2013/05/20 00:00

BELLRING少女ハート ~不吉なインパクト~

BELLRING少女ハート

全5組が出演した本イベントで4番目の登場となったベルハーことBellring少女ハート。昨年の4月から活動する、10代後半から20代のメンバーによる5人組アイドルのパフォーマンスは、やや癖があるのものの王道的でキャッチーな楽曲、退廃的な演出、メンバーの未だ発展途上の歌唱とダンス、そしてそれに熱狂的に応えるファンが同居した強烈なステージだった。他の出演者が、それぞれスタイルこそ違うものの、基本的には“バンド”の中、唯一の“アイドル”枠での参加ということで、開演前からフロアにはそれまでとは異なる緊張感が漲っていた。 

 フロアの灯りが消え、喪服とセーラー服を合わせたような黒いユニフォームを着たベルハーが登場する。模したのはカラスか黒鳥か分からないが、腕には黒い羽根の飾りをつけており、不吉なインパクトがある。その出で立ちだけで、十分に強調されたカルトっぽさを感じることができる。“地下アイドル”という言葉を、状況の説明ではなく表現の形容として用いることのできるアイドル・グループの一つだとも言えるだろう。ライヴはマイナー・コードを多用したGS風のサウンドとメロディが印象的な「yOUらり」からスタート。GSは現時点で彼女らの音楽性の重要な参照点の一つになっており、他のいくつかの楽曲でも用いられているが、この曲はその中でも最もオリジナルに近いレトロなサウンドで、ぴょんぴょんと屈伸跳びをするサビの振り付けも相まって、どこかわらべ歌的なノスタルジックな雰囲気が生まれる。

いや、しかし、ここは放課後の小学生がたむろする夕方の公園ではない。ラブホ街で有名な渋谷区円山町の、オシャレなライヴ・ハウスだ。その中でステージ上のアイドルとともに50人を超すであろうファンがぴょんぴょん屈伸跳びするのを見るのは、なかなかインパクトがある。2曲目もGS風の「World World World」。終盤、曲の終わりに向かってメンバーが叫び声を重ねて行くパートでは、ファンも一緒になって叫びを重ねる。数十人の人間が一緒になって叫ぶ、その強烈なトラッシュ感によって楽曲の感情がピークに達したところで、やや間の抜けた爆発音が鳴り響き、メンバーが(ファンも)吹き飛ばされたようなポーズを取って曲は終わる。こうしたややブラックなジョークの感覚も彼女らのステージの特徴の一つであろう。

自己紹介を兼ねたMC(ここでもファンとの緻密な連携を見せていた)を挟んでの3曲目は、近々正式音源もリリース予定の「アイスクリーム」。これまでの楽曲とは毛色の異なる、重低音ベースとロックなブレイク・ビーツを持った曲で、それらのサウンドとメランコリックなメロディをフックに、静と動をダイナミックに行き来する。冒頭からほとんど“動かない”という、アイドルのイメージを逆手に取った振付けも面白い。続く「ライスとチューニング」は、この日のセットリストの中では一番アイドル・ポップ的なサビを持った曲だ。ヴァースでメンバーの一人がラップを披露したり、ファンも一緒になってのライン・ダンスもあったりで、ライヴ全体のアクセントになっていた。5曲目は現時点での彼女たちのキラー・チューンである「ボクらのWednesday」。びっくりほど高いサビのファルセットは、さすがに十分に歌い切れてはいなかったが、そのことが一層に楽曲の狂おしい感情を強調する。“チャッ・チャ・チャラ~♪”という間奏部のフックも耳に楽しいし、それとユニゾンする(パート分けまである!)ファンの掛け声も印象的だった。ラストは「the Edge of Goodbye」。ほんのりサイケデリックなギター・リフはあるものの、この日のセットの中では最もオーソドックスなスタイルのビッグなロック・チューンだ。「他の人の迷惑にならないように走って下さい!」というメンバーのMCに続いてフロアでモッシュが起き、この日最大の盛り上がりを見せる。

終演後YouTubeで去年のライブ映像を観たが、この半年から一年ほどの期間で彼女たちがしっかり努力を重ねて、着実に成長していることが分かる。一方で、まだそのパフォーマンスは完成にはほど遠く、その不安定さが今の彼女らの表現的な核にもつながっている。そうした成長の時期を見届けることを至上とするファンにとっては、今がまさに幸福な時期だろう。個人的にも彼女達の今後-特にその表現が今より洗練され、完成された時に見えるもの-へ注視して行きたい。(佐藤優太)

BELLRING少女ハート ~守ってあげたくなる~

BELLRING少女ハート

ライブの出番は四番目。先の三つのグループが白熱のステージを見せて盛り上がってきたぞというところに、ステージ裏からメンバー陣の「Yeah!」の円陣らしきものが聞こえファンもテンションが高まる中、五人の垢抜けない少女たちが黒いセーラー服に黒い羽根を腕に付けて生足をさらけ出した簡単な改造制服の衣装で登場した。

