LIVE REPORT : Yasei Collective@お腹が痛い! vol.4
開演前、Yasei Collectiveの登場を待ちわびている人が大勢いる中で、私の頭の中を支配していたのは疑問符ばかりであった。なぜこのバンドは、ファースト・アルバム『Kodama』発売以降わずか1年足らずの間に4枚ものライヴ・アルバムをリリースしてきたのか、もとい、できたのか。『Kodama』の音を聴いた限りでは、ジャズ、テクノ、ヒップホップなどのさまざまな要素を、多彩なアレンジと繊細な音色の変化を交えながらポップに昇華したという印象が強かった。それはチャーミングという言葉に言い換えても良い。それだけに、ライヴだとどう化けるのか、それとも大きく変わらないのか。このバンドを知ってから頭にひっかかっていたことが、私の頭を這いずり回る。どうも私自身が緊張しているようだ。
そんな私の脆弱な緊張の糸は彼らの鳴らす音に一瞬にして切られた。まるで人間とエレクトロニクスの激しいせめぎ合いをみているといったら過言であろうか。ヴォコーダーを用いて機械的に合成された斎藤拓郎(Gt,Voc, Synth)の声。それに絡み合う機械の打ち込みでは到底及ばない強靭なグルーヴを生み出す松下マサナオ(Ds, Perc)の生ドラムとそのグルーヴを支える中西道彦(Ba, Synth)のベース。そして、別所和洋(Keys, Synth)の奏でるどこか人懐っこいメロディー。それらが、ガチンコ勝負、命懸けでぶつかり合っているような「CHAT-LOW」。思わず鳥肌がたった。「これは踊らずにはいられない! 」、音源だけだとかわいらしい印象すら感じられたこの曲が、アグレッシヴかつヒリヒリとした有機的なグルーヴを持つ曲に生まれ変わるとは予想だにしなかった。この曲をライヴの冒頭に持ってくることに、今の彼らの自信と野心が伺いしれる。
だが、これだけで満足してはいけなかった。ライヴが進んでいくにつれ、驚嘆せざるを得なかったのはその演奏力の高さである。エイフェックス・ツインあるいはスクエアプッシャーを生演奏で再現したかのような「Goto」におけるリズムの変化にそれは感じ取れた。キッチュな電子音が反復しながら斑模様を描く中、手数の多いドラムが変拍子をむやみやたらに多用せず、リズムを自然に変化/昂揚させていく。それに呼応するかのように沸き起こるオーディエンスの歓声。その光景は間違いなくこのライヴのハイライトのひとつであっただろう。
息をつく間もない濃厚な30分。それは余りにも短すぎた。だが、開演前に頭の中にあった疑問符は感嘆符へと変わっていた。楽曲の作品性の良さもあるが、それをこれほどまでに堂々とごまかし一切なしに演奏する姿。彼らYasei Collectiveの真価はライヴ・パフォーマンスにあるということを痛感すると同時に、なぜ彼らがライヴ・アルバムを頻繁にリリースできたのかをはっきりと証明してくれたライヴであった。
text by 坂本哲哉 (オトトイの学校《岡村詩野音楽ライター講座》受講生)
photo by ふじもりさら
>>Yasei Collective 松下マサナオのインタヴューはこちら
お腹が痛い vol.4 関連ページはこちら
2013年5月6日(月・祝)お腹が痛い! Vol.04@渋谷O-nest