普通に聴いているんですけど、ふっとした拍子にドキッとする要素がでてくるんですよね。なぜでしょう(笑)?
K : そうですね、美しかったですね。ライヴの音源を聴いていても、演奏者が見える感じ。ピアノも高いほうから低いほうまでレンジ感がきれいに見える。ひとつの音楽としてまとまっていますよね。これでうまく鳴らしたらどんなスピーカーでもよく聴こえるだろうし。好きですね。

——高評価ですね。これは他のスピーカーと何が違うのでしょうか?

T : スピーカー設計は、各レンジの低音を出すウーハー、中音を出すスコーカー、高音を出すツイーターにそれぞれエネルギー・バランスを持たせてバランスをとっていくのが基本で、そこから設計者がどう選んでいくのかによって、音の出方が変わってくるんですよね。エクリプスのフル・レンジ・ユニットというのは、出音が一つですので、定位間がはっきりと見えるのが大きな特徴だと思います。

——「JBL 4312E」。

T : 1970年代初頭に開発された米国製のモニター・スピーカーです。細部は随時変わっていますけど、基本設計は40年くらい変わらないロング・ラン・モデルです。
A : これ、家にありました。懐かしいなあ。米国製と聴いて「っぽいなあ」と納得しましたね(笑)。小さい音でも色んな楽器が見えやすかったし、管楽器が非常によく聴こえました。奥行きもありますね。
K : 僕もこれの小さいやつが家にありました。父親がジャズ・マニアだったので、実家を思い出しましたね。昔ながらの、80年代のジャズ喫茶みたいなイメージ。今みたいにスピードの速くない音楽の時代、デジタル音楽がなかった時代の音だなと思いました。

——「Bas Reflex Speaker」。こちらは手作りのスピーカーで、河村信夫さんという方が作っています。背面にもスピーカーがついていて、音が壁に反射して返ってきて下の空洞からも音が出る、という不思議なスピーカーです。

A : 前回の企画のときも聴かせて頂きましたよね。仕事的ではないですけど、奥行きがあるので家で楽しむ用かな。
K : 今日みたいな環境には合いますよね。ライヴ感のある、音があまり吸収されずに響くスペースで床に直置きして聴くと気持ちいいかも。お店とか。

——次からはアクティブ・スピーカーになります。「フォーカルプロフェッショナル CMS40」。

T : フォーカルというブランドは、もともと色んなスピーカー・メーカーにユニットを提供していた会社だったんですが、ここ7~8年位で自社製品を作るようになったんです。最近はプロフェッショナル・モデルだけではなく、コンシューマー・モデルも出しています。
A : 今の時代の音になりましたね。1曲目の場合は、耳元に急に音がきた。2曲目のような生のライヴ・テイクよりも、ハウスやエレクトロが合うだろうなと思いましたね。
K : さっきのスピードの話で言うと、下が速いんですよ。キックのローのスピードが速い。だから今の音楽、フル・レンジで上から下までぎゅっと詰まっているものに向いているんじゃないかな。エレクトロとかダンス・ミュージックのような、上のシャープさをはっきり聴きたい音楽にも合うと思う。楽しく聴くっていうよりも、音の配置がどうなっているのかを認識しながら聴くのに適しているので、仕事に使ったとしてもやりやすいでしょうね。

——「ノイマン KH120A」。

T : マイクですごく有名なブランドが、今年になって発表した第1弾モデルです。
A : どちらの曲に関しても、ダイナミクスがちょうどよかった。非常にクリアですし。
K : 空間表現に長けていて、リッチな感じでした。左右/奥行きの解像度が高くて空間が大きい。家で聴くというよりも、スタジオ・モニター的な感じで、デッドな部屋で聴くと本領を発揮するんじゃないかな。

——「ジェネレック 8040A」。

T : そもそもこの会社は、創業当時、先ほども聴いて頂いた「ヤマハ NS-10M」の上級モデル「ヤマハ NS-1000M」っていう大きな3WAYのスピーカーをチューン・ナップする会社だったんですね。その後自分達で作りはじめたものです。アクティブ・スピーカーの草分け的存在ですね。
A : バランスのいい、今の音を聴けるスピーカーですね。
K : 僕もともとこれ結構好きなんですけど、今日みたいな小さな音が広がっていくライブ・スペースよりもデッドなスペースで聴いたほうがいいと思いますね。

エンディング・トーク

——お疲れさまでした。今日聴いて頂いたスピーカーの中で一番はどれでしょう?

