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2014/03/20 19:00

 

忘れらんねえよ、元祖・無観客ライヴで新章への扉を開ける――OTOTOY無読者レポ

 

3月19日(水)、忘れらんねえよの無観客ライヴ(9ヶ月ぶり3度目)が東京・赤坂BLITZでおこなわれ、誰もいない会場で惜しげもなく新曲を披露、元祖・無観客ライヴの意地を見せつけた。

浦和レッズの「無観客試合」が大きな話題になり、思わぬ形でこれまで以上の注目を浴びる事となった今回の無観客ライヴ。「浦和とはたまたまカブっただけなんです。」という柴田隆浩(Vo.Gt)のツイッターでの発言にもあるように、なにやら忘れらんねえよが世間の話題に乗っかったかのような誤解があるのは非常に遺憾だ。誰に罰を受けたわけでも無いのにいち早く無観客試合(ライヴ)を提唱・実践してきたチーム(バンド)としてはここが勝負どころ。さらに今回は3度目の開催にして初めての屋内会場、しかも赤坂BLITZという大舞台に無観客を招いてのライヴ。夕方近くに会場に入ると、メンバー、スタッフともに緊張感が漂う中、入念なリハーサルが繰り返されていた。

開演時間の19:30、Ust生中継のカメラが会場外の様子を映し出す。物販のスタッフが大きな声で「Tシャツは売り切れです! 押さないで下さい! 並んで下さ~い!」と虚空を見つめて叫び、Tシャツ、タオル、バッヂなどグッズをアピール。残念ながらほぼ全ての商品がソールドアウトのようだ。さらにライヴ・ビューイング会場の様子が映し出されるが、もちろんそこには誰もいない。

紅白の幕と共に並べられたパイプ椅子には色とりどりのサイリュウムが置かれていた。シュールとも取れる映像が無観客ライヴの開始を告げると、客電が落ち、ステージバックにデカデカと掲げられた「ツレ伝ツアー」の文字が浮かび上がる。いよいよ待ちに待った赤坂BLITZ無観客ワンマンがスタートした。

SEのチャットモンチーの「シャングリラ」に乗り、誰もいない客席に向かって両手を叩いてノリノリで定位置に向かうメンバーたち。忘れらんねえよ自身、初めての赤坂BLITZが無観客でおこなわれることへの感慨を感じているのか、いきなり「うぉ~!」と雄叫びを上げる柴田。「ブリッツに辿り着きました。アリーナ! 二階席! イエ~! …だれもいねえな。そりゃそうだ、無観客ライヴだからね。意味なんてないんですよ、はっきり言って話題作りですよ。でもね、俺ら手を絶対抜いたりしないからね。会場借りるのも高いし、物販なんて売れるわけないよね。だからせめてライヴくらいは最高のライヴをやらないと元が取れないんですよ!」

柴田の正直な叫びの後、「僕らチェンジザワールド」からライヴがスタート。会場内に誰もいないせいなのだろう、いつも以上に生々しく音が響く。梅津拓也(Ba.Cho)が激しく前に出て誰もいないフロアを煽り、ジャンプして尻餅をつき転げまわる。酒田耕慈(Dr.Cho)はいつもの素肌にベスト姿で狂ったようにビートを叩き出す。時折2階席の遠くまで視線を送る酒田。一体何が見えているのだろうか。エンディングでは狂ったように飛び跳ねる柴田と梅津。2曲目の「僕らパンクロックで生きていくんだ」のイントロと共に腕を振り上げて観客にアピールする。ステージから煌々と漏れてくる照明に時折映し出されるフロアには誰もいない。これまでの屋外でのライヴと違い、屋内会場のどこか無機質な部分が感じられる。

「あらためましてこんばんは、忘れらんねえよです。別に罰を受けたわけじゃなくて、浦和レッズへのあてつけじゃないですよ、自主的にやってるんです。今日はフロアには忘れらんねえよファンしかいないと思うんですけど、Ust中継で初めて忘れらんねえよを見る人もいると思うんで、初めての話をさせてもらって良いですか~!」とのMC。もはや忘れらんねえよファンにとっては古典落語のような“おがっち”エピソードを全力で語る柴田。これは初めて観るファンへの優しさなのか、それとも“おがっち”への執着がいまだにこれだけ熱いMCをさせているのだろうか? その答えは心のずっと奥の方、柴田のずっと奥の方、だ。「慶応ボーイになりたい」ではリズム隊がアレンジを加え独特のノリを出していた。

