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2016/02/21 14:00

 

【ライヴ・レポート】大森靖子、新章の幕開けを感じさせる出産後初ワンマン「すごい波動が赤坂から出ている」

 

昨年10月10日に第1子となる男児を出産した大森靖子が2月18日、産後初となるワンマン・ライヴを東京・赤坂BLITZで開催した。このライヴは出産直後に発表され、チケットは発売後、早々と完売。ライヴがなかったここ数ヶ月の間も着実にファンを増やし、多くの人がこのライヴに期待している様子がうかがえた。

3月23日にメジャー2ndアルバム『TOKYO BLACK HOLE』の発売を控え、収録曲もいくつか披露された。これまでワンマン・ライヴでは必ず弾き語りパートを途中に挟んでいたが、この日は本編すべてをバンド編成で演奏しきった。まさに〈HELLO WORLD!MYNO. IS ZERO〉というタイトルが表すとおり、新たなスタートを感じさせる内容となった。また、開演前のBGMには大森が出産直前に病院で流していたというモーニング娘。、globe、宇多田ヒカルなどが選ばれ、胎盤をイメージしたステージ・セットが組まれるなど、まるで出産という人生にとって最大級の大きな出来事を、ライヴ空間をとおして表現しているようだった。

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開演時間を過ぎて場内が暗転すると、幕を張ったステージの奥から幻想的な音楽が流れ、そこに心音のようなものがくわわる。心音は次第に子供の泣き声へと変わり、徐々に大きくなった。大森の子供の実際の泣き声をサンプリングして、サクライケンタが仕上げたというこちらのSEが途切れると、すかさずドラムがカウント。大森が「愛しているよ」と優しく語りかけると、幕が落ちて最新シングル「愛してる.com」からライヴがスタートした。

この日もお馴染みの直枝政広(Gt / カーネーション)、畠山健嗣(Gt / H MOUNTAINS)、tatsu(B / LÄ-PPISCH)、奥野真哉(Key / ソウル・フラワー・ユニオン)、ピエール中野(Dr / 凛として時雨)という鉄壁のバンド・メンバーとともに演奏した。2曲目「きゅるきゅる」で客席で多くのナナちゃんステッキがピンク色に光ると、大森はそれをうれしそうに指差して笑った。すかさず演奏された「イミテーションガール」では、サビ前で大森が手を広げてあおると、観客は一斉に「おかえり!」と叫ぶ。さらに曲中、大森が最前列のファンの帽子を受け取って、パフォーマンスする場面もみられた。

「こんばんは、大森靖子です!いえーい!」とご機嫌にあいさつすると、「かわいいねぇ」「自己主張して!」と客席をいじる。この日は、これまで以上に積極的にファンと触れ合う姿がたびたび見受けられた。最新シングルのもうひとつの表題曲「劇的JOY!ビフォーアフター」へ。曲の最後に「おばさんになっても抱きしめて」と歌うと、奥野が「おじさんになっても抱きしめて」と返す。すると、すかさず大森は「もう、おじさんやん」とツッコミを入れた。SPEEDのカヴァー「BODY & SOUL」をノリノリで披露したあとは、大森が中野に「すっごくかわいく曲紹介して」と無茶ぶり。微笑ましいやりとりをのあとに「子供じゃないもん17」をかわいらしく歌った。

「マジックミラー」を経て、ライヴは徐々にシリアスな空気に変貌していく。「春の公園」の朗読、「焼肉デート」での狂気を帯びた演奏、そしてアコギ弾き語りから入った「呪いは水色」で緊張感を高めると、「少女3号」では激しいバンド・サウンドが大森のシャウトをそっと包みこんだ。アコギを搔きむしるように音を出すと、力強い歌声から「あたし天使の堪忍袋」がスタート。途中の客席の合唱パートで大森がOKサインを出すと、演奏後には「ありがとう」と笑顔をみせた。

「直枝さんがずっとバンマスをやっているわけですけど、そろそろ私たちこんな仲になってしまった… ひゃっひゃっひゃ」と不敵な笑みを浮かべると、「だから、そろそろ曲を一緒に作ろうってなって」と明かした。大森が歌詞を先に書いて、それに直枝が曲をつける約束だったものを「詞が変わっていたんです(笑)」と暴露。「だから、ひとりの世界観じゃできない曲ですよね。ちゃんとふたりが出会っている歌なので、デュエットをしてみることにしました」と話すと、『TOKYO BLACK HOLE』に収録される「無修正ロマンティック~延長戦~」がはじまった。直枝らしいメロディに「サークルクラッシャー」などの大森らしい言葉が散りばめられ、それぞれのソロやハモり、掛け合いパートもあるなど、まさにこのふたりの世界観が交錯した楽曲に仕上がっていた。

ライヴはもう終盤。「新宿」では大きく脚を広げて子供を産み落とすようなパフォーマンスが飛び出すと、アウトロでは畠山と向き合いながら楽しそうにジャンプした。「ようこそ地球」というインパクト大なフレーズからはじまった新曲「生kill the time 4 you、、♡」。疾走感あるバンド・サウンドに乗せて、「見逃した奇跡は幻」「死んでも記憶していたいよ、全部」などの大森らしい惹き付ける歌詞がつむがれていった。