A : うーん、すっごく難しいですね。アナログを聞くのであれば、やっぱり「JBL 4312E」がふくよかで温かみのある音が出るのでいいですけど、私は今の音と昔の音を雑多に聴くので、それを全部クリアしてくれるのは…「エクリプス TD510」か「フォーカルプロフェッショナル CMS40」かな。
K : 僕は「エクリプス TD510」。スピーカの良い点を評価にするにしても色んな観点があると思うんですけど、「今すぐこれで仕事をしてください」っていう観点で絞るとしたらこれかな。聴く音楽のジャンルも多少選ぶとは思いますが、比較的オールジャンルに対応できるポテンシャルのあるスピーカーだと思います。とても音楽的に響くと感じました。

——ちなみに、「エクリプス TD510」はオノセイゲンさんも大絶賛されていました。今日は、お越し頂いた皆さんにもお気に入りのスピーカーを選んでもらいました。結果は…「ノイマン KH120A」! 11票です。

T : 皆さんが感想で述べられているように、今風の音であることが大きいんでしょうね。音の定位の仕方が他のスピーカーと違って、この点に気付かれているんですね。

——「ノイマン KH120A」で音楽を聴くなら、どんなジャンルが合いますかね?

K : 1曲目みたいな、音と音の隙間があるものは向いていると思いますね。あれもライブ録音で、NHKのスタジオで録られたものですけど、あそこはとても大きなスタジオで、その広さの感じがとても良く表現されていると思います。横の幅と奥の幅の表現に長けたスピーカーなので、空間を活かしている音楽だといいと思いますね。

——ちなみに今回、0票のものはありませんでした。スピーカーを選ぶ時ってどういう基準で選んだらいいのでしょうか?

T : 一概には言えませんが、皆さん自分の好きな音があると思うんですね。音の趣向というのは人それぞれ違いますので、今日聴いてみて良いと思った音を参考に、もう少し調べてみたり、お店で聴かせてもらったりして自分の好きな音を探していってみてほしいですね。

——ありがとうございました。

スピーカーを作ってみよう! DIYスピーカー講座 〜手作りスピーカー製作(初級編)〜

OTOTOYでは、スピーカー製作講座を行います。

音楽を聞くという原初的な行為を紐解くと、そこにあるのは音の波動とそれに対峙する人間そのものとの出会いの場となります。携帯プレイヤーからイヤフォンで聞くスタイルが日常化して久しい今日、下手をするとスピーカーで音楽を聞いたことがない若い層すらいかねない状況の中で、あえてスピーカーで音を聴くことの意義を問いたいと思います。一度聞けばその虜となる手作りスピーカーの魅力を実際に製作し、体験し、自分のものとして持ち帰ることができます。音楽を聞くという体験を自身の力で作り上げる喜びを分かち合いましょう。

今回、まずはスピーカーをつくるのは初めてという方を対象に初心者向けの「はじめてコース」を設定いたしました。今後は中級編、上級編と進めていく予定です。

講師の河村信夫氏は、オープンソース・ハードウェア全般を相手にするバックヤード・ビルダー。とりわけオーディオには関心が強く、スピーカーやアンプを多数制作した実績があり、スピーカーではバックロードホーン型や音場型にこだわる本格派です。

なお、受講料は材料費および製作に必要な工具、設備、備品を含むお値段となり、すべて学校側でご用意いたしますので、講座の際に持参していただくものはございません。

講師 : 河村信夫
日時 : 2011年8月〜9月 (1クール全4回)
受講料 : 20,000円 (税込)
定員 : 20人
募集期間日時 : 2011年7月01日 〜 2011年8月06日

【スケジュール : はじめてコース 全4回、20,000円(税込)】

まずは、すぐに使えるスピーカーづくりの基本をお教えした上で、PCからの音楽をスピーカーから聞きたいと思ったときに気軽に卓上で聴ける、ポータルブルな卓上スピーカーを製作してみましょう。

2011年8月6日 (土) 14時00分 〜 16時00分 (120分)
まずは、オリエンテーションとして、スピーカーの音が私たちの耳に届くまでの基本をお教えします。講師より今回のスピーカーの設計内容と完成予想図についてお伝えした後、製作に入ります。

2011年8月20日 (土) 14時00分 〜 16時00分 (120分)
スピーカーの箱をつくる作業を進めます。木製です。今回のアンサンブルタイプは、LR一体式の密閉型。デスクトップ型スピーカーとして、耳に近い位置で聴くことを想定しています。

2011年9月3日 (土) 14時00分 〜 16時00分 (120分)
出来上がった箱をサンディング後、塗装作業を進めます。ようやく形になってくる段階。塗装もまた音づくりの一環です。

2011年9月17日 (土) 14時00分 〜 16時00分 (120分)
最終回。スピーカーユニット、スピーカーケーブルを取り付けた後、いよいよ音出し確認に入ります。音の様子を確認しながら微調整を行った上で、完成です。他の受講生との聴き比べもできればと思います。

OTOTOYで販売中のDSD音源