「どんどん、高鳴ってきた!」とギターを刻みだす柴田に合わせて観客に手拍子を促す酒田と梅津。演奏されたのはもちろん「この高鳴りをなんと呼ぶ」。いつどこで聴いても熱いこの曲は誰もいない赤坂BLITZの客席を震わせた。続けて新曲「運動が出来ない君へ」。ゆったりとしたミディアム・テンポのメロディアスなロックだ。続いて「ツレ伝 ZERO」と銘打ったこの日のライヴについてMC。前夜のツレ伝ツアーでのKEYTALKとの対バンについても触れ、95%がKEYTALKのファンだったことに言及。そして「この街には君がいない、という歌をこれから歌いますけど、そもそもフロアに1人もいないんだけど…そんなこと関係ないんですよ!」と演奏された「この街には君がいない」では酒田のセットを破壊せんばかりの怒涛のドラミングがキース・ムーンを思わせた。曲が終わると両手を頭上に上げ観客の手拍子を促す柴田と梅津。もちろん会場からはなんの反応も無い。当然だ、誰もいないのだから。

それでもお構いなしに「北極星」が始まるととてつもなくハイパーでメロディアスなこの曲を全力で演奏する3人。後半、レゲエ・タッチになる部分では柴田が観客からの合唱を促す。そして「新曲やります!」と歌い出したのが、裏打ちのリズムにスカ風のギター・カッティング、低音のクリシェでツッコんでいく祭囃子のようなパンク・ロック「ばかばっか」。またしても手拍子を促す柴田。もしここに観客がいたら間違いなく盛り上がっているだろう。しかし残念ながらここは無観客ライヴの会場だ。定番の流れに新曲が加わったことで今後の有観客ライヴがさらに盛り上がることは間違いない。そして次なる曲は「CからはじまるABC」。いつも以上に荒れ狂うような演奏で静まりかえった会場を揺らす。「最後の曲になりました。」どこからも惜しむ声がしないこの状況はバンドマンとしては辛い。しかし何度も言うようだがここは無観客ライヴ。諸行無常だ。

「最後の曲になりました。」とMCから新曲「バンドやろうぜ」を演奏。柴田が作る曲にはバンドマンとしての誇りや音楽への愛情を感じる内容が多いが、この曲も新たな忘れらんねえよのバンド愛・音楽愛をそのまま表したタイトル、楽曲だ。曲が終わると「ありがとう!」とピックを投げる柴田。酒田は2階席のファンにも手を振る。やはり酒田は2階席に何かの姿を見ていたようだ。梅津もフロアのお客さんににこやかにお礼をしてステージを後にした。

アンコールの声を心で聴いたのか、すぐさまステージに舞い戻る3人。「ありがとう!」と誰にともなく感謝しながらマイクの前に立つと「6月11日にメジャー・ファースト・ミニアルバムを発売します!」と発表。タイトルは、『あの娘のメルアド予想する』。「セカンド・アルバムに足りなかったエッセンス、それは“下ネタ”です。忘れらんねえよは、“下ネタ”を取り戻します!」と宣言。まさかのバック・トゥ・下ネタ宣言だ。

新曲「タイトルコールを見てた」を歌うと、最後はヒートアップした会場をチルアウトさせるべく歌われた「忘れらんねえよ」。3人の顔は演奏しながら満足げに客席全体を見渡している。演奏をストップさせ大きく手を振り、会場全体に合唱を促す柴田。「聴こえてるぜ!」いつもならば大勢のファンが腕を左右にふり壮観な光景が展開されるこの曲。誰もいない会場でこれが観れるのはある意味実に贅沢だ。曲が終わると、思いっきりフロアにドラム・スティックを投げ入れる酒田。「カランカラン!」と乾いた音が会場中に響く。最後は3人でいつも通りSEXジャンプ! そして無観客の客席をバックに記念撮影をして「サンキューセックス!」と無観客ワンマン・ライヴは幕を下ろした。

ライヴ開始当初は久しぶりの無観客、初の屋内会場に戸惑いも感じられた忘れらんねえよ。しかし文字通り空気を察知して最終的には熱いライヴにしていくあたりが、彼らが音楽業界に於いて無観客ライヴのオーソリティと呼ばれる所以なのだと感慨を新たにした。前日のツアー先での超満員のライヴハウスに続いて、赤坂BLITZで無観客ライヴを敢行するという振り幅による“時差ボケ感”があった事を考えると、今後は無観客ライヴの為のゲネプロというどちらが本番かわからない準備も必要なのかもしれない。いずれにせよ、バンドの成長と共に無観客ライヴも新章に突入して行きそうな予感を感じさせた一夜であった。
終演後のメンバーのコメントは以下の通り。(取材・文 岡本貴之)

★終演後の忘れらんねえよインタビュー★

――今回は思わぬ形で「無観客」がより注目されることになりましたけど、今日はいかがでしたか?