大森が客席に背を向けて頭にペットボトルを乗せると、ふいに照明の光が一斉に集まり彼女を照らし「ミッドナイト清純異性交遊」へ。大森に集まっていた光が広がったかのように、客席には次々とピンク色の光が灯った。歌いながら2階席の人とも目を合わせて、そのたびに手を伸ばすなど、会場のひとりひとりとコミュニケーションをとっていた。歌い終わると「すごいきれいでした。ありがとうございます」と感謝。2013年5月に渋谷クラブクアトロでワンマン・ライヴを行ったさいには、アンコールで観客のサプライズにより場内がピンクに染まったが「今日は最初からピンクで感動しました」と語った。

「まわりを見渡せばわかると思いますが、すごい濃いと思います。いろいろありそうなおっさんとか、なんにもなさそうな女の子とか、みんなそれぞれの人生を、それぞれのブラックホール、宇宙、いろんな吸い込んできたものを持ってきて、ここはそれがぶつかって音が出る場所だと思っています。だからすごい波動が赤坂から出ていると思います。観測していただけましたでしょうか」と、先日はじめて観測された重力波になぞらえてMC。「どこで観測しているの?」という問いに客席から「岐阜」という返答があり、大森は「岐阜なら届きそうじゃん! 届くように、みんなの人生がぶつかり合う音を出したいと思います。最後に聞いてください」と曲紹介。新アルバムのタイトル曲「TOKYO BLACK HOLE」を演奏した。

ステージ中央に置かれた椅子に立ち上がって歌う。「人が生きてる ほら ちゃんと綺麗だったよね」「最初から希望とか歌っておけばよかったわ」と印象的な歌詞が並ぶ曲。まばゆい照明に照らされながら、大森はまるで飛び立とうとしているかのように、ふと宙を見上げた。「今すぐに消えちゃう全てを歌っていくのさ」と歌うと、アウトロの轟音のなかで椅子にマイクを置き、深く深くお辞儀。バンドの演奏が終わると、生声で「ありがとうございました」と告げて本編を締めくくった。

大森がひとりでステージに戻る。「会いたかったよ」と笑顔をみせると、ツイッターでファンのアカウントを集めて作った「自分のことを好きな人リスト」で、大阪から来たお互いに面識のないファン同士が繋がる瞬間を見ていたことを興奮気味に語った。アンコールはアコギ1本の弾き語り。「君と映画」では生音での演奏も披露すると、ラストは『TOKYO BLACK HOLE』の最後を飾る「少女漫画少年漫画」。誰もが集中して大森のステージを見つめるなか、最後まで歌い終えるとギターを高く掲げ、そっとステージ上に置く。そのまま何度も客席にお辞儀をしながらステージを後にした。

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これまでは客席に降りたり、ステージ後方から登場したりと、物理的に客席との距離を縮める瞬間が多くあったが、この日はステージ上から観客の声援を拾って会話する場面がたびたび見られた。大森はこの公演の数日前に足を捻挫しており、その影響も少なからずあったとは思うが、客席との新たなコミュニケーションの形を探っているように感じた。また、インディーズ時代からの定番曲をふくむ弾き語りで映える曲がセットリストからはずれており、本編をすべてバンド編成で演奏したことも、大きな会場での新たな観せ方を模索しているように思えた。

これらのいくつかの変化は、きっと新アルバムにも反映されていることと思う。表題曲「TOKYO BLACK HOLE」は弾き語りのディープな世界観と、いまのバンドの表現力が結合したような名作だった。『TOKYO BLACK HOLE』の発売、そしてそれ以降のライヴで大森靖子がみせるであろう、さらなる覚醒の片鱗を観たようなライヴだった。(前田将博)

大森靖子〈HELLO WORLD!MYNO. IS ZERO〉
2016年2月18日@赤坂BLITZ

<セットリスト>
1. 愛してる.com
2. きゅるきゅる
3. イミテーションガール
4. 劇的JOY!ビフォーアフター
5. BODY & SOUL
6. 子供じゃないもん17
7. マジックミラー
8. 春の公園
9. 焼肉デート
10. 呪いは水色
11. 少女3号
12. あたし天使の堪忍袋
13. 無修正ロマンティック~延長戦~
14. 新宿
15. 絶対彼女
16. 生kill the time 4 you、、♡
17. ミッドナイト清純異性交遊
18. TOKYO BLACK HOLE

アンコール(弾き語り)
19. さっちゃんのセクシーカレー
20. Over The Party
21. 君と映画
22. 少女漫画少年漫画

・大森靖子 オフィシャルサイト
http://oomoriseiko.info
・大森靖子、メジャー・ファースト・アルバム『洗脳』をハイレゾ配信&インタヴュー掲載!!!
http://ototoy.jp/feature/2015020702


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