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2013/05/29 01:00

 

〈YOAKE 〜MUSIC SCENE 2013〜〉アタマとココロで音楽の未来を感じた夜――OTOTOY最速レポ

 

※画像は後日掲載予定

5月28日火曜日、東京•渋谷クアトロにて音楽シーンの現在を感じ、未来を考えるトーク&ライヴ・イベント〈YOAKE 〜MUSIC SCENE 2013〜〉がおこなわれた。このイベントはパネルディスカッション+ライヴで構成する、出入り自由、オープンでカジュアルな雰囲気の中で音楽シーンについて意見を交換し、音楽の未来への展望を語り合うというもの。2012年11月におこなわれた恵比寿ガーデンルームに続き二回目の開催となった。

会場を見渡すと明らかに社会人の姿が多い。iPadなどの端末を片手に、熱心に何かを読んでいる人もおり、ディスカッションで飛び出す言葉をすぐさま検索して調べそうな参加意欲を感じる。お客さんがどんな想いを持って足を運んでいるのか、気になる音楽のイベントって珍しい。

実行委員会永田氏からの挨拶に続き、谷口元(エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社 代表取締役社長)、荒川祐二(株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス 代表取締役)、佐藤秀峰(漫画家)、ドミニク・チェン(NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事)、虎岩正樹(残響塾 塾長)が登壇。「前回激論を交わした仲間、約束通りに再び集まりました」とディスカッションをスタート。このセクションのテーマは「リスナーの自由、ミュージシャンの自由 Part2」。主に著作権に焦点をしぼり話し合われた。著作権のコンセプトとはそもそもなんなのか? 『ブラックジャックによろしく』、のあらゆる著作権をフリーにし、二次利用を認めた漫画家、佐藤秀峰にその件で質問が及ぶと、「知名度も上がって儲かって満足(笑)」と佐藤。冗談めかしつつ、著作権に対する考えを暗に示唆した。虎岩正樹は「ミュージシャンとリスナーの互いのニーズは常にマッチしている。相反しているのは、流通の方では?」と発言。

谷口、虎岩両氏が激論をはじめると、自ら「あ、これは喧嘩してるわけじゃないですからね!?」と前向きな討論をアピール、お客さんにも発言を促す。ドミニクチェン「自由って言っても、勝手に使って良いということじゃない。最低限のルールの下で利用していいということ」。著作権というものの、扱い、概念に対してもパネラーそれぞれの意見がある。虎岩は韓国のアーティスト、PSYの『江南スタイル』がファンなどの二次利用で拡散され大ヒットした例を出して、著作権というものの考えを改めることが音楽で収益を上げることにも繋がるのでは? と提案。国民のほとんどが音楽にお金を使わないという統計にYouTubeの存在の影響は多大であることにも言及した。佐藤が自虐的に放った「お前の作品がそもそも二次利用だろ! って言われるんですけど」という発言には笑いが起きたものの、全体的に緊張感ある討論が続く。徐々に客席からも手が上がるようになり、壇上のパネラーと意見が交わされた。最後に客席の男性から、「アーティスト自身に、持っている権利をきちんと認識させるような活動こそが、管理する側のやるべきことなのではないか?」という意見があがり、真剣な討論は熱を帯びたまま、タイムアップ。

みっちり時間を使ってのディスカッションだけにタイトな進行で、すぐさま南壽あさ子のライヴが隣のステージで始まった。ディスカッションの緊張感をほぐすような南壽あさ子の柔らかい歌声が心地よい。「この季節にピッタリの歌を」と紹介して、「パノラマライン」。続いて、最近出来たという「やり過ごされた時間たち」という曲を披露。ラストの曲はデビュー曲「フランネル」。ただ透明でセンシティブなだけじゃない、強い意志を持った歌声が波動のように会場を震わせた。

続いてのディスカッションは飯田仁一郎(Limited Express(has gone?) / OTOTOY編集長)、角張渉(カクバリズム)、Tomad(Maltine Records)、嶺脇育夫(タワーレコード株式会社 代表取締役社長)が登壇。飯田をナビゲーターに、CDの歴史をざっと振り返ってから、まずは「AKB商法ってあり?」。所謂ドーピング的な握手券付CDの売り方について嶺脇、角張に意見を求める。それぞれの立場から、「売りたいものを売るために、今売れるものを売る」という意見が合致していた。続いて、フリー・ダウンロードについて。角張は、「基本的には否定派」と自らの姿勢をはっきりさせる発言。嶺脇は世代的に「パッケージで欲しいという気持ちがあるけど、じゃあダウンロードが敵かというとそうは思わない」。しかし10年前に比べると、CDを買う年齢層は高くなっているそうだ。「現場でフィジカルなイベントをやっていても、体験させる為にネットを使って伝えないと意味がなくなっている」など、音楽販売現場の最前線、実店舗最後の砦としてのリアルで貴重な意見を聞く事ができた。