柴田 : いや、やっぱりやりにくかったです(笑)!
一同 : ははははは!

――初めての屋内での無観客ライヴでしたけど…

酒田 : ああ!
梅津 : そういえば!
柴田 : あ、そうか! だからやりづらかったんだ!

――だから最初にやった代々木での初めての無観客ライヴの時に感じた戸惑いみたいなものがあったのかなと。

柴田 : (初の屋内無観客というのは)気付いてなかったんですけど、でも言われてみればそうなんだと思います。最初「俺、無観客得意なはずなのに!?」って思って。始まる前にも梅津君とも話してたんですけど、前回所沢の航空公園でやった時は、もう客がいないことに完全に慣れててカメラのモニターの向こうに誰かがいるっていう認識でライヴが出来ていたんですよ。でも誰かに向けて音楽を投げている感覚は最初から最後まであって、凄く良いライヴが出来たんですけど。今回は屋内だったから、つい昨日も岡山でライヴをやってたんで(「ツレ伝ツアー」でKEYTALKとのツーマン・ライヴ)、そういう感覚が残ってる中での今日のライヴだったんで、「いるはずのお客さんがいない」っていう感覚だったんですよ。それでカメラマンさんは近くに寄ってくるし、「どこに向かって歌えばいいんだ!?」っていうのがわからなくなっちゃった。

――昨日の余韻が残った状態だったんですね。

柴田 : そうですね。“現場感”みたいなものが残った3人だったんじゃないかな、という。だから梅津君なんか行き切っちゃってて(笑)。現場感を1ミリも抜かないという(笑)。
梅津 : 俺はもうね、今日完全にスイッチ入ってた。新しい気持ちで。だいたいそういう時って、動きで新ネタが出るんですけど…
一同 : (爆笑)

――新ネタですか(笑)。

梅津 : 今日は、ふと「あ、これはトリプルアクセル行けそうだ」と思って。跳べそうだと思ってやってみたら全然跳べなくて。
柴田 : そりゃそうだよ(笑)。なんでいけると思うんだよ!
酒田 : ははははは!
梅津 : もう半回転くらいで。結構難しくて。ただ、手にコードが絡まっただけで。だからたぶん、その時(演奏を)ミスってると思う(笑)。

――前回の無観客ライヴでもコードが絡まって動けなくなって、手でエフェクターを押すシーンがありましたけど(笑)。

柴田 : あったあった(笑)!
梅津 : そうだそうだ! ありましたね。毎回必ずトラブルが(笑)。でもこの無観客の度に成長してるんですよ。
柴田 : してねえよ(笑)!

――忘れらんねえよは赤坂BLITZでの演奏自体が初めてだったんですか?

柴田 : そうです。だから忘れらんねえよのワンマンとしては最大キャパを更新しましたね。で、動員ゼロで大失敗に終わったみたいな(笑)。

――でも無観客にも関わらず惜しげもなく新曲を何曲も披露しましたね。

柴田 : それはね、自信があるからですね、新曲に。やっぱり俺ら変わりたいんで。今までのものを捨てるとかではなくて、もっともっと積み上げて行きたいし、もっともっと上に行けると思ってるんですよね。その中で自信がある曲がわんさか出来てるんで、それを取っておく必要ないもん。もう1人でも多くの人にいち早く聴いてもらって、良いと言わせたいという気持ちです。

――今後も無観客ライヴは続けて行きますか?

柴田 : もちろんです。今日のUst中継視聴者が恐らく1万人くらいだと思うんですけど(笑)。例えば大きい会場で「ファースト・ミニ・アルバム発売です!」って発表しても、そこには1500人くらいしかいないわけで。それを考えると、凄い効率ですよ(笑)。
梅津 : いやらしいな(笑)。

――ではミニ・アルバム『あの娘のメルアド予想する』と今後のライヴにも期待してます。ありがとうございました。

一同 : ありがとうございました!

忘れらんねえよ ツアー前夜祭 スペシャル無観客ライヴ
『ツレ伝 ZERO in 赤坂BLITZ~ZEROなだけに観客もゼロ~』
2014年3月19日(水)東京 赤坂BLITZ

〈セットリスト〉
1. 僕らチェンジザワールド
2. 僕らパンクロックで生きていくんだ
3. 慶応ボーイになりたい
4. この高鳴りをなんと呼ぶ
5. 運動が出来ない君へ ※
6. この街には君がいない
7. 北極星
8. ばかばっか ※
9. CからはじまるABC
10. バンドやろうぜ ※
アンコール
EN1. タイトルコールを見てた ※
EN2. 忘れらんねえよ

※新曲

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