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2013年05月14日10時00分

 

大森靖子、初の渋谷CLUB QUATTROワンマン、そして次のステージへ――OTOTOY最速レポ

 

Photo by Masayo

2013年5月13日(月)21時10分、満員となった渋谷CLUB QUATTROのステージに、客席を埋め尽くしたピンク色のサイリウムの光に包まれながら歌う女の子の姿があった。彼女の目には涙が浮かんでいたが、いままで観たどのステージよりも幸せそうに笑っていた。あの空間には、多くの人の愛情が溢れていた。その中心にあったのは、紛れもなく彼女の歌であった。

Photo by 渡辺博江

大森靖子の1stアルバム『魔法が使えないなら死にたい』のレコ発ツアー・ファイナルであり、初の渋谷CLUB QUATTROでのワンマン・ライヴ。これまでは東京でも100人以下の小さな会場でしかワンマン・ライヴを行っていない大森にとって、異例とも言える大きな会場でのワンマン・ライヴである。彼女は世間的には無名だし、インディーズのレーベルや事務所にすら所属していない。正直、集客に関しては誰もが不安を感じていただろう。しかし、蓋を開けてみれば、誰が見ても満員と言えるほど、多くの人がこの会場に詰めかけていた。

Photo by 渡辺博江

開演予定の19時半を回った頃、場内に入ると、ステージは自作の幕に覆われていた。彼女が敬愛する加地等の曲が流れている。しばらくすると暗転し、幕が下りる。ステージの中央に置かれた椅子の上には、キティちゃんのぬいぐるみが座っていた。ステージ後方には、クッションやぬいぐるみが山積みになっている。「新宿」のオケが流れると、その山のなかから大森が登場する。いきなりのサプライズに客席からどよめきと歓声があがると、ライヴがスタートした。彼女はピンクのドレスに身を包み、ロング・ウェーヴの髪(魔法で生えてきたらしい)の上にゴージャスなハットをかぶっている。眩い照明と歓声のなか、オケに合わせて身振りを交えて歌う大森は、まるでアイドルのように見える。このライヴは、インタヴューであらかじめ特殊な演出を行うことを予告していたが、驚きのオープニングである。

Photo by 渡辺博江

ステージ中央まできた大森は、椅子の上に座るキティちゃんを豪快に投げ捨てる。それは、「音楽を捨てよ、そして音楽へ」にある<ノスタルジーに中指立てて / ファンタジーをはじめただけさ>という言葉を体現しているように見えた。ギターを抱えてはじまったのは「KITTY'S BLUES」。ギターの音が響くと、どんなに特別な衣装を着ていようと、彼女の生々しい歌声が浮き彫りになる。広いクアトロのステージにいるのは、大森ただ1人。場内に鳴り響くのは、彼女が弾くアコースティック・ギターの音と、歌声だけだ。

Photo by Masayo

キーボードの前に移動し、「歌謡曲」の演奏がはじまると、場内の空気がより一層張り詰めたように感じた。ミディアム・テンポのヘヴィなこの曲は、普段はライヴの終盤に演奏されることが多い。一気に彼女の世界へと引き込んでいく。客席からは、早くもすすり泣くような声が聞こえた。そんな空気に追い打ちをかけるように、「さようなら」はアカペラで披露される。空調のノイズと、ドリンク・カウンターから聞こえるグラスの音が時折聞こえるなか、大森の儚くもたくましい歌が響く。客席はみな、金縛りにでもあったかのように、ステージ上の大森から目をそらすことはできない。演奏が終わり、しばし沈黙の余韻が訪れたあと、思い出したかのように拍手が起こった。ここで一度、ステージは暗転する。

Photo by 金子山

ハットをとってピンクのリボンを頭につけた大森が再びステージに戻り、「こんばんは、大森靖子です! よろしくお願いします!!」と力強くあいさつすると、大きな拍手が起こる。「なんか朝目が覚めたら髪がすごく伸びてたんですよー(笑)」とおどけて話すと、先ほどとは打って変わった和やかな空気に包まれた。そして、母親のことを書いたという「あれそれ」を歌う。<ライヴ・ハウスにママは呼ばなかったんだ>という歌詞が聴こえる。歌い終えると、マイクから離れてはにかんだ。なお、このライヴには、地元愛媛に住む母親が観にきているとのこと。いままで家族に自分が東京でなにをしているかはほとんど話したことがなかったので、自分のライヴに招待したのはこれがはじめてのことらしい。その後、「君と映画」では<君と新しい人生をつくるの>、「サマーフェア」では<明日スカートをはくのが今のぼくの夢>と、優しく包み込むように歌った。

Photo by 金子山

「音楽を捨てよ、そして音楽へ」でひと際鋭い歌声を聴かると、ライヴは後半に入る。ここで披露された新曲「over the party」は、「音楽を捨てよ、そして音楽へ」で見せたラップのような歌い方と、彼女らしい心にすっと染み込んでくるメロディが同居している曲。<散らばった夢は全部捨てた>という歌詞が印象的だった。「プリクラにて」では、息を吸う音がまるですすり泣いているかのように聴こえた。怒り、悲しみ、喜び、苦しみ、悔しさ、せつなさ、もどかしさ、彼女の曲には本当にいろんな感情が見える。その歌から放たれた感情の欠片は、たまらなく鋭く心に突き刺さる。