他3人よりも若い世代となるTomadは、パソコンが当たり前に生活にあった世代。トーフビーツのブレイクについての方法論に角張が関心を示す。「Maltineには音楽を生活としてやっていく人、仕事をしながらやっていく人がいて、生かしておきたい奴に金を出す、という感じ(笑)」。「僕が出したい人を出しているから、僕はラベルを押し続けるような存在」と、独自の考え方を話してくれた。 後半、角張の「良いものさえあれば、いけるという感触はある。音楽業界そんなに悪くないんじゃないか? と思う」と、嶺脇からは「最近は海外サイトから情報を得ていて、良いものをタンブラーにはりつけている。そういう事の共有を店舗に反映させている。まだタワレコ実店舗には力はある、届けたい人に届けられる場を提供したい。だから僕らはアメリカのタワレコみたいに潰れちゃいけないんですよ」と力強い言葉も飛び出して、ディスカッションは終了した。

そしていよいよイベントを締めるのは高野寛アコギの弾き語りで、1曲目はデビューアルバム収録の「夜の海を走って月を見た」。「デビューCDが本当にあるか確かめに、六本木のWAVEに行って奥の方から引っ張り出してきたのをよく覚えてます」。「渋谷を歩いてたら、きゃりーぱみゅぱみゅが聴こえてきて、やっぱり似合うなあ、と思ったんで、きゃりーの曲をやります」とカバー曲「チェリーボンボン」を披露! これが実にハマっており、新鮮だった。「ぶっちゃけ、歌い手としてはやり辛いイベントなんですけど(笑)、盛り上げようと思います」と代表曲「虹の都」、「ベステンダンク」を続けて披露。「今年25周年、最近のテーマは自由です。本当の自由を探しにいこうと思います。このイベントにちなんで、朝の歌を」と、最後は「確かな光」をじっくりと聴かせ、高野寛のステージは終了、そしてイベントも終了となった。

前半、虎岩正樹が言っていた「音楽に関わっている人たちがマイノリティになっている現実」という言葉にはハッとさせられた。それでも、音楽を愛し、関わり続けていく人達はいなくなることはないだろうが、少し寂しくなるような現実があることも確か。イベントとしては、ディスカッションで頭を使い、アーティストの歌で心和ませるような緩急があり、時間の長さもあまり感じさせず。出入り自由でありながら、そういったざわついた雰囲気もなく、来場者のほとんどがじっと話や歌に耳を傾けているのが印象的であった。是非次回の開催にも期待したい。

そして、高野寛がいみじくもMCで触れていたように、アーティスト側としてはなかなか複雑な心境に違いないイベント内容の中、素晴らしい歌声で「どんな時代でも、音楽そのものの素晴らしさは揺るがない」ことを教えてくれた南壽あさ子、高野寛のお2人に感謝したいと思う。(岡本貴之)

〈YOAKE 〜Music Scene 2013 vol.2〜〉
2013年5月28日(火)
渋谷クラブクアトロ(出入り自由)
OPEN : 18:30
START : 19:00

【パネルディスカッション】
1 : リスナーの自由、ミュージシャンの自由 Part2
谷口元(エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社 代表取締役社長)
荒川祐二(株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス 代表取締役)
佐藤秀峰(漫画家)
ドミニク・チェン(NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事)
虎岩正樹(残響塾 塾長)

2 : CD以降の音楽シーン
飯田仁一郎(OTOTOY編集長/Limited Express (has gone?))
角張渉(カクバリズム)
Tomad(Maltine Records)
嶺脇育夫(タワーレコード株式会社 代表取締役社長)

【ライヴ】
南壽あさ子、高野寛

主催 : YOAKE 〜MUSIC SCENE 2013〜 実行委員会(一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント、OTOTOY、TOKYO BOOT UP!(新東京大楽))

協賛 : FizzKicks.com/ SpinApp
特別協賛 : 京都精華大学

[ニュース] Limited Express (has gone?), 南壽あさ子, 高野寛

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