最初の曲「yOUらり」はゆらゆらしたまるで、はしゃいでいるかのような振付に脱力。今風のロックにみえてキンクスやゾンビーズに通ずるどこか気怠く物悲しいサイケなメロトロンやオルガンを効果的に使った楽曲。そこをお洒落にせず安易な昭和チック、GSにしない物悲しさをより増大させる他のアイドルと比べると気張らない萌えるロリ声。そして熱狂するファン。いけないものを観た気恥ずかしさと快感が襲ってきた。続く「World World World」では体をくの字に曲げる振付を交えて可愛く切なく歌ったかと思いきや、最後の「あー」の合唱後に爆発音とともにメンバー全員と前のかめはめ波を後ろに放った一部のオタを除いてオタたちが倒れ、何とも異様な儀式のようであった。 とにかく狙っているのか天然なのか、何だか明後日の方向に行く変化球のような感じの不思議な雰囲気の足並みが揃わない少女たち。フォーメーションで見せるダンスであるが、全力のマッチョな感じやクールなもの。どちらともいえない学芸会のような緩いダンス。なのにMCや歌に疲れを隠さない。そんな彼女らに決して達者とは言えないラップを披露させる楽曲「ライスとチューニング」なんて曲も。良い悪いの前に何じゃこりゃ! といった印象が頭にドン。でも最後にハードなロック・チューン「the Edge of Goodbye」でモッシュが起こる中でこの日のライブは幕を閉じた。

決して目新しい音楽でもないし衣装もそんなに分りやすい奇抜さはないのだが、彼女たちはどこか変わった空気をMCやダンスと歌で醸し出している。人によってはやる気がない、実力不足とも見えるかも知れない。でも彼女たちだからこそ出せる味、凄さがじわじわと伝わってきたライブだった。そして結局、守ってあげたくなる気分にも近くなった(逆に守られそうな気もする)。そういえばキンクスもレコード会社を移籍してロック・オペラのアルバムに凝った時期は学芸会ノリのステージだった事を思い出した。このような共通項や音楽性の面白さを感じさせるグループがまだまだ出て来るところにアイドル・シーンの凄さを感じた夜であった。(小泉創哉)

BELLRING少女ハート ~いけない遊び~

BELLRING少女ハート

アイドルというジャンルのひとつの魅力は、彼彼女達の成長する姿を分かりやすく見てとることができる所だと思う。それは裏返すと、成熟しきっていないビジュアルなりパフォーマンスを見ることの方が多いということでもあるけども、非成熟さを“かわいい”とかそういった魅力として捉えることができるのがアイドルなのだ。ベルハーのライブはそうしたアイドルが持つ側面をいびつにさらけ出す。

ベルハーことBELLRING少女ハートは2012年にデビューした女性5人組のアイドル・グループ。先月には初のワンマン・ライブが開催され、6月には1stアルバムの発売を控えている。

直前のthe chef cooks meのライブが終わると、ステージ前のスペースはあっという間にベルハーのコア・ファンだらけになった。ベルハーの5人は深い紺のセーラー服に黒い羽のような衣装を両腕に羽織って登場。1曲目、怪しい昭和歌謡風の「yOUらり」が始まり、無邪気に踊り、ときにたどたどしく歌うベルハー。赤いライトに照らされたフロアには何とも言えない場末感が漂う。 退廃的なムードを保ちながら次々に展開する楽曲は複雑で、彼女たちが歌いこなすのを拒否するようかのようだ。踊りながら歌い続ける彼女たちの呼吸は乱れ、歌声は不揃いになっていく。彼女たちは一生懸命に踊るが、それゆえかメンバー間の動きにずれが生じることもままあって、ステージ上の彼女たちはまるで退廃的な楽曲と戯れているように見える。こうした要因から立ち込める、圧倒的な不安定さと掴み所のなさ。それでも、何が飛び出すか気になって目を離すことができない。これが彼女たちの持つ魅力だ。

リズムをとるのが難しい複雑な曲に対しても、コア・ファンはベルハーの振りをコピーして踊ったり、ポーズをとって静止したり、絶叫したりしながら楽曲に食らいついて合いの手を入れていく。そして、それを心底楽しんでいるように見える。こうした熱気に満ちた光景はベルハーのパフォーマンスとあいまって、まさしく“いけない遊び”だ。最後のアッパーなロック・ナンバー「the Edge of Goodbye」の頃にはベルハーとコア・ファンで作り出した熱気がフロア全体に伝播。観客共々エネルギーを爆発させてライブは終了。彼女たちのやり方で様々な観客の気持ちをアゲて見せたライブだった。(小林翔)

<セットリスト>
1. yOUらり
2. World World World
3. アイスクリーム
4. ライスとチューニング
5. ボクらのWednesday
6. the Edge of Goodbye

[ライヴレポート] Deerhunter

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