Photo by Masayo

スポット・ライトに照らされながら「夏果て」を演奏すると、終盤に向けて再び深い世界に引きづりこんでいく。「最終公演」のアウトロでは、照明が落ちた暗闇のなかで、がむしゃらにギターを掻き鳴らす音だけが響いた。「最後に、私の好きな街の高円寺という曲で終わりにします」という紹介ではじまったのは、本編最後の曲「高円寺」。薄いピンク色の照明のなかで、客席に視線を向け、1人1人の目を見ながら歌う。曲の最後にはマイクから離れ、ステージ前方の客席の近くへと歩み寄ると、むき出しになった歌声が生々しく響いた。そのままマイクを通さずに「ありがとうございました! 」と挨拶すると、客席から大きな拍手と歓声が起こる。それに応えるように、大森はステージ上に転がっているクッションやぬいぐるみを次々に客席へ投げ込んだ。

Photo by Masayo

大森がステージを去ると「靖子! 」コールが起こり、気づくと一面がピンク色のサイリウムに埋め尽くされている。アイドル好きを公言している彼女のために、ファンが用意したものらしい。アンコールに応えて再びステージに戻った大森は、思わぬサプライズに驚きを隠しきれない様子。「サイリウム振るような曲ないです、すみません(笑)。でも、振ってくださいね」と、涙ぐみながらも満面の笑顔で話した。そして演奏されたのは「PINK」。<私が少女でいるためには / みんなが優しいことが必要だよ>という歌詞は、まるでこの瞬間を歌っているかのようだった。涙をこらえきれずに歌う大森と、慣れないサイリウムを精一杯振る客席の間には、確かな優しさと愛情があった。歌い終えると、場内を大きな歓声が包む。いつもは大森のステージに圧倒されっぱなしの客席であるが、このときばかりは逆になったようだ。大森は、「さゆ(モーニング娘。の道重さゆみ)が卒業する気持ちになりました(笑)」と、笑顔で話した。ラストの「秘めごと」を演奏すると、場内は再び暖かい空気に包まれる。大森が最後に、「今日は本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします」と挨拶すると、この日一番の拍手が場内に鳴り響いた。1時間半に及ぶ大森靖子のワンマン・ライヴは終了した。

Photo by Masayo

「激情派ガーリーシンガー」などと称されることもある大森靖子。その一方でアイドルを好み、今回のライヴのチケットの購入特典として、2ショット・チェキを撮る一面も持つ。きっといまの彼女は、アイドルにもJ-POP歌手にもフォーク・シンガーにもなれるのではないかと思う。でも、今日のクアトロのステージに立っていた彼女は、他のなにものでもない大森靖子だった。「伝えたいことはない」「求められていることをやりたい」と話し、場所を問わずに歌い続けた彼女は、いつしか誰にも真似ることのできない大きなアイデンティティを形成していた。なにものにもなれる彼女が、大森靖子として歩み出す第一歩のステージが、この日のライヴだったのではないだろうか。そして、その歌は多くの人を魅了し、いつしか渋谷CLUB QUATTROを埋め尽くすほどの数になっていた。前日の5月12日の大森のブログに「明日は一緒に、身の丈にあわない、大きめの夢をみようね」と書かれている。無謀にも思えた大きな夢は、現実のものとなった。彼女は、これからさらに大きな夢を掴んでいくだろう。一瞬たりとも、彼女から目を逸らすわけにはいかない。

Photo by Masayo

なお、このライヴの終演後の24時から、新宿Motionにて「over the party! ~大森靖子魔法が使えないなら死にたいツアーアフターパーティー~」と題されたイベントが開催された。急遽発表されたこちらのライヴには、平日の深夜にも関わらず100人近くの観客がつめかけていた。深夜3時に行われた大森のバンドTHEピンクトカレフのステージ。そして深夜4時44分に<4:44 つまらん夜はもうやめた>(「魔法が使えないなら」)と歌った大森靖子のステージ。彼女は誰よりも力強く歌い続けていた。ノスタルジーに浸っている時間はない。彼女はすでに、次の大きなステージに向けて歩きはじめている。(前田将博)

Photo by 渡辺博江

<大森靖子『魔法が使えないなら死にたい』ツアーファイナル! ~つまらん夜はもうやめた~>
2013年5月13日(月)@渋谷CLUB QUATTRO

<セットリスト>

1. 新宿
2. KITTY'S BLUES
3. 魔法が使えないなら
4. あたし天使の堪忍袋
5. 歌謡曲
6. キラキラ
7. さようなら
8. コーヒータイム
9. 展覧会の絵
10. あれそれ
11. 君と映画
12. サマーフェア
13. ハンドメイドホーム
14. お茶碗
15. 音楽を捨てよ、そして音楽へ
16. パーティードレス
17. over the party
18. プリクラにて
19. 夏果て
20. 最終公演
21. I love you
22. 高円寺

アンコール
23. PINK
24. 背中のジッパー
25. 秘めごと


2013年5月13日(月)@新宿Motion

<セットリスト>

THE ピンクトカレフ
1. あれそれ
2. 新宿
3. 背中のジッパー
4. KITTY'S BLUES
5. あたし天使の堪忍袋
6. over the party
7. 最終公演
8. 歌謡曲

大森靖子
1. 魔法が使えないなら
2. パーティードレス

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